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2025年1月

2025年1月16日 (木)

「東スポnote」で『賃金とは何か』紹介

Asahishinsho_20250116131901東京スポーツ新聞社の紙面で過去に掲載された連載がまとめて読めたり、ココだけしか読めないコンテンツがあったりします」という「東スポnote」で、拙著『賃金とは何か』がかなり詳しく紹介されています。

「上げなくても上がるから上げないので上がらない賃金」ってどういうこと

・・・そもそも給料とは何かを一から考え直すべく、『賃金とは何か 職務給の蹉跌と所属給の呪縛』という本を読みました。ベア(ベースアップ)を身をもって知らない私にとっては、この奇妙な和製英語が1950年に初めて使われた、意外と古い言葉なんだと知っただけで読む価値がありました。当時の日本はまだ占領下で、GHQによる緊縮政策が進められる中、賃金抑制の手段に対する呼び名であった「賃金ベース」という言葉が、労働組合運動によってそれを突破していつしか賃金引き上げを図るための言葉として使われるようになったというのは数奇な話でしょう。また、ジョブ型雇用をめぐる議論が60年前に行われていて、まったく実現しないまま終わったというのも皮肉めいたものを感じます。

一番膝を打ったのが、タイトルにも入れた「上げなくても上がるから上げないので上がらない賃金」という文言です。一読したときにはまるで意味が飲み込めず、お笑いコンビ「かまいたち」のUFJ・USJ漫才の中に登場する魔のフレーズ、「もし俺が謝ってこられてきてたとしたら絶対に認められてたと思うか?」を思い出してしまいました(笑)。漫才はさておき、どういうことなのかを見ていきましょう。・・・

と、このフレーズの意味を解説したうえで、

賃金の世界と歴史は想像以上に複雑怪奇でしたが、これは実にわかりやすくて面白いですね!給料のために働いていますが、私は面白いことを面白く伝えるために働いている気がしないでもないでも過言ではないような気がしています(笑)。(東スポnote編集長・森中航)

私のこの本も、そういう意味で言えば、「面白いことを面白く伝えるために」書いたという面があるのかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

2025年1月15日 (水)

日雇労働被保険者数6,408人@『労務事情』2024年1月1/15日号

B20250115 『労務事情』2024年1月1/15日号に「日雇労働被保険者数6,408人」を寄稿しました。

https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/romujijo/b20250115.html

 厚生労働省が毎年公表している『雇用保険事業年報』令和5年度版によると、2023年度末における日雇労働被保険者数は6,408人であったそうです。・・・・

 

2025年1月13日 (月)

濱口桂一郎は労働法の研究者にすぎないのに

先日の、リクルートワークス研究所のインタビュー記事に対して、

https://www.works-i.com/research/project/globalcareer2024/koyou/detail004.html

こんなつぶやきが付けられたようなんですが、

濱口桂一郎は労働法の研究者にすぎないのに、ときとして、日本企業の経営へコンサル的意見を述べるのはなぜなのか、理解に苦しむ。この種の人間は、「日本の強み」と、まさに、まさに、財界オヤジが使うタームを疑いもなく使えてしまう部分で、やはり「官僚」のくそ意見でしかないのである。

確かに、私は「労働法の研究者にすぎない」し、その意見が「やはり「官僚」のくそ意見でしかない」のも否定しませんが、少なくとも私が「日本企業の経営へコンサル的意見を述べ」たりしているというのは、どこを捉えてそう言うているのでしょうかね。

どうもこの方は、わたしが「日本の強み」とかを褒め称える財界オヤジみたいなことを言うていると思い込んでいるみたいなんですが、このインタビュー記事をちゃんと読めばわかるように、その逆なんですけどね。

日本はもう駄目だ、駄目だと言われながら、日本には人事異動とOJTの強みがあって、この良さをちゃんとうまく使っていけばやがて復活するだろうという、恐らく唯一の希望が、今回のこの調査で、見事に粉々にたたきつぶされた(笑)。 

今まで日本の強みだとほめそやされてきたのが実は嘘だった、というのがこのワークス研の調査のコアであって、それを素直に表出しているだけなんですが、なぜかこれが、「日本の強み」をほめそやす財界オヤジの発言みたいに見えてくるようです。

