EUの労働法政策

『賃金事情』6/20号のクラウドワーカー記事に登場

Chinginjijo_2018_06_20 産労総合研究所の『賃金事情』6月20日号に、溝上憲文さんが「クラウドワーカーの法的保護と救済はどうあるべきか」という記事を書いていて、その中に、北浦正行さん、浜村彰さんとともに私もちょびっと登場しています。

https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/chinginjijo/a20180620.html

『季刊労働法』260号に書いた透明で予見可能な労働条件指令案に加えて、先日本ブログでも紹介したオンライン仲介サービスのビジネスユーザーの公正と透明性規則案にも触れています。

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プラットフォーム就業者保護へのEUの新規則案@WEB労政時報

WEB労政時報に「プラットフォーム就業者保護へのEUの新規則案」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers-taiken/hr/article.php?entry_no=759

 ここ数年、世界的にAIやIoT、プラットフォームやクラウドといった新技術による新たな産業構造の到来(第4次産業革命)がホットなテーマになっています。その中で、労働のあり方も激変するのではないか、それに対してどう対応すべきかということが、法学、経済学、社会学など分野横断的に熱っぽく議論されています。これに対して日本では、事態の進展もそれに関する議論の展開もやや遅れ気味の嫌いがありましたが、昨年来ようやく本格的な議論がなされるようになったようです。私も、総論的な解説をするとともに、とりわけEUレベルにおける政策対応の状況を解説してきました。
 その中でも、EUの行政府である欧州委員会が昨年末に提案した透明で予見可能な労働条件指令案については、『季刊労働法』2018年春号(260号)でかなり詳細に紹介しました。この指令案は主としてオンコール労働者の保護が狙いですが、・・・・・

この規則案、労働法とは全く違う方面から、しかし労働法の労働者保護的問題意識とよく似た観点で立法介入を試みているという意味において、日本の関係者は必読です。

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EUの公益通報者保護指令案

大内伸哉さんのアモーレブログが公益通報についてあれこれ論じているので、

http://lavoroeamore.cocolog-nifty.com/blog/2018/05/post-c938.html(公益通報とは)

せっかくなので、先月(4月23日)公表されたばかりのEUの公益通報者保護指令案を紹介しておきます。

https://ec.europa.eu/info/sites/info/files/placeholder_8.pdf

Proposal for a DIRECTIVE OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on the protection of persons reporting on breaches of Union law

いうまでもなく、EUが権限を有するのはEU法に関わることなので、EU法の違反を通報した人を保護するという指令案になるわけですが、実は、これ、人的適用範囲がかなり広くて、そこが興味深いのです。

いやまずその前に、物的適用範囲は狭くて、第1条に羅列している分野の中に労働法関係は含まれていません。まあ、逆に普通労働法は労働法の紛争処理システムがあるべきなので、消費者保護のコロラリーとしての公益通報に労働者保護法まで含まれている日本の法が不思議なのかもしれません。

それより、人的適用範囲です。

Article 2
Personal scope
1. This Directive shall apply to reporting persons working in the private or public sector who acquired information on breaches in a work-related context including, at least, the following:
a) persons having the status of worker, with the meaning of Article 45 TFEU;
b) persons having the status of self-employed, with the meaning of Article 49 TFEU;
c) shareholders and persons belonging to the management body of an undertaking, including non-executive members, as well as volunteers and unpaid trainees;
d) any persons working under the supervision and direction of contractors, subcontractors and suppliers.
2. This Directive shall also apply to reporting persons whose work-based relationship is yet to begin in cases where information concerning a breach has been acquired during the recruitment process or other pre-contractual negotiation.

今、消費者庁で検討している公益通報者保護法の改正では、労働者以外にも拡大しようかという話になっていますが、EUの指令案はそもそも労働者だけではなく、自営業者、株主や経営者、ボランティアや無報酬の訓練生なども含まれています。

思わずのけぞったのは、第d号の「請負業者、下請業者及びサプライヤーの指揮命令の下で就労するすべての者」というのまで入っていて、うむ、こちらの方では、労働法上の議論がかなりできそうです。

