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EUの労働法政策

2023年11月29日 (水)

スウェーデンモデルが危ない!

Ftcms_26e63759743c4171bcb6febc5362fa91 スウェーデンで大騒ぎになっているテスラのストライキですが、テスラ相手にストライキを打ってる最大労組IFメタルのニルソン会長がフィナンシャルタイムズに登場して、誉れあるスウェーデンモデルを守れ!と訴えています。

Union chief warns of Tesla threat to Sweden’s model

Marie Nilsson, the head of the IF Metall union behind the strike against Tesla, told the Financial Times that the famed Swedish model — developed in the 1930s — was at the heart of the country’s prosperity, with employers and unions taking joint decisions on the labour market.
“If you look at this in a long-term perspective, it could be a threat to the Swedish model. It’s really important for us,” she added.

テスラ相手にストライキを打っている労組IFメタルの会長マリ・ニルソンは、フィナンシャルタイムズ紙に、1930年代に発展した誉れあるスウェーデンモデルは、この国の繁栄の根幹にあり、使用者と組合が労働市場について共同で決定するものだと語る。「長期的な観点から見れば、今回の事態はスウェーデンモデルへの脅威です。これは我々にとって本当に重要なのです」

Postal workers’ refusal to deliver registration plates for new Tesla cars led the US carmaker to file twin lawsuits against the Swedish state and postal service on Monday asking judges to allow it to collect the licence plates directly from the Swedish Transport Agency. Musk, Tesla’s chief executive, had called the postal workers’ actions “insane” on Friday.
Tesla scored an initial victory when it won an interim judgment on Monday forcing the state to allow the carmaker to collect the registration plates for its new cars directly from the agency. 
However, in its separate case against the national postal service, the carmaker suffered a setback on Tuesday when a separate Swedish court ruled that it could not gain immediate access to any registration plates held by PostNord. The postal company will have three days to respond to Tesla’s arguments before the court makes a decision.

郵便労働者がテスラの新車のナンバープレートを配達するのを拒否したことで、米自動車会社は月曜日にスウェーデンの政府と郵便サービスを相手取って2つの訴訟を提訴し、スウェーデン運輸庁から直接ナンバープレートを入手できるように求めた。テスラのマスクCEOは金曜日に郵便労働者の行為を「正気じゃねえ」と呼んだ。

テスラは月曜日、ナンバープレートを直接運輸庁から入手できるという仮判決を勝ちとり、第一勝を挙げた。

しかしながら、郵便サービスに対する別の訴訟では火曜日に頓挫し、別のスウェーデンの裁判所は北欧郵便のもとにあるナンバープレートに直ちにアクセスすることはできないと判示した。

本ブログでも何回も述べてきましたが、誉れあるスウェーデンモデルにとって、テスラもけしからんし、EUの最低賃金指令も許せない代物です。

Nilsson said one big threat to the Swedish model was a new EU directive on the minimum wage, which would impose a level rather than leaving it to an agreement between employers and unions.

ニルソンが言うには、スウェーデンモデルへの大きな脅威の一つはEUの最低賃金指令で、使用者と組合の間の協約に委ねることなく一定の水準を強制しようとする。

スウェーデンモデルにおいては、賃金であれ何であれ労働にかかわるすべては労働協約で決めるべきであって、国家が介入するべきではないからです。

“If Tesla shows it’s possible to operate in Sweden without a collective agreement, then other companies could be tempted to do the same. We have a successful model in Sweden. We have tried to explain it. It’s very seldom this type of conflict arises,” Nilsson added.

「もしテスラが、スウェーデンで労働協約なしに操業することができるということを示したら、ほかの会社も同じことをやろうとするでしょう。我々はスウェーデンに成功したモデルを持っています。我々はそれを説明しようとしました、こんな類いの紛争が起こるのは滅多にないことなのです」とニルソン。

 

 

 

 

2023年11月28日 (火)

テスラがスウェーデン運輸庁と北欧郵便を提訴

11802357e1701148866184800x450 イーロン・マスクが自分のことを棚に上げて「正気の沙汰じゃねえ」と非難したスウェーデンの同情ストライキ騒ぎですが、テスラは労働組合がナンバープレートの郵送を拒否している北欧郵便と、その監督官庁である運輸庁を、スウェーデンの裁判所に訴えたようです。

Tesla takes legal action against Sweden over licence plate boycott

Tesla has decided to sue the Swedish Transport Administration and Postnord over the ongoing strike by IF Metall and other unions in Sweden, which has prevented the car giant from obtaining licence plates for its cars.

