正直言って、会社法なんか40年近くほとんど触ったこともなかったため、専門家から見れば見当はずれの議論をしているかもしれませんが、改めて会社法の教科書を開いて読んでみて、いろいろと考えることがありました。
ちなみに、会社法の教科書なんか手元になかったので、JILPTの図書館に行って、一番新しそうな田中亘『会社法第3版』(東大出版会)を借り出して、関係部分を引っ張ったら、最新版は第5版だと指摘されました。
労働判例研究会 2026/04/10
濱口桂一郎
労働組合の役員選出総会決議
プレカリアートユニオン事件(東京高判令和6年11月13日)
(労働法律旬報2095+96号98頁)
Ⅰ 事実
1 当事者
X1:一審原告、控訴審被控訴人。Y1の組合員であったが、除名された。
X2:X1の補助参加人。
X3:X1の選定者。Y1の組合員であったが、除名された。
Y1(プレカリアートユニオン):Xが加入し、除名された労働組合(労働委員会の法適合証明と登録済み)。
Y2:Y1の代表者
2 事案の経過
・Y2は平成27年9月19日のY1総会で執行委員長に選任され、以後令和5年9月9日総会に至るまで執行委員長に選任されている。
・X1は平成28年にY1に加入し、平成31年3月17日から1年間の権利停止処分を、令和元年8月18日から1年間の権利停止処分を、令和2年7月5日から令和4年1月4日までの権利停止処分を受けた末に、令和2年9月12日の総会で除名された。
・X3はY1の組合員であったが、令和2年7月5日から令和4年1月4日までの権利停止処分を受けた末に、令和3年9月11日の総会で除名された。
・Y1は平成27年から令和5年までの間、10回の総会を開催した。X1の除名は第4次総会決議、X3の除名は第5次総会決議による。
・X1はこの10回の総会の決議がいずれも不存在であることの確認を求めて、予備的請求としてこれら決議がいずれも無効であることの確認を求めて、訴えを提起した。
・令和6年2月28日、東京地裁はX1の主位的請求(総会決議の不存在)を認容する判決を下した。
・これに対してY1らは控訴したが、本判決は控訴を棄却した。
・控訴審係属中の令和6年5月26日、Y1は臨時大会を開催し、X1及びX3について組合費滞納を理由とする資格喪失の決議を行った。
・なお、令和7年7月2日、最高裁はY1らの上告を棄却し、本判決が確定した。
Ⅱ 判旨 控訴棄却(高裁判決による修正を地裁判決に入れ込む形)
1 訴えの利益
(1)「Y1は、X1及びX3が組合員の地位を失っていることを理由に確認の利益を否定するが、X1はX1及びX3に対する除名処分の効力を争っており、・・・本件第4次総会決議及び第5次総会決議は招集権限を有さない者により招集された総会による決議であることにより不存在であるから、本件第4次総会におけるX1を除名する決議及び本件第5次総会におけるX3を除名する決議も不存在というべきであって、X1及びX3は組合員としての地位を失っていないと言える。したがって、Y1の主張は前提を欠く。」
(2)「Y1は、原判決言渡し後の令和6年5月26日に開催されたY1の臨時大会(第15回大会・・・)での選任決議を経た執行委員からなる執行委員会において、同日付けで、X1及びX3について組合費滞納を理由とする資格喪失の承認決議がされ、X1及びX3はこれにより組合員資格を喪失したから、過去の本件各決議の不存在ないし無効を確認する利益を喪失したと主張する。しかし、原判決口頭弁論終結時において、X1及びX3がY1の組合員の地位を喪失したとは認められないことは・・・原判決・・・のとおりであり、執行委員選任を含む本件臨時総会における決議の効力に争いがあること、当審においてこの点を審理することについて、Y1が審級の利益が害されるとして異議を述べた」。「そうすると、現時点において、X1及びX3について、本件臨時総会における決議及びこれによる組合員資格喪失を理由として、過去の本件各決議無効または不存在の確認の利益を否定されることになるとすれば、本件紛争の有効適切な解決を図ることができず、相当でない。」
(3)よって「本件訴えには確認の利益がある。」
2 総会決議の不存在
(1)本件第1次総会決議
