その他の労働法政策

OECD経済見通し中間報告

42391057eo20interim20image20eng 3月31日付で、OECDが経済見通し中間報告を公表しています。

http://www.oecd.org/document/59/0,3343,en_2649_33733_42234619_1_1_1_1,00.html

第1章がマクロ経済状況の一般的評価、第2章がG7プラスユーロ圏プラスBRICs各国の分析、第3章が財政刺激政策の有効性と範囲ということですが、マクロ経済についてはその筋の専門家にお任せして、

http://www.oecd.org/dataoecd/18/1/42443150.pdf

ここでは、序文から労働社会政策に関わるところを見ておきましょう。

>The impact of the recession on societies will be substantial. Joblessness in all OECD countries will rise sharply, with the rate of unemployment peaking in 2010 or early 2011 and, in many countries, reaching double digit levels for the first time since the early 1990s. The number of unemployed in the G7 countries will almost double from its level in mid-2007 to reach some 36 million people in late 2010. This prospect underscores the need for employment and social policies to complement and reinforce macroeconomic stabilisation efforts to get people into jobs and prevent, as far as possible, any rise in structural unemployment. At the same time, policies to cushion the impact of recession via effective social safety nets and schemes that target those most vulnerable may need to be strengthened for the duration of the recession. But it is vital not to repeat the mistakes of the 1970s and 1980s, when many countries attempted to reduce unemployment by encouraging early retirement, which would only reduce the labour force and cut growth without boosting overall employment.

2010年から2011年にかけて失業者が倍増する恐れがあるよということで、「もっとも弱い立場の人々のための有効な社会的セーフティネットによって景気後退の影響を和らげる必要がある」というのは当然なんですが、それと同時に「早期引退促進によって失業を減らそうなんていう70年代、80年代の過ちを繰り返すな」とあえてここで一言いっていることが注目されます。

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ジャコビー先生の「金融と労働」

比較労働法政策雑誌の秋号が、大変面白い特集をしています。

http://www.law.uiuc.edu/publications/cll&pj/index.html

サンフォード・ジャコビー先生の「金融と労働:リスク、不平等、民主主義の展望」という大論文をめぐって、サイモン・ディーキン先生はじめとする方々のコメントが並び、最後にジャコビー先生のリプライが載っています。

ジャコビー論文の最後の一節:

>The present does not repeat the past but it rhymes. The New York Times says that we are in the midst of a new Gilded Age and a new populism. The current financial crisis is putting government intervention and regulation back on the political agenda with a level of urgency not seen since the 1930s. Financialization also has brought the labor movement back, not like the 1930s, but nevertheless with a political and public relevance that make premature the claims of its demise. Today finance is the master. Will it once again become the servant? The outcome depends on the politics of the double movement.

今日、金融はご主人様である。それは再び召使いになるだろうか?その結果は「二重の運動」の政治にかかっている。

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OECDの「格差報告」

41489225gucoverfromkappae 21日、OECDが「Growing Unequal? Income Distribution and Poverty in OECD Countries」(格差拡大?OECD諸国における所得分配と貧困)を公表しました。

http://www.oecd.org/document/25/0,3343,en_2649_201185_41530009_1_1_1_1,00.html

>The gap between rich and poor has grown in more than three-quarters of OECD countries over the past two decades, according to a new OECD report.

豊かな者と貧しい者の格差は過去20年間、OECD諸国の4分の3で拡大している。

>Countries with a wide distribution of income tend to have more widespread income poverty. Also, social mobility is lower in countries with high inequality, such as Italy, the United Kingdom and the United States, and higher in the Nordic countries where income is distributed more evenly.

所得格差の大きい国ほど貧困者も多い。イタリア、イギリス、アメリカのように社会的モビリティが低い国ほど、格差も大きい。一方、所得分配が平等な北欧諸国ほど社会的モビリティも高い。

誰だい、アメリカは格差は大きいがモビリティが高いからいいんだとか嘘ついていた奴は。

OECDのグリア事務局長曰く:

>“Growing inequality is divisive. It polarises societies, it divides regions within countries, and it carves up the world between rich and poor. Greater income inequality stifles upward mobility between generations, making it harder for talented and hard-working people to get the rewards they deserve. Ignoring increasing inequality is not an option.”

格差拡大は社会を分極化させる。所得不平等は世代を超えた上向移動を窒息させ、有能で一生懸命働く人々がそれにふさわしい報酬を得られることを困難にする。格差拡大を無視するなんて選択肢はあり得ないのだ!

>Children and young adults are now 25% more likely to be poor than the population as a whole.  Single-parent households are three times as likely to be poor than the population average.