脊髄反射という言葉がありますが、脊髄までも行ってないんじゃないのかな。ひとつのセンテンスの途中で思い込んだらもうそれだけで反応しちゃうというのは。

 

 

2025年1月10日 (金)

「日本の強みは人事異動とOJT」は嘘。幻想を捨て、一から日本型の能力開発を@リクルートワークス研究所インタビュー

リクルートワークス研究所が最近立て続けにアップしている「 日本の雇用のあり方を考える」インタビューに、わたくしの番も回ってきました。

「日本の強みは人事異動とOJT」は嘘。幻想を捨て、一から日本型の能力開発を

日本と海外の雇用システムに詳しく、政策や企業実務に影響を与えてきた濱口氏に、Global Career Survey(GCS)2024 の報告書『「日本型雇用」のリアル』についての感想や解釈を伺うとともに、OJTや人事異動を中心にした日本の能力開発の課題に関して示唆をいただいた。

歯に衣を着せずに相当にズバズバ発言しておりますので、心してお読みください。

——Global Career Survey 2024の結果をご覧になって、率直にどう思われましたか。
 
一番おもしろかったのが、皆さんもそうだと思いますがOJTに関してです。これぞ日本の特徴だ、強さだと言ってきたのが全然そうじゃなかったじゃないか、というのがおもしろくて。・・・・・
——ホワイトカラーの人たちは、何をもってOJTと感じているのでしょうか。
 
はっきり言って、皆さん薄々感じているんじゃないですか。2年か3年おきに人事異動で新しい職場に飛ばすのをOJTと称しているだけじゃないかって。・・・・・・
——先ほど先生がおっしゃった人事異動も、実際に経験がある人が非常に少なかった。頻繁な配置転換を通してジェネラリストを育成しているという日本の特徴が実際には見られなかったことは、どのように受け止められますか?
 
これもおもしろいデータでした。パート有期法第8条に、“通常の労働者”という概念があります。正社員として業務や配置が転々と変わっていくのが通常の労働者で、そうでないのが短時間労働者とか有期労働者と書いてあります。企業の方に人事権があるかどうかの違いを言っているわけです。でも実際には異動していなかった。・・・・・・
——先ほど、ホワイトカラーには能力評価システムが存在しないという話がありました。なぜないのでしょうか。
 
厚生労働省でも、繰り返し作っていますが、全部失敗してきています。企業で使われないのです。役に立たないから使わないのでしょうね。・・・・・・
——最後に、日本企業にとってここからどういう道があるのか、希望があるとしたらどんなことなのか、伺いたいです。
 
日本はもう駄目だ、駄目だと言われながら、日本には人事異動とOJTの強みがあって、この良さをちゃんとうまく使っていけばやがて復活するだろうという、恐らく唯一の希望が、今回のこの調査で、見事に粉々にたたきつぶされた(笑)。・・・・・・

 

 

 

 

 

2025年1月 9日 (木)

大庭伸介『レッド』

9784784592258206x300 ネット上では「希流」と名乗っている服部一郎さんから、大庭伸介『レッド 先人たちの闘いの成功と失敗に学び現在(いま)に生かそう』(社会評論社)をいただきました。

https://www.shahyo.com/?p=13741

私たちの大先輩たちは、とりわけ戦前については、現在では想像もつかないような困難な状況下で、さまざまな闘いを展開してきました。ときに勝利することはあっても、ほとんどの場合は敗北に終わっています。しかし、その闘いを我が身に引き寄せてとらえかえせば、実に多くの教訓を引き出すことができる。・・・労働運動の歴史を総括し、私たちの共有財産として継承・発展させることが、今ほど求められているときはないのではないでしょうか。

昔は多くの本が出されていたけれども、昨今はほとんど見ることのない近代日本の労働争議の歴史です。著者の大庭さんが一冊本を書いている戦前の日本楽器争議がやや詳しく書かれていますが、あとはどちらかというと概説書です。

服部さんが本に挟んでいたメモによると、「在野の労働運動、社会運動研究史家としては日本でもっともすぐれた人物の一人」と絶賛していますが、確かに大変読みやすくいい本だとは思いますが、ここまで手放しで左翼労働運動を称賛できるのかなという疑問は、今日読む多くの人は感じるでしょうね。共産党が日和ったから失敗したんだとか、三鉱連が日和ったから負けたんだとか、そういう歴史観でいいのかな、と。