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EUのオンラインプラットフォーム規則案

去る4月26日、欧州委員会(デジタル経済担当)は、「オンライン仲介サービスのビジネスユーザーのための公正と透明性を促進する規則案」を提案しました。

http://europa.eu/rapid/press-release_IP-18-3372_en.htm

ここでいう「ビジネスユーザー」というのが、まさに労働者性が常に問題となるプラットフォーム就労者のことです。

Increasing transparency: Providers of online intermediation services must ensure that their terms and conditions for professional users are easily understandable and easily available. This includes setting out in advance the possible reasons why a professional user may be delisted or suspended from a platform. Providers also have to respect a reasonable minimum notice period for implementing changes to the terms and conditions. If a provider of online intermediation services suspends or terminates all or part of what a business user offers, this provider will need to state the reasons for this. In addition, the providers of these services must formulate and publish general policies on (i) what data generated through their services can be accessed, by whom and under what conditions; (ii) how they treat their own goods or services compared to those offered by their professional users; and (iii) how they use contract clauses to demand the most favourable range or price of products and services offered by their professional users (so-called Most-Favoured-Nation (MFN) clauses). Finally, both online intermediation services as well as online search engines must set out the general criteria that determine how goods and services are ranked in search results.

透明性の向上:オンライン仲介サービスのプロバイダーは、職業的ユーザーの就労条件が容易に理解可能でアクセス可能なようにしなければならない。これには事前に職業的ユーザーがプラットフォームから除名されたり資格停止される理由を設定することが含まれる。プロバイダーはまた、就労条件の変更への合理的な最低告知期間を尊重しなければならない。オンライン仲介サービスのプロバイダーがビジネスユーザーの提供物の全部または一部を保留したり終了したりすれば、このプロバイダーはその理由を述べる必要がある。さらに、これらサービスのプロバイダーは(イ)そのサービスを通じて生み出されたいかなるデータが誰によっていかなる条件下でアクセスされるか、(ロ)職業ユーザーによって提供されたものと比べてプロバイダーの財やサービスをいかに取り扱うか、(ハ)職業ユーザーによって提供された生産物やサービスのもっとも望ましいレンジや価格を求める契約条項を用いるか、に関する一般方針を定式化し公表しなければならない。最後に、オンライン仲介サービスとオンライン検索エンジンは検索結果において財やサービスがいかにランク付けされるかを決定する一般基準を設定しなければならない。

Resolving disputes more effectively: Providers ofonline intermediation services are required to set up an internal complaint-handling system. To facilitate out-of-court dispute resolution, all providers of online intermediation services will have to list in their terms and conditions the independent and qualified mediators they are willing to work with in good faith to resolve disputes. The industry will also be encouraged to voluntarily set up specific independent mediators capable of dealing with disputes arising in the context of online intermediation services. Finally, associations representing businesses will be granted the right to bring court proceedings on behalf of businesses to enforce the new transparency and dispute settlement rules.

より効果的な紛争解決:オンライン仲介サービスのプロバイダーは、社内に苦情処理制度を設置しなければならない。裁判外紛争解決を促進するため、すべてのオンライン仲介サービスのプロバイダーは、その就労条件において紛争解決に信義をもってあたろうとする独立かつ資格を有する仲裁人のリストを示さなければならない。当該産業はまた、オンライン仲介サービスから生じる紛争を取り扱う専門の独立仲裁人を設置することが求められる。・・・

Setting up an EU Observatory to monitor the impact of the new rules: The Observatory would monitor currentas well as emerging issues and opportunities in the digital economy, with a view to enabling the Commission to follow up on today's legislative proposal if appropriate. Particular attention will be paid to developments in policy and regulatory approaches all over Europe.

そしてEUにこの問題を担当する機関を設置するということです。

この問題は今や世界的に注目を集めていますが、とにかくEUは一歩足を踏み出したようですね。

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EU透明で予見可能な労働条件指令案に兼業容認規定が・・・

これは久しぶりに、ガチにEU労働法政策ネタです。だって、欧州委員会がが昨年末に公表した「EUにおける透明で予見可能な労働条件に関する指令案」の話ですから。

これについては、その直前までの状況、つまり労使への第1次、第2次協議の内容を、『労基旬報』1月5日号にやや長めに紹介しておいたところですが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/12/eu201815-c128.html (EUにおける新たな就業形態に対する政策の試み@『労基旬報』2018年1月5日号)

そこでは触れられていなかったトピックが、今回指令案ではわざわざ1条をとって取り上げられています。それは、日本でも昨年の『働き方改革実行計画』で盛り込まれ、つい先日の検討会報告でガイドライン案が示された兼業副業の容認にかかわるトピックです。

関係の指令案その他の文書はここにアップされていますが、

http://ec.europa.eu/social/main.jsp?langId=en&catId=157&newsId=9028&furtherNews=yes

大部分は上記労基旬報に書いた中身ですが、そこになかったこんな条文が入り込んでいたのです。

Article 8
Employment in parallel
1. Member States shall ensure that an employer shall not prohibit workers from taking up employment with other employers, outside the work schedule established with that employer.
2. Employers may however lay down conditions of incompatibility where such restrictions are justified by legitimate reasons such as the protection of business secrets or the avoidance of conflicts of interests.