テスラはIFメタルと他のスウェーデン労組による現在進行中のストライキに関して、その車のライセンスプレートを入手することを妨げているとして、スウェーデン運輸庁と北欧郵便を訴えた。

話はますます面白くなってきました。スウェーデンの裁判所がテスラを勝たせるとは思えませんが、その上に行くとどうなるかわかりません。

これは、もしかしたらラヴァル事件再びか?とも思ったのですが、テスラはEU域内の会社じゃないので、EU運営条約違反にはならないような気もします。そこのところは、EU法の専門家の意見を聞く必要がありそうです。

 

 

 

 

ロボ解雇

25d433537f2be7c330d08c3e1bfb3e9c800x EUobserverに、「Platform workers could face 'robo-firing' under EU's AI rules」(プラットフォーム労働者はEUのAI規則の下で「ロボ解雇」に直面するぞ)という記事が載っています。

Platform workers could face 'robo-firing' under EU's AI rules

中身は、一昨年提案されたEUのプラットフォーム労働指令案について、理事会での議論がもっぱら労働者性の問題(どういう要件を充たせば労働者として認めるか)にばかり集中していて、アルゴリズムによるマネジメントの問題点にはほとんど議論されていないことに、欧州労連が異議を呈しているという記事なのですが、その中に「robo-firing」(ロボ解雇)というなにやら怪しげな新語が登場しています。

 According to the ETUI researcher, the text under negotiation could create ambiguity on the processing of personal data by the platform and would violate the GDPR by including the use of so-called 'robo-firing' — the dismissal of workers by automated decision-making systems.

欧州労研の研究員によれば、交渉中のテキストはプラットフォームによる個人データ処理に関して曖昧さを生み出し、いわゆる「ロボ解雇」-自動的な意思決定システムによる労働者の解雇の利用を含むことにより一般個人データ規則を侵犯しうる。

 

 

2023年11月24日 (金)

これがスウェーデン流のストライキ

Photo_20231124124701 イーロン・マスクがスウェーデンのテスラ社に対する全面ストライキに「正気の沙汰じゃねえ」と口走っているようですが、いやいやテスラ社の工場のストライキに港湾労働者から郵便局の職員までが同情ストを展開するのが、スウェーデンという国の国柄というものなんです。アメリカみたいに企業中心社会ではないので。

久しぶりにフィナンシャルタイムズから。

Tesla strikes in Sweden are ‘insane’, says Elon Musk

An escalating strike against Tesla by a group of Swedish unions has been branded “insane” by Elon Musk as the industrial action threatens to disrupt the US carmaker’s operations in other parts of Europe.

About 130 mechanics in Sweden, who belong to the IF Metall union and service the electric cars, went on strike last month after Tesla turned down their request for collective bargaining.

Dockworkers and car dealers have since refused to work with the brand, in sympathy strikes that threaten to harm the company’s business in Sweden and potentially further afield. The latest strike by postal workers means Tesla cars will not have their licence plates delivered to customers.

Musk, Tesla’s chief executive and a staunch critic of unionisation, wrote that the situation “is insane”, in a post on the X social media platform he owns.

Tesla has avoided collective bargaining in its global operations despite opening a factory in Germany, where auto unions are powerful.

“This has been a huge cultural shock to Elon,” said Matthias Schmidt, an independent European auto analyst. “He has gone out of his way to avoid unionisation, but this is a huge wake-up call.” 

