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EUの労働法政策

2024年5月22日 (水)

EUがAI規則を採択

もう既に日本でも報道されていますが、昨日EUの閣僚理事会がAI規則案を正式に採択しました。

Artificial intelligence (AI) act: Council gives final green light to the first worldwide rules on AI

これについては、規則案提案の際に労働関係に重点を置いてごく簡単に紹介したことがあります。

JILPTリサーチアイ 第60回 EUの新AI規則案と雇用労働問題

去る4月21日、EUの行政府たる欧州委員会は新たな立法提案として「人工知能に関する規則案」(COM(2021)206)[注1]を提案した。同提案は早速世界中で大反響を巻き起こしているが、本稿では必ずしも日本のマスコミ報道で焦点が当てられていない雇用労働関係の問題について紹介し、政労使の関係者に注意を促したい。・・・・

ヨーロッパで検討進むAI規制案 労働法はAIとどうかかわるか

ボスがアルゴリズムだったら?

人工知能(AI)と労働を巡る議論は、これまでどちらかというとAIによってどれだけの仕事が奪われるかという、マクロ的ないし経済学的関心が主でした(フレイ&オズボーンの2013年論文やその日本版など)。しかし近年、AIが労働のあり方をいかに変えるかという、ミクロ的ないし社会学的関心が高まっています。採用から業務管理、業績評価、解雇に至るまでの人事労務管理の全般にわたって、AIがもたらしつつある変化が、これまでの労働法が前提にしていたものを突き崩しつつあるのではないかという問題意識です。オックスフォード大学法学部のアダムズ・プラスル教授の最近の論文「もしボスがアルゴリズムだったら?」(『比較労働法政策雑誌』41巻1号)というタイトルは問題を端的に示しています。

これまで採用を巡る問題の中心は不完全情報による「レモン」(職務能力の乏しい者をつかんでしまう)問題でした。しかし今や、ネット上に存在する応募者に関する情報を探索し、プロファイリングすることで、問題社員を事前にチェックすることも可能になりつつあります。それでどこが悪い?と考えるかもしれませんが、応募者のさまざまな属性や特徴から一定の傾向を抽出し、それに基づいて採用の判断をすることは、労働法が抑制しようと努めてきた統計的差別を公然と復活させることになりかねません。問題はそれが経営者の偏見などではなく、ビッグデータに基づく「科学的に正しい」予測だという点です。

入社後の日々の業務管理も、これまでは不可能であったような微細なモニタリングとデータ収集により、継続的な監視の下に置くことが可能です。飽きっぽい生身のボスではなく、アルゴリズムがリアル空間でもネット空間でもあなたを見張っているからです。これをアダムズ・プラスルは、百眼の怪物アルゴスになぞらえて「今日のパノプテス」と呼んでいます。会社は監視監獄パノプティコンになるのでしょうか。

EUの規制案とは?

こうして日々収集されたデータは日々分析され、労働者の業績評価に用いられます。繰り返しますが、恣意的で偏見に満ちた生身のボスではなく、ビッグデータに基づく科学的な判定です。しかしその判断過程は外から見えません。AIの中でどういうデータに基づいてどういう判断が下されたのか、生身のボスにもわからないのです。「なぜ私の評価はこんなに低いんですか?」「AIの判断だから私にもわからないけど確かだよ」。

これは解雇の判断でも同じです。「なぜ私はクビなんですか」「AIの判断だから私にもわからないけど確かだよ」。誰も説明できないのに、クビになる根拠があることだけは確かです。そう、AIは意思決定を限りなく集権化する一方で、その責任を限りなく拡散するのです。

こうした事態がすでに局部的に現実化しているのがウーバーやウーバーイーツなどのプラットフォーム労働の世界です。仕事の依頼に何秒以内に対応したか、仕事の依頼をいくつ断ったかで細かく評価され、客先の採点で低い評価が続けば、アプリにアクセスできなくなってしまう、というのは、他分野での労働の未来絵図を先取りしているのかもしれません。そこに着目して規制を試みているのがEUです。

2021年12月に欧州委員会が提案したプラットフォーム労働指令案は、(私も含めて)労働者性の法的推定規定の方に関心が集中していますが、実はもう一つの柱はアルゴリズム管理の規制です。そこでは、自動的なモニタリングと意思決定システムの透明性、人間によるモニタリングの原則、重大な意思決定の人間による再検討、労働者代表への情報提供と協議といった規定が設けられています。審議はこれからですが、これらはプラットフォーム労働に限った問題ではなく、労働の場におけるAI利用の全分野に関わる問題です。

欧州委員会のAI規則案

欧州委員会は2021年4月に人工知能規則案を提案しています。こちらは労働に限らず、全分野にわたるAI規制を試みたもので、AIをそのリスクによって4段階に分けています。最も上位にあるのが基本的人権を侵害する可能性の高い「許容できないリスク」で、潜在意識に働きかけるサブリミナル技術、政府が個人の信用力を格付けする「ソーシャルスコアリング」、そして法執行を目的とする公共空間での生体認証などが含まれます。これらは中国では政府が先頭に立って全面的に展開されているものですが、EUはその価値観からこれらを拒否する姿勢を明確にしています。規則案の公表以来、世界中のマスコミが注目しているのもこれら最上位のリスクを有するAIに対する禁止規定です。

