安周永『転換期の労働政治』
安周永『転換期の労働政治 多様化する就労形態と日韓労働組合の戦略』(ナカニシヤ出版)をお送りいただきました。ありがとうございます。
https://www.nakanishiya.co.jp/book/b10132265.html
類似した状況の下で労働市場改革が進められてきた日韓両国。しかしその帰結は大きく異なるものであった。この違いはなぜ生じたのか。就労形態の多様化と不安定労働者の増加のなかで、労働組合はどのように労働者を代表し、利益を実現するべきか。
この著者の本は,以前『日韓企業主義的雇用政策の分岐』(ミネルヴァ書房)を大原雑誌で書評したことがあります。
https://oisr-org.ws.hosei.ac.jp/images/oz/contents/659-660-10.pdf
そのとき、「雇用政策や労働法の研究者が本書を読むと,その政治学的分析の是非巧拙よりも,素材たる雇用政策や労働法に対する認識にいくつかの疑問を持つ可能性があるからである。いや正直に言えば,評者が本書を通読した際に時折つまずいたのは,まさにそのような諸点であった」と述べたのですが、今回もいくつかの点で似たような感想を持ちました。
序章 労働政治の変容と日韓の相違点
第1節 深刻化する企業主義的労働市場の問題
第2節 日韓労働政策の改革
第3節 労働組合と労働政治
第4節 本書の構成
第1章 制度変化と労働組合の戦略
第1節 制度変化の圧力
第2節 新制度論の視点と争点
第3節 制度変化に着目したアプローチとその問題点
第4節 転換期における労働組合の戦略
第2章 日韓労働組合の歴史と戦略
第1節 日韓労働組合の前史
第2節 労働政策過程の特徴と変化
第3節 労働組合の戦略と日韓の違い
第3章 企業別労使関係の慣行と労働者代表性の課題
第1節 労働時間規制の変化と労働者代表問題
第2節 労働時間短縮の歴史と契機
第3節 時間外労働規制の政治過程と問題点
第4節 労働者代表としての労働組合の課題
第4章 労働組合の戦略Ⅰ 不安定労働者の包摂
第1節 プラットフォーム経済と新しい就労形態
第2節 プラットフォーム就労者の保護政策
第3節 労働組合の取り組み─ヨーロッパと日本
第4節 労働組合の取り組み─韓国
第5節 新しい働き方と労働組合の戦略
第5章 労働組合の戦略Ⅱ 政党と社会運動団体との提携
第1節 日韓リベラル政党の浮沈と相違点
第2節 民主党の失敗と日本の社会運動
第3節 リベラル政党と政党対立軸の変化
第4節 社会運動と労働運動との関係
第5節 リベラル政党再生の道標
第6章 労働組合の戦略Ⅲ インサイダー・アウトサイダー戦略
第1節 日韓働き方改革の類似点と相違点
第2節 働き方改革をめぐる審議会での攻防
第3節 働き方改革をめぐる国会での攻防
第4節 アウトサイダー戦略の意義と限界
第7章 労働政治のダイナミズムと最低賃金の変遷
第1節 最低賃金の政治化と韓国の変化
第2節 最低賃金をめぐる労働組合の戦略
第3節 最低賃金引き上げをめぐる攻防
第4節 最低賃金をめぐる今後の論点
第8章 新たな労働運動の可能性
第1節 組織転換と学校非正規労働者の組織化
第2節 学校非正規労働者の特徴と待遇改善
第3節 学校非正規労働者をとりまく環境要因
第4節 非正規労働者の戦略的取り組み
第5節 不安定労働者の組織化の可能性
終章 労働組合と民主主義の活性化に向けて
第1節 日韓労働政治の分岐
第2節 労働組合の課題と労働政治のこれから
第3節 民主主義の危機と労働政治の役割
ただ今回は、労働政策へのアプローチの違いの根っこにある日韓労働組合の歴史の違いに遡って論じています。インサイダー戦略にせよ、アウトサイダー戦略にせよ、ゲームで自由に選べるわけではなく、それまでの歴史と経緯によって否応なく縛られてしまう面がある以上、そこを無視することはできません。一方で、韓国の労働組合が例えばプラットフォーム労働といった新たな課題に対して、より縛られずに積極的に行動できるというメリットを存分に振るっていることも第4章から浮かび上がってきます。
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