郵便局の配達人が、テスラのナンバープレートの配達だけは拒否するというご丁寧な部分的同情ストライキをするというのは、日本はもとより、アメリカでも異様に感じられるでしょうが、でもスウェーデンではごく当たり前のことなのです。

とにかく組合なんて認めねえぞと、組織率8割の北欧にやってきて、団体交渉を拒否したりしたら、不当労働行為制度などというお上頼りの情けないものはなく、自力で、ということはつまり労働組合の総力を挙げて、そういうふざけた使用者は叩き潰す、というのがスウェーデンの労使関係システムなのであってみれば、まさにあらゆる産業に及ぶ労働組合の総力を挙げて、こういう行動に出るのが、スウェーデン流のストライキというものなわけです。

労使関係がお上頼りではなく自力救済ということは、つまりそういうことなのですから。

2023年11月12日 (日)

文化的職業の労働条件

例によって文春砲から始まった宝塚少女歌劇の劇団員のいじめ自殺事件については、すでに山のような記事があふれていますが、労働法的にみると、劇団員が雇用労働者であれば、労働施策総合推進法第30条の2の問題であり、

(雇用管理上の措置等)
第三十条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。 

フリーランスであれば、未施行ですが、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律第14条の問題となります。

 (業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等)
第十四条 特定業務委託事業者は、その行う業務委託に係る特定受託業務従事者に対し当該業務委託に関して行われる次の各号に規定する言動により、当該各号に掲げる状況に至ることのないよう、その者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じなければならない。
一 性的な言動に対する特定受託業務従事者の対応によりその者(その者が第二条第一項第二号に掲げる法人の代表者である場合にあっては、当該法人)に係る業務委託の条件について不利益を与え、又は性的な言動により特定受託業務従事者の就業環境を害すること。
二 特定受託業務従事者の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものに関する言動によりその者の就業環境を害すること。
三 取引上の優越的な関係を背景とした言動であって業務委託に係る業務を遂行する上で必要かつ相当な範囲を超えたものにより特定受託業務従事者の就業環境を害すること。

本ブログではかつて「〇〇の労働者性」というエントリをいくつか書き並べたことがありますが、その中に、「タカラジェンヌの労働者性」というのもありました。

タカラジェンヌの労働者性

これは、古川弁護士には申し訳ないですが(笑)、歌のオーディションでダメ出しされた新国立劇場のオペラ歌手の人よりもずっと問題じゃないですか。

売り上げノルマ達成できないからクビなんて、まあ個別紛争事例にはいくつかありますけど、阪急も相当にブラックじゃないか。これはやはり、日本音楽家ユニオン宝塚分会を結成して、タカラジェンヌ裁判で労働者性を争って欲しい一件です。

ちなみに、こういうアーチストその他の文化的職業の労働条件の問題というのは、EUでも議論になっているようで、11月10日付の閣僚理事会文書にこんなのがありました。

Improving the working conditions for artists and other cultural professionals - Policy Debate

この文書の最後に、加盟国に対して次のような質問がされています。

1. In your country, what new or existing measures have been taken to improve the living and working conditions of artists, creators and cultural workers?

2. What aspects could be addressed at European level to achieve a basic common framework applicable to the working conditions of artists and cultural professionals, bearing in mind that it should facilitate the mobility of artists and cultural professionals as a positive achievement for the sector

1,貴国において、アーチスト、クリエイター及び文化的労働者の生活労働条件を改善するために新たな又は既存のいかなr措置がとられたか?

2,アーチスト及び文化的職業の流動性を促進することを脳裡において、アーチスト及び文化的職業の労働条件に適用される基本的な共通の枠組みを達成するために欧州レベルでのいかなる側面がとられうるか?

 

 

 

2023年9月22日 (金)