しかしながら、その次の「ハイリスク」に区分されているAI技術の中には、雇用労働問題に深く関わるものが含まれています。ハイリスクのAIは利用が可能ですが、本規則案に列挙されているさまざまな規制がかかってくるのです。

4 雇用、労働者管理および自営へのアクセス

(a) 自然人の採用または選抜、とりわけ求人募集、応募のスクリーニングまたはフィルタリング、面接または試験の過程における応募者の評価、のために用いられるAIシステム

(b) 労働に関係した契約関係の昇進および終了に関する意思決定、課業の配分、かかる関係にある者の成果と行動の監視および評価に用いられるAIシステム

見ての通り、入口から出口まで人事労務管理の全局面にわたってAIを用いて何らかの意思決定をすることが本規則の適用対象に入ってきます。ただし、AI規則案はあくまでもAIに対する規制であって、利用者(企業)に課せられるのはリスクマネジメントシステムの設定、データガバナンスの確立、運用中の常時記録(ログ)、そして人間による監視といったことです。

日本や労働組合への示唆

このように、EUのAI規制への意気込みは大きいとはいえ、プラットフォーム労働という小領域向けの指令案と、全社会を対象とする規則案の間に、労働におけるAI利用に向けた中範囲の規制の動きはまだ存在しません。これに対し、欧州労連(ETUC)は2020年7月「人工知能とデータに関する決議」で、職場の不適切な監視を防ぎ、バイアスのあるアルゴリズムに基づく差別を禁止する法的枠組みを要求し、2021年6月には欧州議会議員への書簡で、採用・評価に限らず、職場で用いるすべてのAIシステムをハイリスクに分類し、リスクアセスメントは第三者が行うべきだと求めています。また、欧州労連のシンクタンクである欧州労研(ETUI)も2021年7月の政策ブリーフで、雇用におけるAIを対象とする指令を要求しています。

日本ではまだプラットフォーム労働への規制も緒に就いてすらいませんし、AIについても2021年7月に経済産業省が「AI原則実践のためのガバナンス・ガイドライン」を策定したにとどまり、そこでは法的拘束力ある横断的規制は否定されている状態です。しかし、職場の現実は世界とくつわを並べてどんどん進んでおり、本稿前半で述べたような世界の到来は決して遠い将来の夢物語ではありません。この問題意識を社会に喚起していく上で、労働組合の役割は極めて大きいものがあるはずです。

 

2024年5月 6日 (月)

テレワークとつながらない権利について労使への第1次協議

去る4月30日、欧州委員会は労使団体に対し、テレワークとつながらない権利に関して第1次協議を行ったようです。

https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_24_1363

Today, the Commission launched the first-stage consultation of European social partners to gather their views on the possible direction of EU action on ensuring fair telework and the right to disconnect.

本日、欧州委員会は公正なテレワークとつながらない権利を確保するEU行動の可能な方向に関して欧州労使団体の見解を求めて第1次協議を開始した。

この問題についてはこれまで何回か紹介してきています。

(参考)

欧州議会による「つながらない権利」の指令案勧告

去る2021年1月21日、欧州議会は「つながらない権利に関する欧州委員会への勧告に係る決議」を採択しました。この文書は実質的には欧州議会による指令案の提案ですが、形式的には欧州委員会に対する指令案の提案の勧告という形をとっています。これは、EU運営条約においては、立法提案をする権限は行政府である欧州委員会にのみあり、立法府である欧州議会にはないからです。欧州議会は欧州委員会が提案した指令案や規則案を審議して採択するかしないかを決める権限があるだけです。
ただ、立法提案自体の権限はなくとも、一般的に政策課題を審議し、決議をする権限は当然あるので、その決議の中で、欧州委員会に対してこういう立法提案をすべきだと求めるということは十分可能です。この決議も、条約上不可能な厳密な意味での立法提案ではなく、欧州委員会に対して指令案提出を勧告する決議の案といういささか間接的な性格のものです。とはいえ、そこにはそのまま指令案になるような形式の文書が付属されており、実質的には欧州議会の指令案というべきものになっています。
 決議に至る過程を見ると、コロナ禍直前の2019年12月19日に欧州議会雇用社会委員会にこの問題が付託され、コロナ禍の第一波が過ぎた2020年7月28日に委員会報告案が提出されました。9月15日には修正案が提出され、12月1日に委員会で採決された後に同月8日に本会議に送られました。そして翌2021年1月20日に審議が行われ、翌日の1月21日に正式に採択されています。
 
