日本労働法学会の懇親会で、「hamachanの本出たんだっけ?」と何人かの方から聞かれましたが、申し訳ありません、もうすぐ出ます、とお答えしてました。
誠に間の悪い日程ですが、『日本の労働法政策』は明日(10月30日火曜日)刊行されます。
https://www.jil.go.jp/publication/ippan/jp-labour-law.html
定価: 3,889円+税 2018年10月30日刊行予定 A5判 1,110頁 濱口桂一郎[著] ISBN78-4-538-41164-4
どんな中身の本なのかをご理解いただくために、「はじめに」と、目次のやや詳細版をここに示しておきます。
2004年4月、東京大学に公共政策大学院が設置され、その一科目として労働法政策の授業が置かれた。筆者は2018年度まで15年間この講義を担当してきた。さらに2012年度には法政大学大学院にも社会人向けに公共政策研究科が設置され、筆者は雇用労働政策研究の科目を担当して2018年度で7回目になる(政治学研究科、連帯社会インスティテュートとの合同科目)。本書はこれら科目のために作成・配布してきた講義テキストの最新版である。
2004年に授業を始めたときの当初テキストは『労働法政策』(ミネルヴァ書房)として刊行されているが、その後の法改正に次ぐ法改正を反映して講義テキストは毎年膨張を続けた。今回、働き方改革推進法が成立し、労働法制全般にわたって大幅な改正が行われたことを機に、労働政策研究・研修機構から一般刊行物として出版することとした。
労働法の教科書は汗牛充棟であるが、それらはすべて法解釈学としての労働法である。もちろん法解釈学は極めて重要であるが、社会の設計図としての法という観点から見れば、法は単に解釈されるべきものとしてだけではなく、作られるべきもの、あるいは作り変えられるべきものとしても存在する。さまざまな社会問題に対して、既存の法をどのように適用して問題を解決するかという司法的アプローチに対して、既存の法をどう変えるか、あるいは新たな法を作るかという立法的アプローチが存在する。そして社会の変化が激しければ激しいほど、立法的アプローチの重要性は高まってゆく。
本書の特色は労働立法の政策決定過程に焦点を当て、政労使という労働政策のプレイヤー間の対立と妥協のメカニズムを個別政策領域ごとに明らかにしていくところにある。いわば、完成品としての労働法ではなく、製造過程に着目した労働法の解説である。さまざまな労働法制がどのように形成されてきたのかという観点から労働法学の研究者や学生に、労働政策の政治過程分析の素材として政治学の研究者や学生に、そして歴史的視座に立って経済社会分析を行おうとする労働経済学や産業社会学の研究者や学生にも広く読んでいただきたいと思っている。
この15年間で日本の労働法政策の姿はかなり変わった。とりわけ、当初テキストで将来像として描いていたいくつかの方向性が、今回の働き方改革推進法で実現に至った。たとえば、当初テキストでは労働時間法政策の章において「課題-法律上の時間外労働の上限の是非」という項を置き、「労働法政策として考えた場合に、今まで法律上の上限を設定してこなかったことの背景にある社会経済状況のどれだけがなお有効であり、どれだけが既に変わりつつあるのかを再考してみる必要はありそうである」と述べ、「ホワイトカラーの適用除外といった法政策が進展していくと、それ以外の通常の労働者の労働時間規制が本質的には同様に無制限であるということについても、再検討の必要が高まってくるであろう」と示唆していた。今回、時間外労働の法的上限規制が導入されたことは、その実現の第一歩と言える。また非正規労働についても、パートタイム、有期契約、派遣労働のそれぞれの節で、項を起こして均等待遇問題を「課題」として取り上げていた。これも今回、同一労働同一賃金というラベルの下で盛り込まれた。一方、労使協議制と労働者参加の章で「課題-労働者代表法制」として論じていた問題は、今日なお公的な法政策のアジェンダに載っていない。
この15年間、東京大学と法政大学の大学院生諸氏との間で熱のこもった討議を経験できたことは、筆者の思考を豊かにするのに大いに役立った。本書にその成果の幾ばくかが反映されていれば幸いである。
目次のやや詳細版というのは、この本の目次に示されている章、節、項、目のうち、項までを示したものです。
第1部 労働法政策序説
第1章 近代日本労働法政策の諸段階
1 労働法政策の準備期
2 自由主義の時代
3 社会主義の時代
4 近代主義の時代
5 企業主義の時代
6 市場主義の時代
7 労働法政策の大転換期?
