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2025年7月 6日 (日)

女性のキャリアと少子化と日本型雇用システム

参政党の神谷代表が「高齢女性は子供を産めない」と言ったとして炎上していますが、これはそこだけ揚げ足をとって騒げばいい話ではなく、そこで問題とされるべきことはそもそも何なのかをきちんと考えるべきことでしょう。

参政党の神谷代表「高齢女性は子ども産めない」 公示第一声で発言

参政党の神谷宗幣代表は3日、東京都内で行った参院選(20日投開票)の第一声となる街頭演説で、「子どもを産めるのも若い女性しかいない。高齢の女性は子どもは産めない」と発言した。・・・

神谷氏は演説で、国内で人口減が進んでいる現状に言及。「今まで間違えたんですよ。男女共同参画とか。もちろん女性の社会進出はいいことだ。どんどん働いてもらえば結構」とした上で、「これを言うと差別だという人がいるが違う。現実だ。申し訳ないけど、高齢の女性は子どもは産めない」と発言した。

そして「若い女性に子どもを産みたいとか、子どもを産んだ方が安心して暮らせる社会状況を作らないといけないのに、『働け働け』とやり過ぎてしまった」と主張。高校や大学卒業後に仕事に就かずに子育てに専念する選択がしやすくなるよう、子ども1人あたり月10万円を給付すると訴えた。「0歳から15歳で1人1800万円、2人いたら3600万円。これぐらいあればパートに出るよりも、事務でアルバイトするよりもいいじゃないか」とも語った。・・・ 

なぜ日本では、女子のキャリアが少子化につながってしまうのか、それは日本型雇用システムに根源があるのだということを、もう10年前に『働く女子の運命』(文春新書)でかなりしっかりと論じたつもりだったのですが、残念ながらそれがあまり認知されていないがゆえに、今回のようなすごく表層的な炎上騒ぎになってしまうのではないかと思います。

Img_752f5d874047328e26f434ce08f_20250706111101   拙著の最後近く、240ページあたりからの議論を、改めて再掲しておきたいと思います。

マタニティという難題
 さてしかし、ここまでのワークライフバランスをめぐる議論は、フェミニズムの用語で言えばあくまでジェンダーの枠内に収まるものでした。つまり、男女の生物学的な差とは一応別次元で、社会的文化的に形作られた役割の違いから生ずる問題でした。それゆえ、その解決の方向性は基本的には、専業主婦やパート主婦がいることを前提に無限定に働ける男性正社員モデルを見直し、男女ともに仕事と家庭生活に時間を配分できるような働き方に変えていくということになるわけです。
 ところが、そういう男女の対称性が破れる領域があります。いうまでもなく、生物学的に女性しかやれない妊娠、出産をめぐる領域です。そして、ワークライフバランスの議論が一巡した最近になって、工場法時代からずっと女子労働問題の中心的課題の一つであり続けてきたこの問題が、再び脚光を浴びるようになりました。今度は今風にマタニティ・ハラスメント(マタハラ)と呼ばれていますが、要は女性が妊娠・出産したことに絡んで嫌がらせを含むさまざまな不利益な取扱いを受けるという伝統的な問題です。
 この問題が本書の一貫したテーマである日本型雇用と交差するのが、出産時期の問題です。これはちょっと入り組んでいます。『若者と労働』と『日本の雇用と中高年』で論じたことと密接につながっているのです。日本型雇用システムの下で得をしているのは誰かといえば、もちろんスキルなどなくてもすいすいと企業が採用してくれる若者ですし、誰が損しているかといえば、スキルや経験があっても採用されにくい中高年であるということは、繰り返し述べてきたとおりですが、それを前提に、できるだけ痛みを伴わない形で雇用システムの改革をしようとすれば、若者の入口はできるだけ今までどおりにし、中高年以降をジョブ型にシフトしていこうという議論になるはずです。実際、雇用問題の論客である海老原嗣生氏は、『雇用の常識 決着版』(ちくま文庫)、『日本で働くのは本当に損なのか』(PHPビジネス新書)、『いっしょうけんめい「働かない」社会をつくる』(PHP新書)など近著で繰り返し、入口は日本型のままで、35歳くらいからジョブ型に着地させるという雇用モデルを推奨しています。
 この解は、若者(男性)と中高年(男性)という二つの変数をもつ二元連立方程式の解としては現時点でもっともリアルな解と言えましょう。若者の入口まで一気にジョブ型にしてしまうと、現在の教育システムからスキルなんかない方がいいという前提で生み出されてくる若者たちは阿鼻叫喚の地獄絵図に放り込まれることになります。それを解決するために教育システムを職業的レリバンスのあるものに改革することは、膨大なアカデミック教育需要のお陰で生計を立てることができていたそれなりの数の人々を失業の淵に叩き込むことになります。そういう激変を回避したい穏健派にとっては、望ましい解なのです。
 
