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2026年7月23日 (木)

育成就労制度の施行半年前@『労基旬報』2026年7月25日号

『労基旬報』2026年7月25日号に「育成就労制度の施行半年前」を寄稿しました。

 2024年6月14日に出入国管理及び難民認定法(入管法)と外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)の改正法が成立し、同月21日に公布されました。これにより、現在の技能実習制度は育成就労制度に変わることになりますが、その施行は2027年4月1日とされています。ほぼ半年後ですが、そのための政省令告示運用要領その他も出そろい、制度の詳細がほぼ明らかになってきました。そこで今回はこの改正の経緯を改めて振り返るとともに、施行半年前になっている育成就労制度の論点を考えてみたいと思います。
 
 この改正の出発点は、2022年1月に当時の古川禎久法務大臣が閣議後記者会見で、特定技能制度・技能実習制度に係る法務大臣勉強会を設置し、両制度の在り方について,先入観にとらわれることなく意見を聞きたいと述べたことに遡ります。古川大臣は同年7月までに計10名から意見を聞き、同月の閣議後記者会見で所感として、特に技能実習制度について、人づくりによる国際貢献という技能実習制度の目的と人手不足を補う労働力として扱っているという実態が乖離していること等の問題を挙げ、人権が尊重される制度であることが必要と述べました。
 同年11月には、外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議の下に技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議学識者15名、座長:田中明彦が設置され、翌2023年4月に中間報告書をまとめ、同年11月に最終報告書をとりまとめました。そこでは、技能実習生が企業労働力として貢献している実態から、人材育成による国際貢献のみを目的に掲げるのは望ましくないとし、技能実習制度を廃止して人材確保と人材育成を目的とする新たな制度(育成就労制度)を創設すべきとしています。人材確保を目的とする特定技能に吸収するのではなく、なお人材育成をも目的とする新制度を設けるのですが、それは国際貢献よりも国内で引き続き就労することを重視したものとなっています。この関係で、新制度の対象職種を特定技能に合わせることや特定技能第2号を拡充することも提起されており、いわば特定技能第0号との位置づけです。
 技能実習制度が繰り返し人権侵害との批判を受けてきたことから、転籍の在り方についても一定の見直しを求めていますが、人材育成を制度趣旨とすることに基づく転籍制限は残すとしており、中途半端な姿勢となっています。具体的には、同一の受入れ機関において就労した期間が1年を超えていることと技能検定試験基礎級等及び日本語能力A1相当以上の試験(日本語能力試験N5等)に合格していること等を要件として認めるとしつつ、当分の間、受入れ対象分野によっては1年を超える期間を設定することを認めるなど、必要な経過措置を設けるとしています。また、監理団体や登録支援機関の在り方についても適正化や排除が必要と述べるなど、見直しを求めています。
 2023年11月の有識者会議報告書を受けて、翌2024年2月の外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議で政府方針が決定され、現行の技能実習制度を実態に即して発展的に解消し、人手不足分野における人材確保及び人材育成を目的とする育成就労制度を創設することとされました。問題の転籍については、「やむを得ない事情がある場合」の転籍の範囲を拡大・明確化するとともに手続を柔軟化するとした上で、①同一の機関において就労した期間が一定の期間(分野ごとに1~2年の範囲内で設定)を超えている、②技能検定試験基礎級等・一定水準以上の日本語能力に係る試験に合格、③転籍先が、適切であると認められる一定の要件を満たす、を満たす場合に同一業務区分内に限り本人意向による転籍を認めるとしています。この転籍が可能となる期間については、「人材育成の観点を踏まえた上で1年とすることを目指しつつも、1年を超える期間を設定する場合には、当該期間を選択する受入れ機関において、就労開始から1年を経過した後には転籍の制限を理由とした昇給その他待遇の向上等を図るための仕組みを検討する」と書かれ、また「本人の意向により転籍を行う場合、転籍前の受入れ機関が支出した初期費用等のうち、転籍後の受入れ機関にも分担させるべき費用については、転籍前の受入れ機関が正当な補?を受けられるようにするための仕組みを検討する」との記述もあります。受入れ機関からの転籍を抑制する方向への強いロビイングの影響が窺われます。また、転籍については「当分の間、民間の職業紹介事業者の関与は認めない」とともに、「転籍ブローカー等の排除を担保するため、転籍の仲介状況等に係る情報を把握できる仕組みを設けるとともに、不法就労助長罪の法定刑を引き上げつつ適切な取締りを行う」と、極めて警戒的な姿勢を示しています。
 同年3月、政府は入管法と技能実習法の改正案を国会に提出し、同年6月に成立に至りました。これにより、技能実習法は「外国人の育成就労の適正な実施及び育成就労外国人の保護に関する法律」(育成就労法)となり、技能実習制度は育成就労制度に置き換えられました。技能実習する外国人が「技能実習生」と留学生並びの呼び名であったものが、育成就労では「育成就労外国人」と正面から外国人労働者としての呼び名になっています。これまでの企業単独型技能実習が単独型育成就労に、団体管理型技能実習が監理型育成就労に移行しますが、後者には季節的業務について労働者派遣による就労を通じて技能を習得させる「労働者派遣等育成就労産業分野」というのが設けられました。これは2月の政府方針にも姿を見せておらず、その間に挿入されたものと思われます。ちなみに、技能実習法の基本理念にあった「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」は削除されました。また、これまでの政府全体の基本方針に加え、個別育成就労産業分野を所管する主務大臣が法務大臣、厚生労働大臣と共同して分野別運用方針を定めることとされています。
 新たな規定として、「育成就労外国人による育成就労実施者の変更の希望の申出等」に係る規定が第8条の2から第8条の5まで及び第9条の2の5か条にわたって詳細に規定されています。ここで、出入国在留管理庁長官と厚生労働大臣が新たな育成就労計画の認定をする際の要件として、育成就労実施者が当該育成就労外国人を対象として育成就労を行わせた期間が、1年以上2年以下の範囲内で育成就労外国人に従事させる業務の内容等を勘案して主務省令で定める期間を超えていること」が書き込まれています。
 なお同時に行なわれた入管法の改正により、これまで技術・人文知識・国際業務に限られてきた企業内転勤の在留資格が、技能等の修得にまで拡大されています。これは事実上、企業単独型技能実習を単独型育成就労とは別のルートで、転籍ができないような形で生き残らせるための制度と見ることができます。
 
