フォト
2026年5月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            
無料ブログはココログ

« メンバーシップ型労働省からジョブ型ILOへ | トップページ | 欧州経団連はEU賃金透明性指令の見直しを要求@『労基旬報』2026年4月25日 »

2026年4月23日 (木)

ダニエル・サスキンド『GROWTH』

09801_1 『労働新聞』5月4日号に、ダニエル・サスキンド『GROWTH 「脱」でも「親」でもない新成長論』(みすず書房)の書評を寄稿しました。

https://www.rodo.co.jp/column/218098/

 2023年7月3日号の本コラムで取り上げた『WORLD WITHOUT WORK』の著者であるサスキンドが、成長という大テーマに取り組んだ(関連記事=【書方箋 この本、効キマス】第24回 『WORLD WITHOUT WORK』ダニエル・サスキンド 著/濱口 桂一郎
 成長至上主義者と脱成長派が激しく対立するこの分野に、各方面に目配りが効き、まことに中庸を得た議論(邦語副題にいう「『脱』でも『親』でもない新成長論」)を展開している。のだが、正直言って、その「かくあるべき」を論じている後半は、やや平板で面白みに欠ける。それよりもむしろ前半に記されている、著者としては恐らく持論を展開するための予備的な歴史的事項の確認であったと思われる部分こそが、多くの読者にとっては通念をひっくり返す「え?そうだったのか!」が次から次に現われて、ページをめくる手が止まらなくなる部分なのだ。
 大体、成長至上主義者も脱成長派も経済が成長することを当然のことのように考えているが、人類の歴史上それは極めて例外的な現象-ほんの200年前の産業革命によって始まったことに過ぎない。それまでの長い長い停滞期(ロング・スタグネーション)を通じて、生活水準はほとんど上昇していない。古代ミノア文明でも18世紀ヨーロッパでも平均寿命は30歳代なのだ。
 人類の歴史を1時間とすれば、この運命の逆転は最後の数秒で起ったのである。これこそが、その停滞期の最末期にマルサスが「陰鬱な科学」としての『人口論』を書いた理由である。
 「成長」という現象がほんの200年程度の歴史しかないことに驚いている暇はない。今現在その是非を巡って侃々諤々の議論の基盤となっている「成長」の測定器たるGDP(国内総生産)という概念自体、まだ100年の歴史もない人類史の新参者なのだ。かつては、マクロ経済を把握しようと試みた者は政府に睨まれ、悲惨な運命をたどっていた。今から97年前に世界大恐慌が発生したとき、政府は一体何が起っているのかを理解するすべをほとんどもっていなかった。
 そこに登場したのが経済学者サイモン・クズネッツ。彼は国内の全経済活動を総計するというとてつもないことをやってのけた。第二次世界大戦では軍事費も計算に含められ、ケインズの弟子たちによってGDPの原型が作られていった。戦後は、ソ連との冷戦下において、西側陣営の正当性を示す最大の指標としてGDPが用いられていくことになる。
 こういう波瀾万丈の「成長」の歴史を踏まえて、サスキンドは中庸を得た成長論を展開していく。まず「有限の地球上で無限の成長ができるはずがない」と主張する脱成長論者に対して、「いや、アイディアは無限だ」と反論する。有限な物質は競合し、奪い合うものだが、無形の情報は競合せず、誰もが使える。
 彼のスタンスは、GDPの役割を最小限に留め、環境破壊や格差拡大といった弊害を押しとどめながら緩やかな成長を目指していこうというものだ。もっともだけれども、やや退屈ではある。

 

« メンバーシップ型労働省からジョブ型ILOへ | トップページ | 欧州経団連はEU賃金透明性指令の見直しを要求@『労基旬報』2026年4月25日 »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« メンバーシップ型労働省からジョブ型ILOへ | トップページ | 欧州経団連はEU賃金透明性指令の見直しを要求@『労基旬報』2026年4月25日 »