 本決議の本文には、ICTなどデジタル機器により労働者が時間、空間の制約なくいつでもつながることが可能になり、これが身体、精神の健康やワーク・ライフ・バランスに悪影響を及ぼし得るので、つながらない権利をEU指令として制定することが必要だという主張が28項にわたって縷々(るる)縷々(るる)書き連ねられていますが、実際上意味があるのは付録として添付された「つながらない権利に関する指令案」です。欧州委員会が提案すべき閣僚理事会と欧州議会の指令案そのものを欧州議会が欧州委員会に対して勧告するという複雑な構造になっています。
以下、その「指令案」を訳しておきます。
第1条 主題と適用範囲
1.本指令はICTを含めデジタル機器を作業目的に使用する労働者がつながらない権利を行使し、使用者が労働者のつながらない権利を尊重するよう確保するための最低要件を規定する。これは官民の全産業及び、その地位と労働編成のいかんにかかわらず全労働者に適用される。
2.本指令は、第1項の目的のため、安全衛生指令、労働時間指令、透明で予見可能な労働条件指令及びワーク・ライフ・バランス指令の特則を定め、補完する。
第2条 定義
 本指令において、以下の定義が適用される。
(1)「つながらない(disconnect)」とは、労働時間外において、直接間接を問わず、デジタル機器を用いて作業関連活動又は通信に関与しないことをいう。
(2)「労働時間」とは、労働時間指令第2条第1項に定める労働時間をいう。
第3条 つながらない権利
1.加盟国は、労働者がそのつながらない権利を行使するための手段を使用者が提供するのに必要な措置をとるよう確保するものとする。
2.加盟国は、労働者のプライバシーと個人情報保護の権利に従って、使用者が客観的で信頼でき、アクセス可能な方法で各労働者の毎日の労働時間が測定されるよう確保するものとする。労働者はその労働時間記録を要求し、入手することができるものとする。
3.加盟国は、使用者が公平で合法的かつ透明な方法でつながらない権利を実施するよう確保するものとする。
第4条 つながらない権利を実施する措置
1.加盟国は、適切なレベルの労使団体と協議した上で、労働者がそのつながらない権利を行使し、使用者が公平かつ透明な方法でその権利を実施することができるよう、詳細な手続きが確立されるよう確保するものとする。このため、加盟国は少なくとも以下の労働条件を定めるものとする。
a)作業関連のモニタリング機器を含め、作業目的のデジタル機器のスイッチを切る実際の仕組み
b)労働時間を測定するシステム
c)心理社会的リスク評価を含め、つながらない権利に関わる使用者の安全衛生評価
d)労働者のつながらない権利を実施する義務から使用者を適用除外する基準
e)第(d)号の適用除外の場合、労働時間外に遂行された労働への補償を安全衛生指令、労働時間指令、透明で予見可能な労働条件指令及びワーク・ライフ・バランス指令に従ってどのように算定するかを決定する基準
f)作業内訓練を含め、本項にいう労働条件に関して使用者がとるべき意識啓発措置
 第1文第(d)号のいかなる適用除外も、不可抗力その他の緊急事態のような例外的状況においてのみ、かつ使用者が関係する各労働者に書面で、適用除外が必要なすべての場合に適用除外の必要性を実質的に説明する理由を提示することを条件として、提供されるものとする。
2.加盟国は、国内法及び慣行に従い、第1項にいう労働条件を定め又は補完する全国レベル、地域レベル、産業レベル又は企業レベルの労働協約を締結することを労使団体に委任することができる。
3.加盟国は第2項の労働協約にカバーされない労働者が本指令に従い保護を受けるよう確保するものとする。
第5条 不利益取扱いからの保護
1.加盟国は、労働者がつながらない権利を行使したこと又は行使しようとしたことを理由とした使用者による差別、より不利益な取扱い、解雇及び他の不利益取扱いが禁止されるように確保するものとする。
2.加盟国は、本指令に定める権利について使用者に不服を申し立てたり、その遵守を求める手続きを行ったことから生じるいかなる不利益取扱い又は不利益な結果からも、労働者代表を含む労働者を保護するよう確保するものとする。
3.加盟国は、つながらない権利を行使し又は行使しようとしたことを理由として解雇され又は他の不利益な取扱いを受けたと考える労働者が、裁判所又は他の権限ある機関に、かかる理由によって解雇され又は他の不利益な取扱いを受けたと推定されるに足る事実を提出した場合には、当該解雇又は他の不利益な取扱いが他の理由に基づくものであることを立証すべきは使用者であることを確保するものとする。
4.第3項は加盟国がより労働者に有利な証拠法則を導入することを妨げない。
5.加盟国は事案の事実を調査するのが裁判所又は権限ある機関である手続に第3項を適用する必要はない。
6.第3項は、加盟国が別段の定めをしない限り、刑事手続には適用しない。
第6条 救済を受ける権利
1.加盟国は、そのつながらない権利が侵害された労働者が迅速、有効かつ公平な紛争解決及び本指令から生ずる権利の侵害の場合の救済を受ける権利にアクセスできるよう確保するものとする。
2.加盟国は、労働組合組織又は他の労働者代表が、労働者のために又は支援するためにその同意の下に、本指令の遵守又はその実施を確保する目的で行政上の手続に関与する旨を規定することができる。
第7条 情報提供義務
 加盟国は、適用される労働協約又は他の協定の条項を示す通知を含め、つながらない権利に関する明確かつ十分な情報を使用者が各労働者に書面で提供するよう確保するものとする。かかる情報には少なくとも以下のものが含まれるものとする。
a)第4条第1項第(a)号にいう、作業関連のモニタリング機器を含め、作業目的のデジタル機器のスイッチを切る実際の仕組み
b)第4条第1項第(b)号にいう、労働時間を測定するシステム
c)第4条第1項第(c)号にいう、心理社会的リスク評価を含め、つながらない権利に関わる使用者の安全衛生評価
d)第4条第1項第(d)号及び第(e)号にいう、つながらない権利を実施する義務から使用者を適用除外する基準並びに、労働時間外に遂行された労働の補償の決定方法の基準
e)第4条第1項第(f)号にいう、作業内訓練を含む意識啓発措置
f)第5条に従い、不利益取扱いから労働者を保護する措置
g)第6条に従い、労働者の救済を受ける権利を実施する措置
第8条 罰則
 加盟国は、本指令に基づき採択された国内規定又は本指令の適用範囲にある権利に関し既に施行されている関連規定の違反に適用される刑罰に関する規則を規定し、それが実施されるよう必要なあらゆる措置をとるものとする。規定される罰則は、有効で比例的かつ抑止的なものとする。加盟国は(本指令の発効の2年後までに)当該罰則と措置を欧州委員会に通知し、遅滞なくその実質的な改正を通知するものとする。
(以下略)
 