 育成就労法に基づく基本方針は2025年3月に、分野別運用方針は2026年1月に閣議決定されました。これにより、これまでの特定技能の対象であった特定産業分野に新たに3分野(リネンサプライ分野、物流倉庫分野、資源循環分野)が追加され、そこから2分野(航空分野、自動車運送業分野)を除いた17分野が育成就労産業分野とされました。
 分野別運用方針では特定技能制度と同様に、育成就労産業分野ごとに受入れ見込数を定めることとなっています。分野ごとの特定技能と育成就労の受入れ見込数は次の表の通り
です。参考までに転籍制限期間も示しておきます。
分野 特定技能 育成就労 分野全体 転籍制限期間
介護 126,900 33,800 160,700 2年
ビルクリーニング 32,200 7,300 39,500 1年
建設 76,000 123,500 199,500 2年
造船・舶用工業 23,400 13,500 36,900 2年
自動車整備 9,400 9,900 19,300 2年
宿泊 14,800 5,200 20,000 1年
自動車運送業 22,100 - 22,100 -
農業 73,300 26,300 99,600 1年
漁業 14,800 2,600 17,400 1年
外食業 50,000 5,300 55,300 2年
林業 900 500 1,400 1年
木材産業 4,500 2,200 6,700 1年
工業製品製造業 199,500 119,700 319,200 2年
航空 4,900 - 4,900 -
鉄道 2,900 1,100 4,000 1年
飲食料品製造業 133,500 61,400 194,900 2年
リネンサプライ 4,300 3,400 7,700 1年
物流倉庫 11,400 6,900 18,300 1年
資源循環 900 3,600 4,500 2年
合計 805,700 426,200 1,231,900  
 