「Employment in parallel」って、ある雇用と並行して別の雇用が存在するというイメージの言葉なんでしょうか。まさに兼業副業ですね。

第8条
兼業副業
1 加盟国は、労働者が使用者との間で確立した労働スケジュール以外の時間において、他の使用者との間で雇用されることを、当該使用者が禁止することのないよう確保するものとする。
2 ただし、使用者はかかる制限が営業秘密の保護または利益相反の回避のような合法的な理由によって正当化される場合には不適合の条件を定めることができる。

ふむむ、なんだか、昨年末に例の検討会が示したモデル就業規則案と妙に符合していますね。もちろん、欧州委員会と日本の厚生労働省が示し合わせているなどという陰謀説みたいな話はないので、似た話がタイミングよくかち合ったということなんでしょうけど、いろいろと興味深いです。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000189518.html

  (副業・兼業)
第65条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行う  ものとする。
3 第1項の業務が次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は  制限することができる。  ① 労務提供上の支障がある場合  ② 企業秘密が漏洩する場合  ③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合  ④ 競業により、会社の利益を害する場合

 

 

 

 

 

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EU労働局の創設?

先月、EU委員会のユンケル委員長による所信表明演説(State of the Union Address 2017)があり、その中にちらりとですが、こんな一節がありました。

http://europa.eu/rapid/press-release_SPEECH-17-3165_en.htm

・・・In a Union of equals, there can be no second class workers. Workers should earn the same pay for the same work in the same place. This is why the Commission proposed new rules on posting of workers. We should make sure that all EU rules on labour mobility are enforced in a fair, simple and effective way by a new European inspection and enforcement body. It is absurd to have a Banking Authority to police banking standards, but no common Labour Authority for ensuring fairness in our single market. We will create such an Authority.・・・

・・・平等な者の欧州連合においては、セカンドクラスの労働者はありえない。労働者は同じ場所での同じ仕事には同じ賃金を受け取るべきだ。それゆえ、EU委員会は労働者海外派遣の新たなルールを提案した。我々は、労働移動に関する全てのEUのルールが、新たな欧州の監督・執行機関によって、公正で、簡素で有効なやり方で実行されるよう確保すべきだ。銀行の基準を監督するためには銀行当局を設けているのに、我々の単一市場において公正さを確保するための共通労働当局が存在しないのはばかげている。われわれはそのような当局を創設するつもりだ。・・・

銀行云々のところがよくわからないのを除けば、要はEU域内をあちこち異動する労働者の労働基準監督のために、各国の労働当局とは別に、いわばEU労働局とでもいうべき機関を創設すると、この部分は間違いなく言っているように見えます。

これは結構重大なことを言っているように思われますが、雇用社会総局の方には全然出てきません。これも官邸主導かな?

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新たな就業形態への雇用契約書面指令の拡大第2次協議

去る9月25日、欧州委員会は労使団体に対し、雇用契約書面指令に関する第2次協議を行いました。

http://ec.europa.eu/social/main.jsp?langId=en&catId=89&newsId=2869&furtherNews=yes

The Commission wants to broaden the scope of the current Directive on employment contracts (the so-called Written Statement Directive), extending it to new forms of employment, such as on-demand workers, voucher-based workers and platform workers, so that no one is left behind. The current rules should also be modernised, taking account of developments on the labour market in the past decades

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欧州委員会は、現行の雇用契約に関する指令(いわゆる書面通知指令)の適用範囲を、オンデマンド労働者、バウチャーベースの労働者、プラットフォーム労働者のような、新たな就業形態に拡大し、誰も取り残されないようにすることを求めている。現在のルールは、過去数十年間の労働市場の展開を考慮に入れて現代化されるべきである。

