令和6年度沖永賞
本日、労働問題リサーチセンターの令和6年度沖永賞の授賞式があり、わたくしも出席してきました。
https://www.rodorc.or.jp/recognize
受賞作は以下の3著書、1論文ですが、
(著者)森永 雄太(上智大学経済学部教授)
(発行所) 千倉書房
(著者) 高島 正憲(関西学院大学経済学部准教授)
(発行所)吉川弘文館
雇用慣行・賃金格差・出産子育て 』
(著者) 永瀬 伸子(お茶の水女子大学基幹研究院教授)
(発行所) 勁草書房
―セクシュアル・ハラスメント、差別的ハラスメント及び
「パワー・ハラスメント」に関する日仏カナダ比較法研究』
(著者) 日原 雪恵(山形大学人文社会科学部専任講師)
(掲載誌)法学協会雑誌 140巻1号1頁、3号347頁、5号547頁、7号829頁、9号1193頁、
11号1463頁、141巻1・2号1頁(2023年1月~2024年1月)
永瀬さんの本はお送りいただいたときにここでご紹介していますし、日原さんの論文は法学協会雑誌連載時から読んでいました。お二人は以前からよく存じ上げています。
それに対して初めのお二人はこれまでお目にかかる機会はなかったのですが、じつは『賃金の日本史』の高島さんとは、ある一点で接点があったのです。
それは、「ちんぎん」の「ぎん」の字は、「金」か「銀」かという、まことにトリビアな、世間の普通の人はあんまり関心を持たないようなトピックに関心を持って、わざわざそういう文章を書いたりする奇特な人間同士であるという点だったんです。
『賃金の日本史』を書かれた高島正憲さんが、歴史書の老舗吉川弘文館のPR誌『本郷』の2023年11月号に「「賃銀」から「賃金」へ」というエッセイを寄稿されていたことに気がつきました。noteに載ったからですが。そこに、私の書いた小論が引用されていました。
そもそも、我われがあたりまえのように日常のなかで使っている「賃金」という言葉はいつから日本で広まりだしたのであろうか。書籍や論文、雑誌記事、ウェブなどいろいろと調べていると、やはりというか、なぜ「賃銀」ではなくて「賃金」なのかと同じような疑問を考えている人は多いようである。
濱口桂一郎「賃銀と賃金」(『労基旬報』二〇二二年六月二五日号)では、「賃金」という表記は戦前から存在しており、特に法令上はその表記の方が多かったとして、法制史上の事例の考察と、そこから導き出される「賃銀」から「賃金」への移行についての仮説が紹介されている。たとえば、 一九三九年に公布された労働賃金を抑制する賃金統制令や賃金臨時措置令は、法令名そのものがまさに「賃金」であるし、それら法令は一九三八年の国家総動員法にもとづいたものだが、その本文にも「賃金其ノ他ノ従業条件」(第六条)という表記が確認される。また、法令上で「賃金」をさかのぼることができるのは一九一六年の工場法施行令で、条文中に「賃金」という表記が二〇箇所以降も確認することができ、それより五年前の一九一一年に公布された肝心の工場法には「賃金」が見当たらないことも指摘されている。
よく知られているように、労働者保護の法令を作成する機運は、工場法制定に先立つこと数十年前の明治期半ばよりあったが、企業・財界よりの反対や政府の調整不足などで法案が作成・提出されるも長い間制定にはいたらなかった。それらの草案では「賃銀」や「賃銭」の表記となっていたが、他方、民法ではすでに「賃金」という表記がされており、またその定義するところも家賃、債権、雇人の給料など複数の意味で書かれるなど、用語としてはやや混乱した状況であったようである。その後、工場法の制定・施行過程で(意味が異なるとはいえ)民法に明記された「賃金」の表記が使われるようになり、やがて戦時下の統制関係の法令によって「賃金」の使用が確立した、という仮説となっている。私の小論は、せいぜい明治以降の労働関係法令用語や社会政策学者の本くらいまでしか論じていませんが、古代からの賃金史を書かれた高島さんらしく、ここから話はさらに拡大し、明治初期から江戸時代までいろんな用例を紹介されています。
と、中世にまで遡ったあとに、最後のオチとして、21世紀になっても岩波文庫のマルクスの本は『賃銀・価格および利潤』(長谷部文雄訳) であるという話で締めくくっています。
というわけで、本日は初めて高島正憲さんにお目にかかり、ちょっと変わった「賃金」論者同士としてご挨拶をさせていただきました。
それで本日のやることは終わりかな、あとはのんびり、と思ったら、そこに飛び込んできたのは・・・・・
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