読書メーターに、大変熱のこもった拙著への書評が続々とアップされています。
まず、くたくたさんの『日本の雇用と中高年』の書評が、
https://bookmeter.com/reviews/76435977
自分が労働環境や条件に希求するものが、おおよそ日本の労働行政(国)が進もうとしているものと時代的にも内容的にも軌を一にしていたことに、軽く衝撃を覚えた。前著「若者と労働」で縦型「メンバーシップ型」と横型「ジョブ型」の労働類型を分かり易く説明してくれたが、今著では、特に中高年に焦点を当てつつメンバーシップ型の弊害を読み解いていく。自分が居心地が良いと感じさえする会社のありようが本質的に過酷なものであることを、噛んで含めるように、教え諭すような本。取り敢えず読んで観てくれ、と特に同年代に勧めたい。
長く生き、長く働くには、どうしたら良いのか。メンバーシップ型の無軌道な服従の要請に応え続けることはせず、右肩上がり賃金にはある程度のところで見切りをつけ、ワーク・ライフバランス重視の生活を取り戻し、などなど。36協定よりも11時間インターバルの方が大事。60歳で定年したのち低賃金で継続雇用するよりは、中高年でももっと若く、柔軟性もあるうちに、働き方を変えて70までは働く。どれもとても重要なことに思える。
つぎに、そのくたくたさんの『働く女子の運命』に対する書評。さらにコメント機能を使って大変長文の書評になっています。
https://bookmeter.com/reviews/76506438
この著者の本を3冊続けて読んだが、同じジョブ型、メンバーシップ型雇用を取り扱いながら、若者、中高年、女性と切り口を変え、それぞれ新しい発見があった。3冊分のまとめとしてかなり長いが考えをまとめておく。①世界標準の職務給ではない家族給・生活給という給与形態を日本の産業界と労働運動が手を携えて成立させてきた過程と、日本の雇用の姿(その中で女性の労働がどのように変遷してきたか)を確認。こうして戦前から現在に至る雇用の形や法制を見ると5年10年単位で世の中の意識が結構ダイナミックに変わっていくものなのだと知った。
②生活給としての年功序列賃金が戦前の国家社会主義の勤労報国の形を雛形としているとか、日本のマルクス主義経済学と生活給の怪しい関係とか、日本の労働運動がむしろ女子差別と表裏の関係にある年功賃金を助長する働きをしてきたとか。社会主義ならぬ会社主義とかバッカジャネーノ?また70年代以降の知的熟練論についてはその論客である小池氏の理論があまりにも馬鹿っぽいが、原文に当たらずに批判をするのは他人のふんどしで相撲取るようなものなので控えておく。それにしても気持ち悪い歴史が盛りだくさんだ!
③80年代以降は自分の記憶にも残っている。90年代、平成不況到来で非正規化する男性労働者が増大して非正規雇用の問題が拡大する一方で、これまでの「一般職(=職場の花)」は募集そのものが無くなり、その業務は安価な派遣社員に移行。少子化ショックが育児休業充実の原動力となるが、なし崩し的に問題が少子化や非正規雇用問題に遷移する一方で、働きつづける女性の出産年齢の上昇も課題。最後に著者からの問いかけ、「マタニティという生物学的な要素にツケを回すような解が本当に正しい解なのか」に対する、私の回答は以下のとおり。
ジョブ型への移行は、社会保障のあり方と表裏一体であること。同一労働同一賃金を実現するためには、給料から生活給の部分をそぎ落とし、職務給として純化していく必要があるが、その為には次世代育成すなわち中長期的な社会の維持発展に要する費用を給料から切り離す必要がある。これらの費用は公的に負担され、その社会のメンバー(もちろん会社も含む)が税金という形で公平に分担することになる。(著者が引き合いに出すEUなどでは、むろん、子育て手当や教育無償化は充実している。)
健全な次世代の育成は社会が維持発展するために必須であり、その負担は社会全体で賄う必要がある。この点を明確に要求して実現させるのとセットにしない限り、今の日本の社会システムの中では、ジョブ型や職務給導入の議論は意味不明なものになりかねないだけでなく、単純な低賃金化や労働強化に繋がりかねない。ごく単純に考えて、子育てと教育に要する負担が社会化されれば、あとは自分の再生産費だけを稼ぎ出せば良いので、同一労働だろうが同一労働力だろうが、同一賃金を導入できるし、そのときには、女性はもっと働きやすくなるだろうと思う。
ちなみに、上記の私の主張は、まだ未読の著者の本「新しい労働社会」で展開されている模様。わたしさ〜。もう疲れちゃったんだよね〜。(ぼそっ)
ということで、次は『新しい労働社会』の書評がくるようです。
ちなみに、くたくたさんは、『働く女子の運命』でちらりと引用したこの本にまで目を通されたようです。
https://bookmeter.com/reviews/76480458
今読んでいる濱口桂一郎氏の「働く女子の運命」に引用されていたので気になって。何とは無い日常を語るエッセイはそんなに好きじゃないので、引用箇所だけ拾い読みしました。谷野せつさん、1903年(明治36年生まれ)・・・日本女子大学を卒業後、内務省に入省し、女性初の工場監督官となった。大学を卒業する女性がのべでも5000人はいなかった時代、「意識的に生きているひとが多かった」と。
なお、同じ『働く女子の運命』に対して、はるたろうQQさんの書評。
https://bookmeter.com/reviews/76529765
11月7日に著者の「日本の労働法政策」出版記念セミナーを受けたが、その内容を理解するのに本書はとても役に立つ。著者の議論は歴史的な由来を丁寧に跡付けた秀逸な現状分析論なので、「女子の運命」をどう改善するのかの方策は薄い。ただ、安倍政権が政治主導で労働時間規制の上限を設け、正規・非正規の処遇体系の一本化に踏み出した。著者が言うように時代精神というものは結構短期間に移ろいゆくものなのだろうか。今後どうなっていくのか、著者の議論に注目したい。なお、著者は皮肉っぽい書き方が好きなようだが、それがちょっと邪魔。
邪魔、ですか。こういう領域では、皮肉な語法がむしろ有効なのではないかと思っていたりするのですが。
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