子どもと若者は全体より25%も貧困に陥りがちだ。単親家庭は平均よりも3倍も貧しい。

さて、ではどうするか、再びグリア事務局長:

>“Although the role of the tax and benefit system in redistributing incomes and in curbing poverty remains important in many OECD countries, our data confirms that its effectiveness has gone down in the past ten years.  Trying to patch the gaps in income distribution solely through more social spending is like treating the symptoms instead of the disease.”

いやもちろん、所得再分配における税と給付制度は大事だ。しかしその有効性は下がりつつある。それは病気よりも症状に対処しているようなものだ。

じゃあどうするんだ、という声に答えて

>“The largest part of the increase in inequality comes from changes in the labour markets. This is where governments must act. Low-skilled workers are having ever-greater problems in finding jobs. Increasing employment is the best way of reducing poverty,” he said.

格差の原因は大部分労働市場にある。政府が行動すべきところはここだ。貧困削減にはまずなにより雇用促進だ。

>Better education is also a powerful way to achieve growth which benefits all, not just the elites, the report finds. In the short-term, countries have to do better at getting people into work and giving them in-work benefits to provide working families with a boost in income, rather than relying on unemployment, disability and early retirement benefits.

教育はエリートのためだけのものじゃなく、みんなのためのものだ。政府は失業給付、生涯給付、早期退職給付なんかに頼るよりは、働く家族の所得を増やすために在職給付を与えるべきだ

OECD流のワークフェア論ですが、ディーセントワークフェアとでもいうべき平等主義的ワークフェア論になっています。

この期に及んで、なお格差社会は幻想だとかほざく輩が平気で蠢いているのですから、日本はほんとにいい国ですね。

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本日発売のエコノミスト

本日発売の『エコノミスト』誌が「ここがおかしい 日本の雇用制度」という特集をしていて、

http://www.mainichi.co.jp/syuppan/economist/news/20080620-170532.html

>・正社員・非正社員の「均等待遇」が社員のやる気を引き出す 渥美 由喜

・非正規労働・欧米との比較 日本の非正規労働者はステップアップができない 権丈 英子

・労働時間比較 圧倒的に長い日本男性の労働時間 水野谷 武志

・解雇制度の実態 日本の解雇規制は「二重構造」 これが正規・非正規の差別を生む 濱口 桂一郎

・男性の育児参加 仕事と子育てを両立できない日本の父親たちの現状 渥美 由喜

という記事が載っています。

タイトルだけ見て、どこぞの一知半解君と似たようなことを言ってるのかと思いこまないように。正規の解雇規制と有期の雇止め規制のバランスを、EUとの比較で論じたものです。

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浜矩子『資本主義と自由』書評

「エコノミスト」誌に、浜矩子氏によるミルトン・フリードマン『資本主義と自由』の書評が載っています。

これがなかなかいい。ただただ思考停止してフリードマンまんせーしている書評もネット上に散見される中、こういう一ひねりした上質の書評はいいものです。

>読み進むうちに、面白いことに気がついた。それは、本書の価値がその時代遅れぶりにあるということだ。

>当時のアメリカでは、資本主義の計画経済化をめざす傾向が強まっていた。大きな政府を志向する発想が主流化している面があった。・・・そのような世相に対して、著者は人間たちの自由な選択の集合場所である市場の優位性を断固主張する。

>その姿勢と論理の一貫性には、実に迫力がある。読んでいて気持ちがいい。だが、どうしても一定の時代錯誤感を免れない。それは、今日のわれわれが、いわばフリードマンの薬が効きすぎた世の中に住んでいるからだ。

>『過去と比較しても資本主義社会では経済の進歩により不平等が大幅に減ってきたことが判る」。フリードマンはそういう。確かにその通りだ。だが、これからはどうか。平等社会の典型だったはずの日本において、格差がこれだけ人々を心配させる現実を、われわれはどう受け止めたらいいのか。ネットカフェ難民たちは本当に資本主義の犠牲者ではないのか。

>こういう疑問を持たせてくれるところに、本書の貴重さ、今、読むことの意義深さがあると思う。

実は、私も大学に入った70年代後半に読んで、大変同感した覚えがあります。ただ時流に乗って空疎なことを書き散らす連中と対比すると、時代精神に真っ向から対決するこういう作品は自ずから感動を呼び起こすものでしょう。それは自由競争万能主義がはびこる19世紀のまっただ中でマルクスの資本論を読むのと同じようなものかも知れません。今の時代にフリードマンを読むのは、ソ連の収容所でマルクスを読むのと似たほろ苦さがあるのかもしれませんね。

