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2026年5月22日 (金)

障害者雇用率制度の見直し検討@『労基旬報』2026年5月25日号

『労基旬報』2026年5月25日号に「障害者雇用率制度の見直し検討」を寄稿しました。

去る2026年2月6日、厚労省に設置された「今後の障害者雇用推進制度の在り方に関する研究会」(学識者14名、座長:山川隆一)は報告書をとりまとめました。そこでは、障害者雇用の「質」の問題やいわゆる障害者雇用ビジネスの問題も取り上げられていますが、法令改正事項たる論点として挙げられているのは障害者雇用率制度の在り方についてです。一つ一つはやや小粒の論点に見えますが、いずれも障害者雇用率制度の本質に関わるような問題を孕んでおり、その問題のよってきたるゆえんをきちんとみておく必要があります。
 まず障害者雇用率制度の歴史をごく簡単に振り返っておくと、1960年7月の身体障害者雇用促進法により官民の事業所に身体障害者雇用率が設けられましたが、民間事業所は努力義務でした。これが法的義務(民間企業1.5%)になるとともに、雇用率未達成事業所に身体障害者雇用納付金(1人当たり月額3万円)の負担を課す制度になったのは、1976年5月の改正(同年10月施行)によってです。なおこの時、中小企業の負担能力にかんがみ、当分の間、300人以下企業からは納付金を徴収しないものとされました。また、身体障害者福祉法の身体障害者の範囲に合わせる形での身体障害者の範囲の変更が行われ、具体的には身体障害者手帳の交付を受けた者に限定されました。また、事業所単位から企業単位への変更、障害者の就業が一般に困難な業種について労働者数を控除する除外率制度、重度身体障害者を2人分にカウントする制度なども導入されました。なお、以下では民間部門のみをみていきます。
 1987年6月の改正(1988年4月施行)により、特例子会社制度を設けるとともに、精神薄弱者(後の知的障害者)について雇用義務は課さないが実雇用率の算定にカウントすることとし、法定雇用率は1.6%となりました。1997年4月の改正(1998年7月施行)により、知的障害者も雇用義務の対象とするとともに、法定雇用率は1.8%となりました。2002年4月の改正では精神障害者の定義規定を置き、特例子会社制度を企業グループに拡大し、除外率制度を本則で廃止するとともに附則の経過措置で段階的に縮小することとしました(2004年4月に一律10ポイント引下げ)。
 2005年6月の改正(2006年4月施行)により、精神障害者について雇用義務は課さないが実雇用率の算定にカウントすることとし、その場合短時間労働者は0.5人分にカウントすることとしました。法定雇用率はそのままです。また在宅就業する障害者に仕事発注する事業主に特例調整金を支給することとしました。2008年12月の改正では身体・知的障害者についても短時間労働者を0.5人分にカウントするとともに、納付金の支払義務を300人超企業から100人超企業に段階的に拡大しました(2010年7月に200人超企業、2015年4月に100人超企業)。また除外率を2010年7月に一律10ポイント引き下げました。なお2012年5月の政令改正で法定雇用率は2.0%となりました(2013年4月施行)。
 そして2013年6月の改正により、障害者差別の禁止と合理的配慮の規定が導入されるとともに、精神障害者にも雇用義務が課されることとなりました。ただし精神障害者の雇用義務の施行期日は2018年4月と5年先に設定されました。そして法定雇用率は2018年4月から2.2%、2021年3月から2.3%、2024年4月から2.5%と順次引上げられていき、2026年7月からは2.7%となる予定です。なお、雇用率の対象となる精神障害者は精神保健福祉法による精神障害者保健福祉手帳所持者に限られますが、障害者雇用促進法の対象としてはそれ以外の精神障害に加え、発達障害やその他の心身の機能の障害も明記されました。これらは同改正による差別禁止や合理的配慮の対象にはなるのですが、雇用義務がかからないだけでなく、雇用しても実雇用率にカウントされないのです。
 2019年6月の改正はいわゆる水増し報告問題を受けた公的部門の義務強化が主でしたが、週所定労働時間10~20時間未満の障害者を雇用する事業主への特例給付金やもにす認定制度が創設され、2022年12月の改正により週所定労働時間10~20時間未満の精神障害者、重度身体障害者、重度知的障害者について0.5人分にカウントする特例制度が設けられました。ただし、雇用義務はかからず、雇用率の算定式にも含まれません。2025年4月には除外率がさらに10ポイント引き下げられました。
 