第2章 労働行政機構の推移
1 社会局創設以前
2 内務省社会局
3 厚生省
4 労働省
5 厚生労働省
第3章 労働政策決定プロセスと三者構成原則
1 日本における三者構成原則の展開
2 三者構成原則への批判と近年の動向
第2部 労働市場法政策
第1章 労働力需給調整システム
第1節 労働力需給調整システムの展開
1 民間職業紹介事業の規制と公共職業紹介の発展
2 国営職業紹介体制の確立
3 民間労働力需給調整システムの原則禁止
4 民間労働力需給調整システムの規制緩和の始まり
5 民間労働力需給調整システムの規制緩和の加速
第2節 労働者派遣事業の法政策
1 労働者派遣事業の制限的法認
2 労働者派遣事業の段階的拡大
3 労働者派遣事業の一般的法認
4 労働者派遣事業の規制緩和の進展
5 労働者派遣事業の規制強化への逆転
6 非正規労働法制としての労働者派遣法へ
7 港湾労働法
8 建設業における労働力需給システム
9 労働組合の労働者供給事業
第3節 雇用仲介事業の法政策
1 有料職業紹介事業
2 無料職業紹介事業
3 労働者の募集
4 雇用仲介事業
第4節 公共職業安定機関
1 公共職業安定機関の職業紹介等
2 地方事務官制度
3 公共職業安定機関の民間開放論
4 地方分権と職業安定行政
第2章 労働市場のセーフティネット
第1節 失業保険制度
1 失業保険制度の性格
2 失業保険法への道
3 失業保険法の展開
4 雇用保険法の制定
5 雇用保険法の展開
6 非正規労働者への適用拡大
7 その後の動き
第2節 無拠出型セーフティネット
1 求職者支援法
2 公的扶助制度
第3節 政策的給付と雇用保険2事業
1 政策的給付
2 雇用政策手段としての雇用保険2事業
第3章 雇用政策の諸相
第1節 失業対策事業
1 失業対策事業
2 公共事業及び特別の失業対策事業
第2節 雇用対策法とその後の雇用政策
1 積極的労働力政策の時代
2 雇用維持政策の時代
3 労働移動促進政策の時代
第3節 産業・地域雇用政策
1 炭鉱離職者政策
2 不況業種・不況地域の雇用政策
3 地域雇用開発政策
第4節 外国人労働法政策
1 出入国管理法制
2 外国人労働者政策の提起と否定
3 技能実習制度
4 特定職種・業種の外国人労働者受入れ政策
5 外国人労働者の本格的受入れ政策
第4章 高齢者・障害者の雇用就業法政策
第1節 高齢者雇用就業法政策
1 失業対策事業の後始末としての中高年齢失業者対策
2 高年齢者雇用率制度
3 定年引上げの法政策
4 継続雇用の法政策
5 継続雇用と年齢差別禁止の法政策
6 シルバー人材センター拡大
第2節 障害者雇用就労法政策
1 障害者雇用率制度の展開
2 精神障害者等への適用
3 障害者差別禁止法政策
4 障害者福祉法政策における就労支援
5 障害者虐待防止法
第5章 職業教育訓練法政策
第1節 職業能力開発法政策
1 徒弟制から技能者養成制度へ
2 職業補導制度の展開
3 職業訓練と技能検定
4 積極的労働力政策時代の職業訓練
5 企業内職業能力開発政策の時代
6 自発的職業能力開発政策の時代
7 職業能力開発政策の模索
8 職業能力評価制度の展開
第2節 職業教育法政策
1 戦前の実業教育
2 戦後の職業教育
3 高等教育における職業教育
4 キャリア教育
5 労働教育
第3節 若年者労働法政策
1 年少労働者保護法政策
2 勤労青少年福祉法
3 新規学卒者の就職システム
4 若年者雇用法政策
第3部 労働条件法政策
第1章 労働基準監督システム
第1節 労働基準監督システムの形成
1 工場法と工場監督制度
2 労働基準法と労働基準監督システム
第2節 労働基準監督システムの展開
1 労働基準監督システムをめぐる問題
2 労働基準監督行政の展開
第2章 労災保険制度と認定基準
第1節 労災保険制度
1 戦前の労働者災害扶助制度
2 戦後の労災保険制度
第2節 労災認定基準と過労死・過労自殺問題
1 業務災害の認定基準
2 過労死・過労自殺の認定基準
第3章 労働安全衛生法政策
第1節 労働安全衛生法制の展開
1 工場法から労働基準法へ
2 戦後の労働安全衛生法政策
3 労働安全衛生法の体系
第2節 近年の労働安全衛生法政策
1 労働者の過重労働
2 労働者のメンタルヘルス
3 職場の受動喫煙
第4章 労働時間法政策
第1節 労働時間法制の展開
1 工場法の時代
2 労働基準法の制定
3 規制緩和の攻防
4 労働時間短縮の時代
5 労働時間短縮から労働時間弾力化へ
第2節 労働時間短縮の法政策
1 法定労働時間の段階的短縮
2 労働時間設定改善法
3 時間外・休日労働
4 勤務間インターバル規制
5 労働時間の適正な把握
6 深夜業の問題
7 自動車運転者の労働時間
8 医師の労働時間
9 年次有給休暇
