海老原嗣生『静かな退職という働き方』
雇用のカリスマこと海老原嗣生さんから久しぶりの新著『静かな退職という働き方』(PHP新書)をお送りいただきました。
https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-85879-1
「静かな退職」――アメリカのキャリアコーチが発信し始めた「Quiet Quitting」の和訳で、企業を辞めるつもりはないものの、出世を目指してがむしゃらに働きはせず、最低限やるべき業務をやるだけの状態である。「働いてはいるけれど、積極的に仕事の意義を見出していない」のだから、退職と同じという意味で「静かな退職」なのだ。
・言われた仕事はやるが、会社への過剰な奉仕はしたくない。
・社内の面倒くさい付き合いは可能な限り断る。
・上司や顧客の不合理な要望は受け入れない。
・残業は最小限にとどめ、有給休暇もしっかり取る。
こんな社員に対して、旧来の働き方に慣れたミドルは納得がいかず、軋轢が増えていると言われる。会社へのエンゲージメントが下がれば、生産性が下がり、会社としての目標数値の達成もおぼつかなくなるから当然である。
そこで著者は、「静かな退職」が生まれた社会の構造変化を解説するとともに、管理職、企業側はどのように対処すればよいのかを述べる。また「静かな退職」を選択したビジネスパーソンの行動指針、収入を含めたライフプランを提案する。
実は読みながら、言ってることは全てその通りなんだけど、それを「静かな退職」って言うんかい?という疑問がつきまとって、素直に読み進められませんでした。
というのも、本書の前半部で口が酸っぱくなるくらい繰り返し説かれているように、そういう働き方こそが、ごく一部のエリート層と異なるそんじょそこらのごく普通の労働者層にとっては普通の働き方なんであり、彼らは別段静かに退職しているつもりなんかなくって、いや俺たちあたしたちが働くってのはこういうことなんだぜ、と言ってるだけだからなんですね。
それこそが、わたくしがこれまた何回も口が酸っぱくなるほど繰り返しているように、人事コンサルタントがやたらに売り歩くキラキラ輝いている幻の「ジョブ型」なんかじゃなくって、地味でぱっとしないそんじょそこらに転がってるごくごく普通のリアル「ジョブ型」なのであってみれば、それを「静かな退職」っていうのはどうにも違和感があります。
あと、海老原さんの解説編はいつもどおりで文句の付け所はほとんどないのですが、真ん中あたりで突然「静かな退職をまっとうするための仕事術」という章に入ると、やたらにせこい手練手管があれこれ紹介されていて、いやいやそこまで気を配りまくってやらなきゃ、この日本でやっていくのは難しいのね、ということが改めて感じさせられます。
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素人の的外れな疑問ですが
>「静かな退職」――アメリカのキャリアコーチが発信し始めた「Quiet Quitting」の和訳で
>そういう働き方こそが、ごく一部のエリート層と異なるそんじょそこらのごく普通の労働者層にとっては普通の働き方なんであり、彼らは別段静かに退職しているつもりなんかなくって、いや俺たちあたしたちが働くってのはこういうことなんだぜ、と言ってるだけだからなんですね。
ジョブ型雇用が一般的な欧米では、大部分(そんじょそこらのごく普通)の労働者にとって「Quiet Quitting」は
これまでもこれからもごく普通の働き方だ
という事はなんとなく納得できます。わからないのは
このアメリカの専門家(キャリアコーチ)は、なぜ自国の大部分の労働者にとってごく普通の働き方を、
新しい働き方であるかのようにわざわざ 「Quiet Quitting」 と命名したのか?
という事です。
考えられる事として
A) アメリカではジョブ型雇用は多数派ではない
B) ごく一部のエリート層にも普通の労働者層の働き方が浸透してきている
C) この専門家は、この働き方が大部分の労働者にとってごく普通の働き方である事を知らなかった
D) この専門家は、メンバーシップ型の日本の労働者の働き方について述べている
等がありますが、どれもあまり納得できません。
投稿: Alberich | 2025年3月 2日 (日) 21時31分
ご無沙汰です。感想は、同意見です。「退職」との命名に違和感があります。
投稿: 佐藤博樹 | 2025年3月 4日 (火) 22時36分