第Ⅰ部 先人たちの歴史を現在に生かそう【戦前篇】
⑴ 資本の横暴に抗う女性たち─「泣きの涙」から闘う主体ヘ
⑵ ストライキ時代が到来─日本経済の心臓部に闘いの炎
⑶ 左翼労働運動が登場─全戦線を牽引して大活躍
⑷ 在日朝鮮人労働者が奮闘─劣悪な環境、差別と虐待に抗して
⑸ 全国で米よこせ運動─「満州事変」下で左翼が柔軟に対応

第Ⅱ部 先人たちの歴史を現在に生かそう【戦後篇】
⑴ 怒濤の如き労働者の進撃─悔やまれる〈革命の逸機〉
⑵ 延べ六〇〇万人がゼネストに決起 破防法の団体適用を実質不可能に
⑶「あれっ!?  キャディーが消えた」─川奈ホテルのリレー式ストライキ
⑷「革命の子」をめぐる総労働と総資本の対決─戦後労働運動の分水嶺・三池争議

第Ⅲ部 米騒動から百年、日本史上最大の民衆蜂起に学ぶ
⑴ 井戸端会議から全国一〇〇万人の内乱へ
⑵ 軍隊の鎮圧に抗する虐げられた人々
⑶ 内閣を倒した民衆の歴史的な大勝利
⑷ 民衆の力で〝冬の時代〟に終止符を打つ
⑸ 怒りを行動に組織した地域社会の連帯
第Ⅳ部 岸本健一著『日本型社会民主主義』についての覚書

 

 

 

 

 

エマニュエル・トッド『西洋の敗北』@『労働新聞』書評

71tzv7pjh6l276x400 4年目に突入した『労働新聞』の書評欄、今年も月1回で進めて参りますので、よろしくお願いします。

さて、今年最初の「書方箋 この本、効キマス」は、エマニュエル・トッドの『西洋の敗北』(文藝春秋)です。

https://www.rodo.co.jp/column/189325/

 本欄でエマニュエル・トッドを取り上げるのは約2年ぶりだが、前回(参考記事=【書方箋 この本、効キマス】第4回 『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』エマニュエル・トッド 著/濱口 桂一郎)の本がトッド人類史の総括編であったのに対し、今回の本はロシア・ウクライナ戦争について世の常識と正反対の議論をぶちかまし、返す刀で米英をはじめとする西側諸国をめった斬りにするすさまじい内容である。なにしろ、ロシアは勝っているというのだ。ウクライナに対してだけではない。ウクライナを支援しているアメリカや西洋諸国に対して現に勝ちつつある。むしろ崩壊の寸前にあるのは米英の方であり、それに巻き込まれているヨーロッパ諸国だというのだ。

 トッドは別にプーチンが正義だなどといっているのではない。トッド流の家族構造による世界各国の絵解きからすると、ロシアは中国と同じ共同体家族だが、ウクライナは東欧では数少ない核家族型社会であって、ウクライナがロシア支配を嫌がるのは当然だ。しかし、地政学的にウクライナをロシアから引き剥がそうとする企てはウクライナに悲劇をもたらす。

 そこから話は西洋諸国への批判に向かう。西側の政治家や知識人はロシアの専制主義に対して西洋の自由民主主義が闘っていると思い込んでいるが、実は西洋のリベラル寡頭制とロシアの権威主義的民主主義との闘いなのだ。そして今崩壊の危機に瀕するのは西側諸国の方だ、というのが彼の主張である。彼が描き出すアメリカの姿は、不正義の勝利、知性の崩壊、そして能力主義の終わりによる寡頭制とニヒリズムの世界である。

