フォト
2026年4月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
無料ブログはココログ

« 家政婦過労死事件和解で解決 | トップページ | 『ジョブ型雇用社会とは何か』9刷 »

2026年4月 9日 (木)

小松恭子『日本女性の仕事とキャリア』

Womenswork 小松恭子さんの初の単著『日本女性の仕事とキャリア─職業とタスクからみる均等法後40年』(労働政策研究・研修機構研究双書)が刊行されました。

https://www.jil.go.jp/publication/sosho/womenswork/index.html

均等法から40年、女性の就業はたしかに拡大した。では、その「中身」はどう変わったのか。

就業の拡大は、女性の仕事の質の向上につながったのか。職業とタスクに着目した実証分析により、日本女性の能力活用を制約する構造的課題を浮き彫りにする。研究と政策を架橋する女性労働研究の新たな到達点。

本書の最大の特徴は、これまでの日本社会では極めて乏しかった職業とタスクという切り口から、女性就業の問題に切り込んでいるところです。本書冒頭で縷々語られているように、仕事基準ではなくヒト基準の日本社会では、職業(オキュペイション)、職務(ジョブ)、課業(タスク)といった観点からの分析は、対象がそういう風にできていないがゆえになかなか難しかったのですが、そこにjob-tag(旧日本版O-net)の数値情報を駆使することによって、これまで見えてこなかった、あるいはそうじゃないかと思われてきたけど明確に示されてこなかったことどもが、定量的な数値でもって明確な像を結んでくる、そういう意味で極めて貴重な研究結果をまとめた本になります。

目次は以下の通りですが、

序章  なぜ「職業」と「タスク」から女性の就業をとらえるのか
第Ⅰ部 女性の就業をとらえる新たな視角──職業とタスクに着目したアプローチ
第1章 仕事の中身をどう測るか──職業・タスクの概念と研究動向
第2章 女性の就業をとらえ直す──均等法後40年の環境変化と新たな分析視角
第Ⅱ部 日本女性の仕事とスキル活用──均等法後35年の変化と国際比較
第3章 日本女性のタスク分布はどのように変化したのか──均等法後35年間の男女比較
第4章 日本女性のスキルは活かされているのか──国際比較による検証
第Ⅲ部 均等法後の女性のキャリア──ライフイベントと就業継続・再就職・転職
第5章 出産時の就業継続行動はどのように変化したのか──改正均等法前後の世代比較
第6章 出産離職後の再就職──前職の職種経験は活かされているのか
第7章 転職により仕事内容と賃金はどのように変わるのか──タスク距離からみた男女差
終章  女性の能力活用をめぐる課題と展望──職業・タスク分析からの示唆 

たとえば、第4章の「日本女性のスキルは活かされているのか」という問いに対して、

第一に、日本では、認知スキルと就業確率の関連には女性内部で明確な差異が見られた。すなわち、子どものいない女性では認知スキルと就業確率に正の関連がみられた一方、子どものいる女性では、スキル水準が高い層ほど就業確率が低いという逆の関連が確認された。この傾向は韓国でも観察されたが、英国やノルウェーでは、高いスキルの女性は子どもの有無にかかわらず就業確率が高く、日本とは対照的であった。

第二に、日本では、認知スキルとその職場での活用との関連にも子どもの有無による差異が見られた。すなわち、子どものいない女性ではスキルとスキル活用に正の関連がみられたのに対し、子どものいる女性ではこの関連が確認されなかった。他国では子どものいる女性でもスキルとスキル活用に正の関連が見られた点を踏まえると、この特徴は日本に特有のものといえる。・・・・・

と答え、その背景には日本特有の雇用慣行があるのではないかと論じています。

こうした問いは、もちろん日本の女性たちが就業で直面している状況からくるものですが、それは著者の小松さん自身のこれまでの人生行路からにじみ出てくるものでもあります。

これらの問いは、小松さん自身が自らに問いかけてきた問いだったのでしょう。それを語ってくれるのが、「まえがき」で綴られたご自身のこれまでの人生行路です。

 筆者自身も新卒で厚生労働省に入省し、特定の職務が明確に定められない環境で働いてきた。入省当初は十分な専門知識や経験をもたない新人であったが、上司や先輩からの指導を受けながら、実務を通じて仕事に必要な力を身につけることができた。職務が限定されない環境で多様な業務に携わるなかで、仕事の進め方や求められる水準を学ぶとともに、自身の得意・不得意や、思いがけず関心をもつ分野に気づく機会も多かった。こうした経験は、時間をかけて人の能力を育てていくという日本的雇用慣行の強みの一端を実感させるものだったといえる。
 時間的な制約が比較的少なかった若い時期には、こうした雇用慣行に特段の違和感を覚えることはなかった。しかし、育児など家庭責任にともなう制約が生じると、無限定な働き方をそのまま維持することは難しくなる。子どもをもったことを契機に、研究者として働くようになってから、成果や仕事の内容が比較的明確で、一定の裁量をもって仕事を組み立てられる働き方が、時間的制約のある状況において重要な意味を持つことを実感するようになった。重要なのは、特定の働き方や雇用のあり方が一義的に優れているかを決めることではない。同じ個人であっても、ライフステージや制約の内容・程度によって、望ましい働き方や担う仕事の内容、そしてそれに応じた評価は変わりうる。だからこそ、いずれか一方に制度を収斂させるのではなく、複数の選択肢を残しつつ、仕事の中身や成果にもとづいて能力が十分に活かされる仕事配分の公平性と透明性を確保することが、これまで以上に重要になってくるのではないか。
 筆者は、1999 年の改正男女雇用機会均等法施行以降に社会に出た世代にあたる。2000 年代初めに入省した当時、少なくとも子どもをもたない段階では、男女の違いを強く意識することはほとんどなかった。それは、男性と同様に、さまざまな業務経験や教育訓練機会が与えられているという実感があったからである。こうした環境は、先行世代の女性たちを含む多くの関係者による制度整備や職域拡大に向けた取組みが積み重ねられるなかで、形成されてきたものだと考える。一方で、子どもをもったことを契機に、育児休業や短時間勤務といった制度が整っていても、無限定な働き方を前提とする仕事を継続することの難しさを強く意識するようになった。制度は存在していても、必ずしも意欲や能力を活かしたキャリアの継続につながらない場合があることを実感するようになった。この経験は、制度の存在と実際のキャリアの継続性とのあいだに、なお隔たりがあるのではないかという問題意識につながった。
 では、この経験は筆者個人に固有のものなのか。あるいは、筆者と同じく2000 年代以降の制度変化のもとでキャリアを形成してきた世代の女性に共通するものなのか。この問いを、個別の経験にとどめず、データにもとづいて客観的に検討する必要がある―その問題意識が、本書の出発点である。

本書の価値は、女性労働問題に関心のある方々にはいうまでもありませんが、それだけではなく、近頃官邸主導でジョブだのスキルだのといった言葉がやたらに振りまかれているけれども、働く現場はほんとにそうなっているんだろうか、といったことを思っている人々にも、ちょっと違う観点からの切り口で興味深いデータを示してくれる本になっていると思います。

 

 

 

 

 

 

 

« 家政婦過労死事件和解で解決 | トップページ | 『ジョブ型雇用社会とは何か』9刷 »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 家政婦過労死事件和解で解決 | トップページ | 『ジョブ型雇用社会とは何か』9刷 »