「本件第1次総会においては、代議員の選任のために各支部における直接無記名投票が実施されておらず、Y1は立候補者がいないものとしてY2らにおいてにおいて特定の組合員に声掛けをして代議員になってもらい・・・、総会ごとに組合員全員に対し代議員の立候補意思を有する者はその意思を表明するよう広く呼び掛けるといった公募手続、これに対応する投票手続は採られておらず、支部によっては一部の者の話合いにより代議員が決められ、Y1本部に伝えられていたこと、そのため、X1は、代議員に立候補する意思があったにもかかわらずその機会がなく立候補できなかったこと、他方で、X3は、代議員に立候補していないにもかかわらずY1から説明もなく案内書及び代議員証の郵送を受けたことから代議員として本件第1次総会に出席したことが認められる。
これらの事実によれば、本件第1次総会においては、代議員の選任手続について選挙大会規定10条に反し直接無記名投票を行わないといった瑕疵があったということができる。また、X3が代議員になった状況からすると、少なくともX3の所属している支部においては、代議員の選任に同支部の組合員の多数の意思が反映されていたとはいえないし、Y2が、活発に組合活動をしていた人や大会に出席してくれそうな人等に声がけをしていたと供述していること・・・からして多くの支部において同様の状況であったと推認されるのであり、各支部において直接無記名投票と同視できる程度の民主的手続によって代議員が選任されたということもできない。」
「・・・労働組合法5条2項5号が役員または代議員の選挙を直接無記名投票によるものと定めた趣旨は、投票者の意思が第三者の意思を経ることなく直接最終的なものとして表明されること及び投票の秘密が守られることを確保し、これにより組合民主主義を実現することにあると解されるから、直接無記名投票によらずに役員を選任する場合には、仮にこれが許されるとしても、少なくとも直接無記名投票による場合と同程度に投票者の意思が直接表明され、投票の秘密が守られる方法によることを要するものというべきである。しかるに、本件における代議員の選出過程は・・・投票者意思の直接的な表明がされているとも、投票の秘密が守られているともいえないものであり、また、本件のような選任手続によって選任された代議員による決議は組合員の多数の意思を反映したものということはできず、・・・その瑕疵は重大であり、もはや法的に総会決議と評価することができず不存在というべきである。」
(2) 本件第2次総会決議ないし本件第7次総会決議
「本件第1次総会決議は不存在であるから、当該決議において選任された役員によって構成された執行委員会は正当な執行委員会ではなく、その後に招集された大会は、法的には大会の招集権限を有する・・・執行委員会ではないものが招集したものとして、組合員の全員が出席して開催された等の特段の事情がない限り、その大会において行われた決議は不存在と評価される(株主総会について、最高裁判所第三小法廷平成2年4月17日判決民集44巻3号526頁参照)。
本件において上記特段の事情を認めるに足りる主張立証はないから、本件第2次総会決議は不存在であるとともに、同様の理由によって本件第3次総会決議ないし本件第7次総会決議も不存在である。」
(3)Y1の主張について
「Y1は、選挙大会規定10条が定める直接無記名投票による代議員選挙は、代議員の候補者が定員を上回った場合を想定した規定であり、定員に達しない場合は、執行委員会が個別の組合員に代議員への立候補を打診し、当該組合員が承諾することによって代議員を選任することが慣例になっており、本件第1次総会も同様であった旨主張する。
しかしながら、Y1の主張する上記解釈は、選挙大会規定10条の明文規定に明らかに反するだけでなく、組合の意思決定の重要な機関である代議員の選任を組合員の多数の意思を反映せずに行うもので、上記のような選任方法が慣例になっていたとしても、そのような選任方法は組合規約に反するものといわざるを得ない。また、・・・本件第1次総会においては、多くの支部において代議員の選任のために総会ごとに立候補者を公募する手続すら行われておらず、実際、X1も立候補できなかったことが認められるから、立候補者が定員に達しなかったといった前提を欠くというべきである。