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ソーシャルなクルーグマン2

稲葉先生がコメントをしておられます。

http://d.hatena.ne.jp/shinichiroinaba/20080513/p1

>付言するとhamachan先生のおっしゃる「リベラル」は松尾さんのいう「反右翼」に、「ソーシャル」は松尾さんのいう「左翼」に通じる。

後半はほぼその通りだと思いますが、前半は違うような。

アメリかっぺ方言の「リベラル」が由緒正しいヨーロッパの「ソーシャル」にあたるというとき、念頭においているいかにもアメリカ風リベラルというのは、まさにニューディール的なケインジアン福祉国家の路線であって、松尾さんの「反右翼」とは軸が異なるでしょう。

「ソーシャル」よりも松尾流「反右翼」に重点が置かれているのは、アメリかっぺ方言の「リベラル」よりもじゃぱにいず方言の「りべらる」の方ではないでしょうか。憲法で大事なのは、25条でも27条でもなく、ただただひたすら第9条であるというような。そういう感覚は、ヨーロッパの社会民主政党にもなければ、アメリカの民主党にもないように思われます。

(追記)

私が本ブログで「リベサヨ」と呼んできたのは、多分この枠組みでいうと、「反右翼」のみをアイデンティティとし、「ソーシャル」な志向が欠落しているじゃぱにいず風味の「りべらる」のことでしょうね。

そのいみでは「リベサヨ」というのはあまり適切ではないのでしょうねえ。

L33053 この関係で、ホームレス支援を続ける憲法学者というユニークな立ち位置にいる笹沼弘志さんが、近著『ホームレスと自立/排除』の中で、こういう風に樋口陽一さんを批判しているのが興味深いところです。

>樋口は、中間団体=社会権力批判としての個人主義の基礎を、その主体像に求め、近代立憲主義の担い手としての「強い個人」モデルを提起した。企業や労働組合など団体に依存する弱い個人ではなく、自己決定=自己責任により、国家や団体など権力に対抗する「強い個人」である。

>だが、樋口は、他者に依存せざるを得ず、だからこそ服従を強いられる弱者が強くなるための条件を積極的に描こうとせず、あえてとにかく頑張れという道徳論的な主張を行うにとどまっている。

>しかし、樋口の「強い個人」論は、団体対個人という枠組みの中で構想され、あくまでも個人の自己決定=自己責任、自立を倫理的に説くにとどまり、現実の個人が置かれている支配服従構造を等閑視しているため、結果として、個人の自立を強調して過重な個人責任を負わせ国家責任・企業責任の後退を正当化する新自由主義的改革と歩調を合わせているように思う。

>樋口の「強い個人」論は、単に弱者の人権をすくい取れないというだけでなく、自己決定=自己責任により、強くなろうとして、実際に勝ち残ったと思っている人々の自発的服従を捉えきれないという問題を孕んでいる。企業に支配されながら、自らの労働時間を自由にコントロールできると思いこんでいるホワイトカラーたちや、そうした自律的存在がいると思いこんでいる労働法学者や規制改革論者。彼らと共通の罠に囚われる危険がある。

云われていることはかなりの程度共感できることろもあるのですが、しかしやはり(そういうネオリベな「自立」ではない)「自立」を価値基準としてきちんと立てる必要はあるはずだ、と私は考えています。中間集団をファシズムなどといたずらに敵視するのではなく、それを個人にとってのシェルターとしてきちんと活用できるような仕組みの中で、やはり個人の自立をめざしていく必要があるはずだと。

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ソーシャルなクルーグマン

今朝の朝日に、クルーグマンのインタビューが載っています。

まだネット上には載っていないようですが、平等の上にゆたかな社会をめざすニューディール政策の伝統に共和党が背を向けたことが賃金停滞と不平等拡大を招いたという主張です。

>英国でサッチャー時代に拡大した貧富の格差がブレア政権下で縮小したように、政府の役割は大きい。米国ではレーガン以降の共和党政権かで、企業は労組に攻撃的姿勢をとっていいと考えるようになった。組合を作ろうとした労働者を企業が次々に解雇した。それが組合つぶしの空気と賃金停滞、格差拡大につながった。・・・

共和党のイデオロギーは、

>裕福な人々の税金を軽減し、社会保障のプログラムを減らすことをめざす動きで、基本的に不平等を拡大するものだ。

処方箋も、アメリカの特殊な状況に対応して、

>米国のセーフティネットは他の先進国に比べて極端に弱いから、強化すべきだ。とりわけ重要なのは、国家的な医療保険制度を持つことだ。底辺の不平等を改善し、貧困の削減に大いに役立つ。一方、労働政策を変更し、労働者が労働組合を組織しやすいようにすることも必要だ。

