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家政婦の歴史

2024年11月20日 (水)

RENGO ONLINEで落合けいさんが『家政婦の歴史』に言及

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RENGO ONLINEに、落合けいさんが「今どきネタ、時々昔話」というコラム記事で、拙著『家政婦の歴史』にも言及されています。

https://www.jtuc-rengo.or.jp/rengo_online/2024/11/20/4909/

ケア労働が「家庭の役割」とされている以上両立問題は解決できない。そして「ケア労働も労働である」と考えなければ、有効な過労死防止対策はとれないと思う。

それと関連するように思うのが、東京高裁で逆転判決が出た「家政婦過労死事件」(2024年9月19日)である。事件を知ったのは、濱口桂一郎先生が書かれた『家政婦の歴史』(文春新書、2023年7月)を読んでのことだ。「家事使用人」には労働基準法が適用されないと知って、またそれを理由に1週間泊まり込みで家事・介護にあたった家政婦の過労死が労働基準監督署でも地裁でも認定されなかったと知って、本当に驚き、無知を恥じた。事件の経緯や本質的な問題については、ぜひ『家政婦の歴史』を読んでもらいたいが、濱口先生は「長年の虚構を捨て、家事・介護の労働者派遣事業であると正面から認めることが、彼女たちを救う唯一の道だ」と訴えている。

こういう形で拙著を読んでくださる方がいるのを見つけると、とてもうれしくなります。

2024年10月 7日 (月)

朝日新聞社説が拙著『家政婦の歴史』に言及

51sgqlf3yol_sx310_bo1204203200__20241007064001 本日の朝日新聞の社説「家政婦の労災 労働者として保護せよ」は、タイトル通りの内容ですが、その中で拙著『家政婦の歴史』にわざわざ言及して、この問題の歴史的経緯について正しい認識を持つことを求めています。

(社説)家政婦の労災 労働者として保護せよ

Asahi_20241007064001   住み込みの女中は家族も同然。だから、自由に働かせてもいい――。そんな時代錯誤を許す条項が、労働基準法にある。速やかに改め、家政婦(夫)が労働者として保護されるようにすべきだ。

 2015年に、家政婦と訪問介護ヘルパーを兼ねていた60代の女性が急死した。休暇の同僚に代わり、7日間通しで個人宅に泊まり込んで働いた後のことだった。

 労働時間は計105時間、1日平均15時間に及んだが、労働災害の検討対象になったのは、介護をした31時間半だけ。残りは労基法が適用されない「家事使用人」としての仕事なので「過重業務」とはいえず、長時間労働による過労死にはあたらない――。労働基準監督署と東京地裁はそう判断した。

 だが、先月あった東京高裁の判決はこれを覆し、介護も家事も同一の会社との雇用契約に基づく一体の業務であると判断した。国は上告を見送り、判決が確定した。

 問題の根にあるのは、「家事使用人」には労基法を適用しないとする同法116条2項の規定だ。原告側は、社会的身分を理由とした差別などの憲法違反を主張したが、高裁判決はこの規定の解釈には踏み込まなかった。

 労基法制定時、この条項が主に想定していたのは、今では少なくなった「住み込みの女中」だった。ただ同時に、会社の紹介で個人と契約する家政婦も、同じ枠で扱われるようになった。

 『家政婦の歴史』を著した濱口桂一郎氏によると、大正時代に会社が家政婦を雇って家庭に派遣する事業が始まったが、敗戦後に労働者供給事業が禁止されたため、有料職業紹介の枠組みで生き残りを図った。「雇用主は紹介先の個人家庭」というかたちにして、「家事使用人」の枠に組み入れられたのだという。

 状況の変化や今回の訴訟を受けて、厚生労働省は、家事使用人にも労基法を適用する方向で具体的施策を検討すべきではないか、と提案している。規定の削除を考えるべきときだろう。

 ただ、労基法の適用対象になっても、雇い主が個人家庭の場合に、労災保険料の支払いや労働条件の順守を徹底できるのか、疑問も残る。

 今は介護も家事も労働者派遣が認められている。派遣先の家庭で仕事の指揮命令を受けている実態に照らしても、事業者に雇用される派遣労働者として労基法や労災保険の適用を受けるほうが、働き手の保護につながるはずだ。実態を踏まえ、時代にあった姿にしていきたい。

2024年9月19日 (木)

