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2025年6月17日 (火)

許可制は健全で届出制は不健全?(再掲)

昨日、最高裁判所が風営法の特殊営業事業者に持続化給付金を支給しないのはOKだよという判決を下したということで、改めてこれを掘り返してみましょう。

許可制は健全で届出制は不健全?

朝日の夕刊に「性風俗業は「不健全」か コロナ給付金巡り、国「道徳観念に反し対象外」」という記事が載っていて、この問題自体は本ブログでも厚生労働省の雇用助成金と経済産業省の持続化給付金の取り扱いの違いについて論じてみたことがありますが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/04/post-b631f8.html(新型コロナと風俗営業という象徴)

・・・雇用助成金の時には、風俗営業だからと言って排除するのは職業差別だとあれほど騒いだ人々が、岡村発言の直後にはだれも文句を言わなくなってしまっているというあたりに、その時々の空気にいかに左右される我々の社会であるのかがくっきりと浮かび上がっているかのようです。

本日はその件ではありません。

https://www.asahi.com/articles/DA3S14941351.html(性風俗業は「不健全」か コロナ給付金巡り、国「道徳観念に反し対象外」)

何の話かというと、政府が性風俗業を持続化給付金の対象から外した論拠として、スナックや料亭といった(性風俗ではない)風俗営業は公安委員会の「許可」制にしているのに対し、性風俗業は公安委員会への届出制にしていることを挙げているという点に、ものすごい違和感を感じたからです。曰く、

・・・性風俗業を「性を売り物にする本質的に不健全な営業」「許可という形で公認するのは不適当」としている。

国はこれらをもとに、性風俗業は「不健全で許可制が相当でない業務とされてきた」・・・

性風俗業がいかなるものであるかについてはここでは論じませんし、持続化給付金の対象にすべきかどうかもとりあえずここでの論点ではありません。

しかし、「本質的に不健全」であるがゆえに許可制ではなく届出制とするのだ、というこの政府が裁判所で論じたてているらしい論理というのは、どう考えてもひっくり返っているように思われます。

そもそも、行政法の教科書を引っ張り出すまでもなく、許可制というのは、一般的禁止を特定の相手方に対して解除するという行政行為です。なぜ一般的に禁止しているかといえば、それはほっとくと問題が発生する恐れがあるからであり、何か問題が起きたら許可の取り消しという形で対処するためなのではないでしょうか。

それに対して、届出制というのは一般的には禁止していないこと、つまりほっといても(許可制の事業に比べて)それほど問題は発生しないであろう事業について、でもやっぱり気になるから、念のために届出させて、何かあったら(届出受理の取り消しなとということは本来的にありえないけれども)これなりにちゃんと対応するようにしておこうという仕組みのはずです。

そして、労働法政策においても、たとえば有料職業紹介事業は許可制ですが、学校や公益法人等の無料職業紹介事業は届出制ですし、派遣も今は許可制に統一されましたが、かつては登録型派遣は許可制で、常用型派遣は届出制でした。これらはどう考えても、前者の方が問題を起こしやすく、いざというときに許可の取り消しができるように、後者はあんまり問題がないだろうから、届出でええやろ、という制度設計であったはずです。

それが常識だと思い込んでいたもんですから、このデリバリーヘルス運営会社の起こした持続化給付金訴訟において、政府が上述のような全くひっくり返った議論を展開しているらしいということを知って、正直仰天しています。

※ ま、どっちがノーマルでどっちがアブノーマルかは人類史の解釈次第でしょうけど、それよりも私が驚愕したのは、持続化給付金を所管する経済産業省なのか、風俗営業法を所管する警察庁なのかはともかく、大学の法学部で一通り行政法を勉強し、公務員試験でも行政法で受験した法律職の公務員がいっぱいいるはず(警察庁であれば大多数)の霞が関の役人たちが、そういうイロハのイをすっからかんに忘れた風情で、前近代の「お目こぼし」思想全開の議論を、裁判所で並べ立てているらしいことでした。

