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2025年4月24日 (木)

ユヴァル・ノア・ハラリ『NEXUS 情報の人類史』@『労働新聞』書評

9784309229430_200in01 9784309229447   月イチのはずの『労働新聞』書評ですが、諸事情のため、今月またまた掲載が回ってきました。今回はグローバルヒストリーの大御所ユヴァル・ノア・ハラリの新著です。

【書方箋 この本、効キマス】第109回 『NEXUS 情報の人類史』 ユヴァル・ノア・ハラリ 著、柴田 裕之 訳/濱口 桂一郎

 世界中がおかしい。とりわけアメリカがおかしい。おかしいトランプ大統領が世界を振り回している。日本もおかしい。とりわけ大統領型で選ばれる知事や市長がおかしい。これは一体何が起こっているのか? 著者は、その近い原因をAI(人工知能)に、遠い原因を人類が生み出した共同主観に求める。だから本書は、アクチュアルな現代社会論であると同時にグローバルヒストリーでもあるのだ。

 情報とは、多くの人が誤解するように真実を映し出すものではなく、人々を共同主観的な虚構によって秩序付けるものだ。後から考えれば何の根拠もない虚構に踊らされて、多くの人の命を奪った事例は人類史に山のように見付けられる。近世初期のヨーロッパで『魔女への鉄槌』というデマ文書によって多くの人々が魔女として焼き殺された事例や、社会主義に敵対するクラーク(富農)という名のもとにスターリン体制下のソビエトで莫大な人々の命が奪われた事例は、共同主観的虚構の恐ろしさを物語る。

 だが、そういう蒙昧な時代は終わった、今や自由民主主義の天下が始まった、と、ソ連崩壊後の知識人は傲慢にも考えた。とんでもない。共同主観的な虚構の暴政は、人間が作る(紙や電波といった)メディアに頼って人間が意思決定する段階から、意思決定そのものを非有機的な存在――AIが担う段階に進みつつあるのだ。ここで注意しなければならないのは、知能は意識ではない点だ。AIは通俗SFで描かれるような意識はもたないが、決まったアルゴリズムに基づいて意思決定をする。真に恐るべきは、「ロボットの反乱」ではなく「魔法使いの弟子」なのだ。

 ミャンマーでロヒンギャの虐殺が行われた最大の原因は、フェイスブック上で、ロヒンギャへの憎悪を掻き立てる事実無根のヘイト動画が繰り返し閲覧され、拡散したことだという。なぜそうなったのか。フェイスブックの経営陣は、多くの閲覧数を獲得するようなコンテンツを優先して表示するアルゴリズムを組んでいた。ミャンマーで一番人気を博したコンテンツはロヒンギャ憎悪もので、AIは素直にヘイト動画ばかりを推奨した。検索するとヘイトコンテンツが並び、見る気のなかった人々も繰り返し見るうちにロヒンギャはとんでもない連中だと思うようになっていく。新興印刷術によって膨大な部数がまき散らされた『魔女への鉄槌』を読んだ近世人のように。事実に即してロヒンギャを擁護する投稿は、ずっと下位に位置付けられ、ほとんど見られなかった。かくして、ミャンマー人の共同主観は、フェイスブックのAIの意思決定によって、ロヒンギャ憎悪へ、虐殺へと動かされていった。これはアメリカ大統領選で、そして日本の昨今の知事選などで見られた現象を予告していたように見える。

 著者は希望を失わない。人類は自己修正メカニズムによって正道を保ってきた。しかし、それは人間が真実を認識し得る限りのことだ。AIにおいては、意思決定の理由が外から見えない。我われが直面しているのは、そういう時代なのだ。

 

 

 

 

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コメント

  このノヴァ・ハラリ氏、自分と無関係のロヒンギャの虐殺は非難できても、自分自身にとって一番重要な問題であるはずの、今現在、極右閣僚(ベン-グヴィル国家安全保障相、スモトリッチ財務相)の全面的支持を受けて行われている、ネタニヤフ政権による、ヨルダン川西岸地区およびガザでのパレスチナ人民に対する大虐殺に対しては、全く批判的に言及したことが無いんだよな。
 こんな二重基準を適用して平然としている人、本当に信用できるの、と聞かれれば、勿論私は「No」と声を大にして言いますよ、当然のことですが。
 私が信頼する、イスラエル人の知識人は、イスラエル建国時のパレスチナ人追放を実証して、国内で国賊扱いされているという歴史家、イラン・パぺ氏(「パレスチナの民族浄化」「イスラエルに関する十の神話」(いずれも法政大学出版局)の著者、エクセター大教授)です。ぜひ、パぺ氏の著作を読んでください。
 また、今現在の惨状については、「パレスチナの民族浄化」の共訳者の一人、早尾貴紀先生(東経大)のX(旧Twitter)などが参考になりますので、こちらのチェックもよろしくお願いいたします。

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