Y1は、上記のような慣例となっていた代議員選任手続について、各支部から異議があったことはなかったとも主張するが、そうであるとしても、上記のような手続により選任された代議員が組合員の多数の意思を反映したものといえないことに変わりはなく、そのことにより代議員選任手続に瑕疵がないとか、瑕疵が軽微であるとかいえるものではない。」
(4)本件平成27年総会決議ないし本件平成29年総会決議
「Y2においても、本件平成27年総会ないし本件平成29年総会において代議員の選任の際に直接無記名投票を行わなかったことを認めており・・・、本件第1次総会と同様の状況であったと推認できる。
したがって、本件平成27年総会決議ないし本件平成29年総会決議も本件第1次総会決議と同様に、組合員の多数の意思を反映せずに選任された代議員によってされた点において重大な瑕疵があり、もはや法的に総会決議と評価することはできず不存在というべきである。」
3 控訴審におけるY1の主張について
(1)労組法5条2項5号の趣旨
「Y1は、労働組合法5条2項5号は組合規約に直接無記名投票による旨を定めるべきことを規定したにとどまり、組合規約にその旨の記載があれば実際の代議員選任手続がどのように行われたかは同号違反の問題にならないと主張する。しかし、・・・、代議員又は役員の直接無記名投票制度は組合民主主義の実現の根幹をなすものというべきであるから、同号が単なる組合規約の記載事項のみを定めたものと解することはできない。」
「Y1は、選挙大会規定5条の直接無記名投票による代議員選挙は、代議員の候補者が定員を上回った場合を想定した規定であり、候補者が定員に達しない場合には、国政選挙と同様、無投票当選となるべきであると主張する。しかし、候補者が定員に達しないという前提を欠くことは原判決・・・で判示するとおりである上、そもそも組合規約ないし選挙大会規定にY1の主張するような手続の定めはないところ、代議員につき広く公募したものの応募者がいなかった場合を想定すると、Y1の執行部等において立候補を打診し、これを承諾したものを候補者とすることが可能であるとしても、その候補者について信任。不信任の投票を実施し、あるいは、あらかじめ一定の場合には無投票当選とすることを告知するといった手段を取ることが考えられるのであって、候補者がいないことのみをもって、立候補を打診されたものの承諾のみで代議員を選出することが許されるとはいえない。」
「Y1は、本件第1次総会における代議員選任手続についてY1(X1の誤り)以外のものから異議が出たことはないから、組合民主主義は実質的には害されておらず、組合員に保障された利益の侵害はなく、瑕疵は軽微であると主張する。しかし、組合民主主義の実現のために適正な手続を確保することが要請されることは前記のとおりであり、Y1の組合員全員の承諾がある場合等であればともかく、本件においてそのような事情は見当たらないから、瑕疵が軽微であるとはいえないものである。」
(2)瑕疵の連鎖論について
「Y1は、以前の役員の選任手続の瑕疵が連鎖したことにより本件各決議を無効とすることは多数の組合員を救済してきたY1の活動を過去に遡って否定するものであり、上記組合員らの救済を阻害すると主張する。しかし、労働組合内部の組織運営に関する事項に瑕疵があることと当該組合が対外的にした行為の効力とは別異に解することも可能であり、瑕疵が連鎖したことにより本件各決議が不存在とされたからといって、直ちに組合員らの救済を阻害する結果が生じるともいえないから、上記の主張は理由がない。」
(3)令和6年臨時総会による本件各決議の瑕疵の治ゆの主張について
「原判決を受けて、(令和6年5月26日)、選挙大会規定3条1項2号に基づく組合員の招集請求に基づくものとして本件臨時総会が開催され、・・・「平成24年4月9日のY1設立以来の全ての大会、執行委員会における全ての決定を追認すること」が提出されたこと、その承認決議がされた旨の議事録・・・が作成されたことが認められる。しかしながら、X1は本件臨時総会における決議の存在及び効力を争うところ、適正な手続を欠いてされた本件各決議について、組合員全員がその追認を承諾し、あるいは、新たな代議員の直接無記名投票による選任を経た上で本件臨時総会が開催されて追認の決議が行われたなどの事実を認めるに足りる証拠はなく、瑕疵の治ゆがあったということはできない。本件臨時総会が開催され、そこで本件各決議を追認する旨の決議がされたことをもって、直ちに本件各決議の瑕疵が治ゆされたものということはできないから、この点についてのY1の主張は理由がない。」
