フォト
2025年3月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          
無料ブログはココログ

« 【特別寄稿】日本の中小企業とジョブ型雇用(後)@『I.B企業特報』新春特別号 | トップページ | 日本の賃金はなぜ上がらないのか@『Work & Life 世界の労働』2025年第1号 »

2025年2月16日 (日)

河野龍太郎『日本経済の死角』

61wt5ydcl_sy522_ 河野龍太郎さんの新著『日本経済の死角――収奪的システムを解き明かす』(ちくま新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480076717/

経済エリートたちの誤解をとき、 論壇に一石を投ずる問題作!

経済構造のあらゆる謎が氷解する快著! 生産性と実質賃金への誤解をはじめ労働法制、企業統治など7つの「死角」から停滞を分析、「収奪」回避の道筋を示す。

エリートたちの「誤解」とは何か?

もちろん下の目次にあるように、本書は経済の実に広範な分野にわたって論じてるのですが、その中でも一番力を込めて論じているのは、実はわたくしが昨年刊行した『賃金とは何か』で論じたところと大きく重なっているのです。

この話は第1章の「生産性が上がっても実質賃金が上がらない理由」や第2章の「定期昇給の下での実質ゼロベアの罠」で論じられた後も、本書の中で繰り返し出てくるのですが、ここではそれをかなりまとめた記述が第6章の「コーポレートガバナンス改革の陥穽と長期雇用制の行方」の冒頭に出てくるので、それを引用しておきます。

そう、まさにそうなんですよ!!!といいたくなる見事な謎解きです。

ここまでの議論を簡単にまとめておきましょう。まず、過去四半世紀の間、日本では、時間当たり生産性が3割上昇しましたが、時間当たり実質賃金では全く増えていません。むしろ実質賃金は、近年の円安インフレもあって、減少しています。

ただ、実質賃金は増えなくても、長期雇用制の枠内にいる人は、毎年2%弱の定期昇給(定昇)があるため、賃金カーブに沿って賃金は上昇しています。属人べースでみると、四半世紀で、賃金は1.7倍となります。このため、日本の大企業エリートは、1世代前に比べて、自分たちの実質賃金が全く増えていないことを十分に認識していません。多くの場合、1990年代末の課長や部長に比べると、現在の課長、部長の賃金は、名目でも、実質でも減っています。・・・・

にもかかわらず、大企業では、新入社員だった頃に比べて所得が大きく増えていることから、「実質賃金が上がっていないのは、生産性の低い中小企業などの話」と受け止めがちで、「そうした中小企業が、自分たちのような収益性が高くて、生産の高い企業に生まれ変わるには、一国全体で成長戦略を進めるしかない」という考えに取り憑かれた大企業経営者も少なくありません。

ベンチマークとなる大企業の実質賃金が全く上がっていないため、長期雇用制の枠外にいて、フラットな賃金カーブに直面する人々は、より深刻な影響を受けています。労働需給の逼迫の影響で、近年多少は実質賃金が切り上がったとはいっても、もともとの賃金水準が極めて低いこともあって、経済成長の果実をほとんど手にすることができていないのです。・・・・・

河野さんの本は以下の通り7章立てですが、そのうち第1章、第2章、第4章、第5章、第6章と大部分の章は、直接的ないし間接的に労働問題を取り扱っています。日本経済の死角のかなりの部分は労働市場に関わる死角なのです。

第1章 生産性が上がっても実質賃金が上がらない理由

1 なぜ収奪的な経済システムに転落したのか
アベノミクスの大実験の結果/成長戦略の落とし穴/未完に終わった「新しい資本主義」/生産性が上がっても実質賃金は横ばい/米国の実質賃金は25%上昇/欧州は日本より生産性は低いが実質賃金は上昇/日本は収奪的な社会に移行したのか/儲かっても溜め込む大企業/不良債権問題と企業の貯蓄/筋肉質となった企業がとった行動/守りの経営が定着/定着したのは実質ゼロベア?/家計を犠牲にする政策/異次元緩和はいつ行われるべきだったか
2 コーポレートガバナンス改革の罠
青木昌彦の予言/メインバンクの代わりに溜め込んだ/メインバンク制崩壊とコーポレートガバナンス改革/コーポレートガバナンス改革の桎梏/非正規雇用制という収奪的なシステム/良好な雇用環境の必要性/収奪的な雇用制度に政府も関与
3 再考 バラッサ・サミュエルソン効果
生産性が低いから実質円レートが低下するのか/日本産業の危機

