初岡昌一郎『回想のライブラリー』
初岡昌一郎さんのエッセイ集『回想のライブラリー』(オルタ出版室)をお送りいただきました。
初岡さんとは、以前、本書にも出てくるソーシャルアジアフォーラムで、2010年に台湾に行った特に、ご一緒したことがあります。
というか、そのときに書いたこの記事で、本書に収録されているメールマガジンオルタの初岡さんの説明をそのまま引用していたのでした。
今週の木・金と、台北でソーシャルアジアフォーラムに出席することは本ブログで申し上げましたが、このフォーラムの由来について、初岡昌一郎さんご自身が書かれた文章をネット上に見つけました。ちょうど5年前に同じく台北で第11回のフォーラムが開かれたときに「メールマガジン オルタ」の22号に、「回想のライブラリー(4)」として書かれたものです。・・・・
このエントリは、初岡さんの文章を大量に引用していますので、関心のある方は是非読んでみてください。
本書は、冒頭の「岡山県の山間僻地から広い世界へ」から始まって、初岡さんの社会民主主義者、労働運動家としての人生の諸相が、関係する書物と一緒に描き出されています。
結構興味深いのが、60年安保闘争の同志であった香山健一さんと終生友情を保ち、中国の胡啓立さんとのつながりに関わっていたこととか、ソ連、ポーランド、ユーゴスラビアなどの話です。
また、107ページにはシュトルムタールの『ヨーロッパ労働運動の悲劇』が次のような文脈で紹介されています。
共産党批判のもう一つのソースは読書だった。大学時代に読んだ本で、社会民主主義に傾斜する契機を与えてくれたのは、アドルフ・シュトルムタールの『ヨーロッパ労働運動の悲劇』Ⅰ・Ⅱ(岩波書店)だった。それから少し後に読み、大きな影響を受けたE,H.カー『危機の二十年』(岩波書店)しも同じ時代、すなわち第一次世界大戦・第二次世界大戦の間を対象としていた。しかし、社会民主主義者としての自覚を持つのは、青年学生運動時代より後、労働組合の仕事を始めてからのことであった。あの当時は「社民」という言葉は左翼の中で特別な蔑称であり、人を中傷するために広く用いられていた。
わたしは、もはやその「社民は蔑称」の時代は知らない若い世代ですが、このシュトルムタールの本は、少し違う文脈で読まれるべき本として紹介したことがあります。
昨日のエントリでも引用したシュトルムタールの『ヨーロッパ労働運動の悲劇』は、日本では1958年に岩波書店から岩波現代叢書の一環として、神川信彦・神谷不二両氏の翻訳により2冊組で刊行されています。
これは今こそ読み返されるべき名著だと思うのですが、今ではほとんど知っている人も少なく、amazonでも中古品が1円とかいう値段がついてしまっています。
巻末の同叢書の一覧を見ると、カーの『危機の二十年』、ノーマンの『日本における近代国家の成立』、ヒックスの『価値と資本』、カッシーラーの『人間』、ハヤカワの『思考と行動における言語』など、その後岩波文庫に収録された名著が結構並んでいますが、シュトルムタールのこの本も決してそれに劣らない値打ちがあると思うのですよ。
岩波書店の中の人が見てたら、是非一度書庫から取り出して、半世紀以上前に出版された本書を読んでみて、今の時代に何らかの示唆を与えるものであるかどうか検討してみて欲しいと思います。
残念ながら、他の名著は軒並み岩波文庫に入っているのに、このシュトルムタールは放置プレイのままです。
なお、15年前の台北でのソーシャルアジアフォーラムの報告は次の通り
先ほど、台北から戻って参りました。
ソーシャルアジアフォーラムは、結局直前に中国からの参加予定者が許可が出なかったということで出席しないことになり、中国側の報告は台湾の出席者が代読することになりました。その内容は、現在の中国の労使関係状況をきわめて的確かつ犀利にえぐり取るもので、わたくしには戦前の日本の進歩的な官僚や学者が無理解な体制の中で労使関係システムの確立を説いた姿を想起させるものでした。
わたくしが興味を惹かれたのは台湾からの報告で、今年ようやく労使関係3法が全面改正され、来年施行されることになったということです。実は中華民国工会法は1930年に制定されており、日本よりも古い労働組合法なのですが、日中戦争、国共内戦、その後の戒厳令体制のもとで、自由な労働組合運動は許されなかったのですね。ようやく民主化とともに労働組合運動も国民党の支配下から脱し、古い工会法も改正されるに到ったようです。このあたり、わたくしもあんまりよく知らない分野であったのですが、じっくり勉強してみたいと強く感じました。
韓国からは労使共同の訓練事業についての報告があり、日本からはわたくしが雇用システムの話、連合総研の龍井さんがもっと広い視野の話をしました。
フォーラム以外では、いろいろと興味深いことがありましたが、とりあえず一つだけ。会場の近くの「紫藤廬」という茶館で、高山茶をじっくりと楽しみましたが、この茶館、日本植民地時代の海軍宿舎で、奥の方には畳の座敷があり、何とも言えないいい雰囲気でありました。
亞洲社会論壇(ソーシャルアジアフォーラム)では、各国からの報告討議に先立って、ホスト側の台湾の行政院労工委員会副主任(労働副大臣に相当)である潘世偉さんが基調講演をされました。潘さんは労働法の先生から政府に入った方ですが、自ら携わっておられる最近の労働法、労働政策の動きについて包括的に語られました。
その中で一つ、最後の方で述べられた労働尊厳教育の話が興味深いものでした。ディーセントワークの考え方を教育段階から国民に浸透させていこうというものですが、ご多分に漏れず台湾でも教育部はきわめて消極的なんだそうですが、それでも中学校段階から労働尊厳教育を実施しつつあるということでした。
そもそも今回の工会法改正でも、教師の労働基本権には大変否定的で抵抗したそうで、韓国でもそうですし、教師は聖職にして労働者に非ずというのは東アジアに共通の感覚なのでしょうかね。
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投稿: 希流 | 2025年11月19日 (水) 13時14分