こういうことを主張している彼の近著が『リベラルの良心』だというのだから、頭が痛くなります。いや、アメリかっぺ方言の世界では、上に見たような、まさしく正統的な「ソーシャル」な考え方を、本来その正反対の考え方を指す「リベラル」という用語で指し示すという社会言語学上の変異現象のためであるわけなんですが、その題名のままヨーロッパで売られれば、誰の目にも全く正反対のネオリベを主張した本だと思われてしまうでしょう。

クルーグマンが呼びかけているのは、まさにアメリカをもっと「ソーシャル」にすること、そしてアメリカの真似をしてきたここ十数年の日本にその道行きを見直すことです。

>米国モデルは90年代に成功したが。もはやうまくいっていない。何でも米国の真似をしたいなどと思うべきではない。

こういう真摯に日本のことを思ってくれる真の友人の声がどこまで日本の政策形成回路に届くのかが問題ですが。それが歪んでしまう回路があるだけに心配です。

実は、日本に特殊な現象ですが、上に見たような「ソーシャル」なクルーグマンの主張とは全く正反対のイデオロギーを振り回し、ハイエクとフリードマンを教祖と仰ぎ、竹中平蔵を父と敬い、高橋洋一を兄と慕う一群の連中が、ただ次の一節についてのみクルーグマンと見解が一致しているからといって、

>日本経済はまだデフレの崖っぷちにある。経済をさらに上向かせるには、日銀が2%強の物価上昇率を目標に掲げるよう私は提案してきたが、いまも同じだ。

自分たちを「リフレ派」と称し、なんと、構造改革派vsリフレ派の対立こそが経済政策のすべてであるかの如く言いつのるという奇怪な現象があるのですね。

リフレさえすればあとはまったく市場原理ごりごりに構造改革をやれやれと喚くこういう連中がクルーグマンを振り回すために、あたかもクルーグマン自身までが、そういうネオリベ軍団別働隊リフレ小隊の一員であるかの如き誤った印象が日本で流布されてしまっていることはまことに残念なことで、そういう誤解を払拭する上でも、本日のインタビュー記事はまことに時宜を得たものといえましょう。

(参考)

こういう特殊日本的ネオリベ系リフレ派の生態については、このエントリーのコメント欄で観察することができます。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/09/post_b2d6.html

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遺伝子差別禁止法

それに対して、こちらはベタ記事ですが、中身の重要性は大きなものがあります。標題は「保険差別」といっていますが、雇用差別も含まれ、このブログの観点からはそれが重要です。

http://www.asahi.com/science/update/0425/TKY200804250047.html

>米上院は24日、保険会社が遺伝子診断の結果によって保険加入を断ったり保険料を変更したりすることや、雇用者による就職差別などを禁止する「遺伝情報差別禁止法案」を95対0の多数で可決した。同法案は、来週にも下院でも可決され、ブッシュ大統領が署名して成立する見通し。

 米国では、将来、がんなどの重い病気になる可能性を知るため、個人のDNAを採取して塩基配列を調べる遺伝子診断が急速に普及している。同法案は、診断結果が自分に不利な形で使われることを恐れ、受診をためらう人もいることを背景に提案された。

この問題は、これまでどちらかというと個人情報保護の問題として論じられてきたわけですが、しかし隠せばいいという話でもないわけだし、正面から差別問題としてアプローチする必要があるという議論も出てきていたところです。

より一般化していうと、遺伝子情報だけの話ではなく、人がそれを知って差別扱いする可能性がある情報を、個人情報だとして保護するという方向と、むしろそれが皆に知られることを前提に差別を禁止するという方向があるのでしょう。

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最新アメリカの賃金・評価制度

02990302 日本経団連出版から笹島芳雄氏の『最新 アメリカの賃金・評価制度』が出ました。笹島先生、お送りいただきありがとうございます。

http://www.bk1.jp/product/02990302

>アメリカ企業の賃金制度および評価制度の最新の実情を明らかにするとともに、アメリカ企業の制度は日本企業のそれとどのような点で違いがあるのか、そしてアメリカ企業の制度で日本企業の参考となることは何かを考察する。

何ごともそうなんですが、「アメリカの賃金・評価システムの実情は、文献情報や昨今のインターネットを通じた情報検索によりかなり明らかになる」が、「かかる資料に基づく調査・研究だけではどうしても理解できないことが少なくない」ので、著者は「アメリカ企業や労働組合を直接訪問し、企業における賃金制度や評価制度の実情に関する聞き取り調査を繰り返してきた。実態調査のために訪米した回数は10回に及ぶ。・・・訪問企業は延べ80社以上に及ぶ」という蓄積の上にこの本を書かれています。