Ⅲ 評釈 判旨に疑問あり
1 本事案の特徴
本事案は、その中核は組合員の除名処分の正当性をめぐる紛争であり、労働法の教科書でいえば、組合民主主義や統制権、団結自治の限界といった集団的労使関係法の古典的テーマに関わるものであるが、除名処分自体の無効確認ではなく、その前提となる役員選出総会決議の不存在確認を求め、それが認容された事案であり、恐らく過去に例を見ない事案であると思われる。
本判決については、『労働法律旬報』2095+96号所収の毛塚勝利評釈が全面的に批判を加えているが、組合民主主義は仲間が日常的に議論する討議(熟議)民主主義であって、自ら選出した者に組織運営を任せる代議制(間接)民主主義ではない、といったいささか高邁に過ぎる議論が展開されており、実定法上の議論が不足している感もある。また、本事案は社会学的にはいわゆる合同労組の内輪もめという面もあり、その観点からの若干の考察もしておきたい。
2 少数派組合員除名処分に係る労働法学と判例の展開
富永晃一「第2章 労働組合の法理」(『講座労働法の再生第5巻 労使関係法の理論課題』)によれば、戦後初期の労働法理論は集団主義的団結観に基づき、闘争組織としての労組の特殊性を強調し、民主的集中制としての組合民主主義の観点から、団結強制や統制処分を肯定する傾向にあった。ところが高度成長期以後は個人主義的団結観が有力となり、労働者個人の権利・利益、自由な自己決定を強調し、団結強制や統制処分に対しても否定的な傾向となった。
労働組合の権限の法理論的根拠としては、団体法的な把握(団結権説、団体固有権説)と契約法的な把握(同意説、規約準拠説)があるが、労組の対内的な諸権限については後者に求めるべきとの見解が有力である。他方、労組と組合員の間の紛争に法的介入すべきかという観点からは、労組が私的・任意的団体であれば介入の必要性が少なく、公的・準公的団体であれば介入の必要性が高くなり、後者の考え方が有力となった。
本事案と共通する組合執行部に対する批判的少数派組合員の除名というケースとしては、全日産自動車労組事件(横浜地判昭和62年9月29日労働判例505号36頁)が、労組内の共産党系少数派の除名処分とそれに伴うユニオンショップ解雇の事案として典型的であり、除名処分について「被告らが制裁事由に該当していると主張している原告らの活動については、そのほとんどが右該当性を肯認することができず、一部のビラ発行、配布活動及び批判活動に右該当性を肯認できるものの、かかる活動によって被告組合の団結が著しく侵害されたと認めるに足りる証拠はない。しかも原告らの活動が、その思想的背景はさておき、被告組合の民主化を目指した活動であることも考え合わせると、その活動に一部制裁事由に該当する部分があったとしても、それ相応の制裁は許されるものではあるが、これに除名をもって臨むのは社会通念に照らし著しく合理性、妥当性を欠くというべきであり、したがって本件除名は統制権の限界を超えて無効であるといわざるを得ず、原告らは未だに被告組合の組合員たる地位を有しているものというべき」と判示している。
これに対し、本事案と同様に企業を超えた個人加盟の一般労働組合における批判的組合員の除名処分の事案としては、東京土建一般労働組合事件(東京地判昭和59年8月27日労働判例441号39頁)と東京土建一般労組事件(東京地判平成4年10月13日労働判例619号31頁、控訴審:東京高判平成5年10月25日労働判例650号43頁)がある。前者は下部組織機関紙の編集発行を任されていた原告が、組合や上部組織執行部を誹謗中傷する記事を再三掲載したとして統制違反を理由に除名された事案であり、後者は組合の機関において疑惑がないとされたにもかかわらず、組合役員に不正があるとの組合批判をし、かつ警察に告発をした行為が統制を乱す行為として除名された事案であり、いずれも(後者は一審、控訴審とも)除名処分を有効としている。