欧州労使協議会指令の改正に向けた動向@『労基旬報』2023年9月25日

『労基旬報』2023年9月25日に「欧州労使協議会指令の改正に向けた動向」を寄稿しました。

 今年(2023年)に入ってから、2月2日に欧州議会が欧州労使協議会指令の改正提案を含む欧州委員会への勧告を決議し、4月11日に欧州委員会がEUレベル労使団体への第1次協議を開始し、7月26日には第2次協議に進むという風に、同指令の改正に向けた立法の動きが加速化しています。今回はこの指令のこれまでの歴史を概観するとともに、今回の改正に向けた動向を概説したいと思います。
 EUの欧州労使協議会指令は、長期にわたる労使間及び加盟国間の鬩ぎ合いの結果、いまから30年近く前の1994年9月に成立したEU労使関係法制の要石ですが、その鬩ぎ合いの副産物として異様に複雑怪奇な仕組みとなってしまいました。指令の適用対象は、EU全域で1000人以上かつ2以上の国で各150人以上雇用する多国籍企業ですが、設立手続として本則の特別交渉組織による自発的設立のほかに、経営側が6か月交渉に応じないか労使が3年間合意しない場合に附則の補完的要件に基づいて強制設立されるというムチの規定、そして指令の施行日(1996年9月22日)までに欧州労使協議会に相当する協定を結んだ場合には指令を適用しないというアメの規定がありました。これはつまり、先行して労使協議会みたいなものを作っておけば、指令の細かい規定に拘束されずに済むというもので、30年近く経った現在でも大部分はこのレガシー協定です。
 同指令は2009年5月に改正されていますが、文言整理のための「recast(再制定)」指令と位置づけられており、あまり内容に関わる改正はありません。ただ、1994年指令が特別交渉組織について「自ら選択した専門家の援助」とのみ規定していたのが、「権限ある認知されたEUレベル労働組合組織を含む」と明記され、さらに「かかる専門家及び労働組合代表は特別交渉組織の依頼により諮問的地位をもって、交渉会合に出席することができる」と付け加えられました。これが現行の欧州労使協議会指令です。
 今回の動きの出発点は、欧州労連が2014年10月に採択した「職場のさらなる民主主義のための新たな枠組に向けて」という決議です。これは、情報提供と協議に加えて役員会レベルの労働者参加までをEU指令で規定すべきというものでした。欧州議会は2021年12月16日の決議「職場の民主主義:被用者の参加権の欧州枠組及び欧州労使協議会指令改正」において、下請連鎖やフランチャイズを含めたあらゆる欧州企業における情報提供、協議及び参加の枠組を導入するとともに、先行設立企業の適用除外(レガシー協定)を終わらせることを求めました。その後、欧州議会は2023年2月2日の決議「欧州労使協議会指令の改正に関する欧州委員会への勧告」において、同指令案の改正案を勧告として添付しつつ、2024年1月31日までに指令改正案を提案するように求めました。具体的には、情報提供と協議がされるべき「国境を超えた事項」概念の拡大、「協議」の定義を修正して欧州労使協議会の意見に対して理由を附した回答を求めることやその意見が経営側によって考慮されるべきことも規定すること、情報提供と協議がなされなかった場合に企業の意思決定が保留され、2千万ユーロないし売上げの4%の罰金を科し、公共調達から排除すること、欧州労使協議会に機密事項かどうかを判断する客観的な基準を示し、企業活動を著しく阻害するとみなす情報へのアクセスを制限する際に事前の司法当局の認定を求めること、欧州労使協議会設置の交渉期間を18か月に短縮すること、そして先行設立企業の適用除外を終わらせること、などが挙げられています。今年の4月、7月と急に欧州委員会が労使団体への協議を開始したのは、これを受けてのことでした。
 4月の第1次協議文書はこれまでの本指令をめぐる経緯を長々と述べた上で、各項目ごとに現状と欧州議会の改正案を示し、最後にEU行動の必要性について問うています。これに対して欧州労連は5月22日付の回答で、欧州議会の改正提案が問題を的確に捉えていると述べ、特に情報提供・協議義務違反の場合に企業意思決定を一時的に保留する権利の提案を支持し、違反が繰り返される場合には企業意思決定を無効にすることすら提起し、このため行政ないし司法機関が無休かつ短時間で決定できるようにすべきとしています。また、労働組合の関与を特別交渉組織だけではなく欧州労使協議会の日常業務自体にも拡大するという欧州議会の提案を支持し、欧州委員会の協議文書がこの点に注意を払っていないことに不満を表明しています。機密情報規定についても欧州議会の提案を支持するとともに、このためやはり無休かつ48時間以内に決定を下せる機関が必要だとしています。欧州労使協議会設置の交渉期間については3年のままでかまわないとしつつ、特別交渉組織の設置と第1回会合のデッドラインを6か月とすべきだとしています。