一番重要なことは、アメリカは職務給であるということ。そんなことは判っていると思っていても、実は本質的に判っていない人が多いんですね。アメリカに「ペイ・フォー・パフォーマンス」という言葉があって、日本語にすると「成果主義賃金」となるんですが、日本の「成果主義賃金」とは根っこが違う。まず何よりも、ペイ・フォー・パフォーマンスは職務記述書があり、職務内容が明示されているのに対し、日本の成果主義賃金は一般的に職務記述書がない。前者では担当職務を決めて採用するが、後者ではそんなものを決めないで採用する。アメリカでは社内公募に応募して選抜されて異動するが、日本では会社が指名して異動する。だから、前者では透明性が高いのに対して後者では透明性が低い。

これは、ペイ・フォー・パフォーマンスが職務給をベースにした成果主義であるのに対して、日本のそれはベースが職能給という名の属人給であるからで、これは昨日のリクルートワークスの記事でも述べたように、雇用システム自体の違いからくるものなので、表面づらだけみて真似したようなふりをしてみても、そもそも根っこが違うわけです。

この点、逆に外国からの留学生に日本の労務管理を講義していて、ジョブに基づかずに採用するんだなんていうと、ジョブディスクリプションはどうなっているんだと質問が飛び、いや日本の企業にそんなものはないんだと答えるとシンジラレナーイという顔をするわけです。

ここんとこが全然判ってないくせに、一知半解で知ったかぶりをするとどういうことになるかというと、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/post_73ad.html(そういう二項対立ではないのです)

に示したとおりです。

あと、こういうさりげない記述に注意すること(p85)。

>アメリカ企業でwageとは、時給労働者の賃金を意味する言葉である。したがって、a wage earner とか a wage worker といえば、時給労働者を意味する。wage rateは賃金率と訳されることが多いが、通常は時給のことである。通常、ノンイグゼンプト(残業手当支給対象)職務の労働者は賃金が時給で決まっていることが多い。また労働組合員の賃金もこれまで示してきた事例からも判るように時給で決まっているのが一般的である。

>他方、サラリー(salary)とは年俸とか月俸のようにあらかじめ固定された賃金のことであり、働いた労働時間の量には連動しない。企業はこの固定された賃金を、労働時間が変動しても原則として引き下げることはできない。a salary earner とかa salary worker といえば、あらかじめ固定した賃金が支払われる労働者のことを指す。

ここのところがよく判っていないまま、ホワイトカラーエグゼンプションなんて代物を一知半解で持ち出すと、ああいうわけわかめ状態が現出するわけです。

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オバマ氏、700万人の雇用創出

ちょっと気が早いですが、次期アメリカ大統領に一番近いところにいる人の政策ですからね。

http://www.nikkei.co.jp/news/main/20080214AT2M1400C14022008.html

>米大統領選で民主党のトップに立ったオバマ上院議員は13日、景気不安に対応するため総額2100億ドル(約22兆6000億円)の経済対策を発表した。環境事業などで新規雇用を700万人創出することが柱で、経済政策での政権担当能力を誇示する狙いがある。劣勢に追い込まれたヒラリー・クリントン上院議員は大票田州を遊説し、巻き返しを図った。

 オバマ氏はウィスコンシン州の演説で、今後10年間で実施する対策の概要を明らかにした。環境関連事業に1500億ドルを投じ、500万人の雇用を生み出す。同時に高速道路や橋、空港などの公共事業に600億ドル拠出し、200万人を雇用するとの内容だ。

 「変革」を掲げて波に乗るオバマ氏は上院議員を一期しか務めていないため、経験不足との評がつきまとう。緊急景気対策法が成立した日に経済対策を発表したのは、もう一段の経済テコ入れの必要性を強調するとともに、こうした懸念を払拭(ふっしょく)する狙いがある。 (13:34)

いやあ、岩波文庫にケインズさんがようやく入ったのとは直接関係ありませんが、世界の流れがまた変わりつつあるという感じが漂ってきますね。ネオリベだのリバタリアンだのエイリアンみたいなのがここんとこずっとのさばってきていましたけれど、何十年かぶりにまた世の大勢がケインズに近づきつつあるのかも知れません。極東の某野党も、道路づくりを目の仇にするばかりではなく、より未来志向の公共事業の在り方を考えてみてもいいんじゃないかと思いますが。

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