前者の判決は、原告の行為について「いかに表現等の自由が憲法で保障され、さらには規約によって組合執行部批判が認められているとしても、明らかにその範囲を逸脱しており、被告組合の組合員としては特に許されない」、「所定の統制処分のうち最も重い除名処分に付されてもやむを得ない」として、「社会通念上の客観的合理性があ」り、「本件除名処分を無効とすべき事由はな」いとしている。また後者一審判決は「これらの行動は、被告組合が自主的に判断して決定した原告指摘の経理問題を、被告組合の意思に反して、確たる証拠がないにもかかわらず、捜査機関に調査を求めることにより組合の自主性を失うものであり、組合の規約に反して統制を乱し、組合の信用、名誉を失墜させるもの」として、「その行為の態様、結果、影響等に照らすと、被告組合がこれを除名事由に該当するとした判断に違法があるとはいえない」としている。
こうした裁判例からすると、もし本事案がX1の除名処分自体の無効を争うものであったならば、企業内組合におけるユニオンショップ解雇事案ではなく企業を超えた個人加盟の一般組合における批判派の除名であることを考えると、(そもそもX1の除名理由が争点になっていないため判断のしようがないが)当該除名が有効とされた可能性もあったようにも考えられる。
3 総会決議の瑕疵に係る会社法と労働法
本判決は、労働組合法上に特段規定のない総会決議の不存在確認について、明文の規定のある会社法830条(株主総会等の決議の不存在又は無効の確認の訴え)を準用するような形で、Y1の総会決議の不存在確認という訴えを認めている。この点について、毛塚評釈は、組合民主主義は討議(熟議)民主主義であって代議制(間接)民主主義ではないといったそもそも論で批判しているが、大規模な労働組合になれば全員参加など不可能で代議制(間接)民主主義によらざるを得ないのであるから、こういう議論の仕方は適当ではない。むしろ、会社法の規定を準用するにしても、それが会社法の当該規定の趣旨に合致しているのかどうかを精査する必要があろう。
会社法は総会決議の瑕疵を争う場合について、次の2か条にわたって3つの訴えの類型を認めている。
(株主総会等の決議の不存在又は無効の確認の訴え)
第八百三十条 株主総会若しくは種類株主総会又は創立総会若しくは種類創立総会(以下この節及び第九百三十七条第一項第一号トにおいて「株主総会等」という。)の決議については、決議が存在しないことの確認を、訴えをもって請求することができる。
2 株主総会等の決議については、決議の内容が法令に違反することを理由として、決議が無効であることの確認を、訴えをもって請求することができる。
(株主総会等の決議の取消しの訴え)
第八百三十一条 次の各号に掲げる場合には、株主等(当該各号の株主総会等が創立総会又は種類創立総会である場合にあっては、株主等、設立時株主、設立時取締役又は設立時監査役)は、株主総会等の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。当該決議の取消しにより株主(当該決議が創立総会の決議である場合にあっては、設立時株主)又は取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。以下この項において同じ。)、監査役若しくは清算人(当該決議が株主総会又は種類株主総会の決議である場合にあっては第三百四十六条第一項(第四百七十九条第四項において準用する場合を含む。)の規定により取締役、監査役又は清算人としての権利義務を有する者を含み、当該決議が創立総会又は種類創立総会の決議である場合にあっては設立時取締役(設立しようとする株式会社が監査等委員会設置会社である場合にあっては、設立時監査等委員である設立時取締役又はそれ以外の設立時取締役)又は設立時監査役を含む。)となる者も、同様とする。
一 株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき。
二 株主総会等の決議の内容が定款に違反するとき。