家政婦過労死事件で東京高裁が逆転判決

51sgqlf3yol_sx310_bo1204203200__20240919192701 拙著『家政婦の歴史』を書くに至る史料渉猟の出発点となった訴訟(国・渋谷労基署長(山本サービス)事件)の控訴審の判決が、本日東京高裁から出されたようです。

家事労働後に急死の女性、労災認める 東京高裁

家政婦兼介護ヘルパーとして住み込みで働いた後に急死した女性(当時68)の労災を認めなかったのは不当として、遺族が国に処分の取り消しを求めた訴訟の控訴審判決が19日、東京高裁であった。水野有子裁判長は遺族側の請求を退けた一審・東京地裁判決を取り消し、労災にあたるとの判断を示した。

一審判決などによると、女性は家政婦あっせんや訪問介護を手がける会社に登録。2015年5月、寝たきりの要介護者の利用者宅で7日間住み込みで働いた後に倒れ、翌日に死亡した。

女性の夫は労働基準監督署に労災申請し、遺族補償の給付を求めた。労基署は家庭に直接雇われた家政婦は「家事使用人」として労働基準法が適用されないとする同法の規定を根拠に、労災と認めない処分をした。

この日の判決は、女性が会社の指示の下で家事と介護の業務を一体的に行っていたとして、会社との間で家事業務も含めた雇用契約を結んだと認めた。家事使用人には該当しないと判断し、不支給処分は「(規定の)適用を誤った違法なものと言わざるを得ない」と断じた。

判決文を見ないと、この記事だけではどういうロジックなのか必ずしも明確ではありませんが、原告側が主張していた家事と介護の一体説に立っているように見えます。家政婦はそもそも労基法上の家事使用人ではなかった、という私だけが主張している歴史的経緯に立った節を採用したわけではなさそうです。

 

 

 

 

2024年4月 7日 (日)

ひよ子さんの『家政婦の歴史』評@X

51sgqlf3yol_sx310_bo1204203200__20240407161201 X(旧twitter)で「ひよ子」さんが拙著『家政婦の歴史』を読んだ感想をアップされています。

 

2024年2月11日 (日)

小谷野敦さんが『家政婦の歴史』を取り上げてくれました

Neobk2941372 『中央公論』恒例の新書大賞。今回の第1位は今井むつみ/秋田喜美『言語の本質』(中公新書)とのことで、私も読んで感心した本なので、もっともだとおもいます。以下30位までランキングが載っています。

https://chuokoron.jp/chuokoron/latestissue/

そして例によって「目利き49人が選ぶ2023年私のオススメ新書」では、目利きな人々がそれぞれにこれぞという5冊を提示していますが、わりと上位ランク入りしたのとは違う本が多く、今回は特定の上位の本を別にすれば、だいぶ票が割れたみたいですね。

さて、昨年はわたしも『家政婦の歴史』(文春新書)を出していますが、あまりにも周縁的なテーマであったために多くの読書人の関心を引かなかったと見えて、ランキングにはかすりもしていませんが、お一人だけこの拙著を取り上げていただいている方がいました。文芸評論家の小谷野敦さんです。

小谷野さんの拙著評に曰く:

2022年に、過労死した家政婦が「家事使用人」として労働基準法の対象から外れていたため、裁判に敗れた事件を発端とし、「家事使用人」の意味と、かつて「派出婦会」が労働基準法の適用対象であったのに、1948年にGHQの担当者コレットによって奴隷労働的なものとして禁止されたという複雑な法学的議論が展開されている。果たして家政婦は、家政婦紹介所に所属する労働者なのか、派遣された家庭に雇用された労働者なのかという法学のバグを、「女中」の歴史をからめつつ論述してゆく。法学者必読の書であろう。

正直申し上げて、文芸評論の世界で有名な小谷野さんに、ここまで内在的な批評をしていただけるとは思っていませんでした。分野的に近いはずの人々があまり関心を向けないのに、遠いはずの方に、それも「法学のバグ」という絶妙な評語とともに取り上げていただき、ありがとうございます。

もっとも、小谷野さんが挙げた本はいずれもランキングには入っていないちょっと変わったというか、世間の注目からかなり外れたテーマの本ばかりなので(『ポテトチップスと日本人』とか『ソース焼きそばの謎』とか)、わたしの本もそういう「ロングテールの掘り出し物」枠だったのかもしれません。

