『中央公論』恒例の新書大賞。今回の第1位は今井むつみ/秋田喜美『言語の本質』(中公新書)とのことで、私も読んで感心した本なので、もっともだとおもいます。以下30位までランキングが載っています。
https://chuokoron.jp/chuokoron/latestissue/
そして例によって「目利き49人が選ぶ2023年私のオススメ新書」では、目利きな人々がそれぞれにこれぞという5冊を提示していますが、わりと上位ランク入りしたのとは違う本が多く、今回は特定の上位の本を別にすれば、だいぶ票が割れたみたいですね。
さて、昨年はわたしも『家政婦の歴史』(文春新書)を出していますが、あまりにも周縁的なテーマであったために多くの読書人の関心を引かなかったと見えて、ランキングにはかすりもしていませんが、お一人だけこの拙著を取り上げていただいている方がいました。文芸評論家の小谷野敦さんです。
小谷野さんの拙著評に曰く:
2022年に、過労死した家政婦が「家事使用人」として労働基準法の対象から外れていたため、裁判に敗れた事件を発端とし、「家事使用人」の意味と、かつて「派出婦会」が労働基準法の適用対象であったのに、1948年にGHQの担当者コレットによって奴隷労働的なものとして禁止されたという複雑な法学的議論が展開されている。果たして家政婦は、家政婦紹介所に所属する労働者なのか、派遣された家庭に雇用された労働者なのかという法学のバグを、「女中」の歴史をからめつつ論述してゆく。法学者必読の書であろう。
正直申し上げて、文芸評論の世界で有名な小谷野さんに、ここまで内在的な批評をしていただけるとは思っていませんでした。分野的に近いはずの人々があまり関心を向けないのに、遠いはずの方に、それも「法学のバグ」という絶妙な評語とともに取り上げていただき、ありがとうございます。
もっとも、小谷野さんが挙げた本はいずれもランキングには入っていないちょっと変わったというか、世間の注目からかなり外れたテーマの本ばかりなので(『ポテトチップスと日本人』とか『ソース焼きそばの謎』とか)、わたしの本もそういう「ロングテールの掘り出し物」枠だったのかもしれません。
なお、この目利きの5冊の中には、褒めているのかどうかよくわからないのもあります。たとえば、斎藤幸平さんは岩尾俊平『日本企業はなぜ強みを捨てるのか』(光文社新書)を挙げているのですが、その説明に曰く:
アメリカ万歳みたいなビジネス書はもちろん嫌い。日本人もっといいところあるから自信持てというポジティブなメッセージは、わたしは日本型雇用が嫌いだから完全には同意しないけれど、納得感もある。いい意味で論争したくなる一冊。
なんだか、敵の敵は味方だから戦略上手を握るけれども、ほんとはお前は嫌いだからなッ、とうそぶいているみたいで、著者はどう感じたでしょうか。
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