三 株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき。
2 前項の訴えの提起があった場合において、株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、同項の規定による請求を棄却することができる。
これらのうち原則のコースは831条の取消しの訴えであり、その事由は各号列記で示されている。これに対し、830条1項の不存在確認の訴えは、会社法のテキスト(田中亘『会社法第3版』東大出版会)によれば、①決議が物理的に存在しない場合(最判昭和45年7月9日民集24巻7号755頁。実際には株主総会を開催していないのに議事録だけ作成していた事例)、②物理的に決議は存在するが、その手続の瑕疵が著しいため、法律上、決議が存在したとは評価できない場合も含まれる。たとえば、代表権のない取締役が取締役会決議なく株主総会を招集した場合は、招集権者でない者による招集として、当該株主総会の決議は不存在になる(最判昭和45年8月20日判時607号79頁)。特に②の場合には、決議取消事由との差異は程度問題となる。たとえば、招集通知漏れ(一部の株主に招集通知をしないこと)は、通常は決議取消事由にしかならないが、招集通知漏れの程度が著しい場合は、決議は不存在になる(最判昭和33年10月3日民集12巻14号3053頁。代表取締役が実子2名にのみ招集通知をし、他の株主6名[発行済株式5000株中2100株保有]には通知をしなかったという事例で、決議不存在とした)。同テキストは、手続の瑕疵が著しいと評価できるかについて、「瑕疵の客観的内容だけでなく、主観的態様も考慮すべき」とし、「招集権者が反対株主を排除する目的でことさら招集通知をしなかった場合の方が、決議は不存在とされやすくなる」としている。
以上はもちろん会社法上の議論ではあるが、本判決が準用している会社法上においても、決議不存在の訴えは幅広く認められているわけではなく、上記事例のように主観的態様も含めて瑕疵が著しいことが要件となっており、本判決はこの点に注意を払っているようには見えない。会社法831条1項1号は「株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき」を取消事由としており、本件事案はほぼこれに相当するといえよう。すなわち、法令(労組法5条2項5号)に(厳密に言えば規約記載事項なので間接的に)違反し、かつ定款に相当する規約に基づく選挙大会規定10条に違反しているとはいえるが、それを超えて不存在確認を認めなければならないほどの重大な瑕疵であることが論証されているとはいい難いように思われる。また、同条2項は、「その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないもの」であれば棄却できるとも定めており、本件事案がどの程度の瑕疵であるのかを論ずる必要があったはずであるが、(Y1側がそのような議論をする必要を認めなかったためでもあろうが)やや漫然と「その瑕疵は重大であり、もはや法的に総会決議と評価することができず不存在というべき」と断言するだけにとどまっている。
これは、X1を除名した第4次総会決議、X3を除名した第5次総会決議の不存在を瑕疵の連鎖理論でもって導くために、その出発点である第1次総会における役員選任決議の不存在が必要不可欠であったためであろうが、瑕疵があるにしてもそれがどの程度重大な瑕疵であるのかを、それ自体としてきちんと検討した形跡が見られないのは問題であろう。
4 瑕疵の連鎖論
本判決が引用している最高裁判決(最三小判平成2年4月17日)は、総会決議の瑕疵の連鎖論の根拠となっているものであるが、当該判決をよく読むと、本件事案にそのまま準用できるようなものであるとは思われない。