 今後の動向ですが、この勧告の名宛て人である欧州委員会のニコラス・シュミット労働社会政策担当委員(厚生労働大臣に相当)が2021年1月20日の欧州議会本会議の審議に出席し、2002年のテレワーク協約と2020年のデジタル化協約を引き合いに出して、コロナ禍でテレワーク人口比率が30%に達した今こそ、労使団体が指導的役割を果たすべきだと述べています。欧州委員会としてはEU運営条約に従い、労使団体と協議を行うということですが、本音としては2002年のテレワーク協約をアップデートするような新協約を、やはり同様に、指令にしない自律的協約として締結する方向でやってほしいということでしょう。
 
ちなみに、現時点でつながらない権利について国内法で何らかの規定を有しているのは4カ国です。フランスでは、2013年の全国レベル労働協約に基づいて2016年に制定された、いわゆるエル・コムリ法により、従来から50人以上企業で義務的年次交渉事項とされてきた「男女間の職業的平等と労働生活の質」について、「労働者が、休息時間及び休暇、個人的生活及び家庭生活の尊重を確保するために、労働者のつながらない権利を完全に行使する方法、並びにデジタル機器の利用規制を企業が実施する方法」が交渉テーマに追加されました。
「つながらない権利」は、仕事と家庭生活の両立を図るとともに、休息時間や休日を確保するために、デジタル機器の利用を規制する仕組みを設けなければなりません。「つながらない権利」の実施手続きは企業協定または使用者の策定する憲章で定められ、そこにはデジタル機器の合理的な利用について労働者や管理職に対する訓練、啓発も含まれます。つながらない権利を定める企業協約は2020年に1231件に達しました。最もよく用いられているのは、所定時間外にアプリが起動されると使用者と労働者にそれを通知するソフトウエアであり、燃え尽き症候群を防止するためのワーク・ライフ・バランスの必要性を警告し訓練するものですが、もっと強烈なものとしては、所定時間外には回線を切断してしまうものもあるようです。
 イタリアでは、2017年の法律第81号により、使用者と個別労働者との合意によりスマートワーク(lavoro agile)を導入することが規定されました。これは仕事と家庭生活の両立に資するため、法と労働協約で定める労働時間上限の範囲内で、勤務場所と労働時間の制限なく事業所の内外で作業を遂行できるというものです。使用者は幼児の母または障害児の親の申し出を優先しなければなりません。この個別合意では、作業遂行方法、休息時間を定めるとともに、労働者が作業機器につながらないことを確保する技術的措置を定めます。スマートワーカーは2019年には48万人でした。
 ベルギーでは、2018年の経済成長社会結束強化法により、安全衛生委員会の設置義務のある50人以上企業において、同委員会でデジタルコミュニケーション機器の利用とつながらない選択肢について交渉する権利を与えています。もっとも、厳密な意味でのつながらない「権利」を規定しているわけではありません。
 スペインでは、EU一般データ保護規則を国内法化するための2018年の個人データ保護とデジタル権利保障に関する組織法により、リモートワークや在宅勤務をする者に、つながらない権利、休息、休暇、休日、個人と家族のプライバシーの権利が規定されました。この権利の実施は労働協約または企業と労働者代表との協定に委ねられ、使用者は労働者代表の意見を聞いて社内規程を策定しなければなりません。この規程は「つながらない権利」の実施方法、IT疲労を防止するための訓練と啓発を定めることになっています。

 

 

 

2024年4月26日 (金)

『労働六法2024』

645579_20240426111501 『労働六法2024』が刊行されました。

https://www.junposha.com/book/b645579.html

わたくしが担当しているEU法の項目では、昨年度版に比べて2点変更があります。

一つ目は2023年度版には官報掲載版が間に合わず、合意されたその時点の最終版の指令案を掲載せざるを得なかった賃金透明性指令について、官報掲載版により訳を最終的に修正して掲載しています。

二つ目は、今年に入ってからも紆余曲折が続いて、ようやく3月11日の閣僚理事会で合意され、一昨日(4月24日)に欧州議会でも可決されたプラットフォーム労働指令案について、本書の締め切りぎりぎりで公表された3月11日合意バージョンの訳を掲載しています。これも来年度版では官報掲載版に基づき訳を修正する予定です。

いずれも、今日の日本の労働法政策に対して大きな示唆を与えるものですので、ご利用いただければ幸いです。

 

 

2024年4月24日 (水)

欧州議会がプラットフォーム労働指令案を採択

20240423pht20623cl 予告されていたように、本日(2024年4月24日)欧州議会は本会議で、去る3月11日に閣僚理事会が特定多数決で採択していたプラットフォーム労働指令案を採択したようです。

https://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20240419IPR20584/parliament-adopts-platform-work-directive

On Wednesday, MEPs approved new rules aiming to improve the working conditions of platform workers.