 一方欧州経団連は5月25日付けの回答で、欧州労使協議会のあり方は自社のことを最もよく知る企業レベル労使に委ねるべきであり、指令改正の必要はないと強調して、欧州議会の直近の動きを批判しています。そして欧州労使協議会の発展のためには、画一的な規制強化ではなく、欧州委員会勧告や行為規範の形が望ましいと述べています。
 これらを受けて7月に出された第2次協議文書は、ほぼ欧州労連や欧州議会の提案に沿った形で、指令改正の方向性を提示しています。すなわち、①国境を超えたレベルでの労働者の情報提供と協議の権利について正当化されない相違を避けるため、すべてのEUレベル企業に一定の規則を適用し、現行の適用除外をなくすこと、②効率的かつ効果的な欧州労使協議会の設置のため、被用者による設置要求後の手続を簡素化し、交渉期間中の不必要な遅延や被用者側資源の不足のリスクを解消すること、③欧州労使協議会の情報提供・協議の手続をより効果的にするため、「国境を超えた事項」概念の明確化、機密事項や非開示条項の明確化、欧州労使協議会運営経費に関する規則の強化、④指令のより効果的な施行のため、特別交渉組織や欧州労使協議会の被用者代表による行政・司法手続へのアクセスの改善、などです。
 ここから、恐らく本年中に提案されるであろう欧州労使協議会指令の改正案の内容がほぼ透けて見えます。すなわち、まず1994年指令以来の先行設立企業の適用除外の段階的廃止です。ただし、既に改正指令の要件を充たしているものは経過措置で維持するようです。また企業グループにおける「支配企業」概念について、構造的には独立の企業だが契約上の取決めによって他企業の運営に影響を及ぼすものにも拡大することを示唆しています。
 特別交渉組織の設置と第1回会合の明確なデッドライン(欧州労連は6か月)を設定すべきとするとともに、特別交渉組織の法的援助に係る経費も経営中枢が負担すべきこと等の明確化も示されています。なお、欧州労使協議会の男女バランスのため、より少ない性の代表を増やすような仕組みを考慮すべきとも述べています。
 「国境を超えた事項」概念については、欧州議会勧告が「潜在的効果」を有するものに拡大するとしているのに対し、欧州委員会は「精査する」と述べるにとどまっています。「協議」概念については、欧州労使協議会の意見に対して理由を附した回答を求めるという欧州議会勧告の考え方を示しつつ、国内法や慣行との整合性にも言及しています。欧州労使協議会の利用できる資源については、基本的には経営中枢と被用者代表の決めるべき事トしつつ、専門家、訓練、法的助言及び訴訟の費用についてはより詳細を明確化することが必要としています。機密事項に関しては、欧州労使協議会が共有した機密情報を国レベルや地域レベルの労使協議会で機密保護ルールに従いつつ共有することを促進しうること、共有した機密情報の保秘義務の期間を特定すること、関係情報の開示が企業運営に深刻な被害をもたらすかどうかに関する客観的な基準を示すこと、さらには、特定の情報を非開示とすること自体を事前の行政・司法の認可に係らしめるという可能性すら検討しています。
 指令による情報提供・協議義務を遵守しない場合の制裁や司法手続については、①欧州委員会勧告、②指令中に加盟国が関係規定を設けるよう定める、③指令中により具体的な規定を定める、といった選択肢を提示しています。
 このように、欧州委員会は明確に欧州労使協議会指令の改正に舵を切っており、恐らく年内にも上記内容の改正案を提案することになると思われます。
 なお、第2次協議文書附属作業文書によると、現在全欧州労使協議会1001のうち、本社が日本に所在するものは計31社となっています。一方欧州労研のデータベースで日系企業を検索すると、設置年順にホンダ、住友ゴム、ソニー、富士通、パナソニック、東芝、リコー、東レ、花王、パイオニア、キヤノン、三菱電機、トヨタ自動車、TDK、日立製作所、ブリジストン、シャープ、三洋電機、コマツ、セイコーエプソン、日産自動車、日本たばこ、AGC、ダイキン、ヤマハ、武田製薬、ユーシン、イオン、ジェイテクト、ヤンマー、ヤザキ、アサヒビール、ムサシ、NTTと34社が出てきます。設置年を見ると先行設立企業もかなりあるようです。これらには今回予定されている改正はかなりの影響を及ぼす可能性があります。