 以上のような経緯で展開してきた障害者雇用率制度ですが、今回の研究会報告では6項目もの論点を挙げて論じています。今回はそのうち、現在の雇用率制度が1976年改正以来身体・知的・精神と対象を広げつつ手帳所持者のみを対象としてきたことに関わる問題を取り上げます。これには二つあり、一つはこれらの類型に属しながら手帳を所持していない障害者をどうするかであり、もう一つはこれらの類型に属しない「その他の心身の機能の障害」をどうするかです。上述のように、これら雇用率の対象外の障害者も職業リハビリテーションや差別禁止、合理的配慮の対象にはなります。
 まず後者、すなわち難病による心身の機能の障害についてですが、雇用率の対象となる身体障害者手帳は、身体障害者福祉法別表に掲げる身体上の障害があるものに交付され、そこには①視覚障害、②聴覚又は平衡機能の障害、③音声機能、言語機能又は咀嚼機能の障害、④肢体不自由、⑤心臓、腎臓又は呼吸器の機能の障害、⑥膀胱又は直腸の機能の障害、⑦小腸の機能の障害、⑧ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害、⑨肝臓の機能の障害は含まれますが、それ以外の様々な難病は含まれません。研究会に出された資料には、全身性エリテマトーデス、バージャー症、皮膚筋炎、重症筋無力症、多発性硬化症、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、もやもや病、特発性拡張型心筋症、自己免疫性肝炎、強皮症、神経線維腫症、チャージ症候群といった難病が列挙されています。
 これらについて、これまでの検討経緯をざっとみておきますと、2012年8月の障害者雇用促進制度における障害者の範囲等の在り方に関する研究会報告書は「対象範囲が明確でなく、公正・一律性が担保されていないことから、職業生活上の困難さを把握・判断するための研究を行っていくことが重要」と述べ、2013年3月の労政審障害者雇用分科会意見書も同様でした。2021年6月の障害者雇用・福祉施策の連携強化に関する検討会報告書は「障害者福祉サービスについては必ずしも手帳所持が利用要件となっていないことや、生活困窮者等『働きづらさがある方』への支援ニーズも高まる中で、その対象範囲を改めて検討する必要があるのではないかという指摘があった」と述べましたが、2022年6月の労政審障害者雇用分科会意見書は「難病患者については、疲れやすさ、倦怠感など全身的な体調の崩れやすさといった一定の共通する点もある一方で、その症状の有無や程度は、疾病により個別性が高く、さらには治療の状況により個人差も大きい。他方で、適切なマッチング、雇用管理等により、活躍できる例もみられ」、「現状において、手帳を所持していない・・・難病患者について、雇用率制度における対象障害者の範囲に含めることを直ちに行うのではなく、手帳を所持していない者に係る就労の困難性の判断の在り方に関わる調査・研究等を進め、それらの結果等も参考に、引き続きその取扱を検討することが適当」と先送りしていました。
 今回の研究会において、厚生労働省事務局は「手帳が得られていない難病患者については、本人からの申請により、医師の意見書等も勘案しながら、個別の就労困難性(職業生活への「制限」の程度)を判定し、一定水準にある場合、まずは、実雇用率において一定の算定を可能とする。その上で、施行状況を注意深く見ながらさらに雇用義務の在り方を検討していく」という考え方を提示し、個別判定の方法としては、
案1:難病に罹患していることが分かる診断書+就労困難性のアセスメント
案2:難病の医療費助成の重症度判定+就労困難性のアセスメント
案3:難病の医療費助成の重症度判定+就労困難性のアセスメント+国が設置する審査委員会による合議
を提示していました。
 これに対して研究会の委員からは、「今回は方向性を示して具体的な制度設計に入る時期に来ているという認識の下、この方向性で検討を深めるべき」という意見や、「現時点においては具体的な判定基準等の仕組みが明らかでなく、実雇用率の算定の対象者についても、試算によって開きがあるため、個別判定制度を設けることの是非の判断はできず、引き続き慎重な検討が必要」という意見もあり、結論としては「就労困難性の個別判定のための判定基準等の仕組みについて、更なる調査研究等も併せて進めながら、手帳を所持していない難病患者の個別判定制度の創設及び実雇用率算定の妥当性について、引き続き丁寧に議論を進めていくことが必要」と述べています。次項の手帳を所持していない精神・発達障害者については極めて否定的な結論であるのに対して、こちらはかなり意欲をにじませたものにはなっていますが、「引き続き丁寧に議論」とやや先送り的な記述に落ち着いています。この「引き続き丁寧に議論」の意味ですが、今後労政審障害者雇用分科会で審議されることになるのかその先の議論ということなのか、現段階ではなんともいえません。
 もう一つの手帳を所持していない障害者の問題として、手帳を所持していない精神・発達障害者の問題があります。これについて2018年7月の今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会報告書は「障害者雇用率制度の対象となる精神障害者等の範囲について、精神通院医療の自立支援医療受給者証の交付者を対象としてはどうかというもの等、様々な意見が出されたほか、障害者雇用率制度の対象となる身体障害者の範囲について、障害者手帳ではなく就労能力の判定等によることとしてはどうかという意見が出されたところ、制度の公平性等を担保するため、まずは、フランス等の諸外国における就労能力の判定の仕組み等を十分に精査した上で議論することとすべきである」と述べています。また上記2022年6月の労政審障害者雇用分科会意見書は「手帳を所持しない精神障害者について、当分科会では、就労促進等の観点から自立支援医療受給者証の所持者等は雇用率制度の対象にすべきという意見がある一方で、自立支援医療受給者証はその目的が医療費の自己負担額を軽減することであり手帳と同一に取り扱うべきではない、自立支援医療受給者証の提出を事業主に提出することに抵抗を感じる障害者もいるのではないかという意見があった。また、自立支援医療受給者証所持者のうち「重度かつ継続」を雇用率の対象にしてはどうかという意見や、個別の就労困難性を判断することが重要という意見等、様々な意見があった。発達障害者については、比較的早期に診断を受け、手帳を取得する割合も高く、就職に当たっても可能な限り手帳の取得を促す支援が重要という意見があった」と述べた上で、「現状において、手帳を所持していない発達障害者・・・について、個人の状況を踏まえることなく、一律に就労困難性があると認めることは難し」く、「手帳を所持していない精神障害者、発達障害者・・・について、雇用率制度における対象障害者の範囲に含めることをただちに行うのではなく、手帳を所持していない者に係る就労の困難性の判断の在り方にかかわる調査・研究等を進め、それらの結果等も参考に、引き続きその取扱いを検討することが適当である」と先送りしていました。なお、ここで出てきた自立支援医療受給者証とは、心身の障害を除去・軽減するための医療について、医療費の自己負担額を軽減するための制度です。
 今回の研究会において、厚生労働省事務局は「精神障害者保健福祉手帳における対象範囲の網羅性や、判定内容(日常生活等における制限の状態を認める)に加え、・・・手帳を所持しない者を別途の基準を用いて雇用率制度の対象とする必要性・合理性は高いとは言えず、雇用率の対象を精神障害者保健福祉手帳の所持者とする現行の仕組みを維持する」という明確に否定的な結論を提示し、「この方向性で概ね意見の一致があった」と書かれているので、先送りではなくここで論点としては終了したものと考えてよいでしょう。
 ただし、精神障害者保健福祉手帳は有効期間が2年とされているため、手帳の更新ができなかった場合における雇用率の扱いをどうするかという問題があります。この点について、厚生労働省事務局は「精神障害者保健福祉手帳の更新が得られなかった場合については、当該労働者が企業に引き続き雇用されており、かつ、今後も雇用される見込みである(障害者雇用率の算定外となったことを理由とした契約の不更新等は行わない)と判断できる場合においては、一定期間(例えば、新規採用に向けた業務切出しや採用プロセスに要する期間を勘案した1年間程度)、雇用率制度及び障害者雇用納付金制度上の取扱を検討する」との考え方を提示し、「一定の場合、一定期間は引き続き対象障害者として取り扱う等制度上の取扱を検討する方向で概ね意見の一致があった」と書かれています。もっとも「一定期間」についてはなお議論を進めるとされています。
 以上のように、障害者雇用率をめぐる諸論点のうち、手帳を所持していない難病患者についてはかなり肯定的なニュアンスのにじんだ先送り、手帳を所持していない精神・発達障害者についてはかなり明確な否定論と方向性が分かれました。今後、労政審障害者雇用分科会でどのような審議が進められることになるのか、注目していく必要があります。
(今回取り上げられなかった雇用率制度に関わる他の論点については、次回以降に取り上げる予定です)