この事案はそもそも株主2名、代表取締役1名(X)、他の取締役3名(A,B,C。全て同姓)というファミリー会社(Y)において、臨時株主総会でXが取締役を辞任し、その後任としてDが選任され、その後の取締役会でAが代表取締役に選任決議された旨の議事録が作成され、登記がされたが、そのような事実はなかった(物理的に不存在)という事案である(原審によれば、AはXに対し、経営をおろそかにして業務に支障をきたすことが多かったため、取締役の辞任と代表取締役の退任を申し入れ、Xはこれを受け入れ、手続の一切をAに委任したと主張しているが、それにしても決議の不存在に変わりはない)。つまり、取消でも無効確認でもなく、不存在確認しかありえない虚構の決議がその後にドミノ倒しのように連鎖するという理論であって、手続上に瑕疵が存在するとしても総会が開催され、決議が物理的に実在した本件事案にそのまま準用できるかどうかは精査を要するはずである。
5 合同労組(個別紛争解決型ユニオン)であること
以上は教科書的な法律論であるが、本事案の社会学的特徴は、Y1がいわゆる合同労組であり、その社会的実態がある職域の労働者が団結して労働条件の維持向上を図るための組織ではなく、個別労働者がそれぞれの職場で遭遇した解雇、いじめ、労働条件等の個別労働紛争を解決するために加入し、労働組合であるという名目で相手方会社に団交応諾義務を課し、一定の解決を図るための組織であるという点にある(いわゆる駆け込み訴えのための受け皿的存在)。そのため、Y1の組合員にはその団結の基盤となるべき一定の職域というものは存在せず、毛塚評釈が強調する職場での討議を基盤として組織の意思決定を積み上げていくという仕組みは働きにくいと思われる。
本判決では、X1が権利停止処分や除名処分を受けた事情については全く書かれていないが、同じ当事者による別事件の判決を読むと、その間の事情がほぼ明らかになる。プレカリアートユニオン(拠出金返還等請求)事件(東京地判令和4年5月24日労働判例1268号13頁)では、Y1がX1の元雇用主であるA社及びB社との間でX1の意に反する和解を成立させ精神的苦痛を与え、X1がA社及びB社との和解で受領した解決金の一部を拠出金名目で徴収した等と訴えた事案であるが、畢竟するところ、A社からの解決金19万円の2割の3万8000円と、B社からの解決金300万円の1割の30万円を、Y1が拠出金として控除してX1に渡したことに対する不服が原因である(非弁行為だと主張している)。X1はY1にアルバイトとして雇用されたとしてDMUという労働組合を結成し団体交渉を申し入れたが、Y1はX1が分派活動を行ったことを理由として権利停止処分を、さらにインターネット上でY1の名誉を毀損したとして除名処分をした。これが本事案の事案の経過の第2の・に書かれている経緯である。
この事件の判決は、A社との和解、B社との和解いずれもX1の意に反するものではなく、Y1による拠出金の受領は非弁行為(弁護士法72条違反)ではないと判示し、またX1のY1における活動はアルバイトとして雇用されていたものではないとして、その訴えを全て退けた。この事件では、除名処分を懲戒解雇だと主張したため、除名処分自体の無効を訴えたわけではないが、権利停止の制裁について「労働組合の組織運営に関する正当な行為にほかならず、不法行為を構成するものということはできない」と一蹴していることから、本事案では改めて除名処分の無効を訴えるというやり方ではなく、総会決議の不存在確認という奇策に出たのであろう。
この事件の判決は、Y1の個別労働紛争解決に係る活動について、「労働組合であるY1が組合員のために組合員の雇用主と団体交渉等を行って和解を成立させることは、みだりに他人の法律事務に介入する行為ということはできないし、これによって組合員その他の関係者らの利益を損ねたり、法律生活の公正かつ円滑な営みを妨げるものとはいえない」から非弁行為に当たらないと述べている。この理路はその通りであるが、それは労働組合法上の労働組合であることが前提であって、そこに疑問が呈される可能性はありうる。