 それゆえに、とトッドはいう。西洋(west)ではないその他(rest)の世界はみんなこの戦争でロシアの側に立っている。正義の西側ではなく大悪党のはずのロシアを支持しているのは、正義面している西洋が今までさんざんぱらその他の諸国を搾取してきたからだ。そして世界的には少数派に過ぎない家族構造の米英仏が、LGBTQなどの思想を強制することに苛立っているからだ。西側から見ればスキャンダラスに見えるプーチンの反LGBTQ政策は、世界の大部分の諸国にとってはあまりにもまっとうな考えであり、これこそがロシアの「ソフトパワー」だという。共産主義のソビエトが敵に回していたユーラシアの大部分の諸国にとって、プーチンの保守主義ロシアは何の心配もなく仲良くやれる「いい国」というわけだ。いや直系家族の日本でも、ラーム・エマニュエル駐日米国大使によるLGBTQの押しつけが保守主義の反発を生み出しているではないか、と。

 本書の原著は2023年7~9月に執筆されたが、邦訳はそれから1年以上経って刊行された。「日本語版へのあとがき」の中で彼は、本書は「未来予測の書」として書かれたが、今やウクライナの敗北は明確になり、本書はより古典的な意味で「歴史を説明する書」となったと語っている。これに反発する人も多いであろうが、喧伝された反転攻勢はうまくいかず、遂にアメリカでプーチンに親近感を隠さないトランプ大統領が再選した今、彼の本はいかに不愉快であろうが読まれなければならないはずである。

 

 

2025年1月 6日 (月)

2025年のキーワード:家事使用人@『先見労務管理』2025年1月10日号

Image0-002_20250106120301 『先見労務管理』2025年1月10日号に「2025年のキーワード:家事使用人」を寄稿しました。

なお5つのキーワードは、わたくしの「家事使用人」のほか、原昌登さんの「カスタマーハラスメント」、永田幸江さんの「ジョブ型人事指針」、平田未緒さんの「年金制度改革」、岸健二さんの「スポットワーク」です。

なお、岸さんのスポットワーク論は、人材紹介業界からの興味深い視点が見られ、是非読まれることをお勧めします。

 「家事使用人」などという古めかしい言葉が今年のキーワードであること自体に違和感を感じる人もいるかもしれない。しかし、現在厚生労働省の労働基準関係法制研究会で議論されているさまざまな論点のうち、この「家事使用人」への労働基準法適用問題については、既に一定の方向性が打ち出されている。なぜ今家事使用人なのか?そこには古い話と新しい話とが混じり合っている。さらに、筆者はこの問題について独自に研究した結果、他の誰も論じていない歴史に埋もれた真実に到達している。本稿では、まず家事使用人をめぐる労働法問題について一般的な立場から概括的な説明を行った上で、政府も労使も裁判所も気がついていなかった側面について論じていきたい。
 
1 労働基準法の適用除外とその推移
 
2 労働基準法制見直しの中の家事使用人
 
3 ILOとEUの動向
 
4 家政婦は家事使用人ではなかった
 
 最後にちゃぶ台をひっくり返すような話をするが、最近家事使用人の適用除外の見直しの議論に火をつけた家政婦についていう限り、歴史的には適用除外されるべき家事使用人には当たらず、労基法が適用されることが予定されていた存在なのである。その証拠に、1947年、労働基準法と同時に施行された省令(労働基準法施行規則)の冒頭には、労働基準法の適用事業として「派出婦会の派出の事業」が明記されていた。その直前の国会審議でも、上記女中に関する答弁とは対照的に、派出婦については「この法律を適用するようにいたしたい」と答弁しており、その結果がこの省令規定であった。労働基準法の出発点においては、家事使用人とは住み込みの女中のことであり、派出婦会から派遣されてくる家政婦は家事使用人ではなかったのである。・・・・

 

国立国会図書館デジタルコレクションがなければ書けなかった本@『国立国会図書館月報』2025年1月号がアップされました

Geppo2501hyosi 昨年末にご紹介しておきました「国立国会図書館デジタルコレクションがなければ書けなかった本」@『国立国会図書館月報』2025年1月号が、国会図書館のサイトにアップされました