高齢出産が「解」なのか?
 しかし、にもかかわらず、この問題を女性という第三の変数を含む三元連立方程式として解こうとすると、この解は女性に高齢出産を要求するというかなり問題含みの解になってしまうのです。海老原氏の『女子のキャリア』(ちくまプリマー新書)は、その最終章「「35歳」が女性を苦しめすぎている」で、「出産は20代ですべき」という論調に反発し、さまざまな医学的データまで駆使して、30代後半から40代前半で子供を生んでいいではないかと、高齢出産を余儀なくされる女性たちを擁護します。
・・・だからこそ、事後追認でかまわないから、結婚は35歳まで、出産は40歳までとひとまず常識をアップデートしてほしいのです。これでようやく、クリスマスケーキやOLモデルといった1980年代の幻影から逃れることができるでしょう。
 この常識が広まれば、いよいよ女性も普通に、30代を楽しめるイメージを持てるようになるはずです。さらにいえば、もう5歳遅くとも、結婚も出産もできないことはない、という譲歩節を付け加えられないでしょうか。つまり、40歳までに結婚して45歳までに産むことだって、現実的な選択だ、と。
 働く女性を応援しようという海老原氏の意図はよく伝わってきます。しかし、それで正しい解になっているのか、正直、私には同意しきれないものがあります。マタハラ問題を世に広めた小林美希氏の『ルポ産ませない社会』(河出書房新社)は、「年々増える35歳以上の高年齢出産」という項で、こんな事例を紹介しています。
「今、妊娠したら困る。この仕事が終わったら・・・・・・。」
 都内のコンサルティング会社で働く槌田寛美さん(仮名)は、子供が欲しいと思いながらも仕事に区切りをつけられず、40代に突入してしまった。
・・・40歳の誕生日を区切りに、「そろそろ真面目に妊娠を考えよう」と、婦人科クリニックに足を運んだ。・・・医師からは「35歳から妊娠しにくくなり、流産の率が高まる。40歳ならなおさら。本当に妊娠したいなら、仕事をセーブしなければ」と忠告され、仕事か妊娠かを迫られている
 マタニティという生物学的な要素にツケを回すような解が本当に正しい解なのか、ここは読者の皆さんに問いを投げかけておきたいと思います。

 

 

 

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コメント

濱口先生の「マタニティという生物学的な要素にツケを回すような解が本当に正しい解なのか」というところで、ジョブ型社会の欧米では、「高齢出産」が回避できている、と読んでしまいました。高齢出産というのは、日本型雇用システムが原因であると。
 
でも、そのあたりをどうやって調べたらよいのか、無知すぎてわからなかったので、恥ずかしながら ChatGPT君に訊いてみました。
https://marginalia.hatenablog.com/entry/2025/07/06/195614
 
どうやら、ChatGPT君を信じればですが、欧米のようなジョブ型社会でも、「高齢出産」そのものは回避できていないようですね。「平均初産年齢」も「高齢出産の割合(35歳以上)」も、日本と欧米は、ほぼ同じのようです。
 
もちろん、制度面、「出産後のキャリア復帰」などの面で、大きくちがうことは、ChatGPT君の応答からもわかります。ただ、どうやら、わたしの読解は、まちがいだったようですね。
 
ゴミのようなコメント、すみません。ただ、わたしのような読解をしてしまう人間が他にもいるかもと思ったので、書き込ませていただきました。

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