 

2023年8月24日 (木)

EUトレーニーシップに関する労使への第1次協議@『労基旬報』2023年8月25日号

『労基旬報』2023年8月25日号に「EUトレーニーシップに関する労使への第1次協議」を寄稿しました。

 ジョブ型雇用社会では、募集とはすべて具体的なポストの欠員募集であり、企業があるジョブについてそのジョブを遂行するスキルを有する者に応募を呼びかける行動であり、応募とはそのポストに就いたら直ちにその任務を遂行できると称する者が、それ故に自分を是非採用してくれるように企業に求める行動です。その際、その者が当該ジョブを的確に遂行できるかどうかを判断する上では、社会的に通用性が認められている職業資格や、当該募集ポストで必要なスキルを発揮してきたと推定できるような職業経歴を提示することが最も説得力ある材料となります。そうすると、学校を卒業したばかりの若者は職業経歴がないのですから、卒業したばかりの学校が発行してくれた卒業証書(ディプロマ)こそが、最も有効な就職のためのパスポートになります。しかしながら、すべての学校の卒業証書がその卒業生の職業スキルを証明してくれるわけではありません。そうすると、自分の職業スキルを証明してくれる材料を持たない若者は、つらく苦しい「学校から仕事への移行」の時期を過ごさなければなりません。
 という話は、これまで様々なところで喋ったり書いたりしてきたことですが、その「移行」のための装置としてかなりのヨーロッパ諸国で広がってきているのがトレーニーシップ(訓練生制度)です。スキルがないゆえに就職できない若者を、労働者としてではなく訓練生として採用し、実際に企業の中の仕事を経験させて、その仕事の実際上のスキルを身につけさせることによって、卒業証書という社会的通用力ある職業資格はなくても企業に労働者として採用してもらえるようにしていく、という説明を聞くと、大変立派な仕組みのように聞こえますが、実態は必ずしもそういう美談めいた話ばかりではありません。むしろ、訓練生という名目で仕事をさせながら、労働者ではないからといってまともな賃金を払わずに済ませるための抜け道として使われているのではないかという批判が、繰り返しされてきているのです。
 とはいえ、ジョブ型社会のヨーロッパでは、訓練生であろうが企業の中で仕事をやらせているんだから労働者として扱えという議論が素直に通らない理由があります。最初に言ったように、労働者として採用するということはそのジョブを遂行するスキルがあると判断したからなのであって、そのスキルがないと分かっている者を採用するというのは、そのスキルがある応募者からすればとんでもない不正義になるからです。スキルがない者を採用していいのは、スキルを要さない単純労働だけです。そして、単純労働に採用されるということは、ほっとくといつまで経ってもそこから抜け出せないということを意味します。ジョブ型社会というのは、本当に硬直的でしちめんどくさい社会なのです。
 スキルがない者であるにもかかわらず、スキルを要するジョブの作業をやらせることができるのは、それが教育目的であるからです。労働者ではなく訓練生であるという仮面をかぶることで、スキルのない(=職業資格を持たない)者がスキルを要するジョブのポストに就くことができるのである以上、この欺瞞に満ちたトレーニーシップという仕組みをやめることは難しいのです。
 ヨーロッパの中でもドイツ、スイスその他のドイツ系諸国においては、いわゆるデュアルシステムという仕組みが社会的に確立しており、学校教育自体がパートタイムの学習とパートタイムの就労の組み合わせになっていて、学校を卒業する時には既に3年か4年の職業経験を持った立派な職業資格を獲得できるので、若者の失業問題はあまり顕在化しないのですが、フランスをはじめとする多くの諸国では、そういう仕組みが乏しいために、学校卒業後に訓練生として実地で仕事を覚える時期を強いられることになりがちです。
 とはいえ、さすがにそれはひどいではないかと声が高まり、EUでは2014年に「トレーニーシップの上質枠組みに関する理事会勧告」という法的拘束力のない規範が制定されています。そこでは次のような事項が求められています。トレーニーシップの始期にトレーニーとトレーニーシップ提供者との間で締結された書面によるトレーニーシップ協定が締結されること。同協定には、教育目的、労働条件、トレーニーに手当ないし報酬が支払われるか否か、両当事者の権利義務、トレーニーシップの期間が明示されること。そして命じられた作業を通じてトレーニーを指導し、その進捗を監視評価する監督者をトレーニーシップ提供者が指名すること。