第3節 労働時間弾力化の法政策
1 変形労働時間制とフレックスタイム制
2 事業場外労働とテレワーク
3 裁量労働制
4 労働時間の適用除外
第5章 賃金処遇法政策
第1節 賃金法制の展開
1 労働契約における賃金
2 賃金債権の保護
3 未払賃金の立替払
第2節 最低賃金制の法政策
1 前史
2 業者間協定方式の最低賃金制
3 審議会方式の最低賃金制
4 最低賃金の見直しから大幅引上げへ
第3節 公契約における労働条項
第4節 均等・均衡処遇(同一労働同一賃金)の法政策
1 賃金制度の推移
2 パートタイム労働法政策
3 同一労働同一賃金法政策の復活
第5節 退職金と企業年金の法政策
1 退職金
2 企業年金
第6章 労働契約法政策
第1節 労働契約法制の展開
1 労働法以前
2 工場法から労働基準法へ
3 労働契約法制の政策課題化
第2節 解雇法政策
1 解雇法制の展開
2 解雇ルールの法制化
第3節 有期労働契約法政策
1 有期労働契約の期間の上限
2 有期契約労働者の雇止めと無期化
第4節 就業規則と労働条件変更の法政策
1 就業規則法制の展開
2 労働契約法政策における労働条件の不利益変更問題
第5節 企業組織再編と労働契約承継法政策
1 背景としての企業組織再編法制
2 労働契約承継法政策
第6節 近年の論点
1 多様な正社員
2 副業・兼業
第7章 非雇用労働の法政策
第1節 家内労働と在宅就業の法政策
1 家内労働法と最低工賃
2 在宅就業
第2節 その他の非雇用労働者への法政策
1 労働者性の問題
2 労災保険の特別加入
3 協同組合の団体協約締結権
4 雇用類似就業者の法政策
第4部 労働人権法政策
第1章 男女雇用均等法政策
第1節 男女雇用機会均等法以前
1 女子労働者保護法政策
2 母性保護法政策
3 勤労婦人福祉法
4 男女雇用機会均等法の前史
第2節 男女雇用機会均等法
1 1985年努力義務法の制定
2 女性差別の禁止と女子保護規定の解消
3 性差別禁止法へ
第3節 女性の活躍促進
第2章 ワーク・ライフ・バランス
第1節 職業生活と家庭生活の両立
1 育児休業制度の政策課題化
2 特定職種育児休業法
3 育児休業法の制定
4 介護休業の導入
5 深夜業の制限と激変緩和措置
6 2001年改正
7 2004年改正
8 その後の改正
第2節 仕事と生活の調和
第3節 病気の治療と仕事の両立
第3章 その他の労働人権法政策
第1節 労働に関する基本法制における人権規定
1 労働基準法
2 職業安定法
3 労働組合法
第2節 人種差別撤廃条約
第3節 同和対策事業
第4節 人権擁護法政策
第5節 職場のハラスメントの法政策
1 セクシュアルハラスメント
2 マタニティハラスメントと育児・介護ハラスメント
3 職場のいじめ・嫌がらせ
第6節 公益通報者保護法政策
第7節 労働者の個人情報保護法政策
1 個人情報保護法以前
2 個人情報保護法の制定とこれに基づく指針等
3 近年の動向
第5部 労使関係法政策
第1章 集団的労使関係システム
第1節 集団的労使関係法制の展開
1 労働組合法への長い道
2 労働争議調停法から労働関係調整法へ
3 1949年改正
4 1952年改正
5 その後の動き
第2節 公的部門の集団的労使関係システム
1 公共企業体・国営企業等の集団的労使関係システム
2 公務員の集団的労使関係システム
3 公務員制度改革の中の労使関係システム
第2章 労使協議制と労働者参加
第1節 労使協議制の展開
1 労働委員会の構想
2 健康保険組合
3 産業報国会
4 経営協議会
5 炭鉱国管と生産協議会
6 労使協議制
第2節 過半数代表制と労使委員会
1 過半数代表制
2 労使委員会
3 労働者代表法制
第3節 労働者参加
1 会社・組合法制における労働者
2 労働者協同組合
3 労働者の経営参加
4 労働者の財務参加
5 労働者の自主福祉事業
第3章 労働関係紛争処理の法政策
第1節 労働委員会制度
1 労働委員会制度の展開
2 不当労働行為審査制度
第2節 個別労働関係紛争処理システム
1 労働基準法における紛争解決援助
2 男女雇用機会均等法等における調停
3 個別労働関係紛争解決促進法
4 人権擁護法案における調停・仲裁
5 障害者雇用促進法における調停
6 非正規労働者の均等・均衡待遇に係る調停
第3節 労働審判制度
第4節 その他の個別労働関係紛争処理制度
1 仲裁
付章 船員労働法政策
1 船員法制の形成期
2 労働力需給調整システムと集団的労使関係システムの形成
3 戦前期船員法政策の展開と戦時体制
4 終戦直後期における船員法制の改革
5 その後の船員労働条件法政策
6 その後の船員労働市場法政策
7 船員保険の解体
8 船員労働委員会の廃止
9 ILO海事労働条約の国内法化
最近のコメント