 

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コメント

 実を申しますと、私も昨年発達障害の一種であるADHD(注意欠如多動症)と診断され、自立支援による医療費の軽減を受けつつ、職場で配慮を受けながら勤務しています。ただし難聴で身体障碍者手帳を取得しているので今のところ精神障害による手帳取得は思案中です。
 今の職場でも発達障害による手帳を取得し、障害者雇用率制度のもとで働いている者が何人かおります。

 発達障害についてはまだ研究が始まったばかりで「障害「として扱うべきかどうか議論がありますし、発達障害は本人が自覚症状がなく、障害と診断されていない者も多数いる(故スティーブ・ジョブス氏など発達障害と推測されている著名人は多い)など、まだまだ色々難しいものがあります。
 だから今回の厚生労働省の結論はまあ妥当なものではないかと覆います。
 職場での合理的配慮をどう進めるか、の方が重要ではないかと思います。

本文は政策動向の紹介ですが、発達障害については、『ジョブ型雇用社会とは何か』でもちらりと触れたところですが、メンバーシップ型の日本型雇用システムとの相性の悪さが大きな問題なのであろうと思っています。

この点について、尾形強嗣さんの「発達障害と「日本的雇用システム」」という文章が突っ込んで論じています。

https://kansaigaidai.repo.nii.ac.jp/record/2000331/files/j28_03.pdf

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