 また労働条件についても、週労働時間の上限、1日及び1週の休息期間の下限、最低休日などトレーニーの権利と労働条件の確保。安全衛生や病気休暇の確保。そして、トレーニーシップ協定に手当や報酬が支払われるか否か、支払われるとしたらその金額を明示することが求められ、またトレーニーシップの期間が原則として6カ月を超えないこと。さらにトレーニーシップ期間中に獲得した知識、技能、能力の承認と確認を促進し、トレーニーシップ提供者がその評価を基礎に、資格証明書によりそれを証明することを奨励することが規定されています。とはいえこれは法的拘束力のない勧告なので、実際には数年間にわたり訓練生だといってごくわずかな手当を払うだけで便利に使い続ける企業が跡を絶ちません。
 これに対し、2023年6月14日に欧州議会がEUにおけるトレーニーシップに関する決議を採択し、その中で欧州委員会に対して、訓練生に対して十分な報酬を支払うこと、労働者性の判断基準に該当する限り労働者として扱うべきことを定める指令案を提出するように求めました。これを受ける形で、去る7月11日に、欧州委員会は「トレーニーシップの更なる質向上」に関する労使団体への第1次協議を開始しました。以下、その内容を概観していきたいと思います。
 この協議に先立って行われたユーロバロメータの調査によると、EUの若者の68%がトレーニーシップを経て就職しており、39%は同一使用者とのトレーニーシップでした。また、報酬を得ているトレーニーの割合は2013年の40%から2023年には55%に増加し、最後のトレーニーシップ期間が6か月を超えているのが15%から11%に減少しています。社会保障にフル加入できているのは33%、部分加入は28%で、76%はトレーニーシップで有用な職業経験を得たと答えています。1つでもトレーニーシップに参加したのは全体の78%に上りますが、うち26%は1つ、29%は2つ、23%は3つ以上で、複数のトレーニーシップ経験者の37%は同一使用者の元でした。期間制限を潜脱しているようです。本年1月のトレーニーシップ枠組実施状況報告によると、問題のあるトレーニーシップとしては、質の悪いトレーニーシップ、法を遵守しないトレーニーシップ、偽装トレーニーシップがあります。
 このような調査結果や上記欧州議会の決議を受けて、欧州委員会はトレーニーシップの更なる質向上のためのEU行動が必要だと考え、次のような事項を挙げています。まず、トレーニーシップの範囲拡大です。現在適用除外されている正規の教育訓練課程の一環として行われるトレーニーシップも対象に加えることが提起されています。もっとも、正規の教育訓練課程にある者は学生と分類されるので、EU条約上立法は困難であり(条約第165条第4項及び第166条第4項)、欧州議会が求める指令案の提案は難しいということになります。次にトレーニーシップの濫用防止です。正規雇用を代替するためにトレーニーを使うという事態を防止sするために、正規の教育訓練課程以外のトレーニーシップの期間の上限設定やその延長・更新に条件を付する等が示されています。
 欧州議会や労働組合サイドが繰り返し求めている公正な報酬と社会保障へのアクセスについては、やはり条約上の制約(第155条第5項)で立法化は難しいと述べていますが、最低賃金指令を制定しておいて何を言っているのかという気もします。ただ、そもそもトレーニーは労働法上の労働者なのか学生なのかという問題がある以上、スパッと割り切る解決は困難でしょう。
 なお、これに先立って今年4月18日、欧州経団連などEU経営団体が連名でトレーニーシップに関する声明を発表していますが、その中で欧州議会の決議に対して反論し、トレーニーシップは何よりも先ず職場経験を提供することによってスキルを向上させるための教育訓練なのであって、一般的には被用者ではないと論じています。それが単なる逃げ口上ではないのは、上述の通りです。ジョブ型社会というのは(近頃はやりのインチキジョブ型コンサルタントの言うこととは全く異なり)かくも硬直的な社会システムなのです。

 

2023年7月29日 (土)

欧州労使協議会指令改正に関する第2次協議

去る7月26日、欧州委員会は欧州労使協議会指令の見直しに関する労使団体に対する第2次協議を行いました。

https://ec.europa.eu/social/main.jsp?langId=en&catId=522&furtherNews=yes&newsId=10646

The Commission has launched the second-stage consultation of European social partners on a possible revision of the European Works Councils Directive.