第2章 定期昇給の下での実質ゼロベアの罠

1 大企業経営者はゼロベアの弊害になぜ気づかないのか
ポピュリズムの政党が台頭する先進各国/実質賃金が抑え込まれてきた理由/問題が適切に把握されていない/属人ベースでは実質賃金は上昇している/実質ゼロベアが続くのか
2 実質ゼロベアの様々な弊害
インバウンドブームを喜ぶべきではない/賃金カーブの下方シフト/賃金カーブのフラット化も発生/実質賃金の引き上げに必要なこと

第3章 対外直接投資の落とし穴

1 海外投資の国内経済への恩恵はあるのか
一世代前と比べて豊かになっていない異常事態/海外投資は積極的/国際収支構造の変化/海外投資の拡大を推奨してきた日本政府への疑問/好循環を意味しない株高
2 対外投資は本当に儲かっているのか
勝者の呪い/高い営業外収益と無視し得ない特別損失/キャリートレード?/過去四半世紀の円高のもう一つの原因/円高危機は終わったのか/資源高危機/超円安に苦しめられる社会に移行/なぜ利上げできないのか/日銀は「奴雁」になれるか

第4章 労働市場の構造変化と日銀の二つの誤算

1 安価な労働力の大量出現という第一の誤算
ラディカルレフトやラディカルライトの台頭/高齢者の労働参加率の高まりのもう一つの背景/女性の労働力率の上昇は技術革新も影響/異次元緩和の成功?/第二のルイスの転換点?/労働供給の頭打ち傾向と賃金上昇/ユニットレーバーコストの上昇
2 もう一つの誤算は残業規制のインパクト
コストプッシュインフレがなぜ長引くのか/働き方改革の影響が現れたのは2023年春/需給ギャップタイト化の過小評価は2010年代半ばから/古典的な「完全雇用状態」ではない
3 消費者余剰の消滅とアンチ・エスタブリッシュメント政党の台頭
ユニットプロフィットの改善/グリードフレーションか?/大きな日本の消費者余剰の行方/小さくなる消費者余剰/消費者余剰の消滅とアンチ・エスタブリッシュメントの台頭

第5章 労働法制変更のマクロ経済への衝撃

1 1990年代の成長の下方屈折の真の理由
長期停滞の入り口も「働き方改革」が影響/構造改革派の聖典となった林・プレスコット論文/構造改革路線の帰結/潜在成長率の推移/週48時間労働制から週40時間労働制への移行/労働時間短縮のインパクト/バブル崩壊後のツケ払い
2 再考なぜ過剰問題が広範囲に広がったか
誰がバブルに浮かれたのか/実質円安への影響/今回の働き方改革も潜在成長率を低下させる/かつての欧州とは問題が異なる

第6章 コーポレートガバナンス改革の陥穽と長期雇用制の行方

1 もう一つの成長阻害要因
これまでのまとめ/メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用/雇用制度を変えようとすると他の制度との摩擦が生じる/メインバンク制の崩壊と日本版コーポレートガバナンス改革の開始/メインバンク制のもう一つの役割/理想の経営からの乖離/冴えないマクロ経済の原因とは
2 略奪される企業価値
株式市場の実態/収奪される企業価値/本末転倒の受託者責任/米国の古き良き時代とその終焉
3 漸進的な雇用制度改革の構想
ジョブ型を導入すると一発屋とゴマすりが跋扈/長期雇用制の維持と早期選抜制の導入

第7章 イノベーションを社会はどう飼いならすか

1 イノベーションは本来、収奪的
果実の見えないテクノロジー革命/ハラリが警鐘を鳴らしたディストピア/イノベーションの二つのタイプ/生産性バンドワゴン効果は働くか/平均生産性と限界生産性の違い/第一次産業革命も当初は実質賃金を下押し/実質賃金の上昇をもたらした蒸気機関車網の整備/汎用技術が重要という話だけではない/資本家や起業家への対抗力を高める/戦後の包摂的なイノベーション/自動車産業の勃興のインパクト
2 野生的なイノベーションをどう飼いならすか
1970年代以降の成長の足踏み/イノベーションで失われた中間的な賃金の仕事/イノベーションのビジョンとフリードマン・ドクトリン/具体案を提示したのはマイケル・ジェンセン/成長の下方屈折とその処方箋/ノーベル経済学賞の反省?/経済政策の反省/野生化するイノベーション/収奪的だった農耕牧畜革命/AI新時代の社会の行方/既存システムの限界/付加価値の配分の見直し/反・生産性バンドワゴンを止めよ

 

 

 

 

« 【特別寄稿】日本の中小企業とジョブ型雇用(後)@『I.B企業特報』新春特別号 | トップページ | 日本の賃金はなぜ上がらないのか@『Work & Life 世界の労働』2025年第1号 »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 【特別寄稿】日本の中小企業とジョブ型雇用(後)@『I.B企業特報』新春特別号 | トップページ | 日本の賃金はなぜ上がらないのか@『Work & Life 世界の労働』2025年第1号 »