欧州労連はさっそく、「欧州議会は偽装自営業にクビを言い渡した」と報じています。

https://www.etuc.org/en/pressrelease/european-parliament-gives-bogus-self-employment-boot

European Parliament gives bogus self-employment the boot

645579 今後官報に指令番号付きで掲載されれば指令として確定することになりますが、もうすぐ出る『労働六法』2024年版には、3月11日の閣僚理事会採択版の条文を載せております。

 

 

 

 

EUの研修生(偽装研修対策)指令案@『労基旬報』

『労基旬報』2024年4月25日号に、「EUの研修生(偽装研修対策)指令案」を寄稿しました。プラットフォーム労働者など自営業者との関係での労働者性問題と並ぶ、もう一つの深刻な労働者性問題です。

 本紙の昨年8月25日号で、「EUトレーニーシップに関する労使への第1次協議」について書きましたが、その後第2次協議を経て、去る3月20日に、欧州委員会は「研修生の労働条件の改善強化及び研修を偽装した正規雇用関係と戦う指令案」(「研修生(偽装研修対策)指令案」)を提案しました。今回はこの指令案の内容を紹介したいと思います。なお、今回からトレーニーを研修生、トレーニーシップを研修と呼ぶことにします。日本でも研修生だから雇用に非ずという偽装問題が存在するので、問題の共通性を明確にするためにも、その方がわかりやすいと思うからです。
 研修生をめぐる問題状況については、上記昨年8月の記事でも解説しましたが、スキルがないゆえに就職できない若者を、労働者としてではなく研修生として採用し、実際に企業の中の仕事を経験させて、その仕事の実際上のスキルを身につけさせることによって、卒業証書という社会的通用力ある職業資格はなくても企業に労働者として採用してもらえるようにしていく、という面では、雇用政策の重要な役割を担っていることも確かなのですが、一方で、研修生という名目で仕事をさせながら、労働者ではないからといってまともな賃金を払わずに済ませるための抜け道として使われているのではないかという批判が、繰り返しされてきています。
 そこで、EUでは2014年に「研修の上質枠組みに関する理事会勧告」という法的拘束力のない規範が制定され、研修の始期に研修生と研修提供者との間で締結された書面による研修協定が締結されること、同協定には、教育目的、労働条件、研修生に手当ないし報酬が支払われるか否か、両当事者の権利義務、研修期間が明示されること、そして命じられた作業を通じて研修生を指導し、その進捗を監視評価する監督者を研修提供者が指名すること、が求められています。
 また労働条件についても、週労働時間の上限、1日及び1週の休息期間の下限、最低休日など研修生の権利と労働条件の確保。安全衛生や病気休暇の確保。そして、研修協定に手当や報酬が支払われるか否か、支払われるとしたらその金額を明示することが求められ、また研修期間が原則として6カ月を超えないこと。さらに研修期間中に獲得した知識、技能、能力の承認と確認を促進し、研修提供者がその評価を基礎に、資格証明書によりそれを証明することを奨励することが規定されています。とはいえこれは法的拘束力のない勧告なので、実際には数年間にわたり研修生だといってごくわずかな手当を払うだけで便利に使い続ける企業が跡を絶ちません。
 これに対し、2023年6月14日に欧州議会がEUにおける研修に関する決議を採択し、その中で欧州委員会に対して、研修生に対して十分な報酬を支払うこと、労働者性の判断基準に該当する限り労働者として扱うべきことを定める指令案を提出するように求めました。これを受ける形で、同年7月11日に、欧州委員会は「研修の更なる質向上」に関する労使団体への第1次協議を開始しました。その内容は昨年8月の本連載記事で紹介した通りですが、その後同年9月28日には第2次協議に進み、法的拘束力ある指令という手段を用いるべきではないかと提起しました。そして今回、指令案の提案に至ったわけです。
 第2条の定義規定で、「研修」とは「雇用可能性を改善し正規雇用関係への移行又は職業へのアクセスを容易にする観点で実際の職業経験を得るために行われる顕著な学習及び訓練の要素を含む一定期間の就労活動」をいい、「研修生」とは「欧州司法裁判所の判例法を考慮して全加盟国で効力を有する法、労働協約又は慣行で定義される雇用契約又は雇用関係を有する研修を行ういかなる者」をいいます。ここで注意すべきは「正規雇用関係」と訳した「regular employment relationship」です。この訳語は日本の「正社員」を想起させるのでまことにミスリーディングなのですが(なので、今後より良い訳語を見つけたら変更したいと思っていますが)、同条では「研修ではないいかなる雇用関係」と定義されており、パートタイム、有期、派遣等の非典型雇用関係その他もろもろの、研修でないあらゆる雇用関係がこれに該当します。ここは是非ともきちんと頭に入れておいて下さい。
 第3条は研修生の均等待遇、非差別原則を規定しています。すなわち、賃金を含む労働条件に関し、課業の違い、責任の軽さ、労働負荷、学習訓練要素の重み等の正当で客観的な理由がない限り、同じ事業所で比較可能な正規雇用の被用者よりも不利益な取扱いを受けないことを求めています。
 第4条は研修を偽装した正規雇用関係と戦う措置と題し、正規雇用関係が研修であると偽装されることによって、労働条件と賃金を含む保護の水準がEU法、国内法、労働協約又は慣行により付与されるよりもより低いものとなる効果をもたらすような慣行を探知し、これと戦う措置を権限ある機関が採るよう有効な監督を行うことを求めています。これが本指令の最重要規定です。
 続く第5条は、研修を偽装する正規雇用関係であるかどうかを判断する詳細なチェックリストです。これは、研修をめぐる労働者性の判断基準という意味で、大変興味深いものです。
(a) 研修と称するものにおける顕著な学習又は訓練の要素の欠如
(b) 研修と称するもの又は同一使用者との複数若しくは連続的な研修と称するものの長すぎる期間
(c) 研修と称するものと同一使用者と比較可能な地位にある正規雇用被用者の間で課業、責任、労働負荷の水準の同等性
(d) 研修応募者に対し、正当な理由なく同一ないし類似の分野での就労経験を要求すること
(e) 同一使用者の下で正規雇用関係に比して研修と称するものの比率が高すぎること
(f) 同一使用者の下での研修生と称するものの相当数が2以上の研修を修了しているか又は研修と称するものに就く前に同一又は類似の分野での正規雇用関係を有していること
 これらの判断のために、使用者は必要な情報を権限ある機関に提供しなければなりません。また加盟国が、研修の長すぎる期間の上限ないし反復更新の上限を定めることや、研修生の募集広告に課業、賃金を含む労働条件、社会保護、学習訓練要素を明示するよう求めることも規定されています。
 以下、本指令案には施行や救済、支援の措置等の規定が並んでいますが、枢要な部分は以上の通りです。3月11日に合意されたプラットフォーム労働指令が、元の指令案にあった5要件のうち二つを満たせば労働者性ありと推定するという規定が削除され、国内法、労働協約、慣行で判断するという風になったことを考えると、この指令案がどうなるか予断を許しませんが、研修という特定分野における労働者性の判断基準を立法化しようという試みとして、日本にとっても大変興味深いものであることは間違いありません。

