ねじれにねじれた家政婦と家事使用人をめぐる法政策をどうただすか@『労働法律旬報』2025年2月下旬号
『労働法律旬報』2025年2月下旬号は、「家政婦過労死事件東京高裁判決を受けて」という特集を組んでいますが、その中にわたくしは「ねじれにねじれた家政婦と家事使用人をめぐる法政策をどうただすか」という論考を寄せております。
https://www.junposha.com/book/b658748.html
[巻頭]スキマバイトは人間労働に値するか=新谷眞人…………04
[特集]家政婦過労死事件東京高裁判決を受けて
山本サービス(渋谷労基署長)事件東京高裁判決を受けて=指宿昭一…………06
ねじれにねじれた家政婦と家事使用人をめぐる法政策をどうただすか=濱口桂一郎…………12
家事労働者は楽な働き手か?~軽視された「感情労働」と「危険労働」の重さ=竹信三恵子…………18
[労働判例]国・渋谷労基署長(山本サービス)事件・東京高裁判決〈令6.9.19〉…………49
[研究]鎌田耕一氏の間接雇用論の批判的検討=萬井隆令…………26
[労働判例速報]京王プラザホテル札幌事件・札幌高判令6.9.13
「事業の正常な運営を妨げる」の解釈=淺野高宏…………38
[連載]『労旬』を読む179ストライキ物語(24)
―「産業民主主義の護民官、労働省」説(その7)=篠田 徹…………40
[解説]安倍労働規制改革―政策決定過程の記録(118)2019年5月~6月⑫(編集部)…………42
[資料]安倍政権規制改革資料一覧(5月~6月)⑫…………48
内容は、一昨年刊行した『家政婦の歴史』(文春新書)の要約になっていますが、労働法研究者や労働弁護士の方々がこれをどのように読まれるかが楽しみです。
はじめに2024年9月19日、東京高裁は家政婦過労死事件(国・渋谷労基署長(山本サービス)事件)について、原審の2022年9月29日東京地裁判決を覆し、原告の妻であった家政婦の過労死を認定した。原審はマスメディア等でも大きく取り上げられ、多くの識者から批判されていただけに、穏当な結論に落ち着いたというのが一般的な受け止めであろう。政府も上告を断念して高裁判決が確定した。しかし、この問題にはマスコミ報道が伝えない複雑に入り組んだ歴史的な因縁があり、筆者以外の誰ひとりとしてそれを指摘することがなかった。原審や本判決の判例評釈でも、筆者が指摘した点に触れるものはただの一つもない。たったひとりしか指摘しないというのはそれが常識外れだからだ、というのが世間の常識人の判断であろう。たしかに、筆者の指摘することは思い込みという意味での「世間の常識」には反している。しかしながら、その「常識」は法令の明文の規定に反するものだったのである。そしてその明文の規定は、1999年4月の改正労働基準法施行までは労働法令集の一番目に触れるところに堂々と掲載されていた。おそらく現在50歳代以上になる労働法関係者は、若い頃にはその明文の規定を目にしていたはずである。見たことがないとは言わせない。なぜならそれは、労働基準法施行規則1条という、省令の中の一丁目一番地に位置する規定だったからだ。誰の目にも映っていながら、誰ひとりとしてその意味を考えようとすることがなかったその明文の規定こそが、今回の家政婦過労死事件の法的真実を明らかにするための鍵である。高裁判決が残した課題派出婦会は労働者供給事業であった矛盾だらけの仕組みの正し方家政婦ではない家事使用人をどうするか・・・・多くの読者の先入観には反するであろうが、家事労働に関する限り、一般家庭の直接雇用が諸悪の根源であり、労働者派遣による間接雇用こそが労働者保護のための鍵なのである。
(参考)
コメント欄で「つな」さんが菓子職について聞かれているので、参考までに労務供給事業規則の当該部分のコピーを張り付けておきます。
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「家政婦の歴史」を大変興味深く読ませていただきました。その中で、菓子職がかつて労働者供給事業として認められていたという記述がありましたが、これにはどういった歴史的経緯があるのか気になりました。こちらも有閑主婦が始めたニュービジネスが起源なのでしょうか。
投稿: つな | 2025年2月25日 (火) 18時06分
そういう事情は一切わかりませんが、とにかく労務供給事業規則(昭和13年厚生省令第17号)の別表の1と別表の2の備考欄に、人夫や家政婦と並んで菓子職という文字があることは確かです
参考までに、本文の下の方にそのコピーを張り付けておきます
投稿: hamachan | 2025年2月25日 (火) 21時09分