なお、この目利きの5冊の中には、褒めているのかどうかよくわからないのもあります。たとえば、斎藤幸平さんは岩尾俊平『日本企業はなぜ強みを捨てるのか』(光文社新書)を挙げているのですが、その説明に曰く:

アメリカ万歳みたいなビジネス書はもちろん嫌い。日本人もっといいところあるから自信持てというポジティブなメッセージは、わたしは日本型雇用が嫌いだから完全には同意しないけれど、納得感もある。いい意味で論争したくなる一冊。

なんだか、敵の敵は味方だから戦略上手を握るけれども、ほんとはお前は嫌いだからなッ、とうそぶいているみたいで、著者はどう感じたでしょうか。

 

 

 

 

 

2023年12月29日 (金)

「経済書2023 エコノミストが選んだおすすめ本」に拙著『家政婦の歴史』が

日経新聞の「経済書2023 エコノミストが選んだおすすめ本」に拙著『家政婦の歴史』がちょこんと入っておりますな。

経済書2023 エコノミストが選んだおすすめ本

年末年始のまとまった休みは、腰を据えた読書に絶好の機会です。著名なエコノミストらが選んだ良書の中から、2023年に本紙読書面で大きく取り上げた10冊の書評を紹介します。

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ピケティ御大の『資本とイデオロギー』などそうそうたる名著群と並べていただいているのは、まことに有り難く思います。

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2023年12月16日 (土)

アンコレさんが拙著を書評

51sgqlf3yol_sx310_bo1204203200__20231216175701 UNCORRELATED(アンコレ)さんが、ブログ「ニュースの社会科学的な裏側」で、拙著『家政婦の歴史』を丁寧に書評していただいております。

規制行政に関心がある人は読むべき『家政婦の歴史』

労働法とそれに関連した歴史的な話題を発掘整理している濱口桂一郎氏の新著(といっても出てから4ヶ月経った)『家政婦の歴史』を拝読したので、感想を記しておきたい。
私にとって家政婦はマンガやドラマの中でしか見かけない存在で、最初に題名を見たときはテーマがマニアックすぎだとお茶を噴いてしまったのだが、創作物の設定と現実のどこがどの程度乖離しているかという話題が好物なので目を通してみた。
内容はNHK解説委員室の濱口氏の「家政婦は『家事使用人』ではなかった」が要約になっているので詳しくは触れないが、GHQの偉い人が現実の細部、人夫供給業と派出婦会の違いをよく見なかったために、派出婦会で機能していた近代的な雇用制度が近世的な雇用関係を前提としたモノにされてしまい、家政婦に適切な労働者保護が与えられてこなかったという規制行政の歴史の話であった。GHQの偉い人が日本を去った後、制度の根本部分をこっそり改正すべきであったが、派遣労働の容認が大きな論点になってしまった余波か、緊急避難的な措置が永続的になったのが残念なところで、2022年のある過労死事件の遠因になる。・・・・・

 なお、本書での叙述の仕方についても、

ウェブでの話しと異なり、書籍の本書は小説や国会答弁などの引用もあって、江戸から明治、戦中から戦後の雰囲気が分かるように工夫されている。

と評価していただいています。

 

 

 

2023年12月 5日 (火)

逢見直人さんが『家政婦の歴史』を書評@『改革者』

23hyoushi12gatsu 政策研究フォーラムの『改革者』12月号で、元UAゼンセン会長の逢見直人さんに、拙著『家政婦の歴史』を書評いただいています。

http://www.seiken-forum.jp/publish/top.html

・・・・・著者は、裁判所が、家政婦は家事使用人に当たるので労基法の適用除外と単純に判断したこと自体が間違いであるとして、「家政婦の歴史」をひも解いていく。そこから「家政婦」という職業が労働基準法と職業安定法という二つの労働法の谷間で翻弄された驚くべき事実を知らされることになる。・・・・・

・・・・・家政婦をこの落とし穴から救い出す必要がある。

 

2023年11月 6日 (月)

視点・論点で「家政婦は「家事使用人」ではなかった」放送

本日のお昼、Eテレで視点・論点「家政婦は「家事使用人」ではなかった」が放送されました。
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https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/489102.html