 

 

 

 

 

2024年4月20日 (土)

EUのプラットフォーム労働指令は、来週水曜日(4/24)に欧州議会で採択予定

3月11日にエストニア政府が『改心』して賛成に回り、閣僚理事会で特定多数決で合意されたプラットフォーム労働指令案ですが、来たる4月24日に、ストラスブールで開かれる欧州議会の本会議で正式に採択される予定です。

Final vote on the Platform Work Directive

On Wednesday, MEPs are expected to approve new rules to improve the working conditions of platform workers.
The new rules, already agreed on by the Parliament and the Council in February, aim to ensure that platform workers have their employment status classified correctly and to correct bogus self-employment.
The law introduces a presumption of an employment relationship (as opposed to self-employment) that is triggered when facts indicating control and direction are present, according to national law and collective agreements, and taking into account EU-case law.

 

 

2024年3月21日 (木)

EUでトレーニーシップ指令案が提案

Blobservlet_20240321221601 本ブログで何回か書いてきたように、ジョブ型社会のヨーロッパでは、ジョブに就くだけのスキルがあるとみなされない無資格の若者は、トレーニーシップとかインターンシップという美名の下に、労働者ではないという建前でいつまでも働かされるという自体が結構蔓延しています。日本でいえば、かつての労働者じゃないという建前の外国人研修生みたいな枠組みを、無資格の若者に適用しているわけです。

それを何とかしろいう声が繰り返しなされてきて、現在勧告という形のものがあるのですが、昨日(3月20日)欧州委員会が「トレーニーの労働条件を改善するとともにトレーニーシップを偽装する常用雇用関係と戦う指令案」(トレーニーシップ指令案)を提案しました。

Commission takes action to improve the quality of traineeships in the EU

The proposed Directive will help Member States improve and enforce good quality working conditions for trainees, as well as combat regular employment relationships disguised as traineeships.

指令案は加盟国がトレーニーの良質の労働条件を改善強化するとともに、トレーニーシップを偽装する常用雇用関係と戦うことを支援する。

 

 

