なぜ民主党は労働者を失い、選挙にも負けたのか?@ダロン・アセモグル
先日のアメリカの大統領選挙結果についてはすでに山のような論評が溢れていますが、やっぱり真打はこの人でしょう。ダロン・アセモグルの「Why the Democrats Lost Workers – And the Election」(なぜ民主党は労働者を失い、選挙にも負けたのか?)です。
https://www.socialeurope.eu/why-the-democrats-lost-workers-and-the-election
The Democrats’ failure to reconnect with American workers cost them the election, leaving the party adrift in a coalition dominated by elites and urban professionals.
民主党がアメリカの労働者と再結合できなかったことは選挙の敗北をもたらし、この政党をエリートと都市プロフェッショナルに支配された連合の中でさ迷わせている。
The outcome of the US presidential election was more of a Democratic loss than a triumph for Donald Trump. The Democrats lost not because US President Joe Biden stayed in the race too long, and not because Kamala Harris is unqualified, but because they have been losing workers and failed to win them back.
アメリカ大統領選挙結果はドナルド・トランプの勝利であるよりも民主党の敗北であった。民主党はが敗れたのは、ジョー・バイデンがあまりに長く選挙戦に留まったからでもなければ、カマラ・ハリスに資格がなかったからでもなく、彼らが労働者を失い、取り戻せなかったからなのだ。
The party ceased to be a home for American workers long ago, owing to its support for digital disruption, globalization, large immigrant inflows, and “woke” ideas. Nowadays, those most likely to vote for Democrats are the highly educated, not manual workers. In the United States, as elsewhere, democracy will suffer if the centre-left does not become more pro-worker.
この政党はずいぶん前にアメリカの労働者の我が家でなくなっていた。それはデジタル分断、グローバル化、膨大な移民流入、そして「ウォーク」な考え方のせいだ。今では、一番民主党に投票しようとする人々は、高学歴者であって肉体労働者ではない。アメリカ合衆国では他の諸国と同様、中道左派が労働者寄りではなくなってしまえば、民主主義は失敗する。
次のセリフなんか、言っているアセモグル自身がトルコ系移民であることを考えるととてもつらいものがあります。
Here is my own test for understanding the relationship between the Democrats and American workers: If a member of the Democratic elite is stranded in an unfamiliar city, would he prefer to spend the next four hours talking to a Midwestern American worker with a high-school diploma, or to a professional with a postgraduate education from Mexico, China, or Indonesia? Whenever I pose this question to colleagues and friends, they all assume it’s the latter.
ここに民主党員とアメリカの労働者の関係を理解するための私自身のテストがある。もし民主党エリートの一人が見知らぬ街で立ち往生したら、彼は次の4時間、高卒の中西部の労働者と話す方がいいか、それともメキシコ、中国あるいはインドネシア出身の大学院卒のプロフェッショナルと話す方がいいか?私が同僚や友人にこの問いを示すと、彼らはみんな後者を選ぶ。
最後のパラグラフはこうです。
If the economy can no longer foster innovation and productivity growth, wages will stagnate. Yet even in the face of such adverse outcomes, many workers will not return to the Democrats unless the party truly takes their interests on board. That means not only adopting policies that support workers’ incomes, but also speaking their language, however foreign it may be to the coastal elites who have run the party aground.
もし経済がもはや技術革新や生産性上昇をもたらさないのであれば、賃金は沈滞するであろう。しかしそんな逆境的帰結に直面しても、多くの労働者は民主党に帰ってこないだろう。民主党が彼らの利益を本気で取り上げない限り。これは単に労働者の所得を支持する政策を採用するというだけではなく、むしろ彼らの言葉で喋るということを意味する。それがいかにこの党を運営している沿岸のエリートたちにとって異国の言葉にように聞こえるとしても。
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> 高卒の中西部の労働者と話す方がいいか、それともメキシコ、中国あるいはインドネシア出身の大学院卒のプロフェッショナルと話す方がいいか?私が同僚や友人にこの問いを示すと、彼らはみんな後者を選ぶ。
エリートの多くはマイノリティには同情的であっても、労働者階級には同情的ではない。まあ、そういうことでしょう
それなら、そういう政党なんですねというだけの話です
投稿: 鎌田 | 2024年11月16日 (土) 22時02分
アセモグル教授、さすがですね。
ノーベル経済学賞受賞者で最も左翼的な受賞者にふさわしいセリフだと思います。
アセモグル教授はトルコ国籍ですが、トルコではマイノリティのアルメニア系でもあるのでそういう境遇が教授の政治的立ち位置を決定づけたのかな、と思います。
投稿: balthazar | 2024年11月17日 (日) 05時49分
これまでは労働者の利益拡大のために存在していた団体がそれから離れる以上、価値観の違う労働者やその他の人にいかに支持してもらえるか、が大事であるはずです。
価値観の違う人と対話するより仲間内で対話をすることを選ぶ以上、当然の結末といえるでしょう。
アセモグル教授の最後のコメントは、民主党だけでなくバラモン左翼化しているすべての団体に向けたメッセージ、のように聞こえました。
投稿: いけだ | 2024年11月17日 (日) 08時48分
有名な経済学ブログ 経済学101をnoteに日本語訳した記事の中に興味深いものがありました。
「ノア・スミス「アメリカ人は失業を嫌がる以上にインフレを嫌っている」(2024年11月8日) 」
https://note.com/econ101_/n/n1a172af37d77
民主党を支持する側は失業者の減少を重視しインフレ率の方はさほど重視していないが、多くの有権者は失業率よりも自らの生活に影響するインフレ率の方を重視するものだ、と言うもの。
「でも,一般に,失業の害は一部に集中するのに対して,インフレの害は広く拡散する.」
う~ん、頭の痛い問題ですね。
確かにバイデン政権は労働者寄りで労働者の賃上げに好意的でしたね。
でもその賃上げがインフレ率の悪化に拍車を掛けた可能性は高い。
この辺りの事情は民主党寄りの経済学者の間でも議論になっているようです。
投稿: balthazar | 2024年11月18日 (月) 22時02分