昨年9月29日、東京地方裁判所のある判決が注目を集めました。家政婦の女性が寝たきり老人の介護と家事で1週間泊まり込みで働いた後、心疾患で死亡したのです。7日間の労働時間は、介護は31.5時間、家事は101.5時間でした。月換算すれば過労死基準を充足します。夫は労災補償を請求しましたが、不支給となりました。
その理由は「家政婦は家事使用人だから」というものでした。夫は裁判に訴えましたが、裁判所も同じ結論でした。

確かに、労働基準法第116条第2項には「この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない」と書かれています。家事使用人に労働基準法や労災保険法は適用されません。しかしながら、家政婦は本当に家事使用人なのでしょうか?誰も疑問を呈さなかったこの問題に、私は疑問を持ちました。

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というのも、今から76年前の1947年9月に労働基準法が施行されたときには、確かに家事使用人の適用除外規定は存在しましたが、それと並んで「派出婦会の派出の事業」が適用事業として明記されていたからです。派出婦とは、家政婦、付添婦など、まさに介護・家事を担う労働者のことです。その源流は、今から105年前の1918年に、東京市四谷区で大和俊子さんという方が始めた事業で、夫の出勤後暇な主婦が他の家庭で主婦代わりに働くシェアリングエコノミーとして始まったのです。当時、『婦人之友』を主宰する羽仁もと子が絶賛し、同業者が続々参入して、瞬く間に女中代わりに使われるようになりました。
これに対し、家事使用人とは本来女中のことでした。しかし、封建的家父長的な雇傭関係を嫌がって、1930年代には、女中になりたいという女性が減少し、女中払底が世間の話題になりました。当時のノンフィクションや小説には、そうした姿が多く描かれています。派出婦は彼女ら女中にとって憧れの存在だったのです。
一方戦前には、やくざまがいの人夫供給業がはびこっていました。何々組の親分が、監獄部屋といわれる劣悪な宿舎に労働者を押し込め、厳しい肉体労働の報酬から何重にもピンハネし、借金漬けにして、徹底的に搾取する悪辣な事業です。当時の行政官は、「こんな連中は速やかに殲滅すべきだ」とまで批判していました。

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そうした中で、1938年に職業紹介法が改正され、新たに労務供給事業が許可制の下に置かれることになりました。その中身は、ほぼ6割が人夫、雑役、職夫といった男性型肉体労働、約4割が家政婦、付添婦、看護婦といった女性型対人サービス労働でした。いわば、殲滅すべき悪逆無道の人夫供給業と、女中にとって憧れの的であった派出婦会とを、同一の規制枠組に放り込むものだったのです。
終戦後の1947年12月に施行された職業安定法は、この労働者供給事業を全面禁止しました。当時のGHQの担当官コレット氏は、これを日本の民主化のための大改革だと考えていました。悪辣な人夫供給業についてはその通りです。しかし、これによってそれまでまっとうに運営され、女中の憧れの的であった派出婦会も一緒に非合法化されてしまったのです。とはいえ、家政婦や付添婦を求める社会の需要を満たさなければなりません。そこで政府は、職業安定法で認められた有料職業紹介事業に「家政婦」を入れ込みました。これにより、それまで派出婦会に所属していた家政婦は、一般家庭に直接雇われているということになってしまったのです。
その3か月前に施行されていた労働基準法では、まだ派出婦会が合法の存在であったので、「派出婦会の派出の事業」が適用事業に明記されていたのですが、その数か月後には「派出婦会」は違法の存在になり、家政婦は家事使用人扱いされてしまうようになったのです。しかし、本来家政婦は女中と異なり、家事使用人ではありません。労働基準法の制定経緯からしてもそうですし、政府が5年ごとに実施してきた国勢調査でも両者は別の存在です。家事使用人は、国勢調査では親族と並んで「住込みの雇人」として雇い主の世帯の一員として計上されますが、家政婦は別の世帯に属するからです。女中は女中部屋に住み込んでいる世帯員であり、そこが住所ですが、家政婦は(泊まり込みはあっても)「住み込みの雇人」ではありません。過労死した方は夫と夫婦世帯ですし、テレビドラマの「家政婦は見た」に出てくる市原悦子演ずる家政婦は紹介所の自室で猫と同居していました。
職業安定法によって、家政婦は派出婦会ではなく一般家庭が雇い主だということにされましたが、それは現実の姿とはかけ離れていました。