EUプラットフォーム労働指令案は成立に向けて大きく前進@『労基旬報』2024年3月25日

『労基旬報』2024年3月25日に「EUプラットフォーム労働指令案は成立に向けて大きく前進」を寄稿しました。

 去る3月10日、学習院大学法学部の橋本陽子さんが『労働法はフリーランスを守れるか-これからの雇用社会を考える』(ちくま新書)を刊行されました。今年秋施行予定のフリーランス新法(特定受託者取引適正化法)の制定を機に、個人事業主と労働法の関係を包括的に検討した名著で、欧米の動向についても詳しく解説しています。その中で、2021年12月に提案されたEUのプラットフォーム労働指令案についてもごく最近の動きまでフォローされ、「同指令案は、2023年3月のEU議会、同年6月の理事会の審議を経て、採択されることとなった。2023年12月13日には、EU議会、理事会および委員会との三者協議で暫定的な合意が成立し、いよいよ指令の成立が間近に迫ってきた」(171ページ)と書かれています。ところが、橋本さんがこう書いて筆を措いたその次の瞬間に事態は大きく反転し、同指令案は当分成立の見込みが立たない状態になってしまいました。そして約3か月の紆余曲折を経て、つい先日の2024年3月11日に理事会は合意に達し、同指令案は成立に向けて大きく前進することになりました。
 本指令案については、「EUのプラットフォーム労働における労働条件に関する労使への第1次協議」(2021年3月25日号)、「EUのプラットフォーム労働指令案」(2022年1月5日号)、「EUのプラットフォーム労働指令案に理事会合意」(2023年7月25日号)と、本紙で繰り返し取り上げてきましたが、2021年12月9日に、「プラットフォーム労働における労働条件の改善に関する指令案」が行政府たる欧州委員会から提案され、立法府である閣僚理事会と欧州議会で審議が進められてきました。そして、昨年2023年12月13日に、両者は合意に達したと、それぞれが発表するに至りました。これで、ほぼ2年越しの懸案は遂に決着したと、ほとんどすべての人が思ったでしょう。わたしもそう思ったので、翌日早速拙ブログにその旨を書きました。ところが、そう簡単に問屋は荷物を卸してくれなかったのです。
 欧州委員会の指令案については既に何回か詳しく解説してきましたが、大きく二つの部分からなります。一つ目のより注目を集めたのは、プラットフォーム労働者の労働者性の推定規定です。即ち、プラットフォームを通じて就労する者が次の5要件のうち2つを満たす場合、雇用関係であるとの法的推定を受けます。
①報酬の水準を有効に決定し、又はその上限を設定していること、
②プラットフォーム労働遂行者に対し、出席、サービス受領者に対する行為又は労働の遂行に関して、特定の拘束力ある規則を尊重するよう要求すること、
③電子的手段を用いることも含め、労働の遂行を監督し、又は労働の結果の質を確認すること、
④制裁を通じても含め、労働を編成する自由、とりわけ労働時間や休業期間を決定したり、課業を受諾するか拒否するか、再受託者や代替者を使うかといった裁量の余地を有効に制限していること、
⑤顧客基盤を構築したり、第三者のために労働を遂行したりする可能性を、有効に制限していること。
 プラットフォームの側が労働者ではないという反証を挙げることは可能ですが、立証責任は労働者側ではなくプラットフォーム側にあります。通常労働者性をめぐる紛争では立証責任は労働者側にありますが、それを転換しているわけです。これは、プラットフォーム就労者が雇用労働者ではないことを前提に組み立てられてきたビジネスモデルを根本からひっくり返すものなので、ウーバー始めとするプラットフォーム企業は猛烈なロビイング攻勢をかけていると報じられてきました。もう一つの論点は、プラットフォームが使っているアルゴリズム管理について、透明性や公正性を要求する規定で、これは別に進められているAI規制の一部がここに顔を出しているという面があります。
 さて、昨年12月13日のプレスリリースでは、欧州委員会提案を若干だけ修正した次の5要件のうち2つを満たせば法的に労働者だと推定するとしていました。なお、条文の形では情報が示されていないので、厳密なものではありません。
①労働者が受け取る金額の上限
②電子的手段を含め、その遂行の監督
③課業の分配又は配分へのコントロール
④労働条件のコントロール及び労働時間選択への制限
⑤作業編成の自由及び出席又は行為の規則への制限
 ところが、その9日後の12月22日、その合意がひっくり返ったらしいという報道がかけめぐりました。ここからは、正規の発表による情報ではなく、EUに関する諸情報を伝える業界紙のEuractivのWEB記事によるものになります。12月23日付のEuractivの記事によると、理事会の議長国を務めていたスペインがちゃんと全加盟国の同意を取り付けないまま、欧州議会側と合意に達してしまっていたようです。閣僚理事会は半年ごとに議長国が輪番制で回ってくる仕組みになっていて、欧州議会との交渉は、議長国が閣僚理事会を代表してやるのですが、合意してからコレペールという各国大使からなる実務者会議に報告して、では正式に閣僚理事会で承認していただきましょうと言ったところ、「我が国はこんなの認めちゃいないぞ」という苦情が多くの諸国の大使から吹き出して、まとまらなかったということのようです。バルト諸国、ブルガリア、チェコ、フィンランド、フランス、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、スウェーデンの計12カ国がノーと言ってるらしく、これでは採決要件の特定多数決(ほぼ3分の2)で押し切るわけにはいきません。どうしてこういうことになったのか。同じEuractivの別の記事によると、反対論の黒幕はフランスのマクロン大統領らしく、欧州議会の担当議員は、マクロンを社会的ヨーロッパの殺人者だと糾弾しているようです。いずれにしても、2023年は指令成立の期待が潰れたまま終わりました。翌2024年には、閣僚理事会の議長国がスペインからベルギーに受け渡されました。
 翌2024年1月12日のEuractiv記事は、消息筋から入手したフランス政府の見解を報じていますが、それによると、「労働者の推定をもたらす5要件のうちの2要件充足という基準は、フランス当局には純粋の自営業者を自営業者のままに維持することを可能にする保障の要素を構成するようには見えない」し、暫定合意に示された各基準の文言自体が、あまりにも広範で「体系的に合致しがち」であるため、積極的に自営業者であり続けることを望み選択しているプラットフォーム労働者にとって有害だと批判しているようです。
 さらに1月26日のEuractiv記事は、依然としてフランスのマクロン大統領が立ち塞がっていると述べた上で、交渉に関与した複数の関係者から、議会がEU選挙前にアルゴリズム管理に関しては妥結できるよう、指令を2つに分割することを検討しているとの情報を報じています。つまり、労働者性の推定規定を外して、アルゴリズム管理の規制の部分だけで指令として成立させてしまおうという案がでてきているということになります。
 2月5日のEuractivでは、ベルギー議長国が加盟国に回覧した新たな条文案を紹介していますが、それは雇用の法的推定という旗頭的な章をほとんど洗い流してしまうようなものになっていると報じています。そして、2月8日になって、これまで水面下の動きに沈黙を守ってきた欧州議会のサイトに、「初めてのEUワイドのプラットフォーム労働者のルールに暫定合意」という公式の記事が掲載されました。これも具体的な条文案を示したものではありませんが、簡単ながらその内容がかなり窺われるものになっています。以下にその部分の訳文を示しておきましょう。
 新たな法は、国内法及び発効中の労働協約に従い欧州司法裁判所の判例法を考慮して、支配と指示を指し示す事実が存在する場合に発動される(自営業と対比される)雇用関係の推定を導入する。
 本指令はEU諸国に、プラットフォームとプラットフォーム労働遂行者の間の力の不均衡を是正するために、国レベルで雇用の反証可能な法的推定を設けるよう義務づける。
 立証責任はプラットフォームに存し、つまりプラットフォームが推定に反論したい場合には、契約関係が雇用関係ではないことを証明すべき責任はプラットフォームの側にある。
 これはあくまでも欧州議会側の発表であり、閣僚理事会側はなお沈黙を守っているため、本当にこれで暫定合意がなされたのかどうかも不明です。ただ、指令案が注目を集めた5要件のうち2つを満たせばいいという規定ぶりは姿を消し、代わりに国内法や欧州司法裁判所の判例法といった既存の基準が並べられているところからすると、労働者性の判断基準自体をEUレベルで拘束的に決めてしまうようなことは避けるという判断がなされたようです。
 2月9日のEuractivでは、事態の混乱が紙面にも現れていて、前日(2月8日)にいったん再び閣僚理事会(を代表するベルギー議長国)と欧州議会(の雇用社会問題委員会の代表)の間で合意がまとまったらしいのですが、例によってまたも横やりが入ったらしく、理事会における正式の投票は最終金曜日(2月16日)に延期されたと、この記事の冒頭に追記されています。
 その2月16日にも合意はなりませんでした。別のEU業界紙であるEUobserverは同日付の記事で、閣僚理事会議長国のベルギーが欧州議会との間で暫定的に合意した「骨抜き」指令案ですら、フランスを始めとする4カ国の反対で特定多数決が困難で、当分の間、欧州議会選挙のある6月までは、成立の見込みはなさそうだと報じています。同記事によると骨抜き案にすら反対しているのはドイツ、フランス、ギリシャ、エストニアの4カ国ですが、独仏両国の人口が大きいのでこの4カ国で特定多数決を妨げる拒否権少数派になるのですね。
 ところが、その背後でエストニアとギリシャという二か国に対する説得工作が猛烈に行われていたようです。去る3月11日の労働社会相理事会でこの二か国が指令案賛成に転向し、フランスとドイツを除く諸国で特定多数決に達することになったことで、混迷を続けてきたEUプラットフォーム労働指令案は遂に成立に向けて大きく前進することになりました。このことのインパクトは極めて大きいものがあります。 