というわけで、パート、有期、派遣といった伝統的な非典型雇用のさらに外側にある、極めて非典型な就業形態の労働者にも、最低限の-書面で労働条件を通知させるという程度のものですが-労働者保護を適用しようという方向に、また一歩近づきました。

協議文書自体はこれですが、

http://ec.europa.eu/social/BlobServlet?docId=18309&langId=en

これには200ページ近い膨大な分析文書が付いています。

http://ec.europa.eu/social/BlobServlet?docId=18313&langId=en

なお、第1次協議については、今年6月、『労基旬報』に短い解説を書いていますので、参考までに。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/06/post-b4e2.html (EUの新たな労働法政策-多様な就業形態への対応)

最近ようやく日本でも、雇用類似の働き方に対する関心が高まってきつつありますが、伝統的な労働者保護をなかなか及ぼしにくい人々であるからこそ、まずはこういう地味なところからじわじわと攻めていくことが重要なのでしょう。

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なぜ賃金が上がらないのか?EU版

似たようなタイトルの本が最近日本でも出たようですが、つか、本ブログでも紹介しましたが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/04/post-f575.html (玄田有史編『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』)

ソーシャル・ヨーロッパ・マガジンにも、なんだか似たようなタイトルの記事が出てますね。

https://www.socialeurope.eu/wont-wages-europe-rise (Why Won’t Wages In Europe Rise As They Should?)

Schulten_bio なぜヨーロッパの賃金は(上がるべきなのに)上がらないのか?

筆者はドイツのハンス・ベッカー財団経済社会研究所の研究員二人。

読んでいくと、なんだか日本の噺だかヨーロッパの噺だか、頭が混乱してきます。

The economic mainstream is perplexed: growth is finally taking hold across Europe, economic forecasts have been revised upwards, and employment is expanding. The only indicator that stubbornly refuses to follow suit is wage growth, defying textbooks and economic orthodoxy alike. Bloomberg has called it the “mystery of missing wage growth,” the Financial Times writes about the “Eurozone’s strange low-wage employment boom,” and the European Commission has put forward the diagnosis of a “wage-poor recovery”. Moreover, there is a growing consensus among economic policy-makers that wages should indeed grow much faster that they do.

経済学の主流派は困惑している。経済成長はついに欧州中に確立した。経済予測は上方修正されてきている。雇用は拡大している。頑固に後に続くことを拒否している唯一の指標は賃金上昇であり、経済学の教科書と正統派教義に逆らっている。ブルームバーグはこれを「失われた賃金上昇のミステリー」と呼び、フィナンシャルタイムズは「ユーロ圏の奇妙な低賃金雇用ブーム」を記事にし、欧州委員会は「賃金の貧弱な景気回復」という診断を下している。さらに、経済政策関係者の間には賃金はもっと速く上昇すべきだというコンセンサスが生まれつつある。

An unlikely cheerleader for higher wages is the European Central Bank (ECB), whose failure to nudge inflation upwards has led it to look for outside help. “The case for higher wages is unquestionable,” Mario Draghi has neatly put it. Likewise, the Commission argues that “the outlook for wages has now moved centre-stage for the sustainability of the recovery,” and even the IMF – pointing fingers at Germany – has discovered the virtues of wage growth. It looks as if the European trade union movement has found some improbable allies in its campaign, “Europe needs a pay rise”.

賃金引き上げ論の似合わないチアリーダーは欧州中銀で、そのインフレを押し上げようとして失敗したことが、外部の助けを探し求めさせているのだ。「賃金引き上げ論の正しさは疑問の余地はない」とマリオ・ドラギは最近語った。同様に、欧州委員会は「賃金の見通しは今や景気回復の持続可能性にとって中心舞台に移った」と論じ、IMFですらドイツを名指しして、賃金上昇の美徳を発見している。これはまるで、欧州労働運動が「欧州は賃上げが必要だ」というキャンペーンにありそうもない同盟者を見つけたかのようだ。

To make stagnant wage growth worse, there is now a clear danger that the purchasing power of wages could stagnate or even fall as energy and food prices have started to rise again.

賃上げの停滞をさらに悪くしているのは、エネルギーや食品の価格が再び上昇し始めるにつれ、今や賃金の購買力が停滞し、悪化すらしかねない明らかな危険性があることだ。

This is bad news for private consumption, currently the main engine behind European growth. For some years, low inflation had at least ensured modest real wage gains despite low pay settlements. Across the Euro area, these have remained far below of what they used to be prior to the crisis of 2008/09 (see Chart 1).