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職業紹介事業というのは、求人者と求職者をその都度マッチングして手数料をもらえばそれきりのはずですが、現実の家政婦紹介所は家政婦たちを宿舎に住まわせ、注文を受けては家庭に派遣し、終われば紹介所に戻ってくるという仕組みです。まさに戦前の労務供給事業であり、1985年に解禁された労働者派遣事業そのものです。ところが、一般家庭が雇い主であって紹介所は使用者ではないという虚構を維持するために、たとえば1992年の介護労働法では、なぜか紹介所に求職者に対する福祉増進措置が義務付けられています。
家事使用人扱いされたために労災保険が適用されなくなった家政婦のために、政府は労災保険の特別加入という制度を用意しました。建設業の一人親方のように、現場で作業を行う自営業者のための制度に、れっきとした雇われている労働者を入れ込むこと自体がおかしな話です。さらに、その保険料をだれが払っているのかというと、家政婦紹介所が紹介手数料に上乗せして一般家庭に請求しているのです。つまり、法律上の使用者である一般家庭が負担し、実質的使用者である紹介所が納入しているというわけです。何というねじれた制度でしょうか。実際加入率は高くありません。
さて、昨年の家政婦過労死事件判決を受けて、NPO法人POSSEは、ネット上で「家事労働者に労基法・労災保険の適用を! 1週間・24時間拘束労働で亡くなった高齢女性の過労死を認定してください!」というオンライン署名運動を展開しています。加藤前厚生労働大臣も、必要であれば労働基準法改正も検討すると表明しています。しかし、労働基準法第116条第2項を削除しただけでは、家事使用人とされている家政婦に労働基準法と労災保険法は適用されません。

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なぜなら、労働基準法第9条は「労働者」を「事業に使用される者」と定義し、「使用者」を「事業主又は事業の経営担当者」等と定義しているからです。「事業」でなければ、労働基準法は適用できません。その実態に反して一般家庭を雇い主とし続けている限り、労働基準法と労災保険法は適用できないのです。
労働基準法制定時の「派出婦会の派出の事業」を正面から認めない限り、紹介所という第三者によるその都度の紹介行為だという虚構を維持し続けている限り、彼女たちが救われることはありません。長年の虚構を捨て、家事・介護の労働者派遣事業であると正面から認めることが、彼女たちを救う唯一の道なのです。

 

 

 

2023年11月 3日 (金)

役人の性なのか(笑)

51sgqlf3yol_sx310_bo1204203200__20231103084401 読書メーターに、Inzaghicoさんの拙著『家政婦の歴史』への短評が載っているのですが、

役人の性なのか(笑)、規則や法律の条文が多く、素人は読んでいてクラクラしてくるが、冒頭と最後に著者の論旨が簡潔にまとめられている。そして不当な扱いを受けてきた、否、今も受けている家政婦を『「正義の刃」の犠牲者』と評している。戦前戦後の悪徳人夫供給業者を罰して正すという試みの巻き添えを食ってしまったのが、家政婦だった。彼女たちが、そのモデルが生まれた当初の派出婦会からの派遣、というままでいられたら、そんなことにははらなかった。

「役人の性なのか(笑)」と言われちゃいましたが、いやそれは否定しませんが、そもそも警視庁令派出婦会取締規則などというその存在自体が完全に忘れ去られていた代物を掘り出してきたので、それを皆様にご披露したいというのは、私はいち歴史研究者としての妄執といった方がいいと思われます。

14476_ext_01_0_20231103085101 ちなみに、今書店の店頭に並んでいる『週刊東洋経済』11月4日号に載った「話題の本」の最後のところで喋っていることですが、この本を書けたのは、国立国会図書館のデジタルコレクションがあったからなんですね。

『週刊東洋経済』11月4日号

――本書の執筆に戦前の公的文書から婦人雑誌まで資料を駆使しています。どう探したのですか。

 国会図書館のデジタルコレクションがあったからできた本なんです。所蔵資料がデジタル化されているため、「派出婦会」といったキーワードで全文検索できます。多くの資料は自分のパソコンで閲覧でき、館内限定のものでも申請手続きは簡単です。

 これまでは歴史の専門家でなければ調べる拠り所がありませんでしたが、掘り出せるようになりました。誰も関心を持たず、誰も覚えていない事柄を、何かの資料にちらっと描かれた断片を拾い上げて再構成できる。すごいことです。

 この本でひもといた家政婦の歴史には、労働の専門家も目を向けていなかった。そのような盲点はあちこちにあるのかもしれません。

 

 

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