今回合意された条文案は、今後EU法制局での精査を経て最終的に採択されることになりますが、それを待っていたのでは間に合わないので、旬報社の『労働六法』2024年版では、今回の合意された条文を掲載することにしています。

 

2024年3月19日 (火)

EUプラットフォーム労働指令案の現状@WEB労政時報

WEB労政時報に「EUプラットフォーム労働指令案の現状」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers/article/86832

 今回は、前回(2月20日掲載)の「EUプラットフォーム労働指令案の迷走」でお伝えしたことの続きです。・・・・・

 

2024年3月12日 (火)

EUプラットフォーム労働指令案が急転直下理事会で合意

当面成立の見込みがなくなったかと思われていたEUプラットフォーム労働指令案が、急転直下昨日理事会で合意されたようです。

Platform workers: Council confirms agreement on new rules to improve their working conditions

Today, EU employment and social affairs ministers confirmed the provisional agreement reached on 8 February 2024 between the Council’s presidency and the European Parliament’s negotiators on the platform work directive. This EU legal act aims to improve working conditions and regulate the use of algorithms by digital labour platforms.

本日、EUの雇用社会相理事会はプラットフォーム労働指令に関して理事会議長国と欧州議会の間で2024年2月8日に成立した暫定合意を確認した。このEUの立法は労働条件を改善するとともにデジタル労働プラットフォームによるアルゴリズムの使用を規制することを目指す。

当初の欧州委員会案が5要件のうち二つを満たせば雇用関係を推定するとしていたのに対し、この妥協案はそれなしに各加盟国の国内法や欧州司法裁判所の判例に沿って判断するとされています。細かな分析はまた改めてしますが、とりあえず速報として。

 

 

 

 

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