これは現在欧州経済成長の主たるエンジンである個人消費にとって悪いニュースである。何年にもわたって低インフレ率は少なくとも低賃金設定にもかかわらず適度な実質賃金利得を確保してきた。ユーロ圏を通じて、2008/9年の危機以前よりも低く推移してきたのである。

So, what is holding wages back? Ask any economist with a neo-classical outlook, and she – or, more likely, he – will tell you that wages follow prices and productivity. Both have, of course, grown at an anaemic pace of late. But are low inflation and the lacklustre productivity performance the cause of subdued wage growth, or merely a symptom? Start with inflation. Traditionally, central bankers have been obsessed about wage-price spirals and called for wage moderation to rein in inflation. Now, they are discovering to their detriment that wage-price spirals work in reverse, too. The poor performance of wages is, in fact, seen as one of the key reasons why domestic price pressures have been subdued and core inflation has disappointed consistently over the past few years.

Luebker_bio そう、何が賃金を引き留めているのか?誰か新古典派風の経済学者に聞いてみれば、彼女ないし彼は君に、賃金は価格と生産性の後を追いかけるというだろう。もちろんどちらも最近貧血気味だ。しかし低インフレ率と生産性の沈滞が賃金低迷の原因なのかーそれとも単なる症状なのか?インフレから始めよう。伝統的に中央銀行は賃金-価格スパイラルを懸念してきたし、インフレを抑えるために賃金抑制をよびかけてきた。今や彼らは、賃金-価格スパイラルが逆向きに働いて損害を与えていることを見いだしている。賃金が全然上がらないことが実際、過去数年間にわたって国内価格圧力が弱まりコアインフレが一貫して消えてしまったことの最重要の理由の一つとみられているのだ。

The case of productivity is more complex. Economists like to treat productivity growth as exogenous, determined by hard-to-quantify factors such as technical change. For all the buzz about the digital revolution, by this account the 1960s and 1970s were the heydays of rampant innovation, producing productivity growth at up to ten times the current pace. Strange, also, that productivity growth went into a sudden reverse in 2008/09, just as the financial crisis hit, and has been stuck in low gear ever since. Did technical change come to an abrupt halt, by sheer chance at about the same time Europe faced the biggest demand drop in a generation?

生産性の場合はもっと複雑だ。経済学者は生産性を外生的なもので、技術革新のような定量化しがたい要素で決まるといいたがる。デジタル革命についてのおしゃべりはともかく、1960年代と1970年代は技術革新の黄金時代で、今日の10倍高い生産性成長を生み出していた。これまた奇妙なことに、生産成長も2008/09年に、ちょうど金融危機と一緒に逆転してそれ以来ずっと低いままだ。技術革新はヨーロッパが何十年に一度の大きな需要低下に直面するのと同時に突然停止してしまったのだろうか。

Some find this story hard to swallow. Surely, if wages were to rise, entrepreneurs would buy new machinery and find ways to make more efficient use of scarce workers? In the economic jargon, this is called capital–labour substitution and is generally recognized as a driving force behind long-run productivity growth. But it is no longer happening. According to the ECB, capital deepening has been virtually absent since 2013. But then, why should firms invest in labour-saving technologies when there is no cost pressure from the wage front and aggregate demand remains feeble? Accept this logic, and productivity growth becomes endogenous – something that is itself driven by macroeconomic factors, with wages playing a prominent role.

この噺が呑み込みにくい人もいるだろう。確かに、もし賃金が上がれば企業家は新しい機械を買い、希少な労働力をもっと効率的に使おうとするだろう。経済学の業界用語では、これが資本・労働代替と呼ばれ、長期的な生産性向上の原動力と認められている。しかしこれはもはや起こっていない。欧州中銀によれば、2013年以降資本蓄積は殆ど見られない。しかしそれなら、賃金面からはコスト圧力がなく、総需要が弱いときに、なぜ企業は労働節約的な技術に投資するのか?このロジックを認めるなら、生産性向上は内生的になる-つまりマクロ経済要因によってそれ自体が動かされる何かであり、そこでは賃金が枢要な役割を果たす。

But maybe we are about to witness a return to robust wage growth? All the signs seem to point that way. “As economic activity gains momentum and the labour market tightens, upward pressures on wages are expected to intensify,” was the ECB’s assessment just over a year ago. Now, the verdict is that “Euro area wage growth remains low”. In fact, the ECB has a long history of predicting that wage growth is just around the corner, only to revise forecasts downwards again and again. For Europe’s workers, it’s a case of always jam tomorrow, never jam today.

