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2025年7月 3日 (木)

湊一樹『「モディ化」するインド』@『労働新聞』書評

9784121101525_1_4274x400 ひさしぶりの『労働新聞』書評です。いろいろあって、4,5月に3本載ったので、6月はお休みで今回が7月分ということになります。

https://www.rodo.co.jp/column/202053/

 インドといえば、我われ日本人には偉大なガンディーが作った国・・・というイメージが強い。「ガンディーが助走をつけて殴るレベル」というネットスラングも、非暴力主義でインドの独立を果たしたガンディーの高潔さを前提としている。そのガンディーを暗殺した右翼結社の民族奉仕団(RSS)で頭角を現し、グジャラート州知事として「実績」を挙げて、今日インドの首相として絶対的権力を振るっているのが、ナレンドラ・モディその人だ。
 ロシアや中国といった権威主義国家が近隣にある日本は、どうしても「世界最大の民主主義国家」という触れ込みのインドに点が甘くなりがちだ。だが、モディ政権の実態を細密な写実画のように描きだした本書を読み進んでいくと、ロシアや中国も顔負けの権威主義国家の姿が浮かび上がってくる。
 政権党であるインド人民党(BJP)は、RSSが母体となって作られたヒンドゥー至上主義の政党であり、少数派(といっても13億人中2億人弱だが)のイスラム教徒を目の敵にしている。貧家に生まれたモディはRSSで頭角を現し、グジャラート州の知事の座をつかむ。知事時代に同州で起こったのがグジャラート暴動といわれるイスラム教徒の虐殺事件だ。当時の英国政府の報告書から浮かび上がってくるのは、州政府が意図的にイスラム系住民の情報を流し、暴徒による虐殺を容易にしていたという疑惑だ。
 しかし、モディは制裁を受けるどころか「暴力の配当」としてその権力を強化する。そして、グジャラート経済を活性化した「モディノミクス」をひっさげて、2014年の総選挙で大勝し、インド首相の座についた。本書に溢れるモディのイスラム教徒に対するヘイトスピーチは、ヒンドゥー教徒の多数派によって支持されているのだ。
 もう一つ、我われが知らなかったモディの真実は、ロシアや中国並みの情報統制で、国民を知らしむべからず由らしむべしの状態に置いていることだ。膨大な予算をつぎ込んでモディを礼賛する映画や番組を流す一方で、マスメディアに対しては脅迫と妨害、時には権力による抑圧の限りが尽くされる。インド国内ではもはやモディ礼賛以外の報道は不可能だ。その力が及ばないBBCが23年、グジャラート暴動やイスラム教徒への差別・攻撃政策を描きだしたドキュメンタリーをイギリスで放送したとき、インド政府はBBCの現地支局に家宅捜査に入り携帯電話まで押収した。
 20年にインドを訪問したトランプ米大統領が「自由、解放、個人の権利、法の支配、そして、一人ひとりの尊厳を誇りを持って尊重する国、それがインドです」と褒め称えたとき、地元デリーでは与党系のヒンドゥー至上主義勢力がイスラム教徒を「国賊」と叫んで暴行を呼びかけ、暴動が起きていた。今年起こったカシミール州での事件も、イスラム教徒が多数を占める同州の自治権を19年に剥奪したことが原因だ。モディのインドは、我われが学んできたガンディーのインドとは正反対の存在になり果ててしまっているようだ。

 

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コメント

   そのモディ首相もこの本の出版直後、昨年4~6月に実施された総選挙では、一転して、単独では過半数割れ(与党連合全体で過半数)という状況に追い込まれました。小選挙区制のもと、モディ首相のやりたい放題ぶりに危機感を覚えた中道~左派の大野党連合が成立し、経済成長の成果を実感できない、多くの有権者の受け皿となりえたことが最大の理由のようですが、その野党連合の代表がラフル・ガンジー氏(国民会議派、初代首相ネルーの曽孫で、ネルー・ガンジー家の4代目という御曹司)です。
   今現在も、「首相はお友達の大財閥の債務は簡単に免除するのに、貧しい農民の窮状、借金地獄を無視し、多くの農民を自殺に追い込んでいる」「関税交渉において、トランプの要求にすぐに屈服するだろう」等々と猛攻撃を加えています。
   二大政党(連合)の支持者の分極化が進行する、アメリカの状況とも似てきているようですね。これからも、「21世紀の経済大国」にして「世界最大の民主主義国」、インドの政治からは、目が離せそうにありません。

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