協議期間は10月4日までとのことです。これが何らかの指令改正につながっていくのかどうか、関心を持って追いかけていきたいと思います

 

2023年7月23日 (日)

欧州委員会がトレーニーシップに関する労使への第1次協議を開始

去る7月11日に、欧州委員会がトレーニーシップに関する労使への第1次協議を開始しました。

https://ec.europa.eu/social/main.jsp?langId=en&catId=522&furtherNews=yes&newsId=10634

Today, the Commission launches the first-stage consultation of European social partners on reinforcing the EU Quality Framework for Traineeships.

The existing framework sets out 21 quality principles for traineeships that Member States are recommended to put into practice to ensure high-quality learning and adequate working conditions. This includes providing written traineeship agreements, clear learning objectives, as well as transparent information on remuneration and social protection. 

トレーニーシップというのは、ジョブ型社会ならではの存在とも言え、当該ジョブに就くだけの十分な資格や経験を持たない若者を、そのスキルを身につけるためのトレーニングだという建前で、実質的に労働者として使いながら、労働者ではないからとまともな給料も払わないということが横行しているからです。ジョブのスキルなんかよりもやる気のある若者であることが何よりも尊重される日本とは正反対ですが、そのために起こる問題を解決するための法的対応を、既に欧州議会が決議で求めていて、今回の労使協議はそれを受けたものという面もあります。

 

2023年6月14日 (水)

インターンにせめて最低賃金を払え!

Whatsapp-image-20230614-at-113710 日本でインターンシップと称する会社見学をやっている学生たちには絶対理解できないEUの悲惨な若者たちの実情を知るには、こういう記事を読むのが一番です。

https://www.etuc.org/en/pressrelease/parliament-pay-interns-least-minimum-wage

Parliament: Pay interns at least minimum wage

欧州議会:インターンにせめて最低賃金を払え

The European Parliament has today voted by a large majority to ban unpaid internships – putting the ball firmly in the court of the European Commission to stop employers exploiting young people.

欧州議会は今日、大多数で不払いインターンシップを禁止すべしと投票し、使用者が若者を搾取するのをやめさせるボールは欧州委員会の手に渡った。

The report on quality traineeships adopted in plenary, with 404 votes in favour compared to just 78 against, includes calls for an EU Directive that will introduce:  

•            Fair remuneration in line with minimum wage
•            Social Security coverage
•            Clear training and learning objectives

本会議で賛成404票、反対78票で採択されたこの質の高い訓練制に関する報告は、次のものを導入するEU指令を求めてる。すなわち、最低賃金に沿った公正な報酬、社会保障の適用、明確な教育訓練目標だ。

The report comes after a decade long campaign by trade unions to ban unpaid internships, which sees young people used as cheap labour and deepen social inequality.

この報告は若者を安価な労働力として使い社会的不平等を拡大する不払いインターンシップを禁止せよという十年にわたる労働組合のキャンペーンに応えるものだ。

先日書いたように、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2023/05/post-cb629a.html

・・・・・それにしても、労働者として扱われない訓練生として長期間にわたり無報酬ないし低報酬で働き続けているヨーロッパの訓練生たちにとっては、似たような言葉で呼ばれる日本の若者たちの状況は、同じ地球上の出来事とはとても考えられないようなことでしょう。

ジョブ型とかメンバーシップ型といった本来事実認識に基づく学術用語をもてあそぶのであれば、最低限、それらが社会的にもたらす若者雇用への影響がいかなるものであるのかということについての正しい認識を踏まえた上でやって貰いたいものです。

 

 

 

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