しかしおそらく我々は頑健な賃金上昇への復帰を目撃しようとしているのだろうか?全ての兆候はそれを示している。「経済活動にはずみがつき、労働市場は逼迫し、賃金への上昇圧力は高まりつつある」というのは、欧州中銀のちょうど1年前の評価だった。今やその評決は「ユーロ圏の賃金上昇は低いまま」だ。実際、欧州中銀は賃金上昇がもうすぐやってくると予言し続け、繰り返しその予言を下方修正するという長い歴史がある。ヨーロッパの労働者にとって、それはいつも明日のジャムであって、今日のジャムであったためしはない。

So why do standard economic models keep on predicting wage growth that then fails to materialize? One possibility is that they are fed with wrong or misleading labour market data. There are indeed good reasons to believe that headline unemployment rates underestimate slack in the labour market, given that everyone who works for at least an hour per week counts among the employed. With the spread of precarious contracts and often involuntary part-time employment, there now are millions of workers in Europe who would happily move to a regular job.

ではなぜ標準的経済モデルはいつも賃金上昇を予言しながらそれが実現しないことになるのか?一つの可能性は、彼らが間違ったあるいは誤解を招く労働市場データを与えられているからというものだ。1週に1時間でも働いたものはみんな被用者にカウントすることを考えれば、公表される失業率が労働市場の緩みを過小評価していると信じるべき理由がある。不安定な契約や不本意なパートタイム雇用の広がりからして、欧州では何百万もの労働者が常用雇用に移りたいと思っている。

 

The more worrying possibility is that the models were trained to predict the behaviour of wages in a world that no longer exists. In the name of flexibility and competitiveness – and often at the behest of the Commission, the ECB and the IMF – post-crisis labour market reforms have put the axe to centralized collective bargaining and a myriad of other protections. Taking into account that wage-setting institutions have been severely weakened, the failure of wages to grow looks much less surprising.

もっと憂慮すべき可能性は、このモデルがもはや存在しない世界における賃金行動を予測するように訓練されているという可能性だ。柔軟性と競争力の名の下に、しばしば欧州委員会、欧州中銀とIMFの命を受けて、経済危機後の労働市場改革は中央集権的団体交渉とその他の保護制度になたを振り下ろした。賃金決定機構が手ひどく弱体化されてきたことを考慮に入れると、賃金上昇が進まないのはあまり驚くべきことではない。

Almost everyone now seems to agree that wages have to grow if Europe wants to escape the cycle of weak demand, low inflation, stagnant capital deepening and low productivity growth for good. But wage growth will not pick up in response to a magic wand held by central bankers. Instead, Europe needs to re-build wage-setting institutions – chiefly by actively supporting collective bargaining, by providing for extension mechanisms that increase coverage of collective agreements, and by developing a European minimum wage policy that guarantees a decent living wage to all.

欧州が弱い需要、低インフレ、資本蓄積の停滞、低い生産性上昇から脱却したいのであれば、賃金が上昇すべきだと、今や殆ど誰もが賛成するだろう。しかし、賃金上昇は中央銀行の魔法の杖に反応して高まろうとしない。そうじゃなく、欧州は賃金決定機構を再建する必要があるのだ。何よりも団体交渉を積極的に支援することにより、労働協約の適用範囲を拡大するために拡張適用メカニズムを提供することにより、そして全ての人にまっとうな生活賃金を保障する欧州最低賃金政策を発展させることによって。

というわけで、中央銀行が笛を吹けども踊らないのは、賃上げメカニズムが傷んでしまったからで、それを再建することが最優先だという議論です。

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ドイツの労働者参加法はEU条約違反にあらず

去る7月18日、EU司法裁判所が注目されていた事件の判決を下しました。ドイツの集団的労使関係システムの一つの基軸をなす労働者参加法制がEU条約違反だという訴えを退けたのです。

判決文はこちらですが、

http://curia.europa.eu/juris/document/document.jsf;jsessionid=9ea7d2dc30d61d3ce382bb214649946dff78f76ef5f4.e34KaxiLc3qMb40Rch0SaxyMaNj0?text=&docid=192888&pageIndex=0&doclang=EN&mode=lst&dir=&occ=first&part=1&cid=83457