大学の法学部で一通り行政法を勉強したはずの霞が関の役人だけではなく、日本国の法律のエキスパート中のエキスパートであるはずの最高裁判所の裁判官たちが揃いも揃って、

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/179/094179_hanrei.pdf

そして、本件特殊営業については、風営法において種々の規制がされているところ(第4章第1節第2款)、これは、本件特殊営業が上記の特徴を有することに鑑み、このような規制をしなければ、善良の風俗や清浄な風俗環境を保持し、少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止することができないと考えられたからにほかならない(同法1条参照)。また、風営法が本件特殊営業を届出制の対象としているのは(31条の2)、本件特殊営業については、その健全化を観念することができず、風俗営業(同法2条1項)に対するものと同様の許可制をとること、すなわち、一定の水準を要求して健全化を図ることを前提とした規律の下に置くことは適当でないと考えられたことによるものと解される。

などという訳の分からない屁理屈を並べて満足しているように見えるさまは、些か唖然とせざるをえません。

類似の事業を営む者に対して、一方には許可制をとり、他方には届出制をとるという立法政策を説明するにあたって、行政法には統一的な基準というものはかけらも存在せず、そのときそのときに勝手にやっているのだ、それでいいのだ、と嘯くならともかく、日本国の行政について一般的に通用する許可制と届出制についての共通判断基準というのがあるのであれば、それはここで最高裁が堂々と謳い上げたこの基準ということになるはずですが、それでいいのですかね。

そうすると、最高裁の法理からすると、有料職業紹介事業は「一定の水準を要求して健全化を図ることを前提とした規律の下に置く」ために許可制にしているけれども、学校や公益法人等の無料職業紹介事業は「その健全化を観念することができ」ないから届出制にしているんですかね。思わず、「なるほど!」と言ってしまいそうですが。

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コメント

> 風営法で持って回った穏当な書き方をしてるのに、「不特定の者の性的欲望を満足させるため」と身も蓋もない言い方
> 「性的欲望を満足させるため」検索の結果。本件最高裁判決以外は全部犯罪
https://x.com/idleness_venomy/status/1934581471291072749

一方で、「許可制の下で、厳正に監督すべきもの」とは言わないのね
監督をしないのは、触らぬ神に祟りなしということじゃ
彼らの犯罪を取り締まるのは、彼ら自身の義務だからね

健全化をはかれるものは自らの秩序に統合し、そうでないものは排除しないまでも捨て置く。

なんだか「穢れ」の思想を感じますね。

首切り役人の山田浅右衛門を連想させる。山田浅右衛門は浪人の立場のまま幕府の御用をつとめていた。

近代法の建前からすれば、この最高裁判決は法の前の平等を否定した、構造的どころではない、正真正銘の差別と言わざるを得ない。

女子枠とか気の狂った制度が横行するなど、いつのまにか法的革命が起こったのだろうか。それとも日本国全体が中世に転生したかのようである。

許可制には、許可を取り消すことで営業を差し止めるという何か問題が起こった時の制御のためのみならず、平時において独占(寡占)的経営を認めるという意味があるのではないか。そして、そういった独占権を与えるに相応しくないという理由「でも」届出制にするということが行われることがあり、その代表例がまさに今回のデリバリーヘルスだったと。であれば、その独占的営業権を与えるに相応しくなかった理由がほぼ丸々、持続化給付金を支給するに相応しくない理由となり得る、というのが今回の判断だったのでは。

許可制には、許可を取り消すことで営業を差し止めるという何か問題が起こった時の制御のためのみならず、平時において独占(寡占)的経営を認めるという意味があるのではないか。そして、そういった独占権を与えるに相応しくないという理由「でも」届出制にするということが行われることがあり、その代表例がまさに今回のデリバリーヘルスだったと。であれば、その独占的営業権を与えるに相応しくなかった理由がほぼ丸々、持続化給付金を支給するに相応しくない理由となり得る、というのが今回の判断だったのでは。

それは、行政法の講学上では「特許」に当たります。
しかし、性風俗でない普通の風俗営業は、行政法学上の「許可」であって「特許」ではありません。
最高裁の裁判官もそうですが、もう一度行政法の教科書を読み直されることをお勧めします。

歌舞伎町弁護士の“真意”とは?
https://www.ben54.jp/news/2395
> 性風俗産業は法から見捨てられている領域になってきてしまっています。ソープランドでの本番行為など、周知の事実にもかかわらず、摘発が恣意(しい)的に行われる。
> 売春が頻発している現状を認め、そのうえで従事者の安全、透明性の高い経営、客の安心の向上などのために売春を合法化。警察の管理監督下で許可制として運用する。

営業の自由の観点から、各社の意思で設定する社内規定みたいなものを擁護するのは分かるんだけど、社会正義の実現のために社内規定を遵守せよ、って全く意味が分からないんだよな。

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