 育成就労制度でも技能実習制度と同様、育成就労実施者は個々の育成就労外国人ごとに、育成就労に係る業務、技能、日本語能力等の目標や内容を盛り込んだ育成就労計画を作成し、出入国在留管理庁長官と厚生労働大臣の認定を受ける必要があります。監理型育成就労の場合は、育成就労計画は監理支援機関の指導を受けて作成します。育成就労計画の認定は、外国人育成就労機構が行ないますが、その際の認定要件として、外国人が外国の送出機関に支払った費用の額が適正な金額であることが規定されました。
 技能実習制度時代の監理団体に代えて監理支援機関が設けられ、その許可要件が厳格化されました。すなわち、育成就労実施者と密接な関係を有する役員又は職員の監理への関与が制限され、外部監査人の設置が義務化されました。また育成就労外国人から転籍の希望の申出がなされた際に、当該外国人の育成就労の継続が可能となるよう、関係機関との連絡調整を図らなければなりません。
 技能実習制度では悪質な送出機関が高額な手数料を徴収しているとの批判が絶えなかったため、育成就労制度では創出国との間の二国間取決め(MOC)を新たに作成し、育成就労外国人の受入れは原則としてMOC作成国の送出機関からのみ行うこととしています。また前述のように、送出機関が徴収できる費用の上限額が外国人の月給2か月分を超えないことを育成就労計画の認定要件としています。これは現状からすれば一歩前進であることは確かですが、そもそも国内労働者であれば、職業安定法に基づき許可を得た有料職業紹介事業者のみが雇用の仲介をすることができ、かつ原則として手数料は使用者からしか徴収することができないことと比較すると、その原則を逸脱していることに変わりはありません。この問題はなお完全には解決されていないのです。
 転籍については上述のように法改正前の段階からすったもんだを繰り返した問題ですが、結局原則の転籍制限期間は1年、特定の産業分野(上記表の8分野)については2年となり、育成就労3年間の約半分前後が転籍制限の下に置かれることになりました。なお、転籍を認める要件として、分野別運用方針で業務区分ごとに定められた一定の技能試験及び日本語能力試験に合格していることが必要です。
 この日本語能力については、就労開始前に実施される入国後講習において、認定日本語教育機関の日本語能力A1相当の講習を受講する必要があり、また育成就労開始1年後までにA1相当、育成就労終了までにA2相当の試験を受験させることとされています。
 個々の育成就労実施者が育成就労外国人を受け入れられる人数枠は、基本的には育成就労実施者の常勤職員数によって細かく設定されており、301人以上では常勤職員数の20分の3で規模が小さくなるほど枠が大きめになっていきます。ただし、優良な育成就労実施者では人数がほぼその2倍に設定され、さらに指定区域(大都市圏以外の地域)内にあればほぼその3倍になります。これを見ると、中小零細企業になればなるほど常勤職員数よりも多くの育成就労外国人を抱えることができるようになっており、この制度が人手不足に苦し
む中小零細企業の救済のためのものであることがよく分かります。
育成就労実施者の常勤職員数 一般の育成就労実施者 優良な育成就労実施者 指定区域内の優良な育成就労実施者
301人以上

 
育成就労実施者の常勤職員の総数の20分の3 育成就労実施者の常勤職員の総数の10分の3 育成就労実施者の常勤職員の総数の20分の9
201-300人 45人 90人 135人
101-200人 30人 60人 90人
51-100人 18人 36人 54人
41-50人 15人 30人 45人
31-40人 12人 24人 36人
9-30人 9人 18人 27人
8人 9人 18人 24人
7人 9人 18人 21人
6人 9人 18人 19人
5人 9人 15人 16人
4人 9人 12人 13人
3人 9人 10人 11人
2人 6人 7人 8人
1人 3人 4人 5人
 こうした取扱いの違いは転籍の受入れ枠にも見られます。まずそもそも転籍先の育成就労実施者は「優良」でなければなりませんが、転籍先の育成就労外国人総数に占める転籍者の割合は、転籍元と転籍先の育成就労実施者の住所によって、地方→大都市圏の場合は6分の1以下、それ以外の場合は3分の1以下とされています。また転籍者の人数枠も、育成就労外国人総数ごとに地方→大都市圏とそれ以外では差をつけています。これは、この問題の本質が地方と大都市圏の賃金格差による需給アンバランスであることを雄弁に物語っています。

 

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