国立国会図書館デジタルコレクションがなければ書けなかった本

 2023年7月、文春新書から『家政婦の歴史』という本を出しました。これまでジョブ型だのメンバーシップ型だのといった雇用システムの話ばかり書いていたので、「妙な本を書いたなあ」と思われたようです。でも、読まれた方からはX(旧twitter)上で、「これはめちゃくちゃ面白い」とか「法の盲点を突く著作で面白かった」といった感想もいただき、ほっとしていました。とりわけ、労働研究者の本田恒平さんが「濱口さんの圧倒的な文献研究で、労働者供給の歴史の点と点が繋がり、霞が晴れていくような感覚。一見地味なテーマだけど、濱口作品の中で一番好きだった。一番震えた」と書いていただいたときは、うれしいと同時にこそばゆい思いが駆け巡りました。というのも、褒められた「圧倒的な文献研究」というのは、私が勤務する労働政策研究・研修機構(JILPT)の労働図書館の蔵書と、なによりも国立国会図書館のデジタルコレクションのおかげだったからです。・・・・・・

51sgqlf3yol_sx310_bo1204203200__20250106112101 本稿では、本書(『家政婦の歴史』)がいかに国立国会図書館デジタルコレクションのおかげに負っているかをいくつもの事例を挙げて述べております。

これを読んだ方々が、「なんだ、濱口みたいな奴でもデジコレを使えばもっともらしい本がかけるのか!そうだ、僕も私もデジコレを駆使して論文を書こう、本を書こう!」と思って頂けるなら、こういう楽屋話的なエッセイを書いた甲斐があるというものです。

 

 

 

 

2025年1月 2日 (木)

2024年ベスト経済書、2位と3位はこの書籍だ!@『東洋経済』

昨年12月23日に発行された『週刊東洋経済』で発表された2024年ベスト経済書の記事がアップされました。わたくしの『賃金とは何か』(朝日新書)は第2位ということで、わたくしのインタビューとお二人の方の推薦文が載っています。担当は東洋経済編集部の山本舞衣さんです。

2024年ベスト経済書、2位と3位はこの書籍だ! 賃金と日本経済に関する書籍がランクイン

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多くの国で賃金が上がる中、なぜ日本の賃金は停滞し続けたのか。カギは「定期昇給」のシステムにあると著者は指摘する。

▼著者に聞く 

歴史を見ていくと、日本の賃金が上がらなかった理由は明らかだ。メンバーシップ制の中で、「定期昇給」の仕組みが非常にうまく運用されていたのである。会社員個人は何もしなくても毎年給料が上がる。しかしそれを全部足し上げると、企業が支払う給料の総額は大きく変動しない。企業にとって使い勝手がよく、労働者個人もそれなりに満足できる仕組みだったから、本当の意味での賃上げ、「ベースアップ」なしでもやってくることができた。

昨今、マスメディアで繰り広げられる賃金に関する議論は表層的で、最近のことしか見えていない印象があった。例えば職務給にしても、60年ほど前、池田勇人政権時代に同様の議論が行われており、日本の賃金を考えるなら当時の話は不可欠だ。しかし、それを語る人はいない。まだ「歴史」になってはいないけれども今はもう顧みられない「昔話」を、一度まとめておこうとこの本を書いた。

時に誤解されるのだが、私には「世の中を変える提言をしたい」などというたいそうな発想はない。歴史書として楽しんでほしい。

▼推薦コメント

「ジョブ型雇用」というフレーズが楽観的思考と共に乱用される昨今だが、本書は日本の雇用・賃金情勢について、現状と展望を的確に示す。明治以降の歴史を踏まえつつ日本の賃金制度の現在地を説いており、歴史的、国際的な視点からの学びが多い。(唐鎌大輔)

2024年の春闘で大幅賃上げが実現し、今後もベースアップが期待されている。だが、「それだけで万々歳というわけにはいかない」とする著者の主張は、春闘前の今、傾聴に値する。(宮嶋貴之)

ちなみに、書評サイトの「ブクログ」でも、12月にいくつかの本書の書評が載っていたので、こちらに紹介しておきます。

https://booklog.jp/item/1/4022952741

12/8:bakumon17. 賃金問題を深く考えたことは今までなかった 定期昇給は 人件費を一定に保つため制定されたとは思わなかった 現状のメンバーシップ型雇用を ジョブ型に変更することは並大抵の努力では なしえないと理解できた
 