世の東西を問わず判決文というのは読みにくいものと相場が決まっているので、EU司法裁判所が作ったプレスリリースが比較的分かり易いので、そっちを見ていきましょう。

https://curia.europa.eu/jcms/upload/docs/application/pdf/2017-07/cp170081en.pdf

The German Law on employee participation is compatible with EU law

The exclusion of employees of a group, employed outside of Germany, from the right to vote and stand as a candidate in elections of employees’ representatives on the supervisory board of the German parent company is not contrary to the free movement of workers

ドイツの親会社の監督役会の従業員代表の選挙に投票し、その候補者として立候補する権利からドイツ国外で雇用されている従業員グループを除外することは、労働者の自由移動に反するものではない。

ドイツの監督役会(Aufsichtsrat)はしばしば監査役会と訳されていますが、日本のしょぼい監査役とは違い、執行役会(Vorstand)の上位にあってこれを監督する存在です。その監督役会に従業員代表が半分参加しているというのがドイツの労働者参加法制の特徴であることは周知のところですが、それに株主が文句をつけたという事案です。

その文句の付け方が、この企業グループの従業員のうちドイツ国内の親会社の従業員は監督役会の従業員代表の選挙権、被選挙権があるのに、ドイツ国外の子会社の従業員は、その国はドイツ風の労働者参加法制がないので、その選挙権、被選挙権がないのはおかしいじゃないか、国籍による差別であり、EU条約の保障する労働者の自由移動の原則に反するという、絡めてからのものであったわけです。

EU司法裁判所は結論としてこの訴えを退けているんですが、経済統合は熱心に追求してきた一方で、労働社会政策は控えめで、とりわけ集団的労使関係については加盟国の歴史と伝統を尊重してその調和化には極めて消極的であったことの一つの帰結がここにも露呈していると言えるのかも知れません。

Article 45 TFEU must be interpreted as not precluding legislation of a Member State, such as that at issue in the main proceedings, under which the workers employed in the establishments of a group located in the territory of that Member State are deprived of the right to vote and to stand as a candidate in elections of workers’ representatives to the supervisory board of the parent company of that group, which is established in that Member State, and as the case may be, of the right to act or to continue to act as representative on that board, where those workers leave their employment in such an establishment and are employed by a subsidiary belonging to the same group established in another Member State.

この判決を受けて、欧州労連は7月19日、欧州委員会は労働者参加に向けて行動すべきだという声明を発表しました。

https://www.etuc.org/press/ecj-ruling-commission-should-act-workers-participation-says-etuc#.WXSfaIjyjDd

The European Trade Union Confederation has already called for an EU framework for workers’ participation and says the ECJ ruling should prompt the European Commission to create EU rules on board-level representation as well as updated rules on information, and consultation of workers.

今から40年前の1970年代には、まさにドイツ式の労働者参加を義務づける欧州会社法案が話題になっていたのですが、その後一定の情報提供と協議は立法化にこぎ着けたものの、会社の最高決定機関に従業員代表の参加を義務づけるというドイツ型のシステムは、事実上アジェンダから捨てられて久しいのが実情で、欧州労連としてはここでもう一度訴えたいというところでしょう。

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The Role of “Agreements” in EU Labor Law Policy

33565524JILPTの英文ページに、拙文「The Role of “Agreements” in EU Labor Law Policy 」が掲載されました。

http://www.jil.go.jp/english/researcheye/bn/RE019.html

On January 27th this year, I published EU no rōdōhō seisaku (EU labor law policy) through JILPT. This is a complete reworking of EU rōdōhō no keisei (Formation of EU labor law), published in the days of the Japan Institute of Labor in 1998. It adopts a historical viewpoint in describing nearly every topic raised as legal policy – both those that have borne fruit as directives and those that have yet to do so – across the whole spectrum of EU labor law, based on various published materials, media reports and so on. Running to more than 500 pages in quite fine print, the book introduces detailed EU legal policy on issues currently topical in Japan, namely equal pay for equal work and regulation of long working hours; on a broader level, however, it is full of knowledge and information that will be of use for people with an interest in labor law policy in the UK, France, Germany and other EU member states.

これは3月に掲載された和文エッセイの英訳です。

http://www.jil.go.jp/researcheye/bn/019_170310.html(EU労働法政策における『協約』の位置)

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