実は、労働委員会が不当労働行為の救済を申し立てた労働組合(首都圏青年ユニオン連合会、以下「S」)に対し、資格審査の結果救済を受ける資格なしとして申立てを却下した事例が存在する。グランティア事件(東京都労委決定令和2年6月16日労働判例1262号97頁。拙評釈:『中央労働時報』令和3年6月号)では、都労委は「Sにおいては、制度として、役員以外の一般の組合員がSの運営に参画したり、意見を述べたりする仕組みができていないのみならず、実態としても、一般の組合員は、組合費を負担しない代わりに、大会及び役員選挙に関与せず、Sの運営に自らの意思を反映させていない上、そのような状況に特に不満はなく、むしろ、Sの運営や活動にかかる負担のないことが組合員であることの動機付けとなっているとみられる。こうしたことからすると、Sにおいては、一般の個々の組合員が、Sを自主的に組織する主体であるということは困難である」、「Sは、組合費を無料とし、大会への参加等も求めず、組合員の組合運営に係る負担を金銭的にも活動的にも軽減することによって、多数の組合員を結集している実態がうかがわれ、事実上、Sを運営しているのは役員6名であって、その6名の役員を除く万単位の組合員は、制度的にも実態としても、Sを自主的に組織する主体であるとみることはできないのであるから、Sが、「労働者が主体となって自主的に・・・組織する団体」であるということはできない」等と述べて、その申立てを却下した。
Sは極端な事例ではあるが、もっぱら個別労働紛争を解決する機能のみを純粋抽出し、それ以外の余計な機能を排除してしまえば、当該機能を遂行する上では合理的な組織となるが、そもそもその機能が果たせる法的根拠となっている労働組合であるという建前の虚構性が露呈してしまい、正真正銘の非弁行為となってしまうわけである。本事案のY1はもちろんSと異なり、もっぱら個別労働紛争解決機能に特化しているとはいえ、労働委員会の資格審査を受けて法適合組合と認定されている労働組合ではあるが、その根拠はまさに労働組合法5条2項所定の民主性にあることを考えると、こういった合同労組であればあるほど、その組織運営上の民主性の確保には細心の注意を払う必要があるということになろう。
(参考)総会決議目録(地裁判決・高裁判決の別紙)(抄)
1 平成27年9月19日、第4回定期大会(第5回大会)、「本件平成27年総会」という、Y2を執行委員長に選任
2 平成28年9月17日、第5回定期大会(第6回大会)、「本件平成28年総会」という、Y2を執行委員長に選任
3 平成29年9月16日、第6回定期大会(第7回大会)、「本件平成29年総会」という、Y2を執行委員長に選任
4 平成30年9月8日、第7回定期大会(第8回大会)、「本件第1次総会」という、Y2を執行委員長に選任、Aを副執行委員長に選任、Bを書記長に選任
5 令和元年6月23日、臨時大会(第9回大会)、「本件第2次総会」という、Y2を執行委員長に選任、その他副執行委員長、書記長、執行委員(3名)、会計(2名)、会計監査、賞統制委員を選任
6 令和元年9月15日、第8回定期大会(第10回大会)、「本件第3次総会」という、選任は臨時大会と同じ
7 令和2年9月12日、第9回定期大会(第11回大会)、「本件第4次総会」という、Y2を執行委員長に選任、その他副執行委員長、書記長、書記次長、執行委員(2名)、会計を選任
8 令和3年9月11日、第10回定期大会(第12回大会)、「本件第5次総会」という、Y2を執行委員長に選任、その他副執行委員長、書記長、書記次長を選任
9 令和4年9月10日、第11回定期大会(第13回大会)、「本件第6次総会」という、Y2を執行委員長に選任
10 令和5年9月9日、第12回定期大会(第14回大会)、「本件第7次総会」という、Y2を執行委員長に選任
11 令和6年5月26日、臨時大会(第15回大会)、決議の内容:
(1)Y2を執行委員長に選任、その他副執行委員長、書記長、書記次長、執行委員(6名)、会計、会計監査(2名)、賞統制委員を選任、
(2)2012年4月9日のY1設立以降の全ての大会、執行委員会における全ての決定を追認すること
(3)X1とX3についてしかるべき対応を求める決議(X1とX3によるY1や役員に対する名誉毀損等の嫌がらせや業務妨害により、労働者の権利を守る活動が阻害されている。私たちは、この状況に対し、憤りを覚えている。本日の臨時執行委員会で選任された新執行委員会は、X1とX3に対し、しかるべき対応をするよう強く求める。)
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