12/13:masa. 新聞で「ベア、定期昇給」が用語解説に載るほど、賃上げにはとんとご無沙汰だった日本。 先進各国の賃金伸び率を比較すると日本の賃金は全く上がっていないが、個人ベースでは上がっている。だから「上がるから上がらない」。 欧米では賃金表を改訂しない限り同じ仕事をしていれば賃金は上がらないので、ストでもなんでもやって賃金を上げる。「上がらないから上げる」。 言葉遊びの巧みさもあって、賃金のからくりがよく分かる。 また本書では、職務給や職能給などの議論の変遷が興味を惹いた。働き方や賃金体系なんで理屈で説明しても現実の力が圧倒的に強くて、いつの間にか雲散霧消したり、後付けでの理屈になったりの連続だったんだ。 ジョブ型など○○型は言わずもがなだが、分かりやすい賃金論にはこれからも眉に唾して聞かないと。
 
12/30:chocofunk. 賃金に焦点を当てて、戦前から現在までの制度を解説しつつ、賃金を上げる方法を紹介して、最後になぜ日本の賃金が上がっていないのかを解説している。 最低賃金の設定など政府主導で行われる部分もあり、法文が出てくる箇所などはすらすらとは読めなかった。 賃金制度の話の際には日本の伝統的な年功序列のメンバーシップ型と海外のジョブ型との比較がされるが、本書でも取り扱いわかるやすくそれぞれの違いなど解説されていた。 印象的だったのはジョブ型では人事査定がない点、人事異動がない点など。 たしかにその人のその時点でのスキルで給与が決まるのであれば査定はしないし、使用者の都合で業務が変わることもおかしい。 こういった解説部を読めば読むほど現代社会と年功序列による賃金決定が乖離していることを思い知らされる。 また、名目賃金の推移を各国と比較できる図表が挿入されていて日本の変化のなさに驚く。 いくら他国と事情が違うといったって30年でここまで変化がないことがよいことなわけがない。 それでも賃金が上がっていると感じる労働者は多いが、上がっているのは定期昇給によってであり、個々人が働く年数が上がっていることに過ぎないということ。 つまり図表が示すとおり労働者全体で賃金が上がっていることはないのだが、それでもベースアップという仕組みで賃金を積極的に上げていこうとしない国には正直不信感を覚える。 本書では、「上げなくても上がるから上げないので上がらない賃金」と表現していて、定期昇給で個人の賃金は上がるからわざわざ苦労してベースアップをしなくなったため、結果的に日本全体の賃金の上昇が滞ってしまっているとのこと。 労働者自身も、働き続けることで上がる賃金によって勘違いしていると思うので、国が主導してくれるなんて楽観的な考え方はやめて自ら積極的に声を上げていく必要があるだろう。
 
2025/1/1:fujine. 賃金の歴史について勉強。日本の年功序列や長期雇用は、明治以降の重工業発展に伴う熟練工の育成や転職抑止から形成された雇用文化だと知って納得。ベースアップの仕組みは朝鮮特需から産まれたりと、今では合理的ではない賃金の仕組みも当時は有効だったことが窺える。 一方、現代の企業は生産性が重視される傾向にあるも、職能基準の給与体系はまだまだ普及していないのが現実。だが、世界の変化に追随するためには、日本の雇用もドラスティックに変えていく必要があると思う。

 

 

 

2025年1月 1日 (水)

新年明けましておめでとうございます

Img_0530 新年明けましておめでとうございます

 昨年は、ロシアのウクライナ侵略やイスラエルのガザ侵攻が長引く中、アメリカではトランプ大統領が再登場し、韓国では一時非常戒厳令が出され、大晦日に尹錫悦大統領の拘束令状が出されるなど、ますます世界中に不穏な空気が立ちこめました。日本でも憎税真理教が猛威を振るい、未来がますます不透明になっています。
 わたくしは七月に調査シリーズ『解雇等無効判決後における復職状況等に関する調査』をとりまとめました。また同じ七月には朝日新書から『賃金とは何か―職務給の蹉跌と所属級の呪縛』を上梓しましたところ、幸い多くの方から共感の声をいただきました。今年は資料シリーズ『個別労働関係法ハンドブック』と労働政策研究報告書『労働局あっせんにおける解雇型雇用終了事案の分析』を取りまとめる予定です。

 今年こそは内外ともに良い年となり、皆様にとっても素晴らしい年となりますように心よりお祈り申し上げます

二〇二五年一月一日

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