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« 労働側団体による解雇の金銭救済制度案@『労基旬報』2024年11月25日号 | トップページ | 集英社オンラインに『賃金とは何か』の一部が抜粋掲載 »

2024年11月23日 (土)

そもそも被用者保険は被用者用なんだが

元々何年も前から段階的に進んできていた被用者保険の拡大の話が、国民民主党の103万円の壁の話となぜか同期連動して106万円の壁がどうとかいう話になり、例によっていつもの3法則氏が法螺貝を吹き鳴らすという事態になっているようですが、もちろん、物事の分かっている人にはちゃんとわかっているように、この問題は、そもそも被用者保険(健康保険と厚生年金)は被用者、すなわち雇われて働いている人のための制度であり、地域保険(国民健康保険と国民年金)は被用者以外、すなわち自営業者やその家族等のための制度であるという制度の根本原則が、様々な経緯や政治的思惑のために捩じ曲げられ、ずれにずれまくってきてしまったことに、その最大の根源があるわけです。

どうかすると、社会保障のかなりの専門家ですら、パートタイマーは昔から適用除外だったと思い込んでいる向きもありますが、それは1980年の3課長内翰という「おてがみ」で導入されたものに過ぎません。それ以前は、健康保険法上にも厚生年金保険法上にも、短時間労働者を適用除外するなどという規定は一切存在せず、実際にも1956年の通達(昭和31年7月10日保文発第5114号)により、日々契約の2カ月契約で勤務時間は4時間のパートタイム制の電話交換手についても適用するという扱いでした。ところが、1980年6月6日付の「おてがみ」により、所定労働時間4分の3以上という基準が示され、それ未満のパートタイマーは適用除外となってのですが、そもそもこの「おてがみ」は発番号もなく、まともな行政文書であるかどうかも怪しげなものです、大体、行政文書であれば、冒頭に「拝啓 時下益々御清祥のこととお慶び申し上げます」なんて書いたりしないでしょう。限りなく私的な「おてがみ」っぽいこのいわゆる3課長内翰によって適用対象から一方的に排除されたパートタイマーを、再び適用対象に入れ込むために、21世紀初頭から既に20年以上にわたって少しずつ対象拡大が行われ、先月から50人超に拡大し、来年の改正でようやく従業員規模要件をなくすところまでいこうというわけですから、この「おてがみ」の後代に及ぼした影響の大きさには嘆息が漏れます。

もちろん、この「おてがみ」が出された背景には日経連の要望があり、昭和のサラリーマンの扶養家族の奥さんがちょいとパートで働いたからといって社会保険なんぞに加入させられて保険料なんぞ払わされたんでは堪らないという、当時の常識に沿ってそそくさと形式も整えずに対処したわけですが、もちろん短時間で働く非正規労働者はみんながみんなサラリーマンの奥様のパートタイマーというわけではないわけで、扶養家族でない非正規労働者もみんな被用者保険から排除されたために、国民という名のつく地域保険に入って、使用者負担分もなく自分で保険料を全額払わなければならないのに、給付は見劣りするという事態になってしまったわけです。

というような話は、21世紀初頭からさんざんぱら議論されつくしたものだと思っていたのですが、残念ながらそういういきさつも何もかも一切無知蒙昧なまま、れっきとした被用者を本来あるべき被用者保険に戻そうということに対して無上の敵意を燃やして攻撃する人々が出てくるんですね。

 

 

 

 

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コメント

 山下慎一社会保障のどこが問題か ――「勤労の義務」という呪縛 (ちくま新書 1821)を読みました。
 内容はそれなりに良かったのですが、この本も1980年の3課長内翰によるパートタイマーの適用除外の話がなかったように記憶しています。

山下さんの本は、被用者保険の問題点を性急にフリーランスとの関係に求めすぎていて、れっきとした被用者である膨大な非正規労働者を排除してきたこと(それも「おてがみ」で)にはそれほど関心が強くないように感じました。

hamachan先生

なるほど、そう言う事でありましたか。日本国憲法の「勤労の義務」について論じている箇所は良かったのですが、それ以外のところで違和感が拭えませんでした。

厚生年金保険などはパートタイマーへの適用を進める事になっており、権丈善一先生はこれは日本企業の生産性の向上にもつながる、と言っておられますのに。
 公的年金は所得比例年金の一階建てにして自営業者にも適用せよ、と山下さんは書いてましたが、その前にパートタイマーにも厚生年金を完全適用し、フリーランスも雇用労働に近いものは厚生年金保険の被保険者として適用拡大すればそこまでしなくても良いのに、と思いました。

>もちろん短時間で働く非正規労働者はみんながみんなサラリーマンの奥様のパートタイマーというわけではないわけで、扶養家族でない非正規労働者もみんな被用者保険から排除されたために、国民という名のつく地域保険に入って、使用者負担分もなく自分で保険料を全額払わなければならないのに、給付は見劣りするという事態になってしまったわけです。

仰る通りだと思いますが、そうであれば
  労働時間が少ないために被用者保険から排除され、国民という名のつく地域保険に入って、
  使用者負担分もなく自分で保険料を全額払わなければならない扶養家族でない非正規労働者
の方は
  労働時間が少なくても被用者保険に加入させろ!
と要求すると思うのですが、そのような要求は聞いたことがありません。
全くの素人の感想ですが、労働時間が少ないために被用者保険から排除されている非正規労働者には
 A)扶養家族である
 B)扶養家族でない
の2種類があると思います。hamachan先生が仰っているのはB)に属する方だと思います。しかしそのような方は扶養家族ではないので自分の収入だけで生活しなければなりませんが生活できる収入を得るためには被用者保険が適用される程度の労働は必要だと思います。このため
 ・労働時間が少ないために被用者保険から排除されている
 ・扶養家族でない(自分の収入だけで生活している)
を同時に満たす労働者は少数だと思います。現在の日本は人手不足なので
  自分の収入だけで生活するためにもっと働きたいが、被用者保険に加入できるほど働ける就職先がない
という方はあまりいないと思います。


>そもそも被用者保険(健康保険と厚生年金)は被用者、すなわち雇われて働いている人のための制度であり、地域保険(国民健康保険と国民年金)は被用者以外、すなわち自営業者やその家族等のための制度であるという制度の根本原則

これも素人の感想ですが、地域保険の加入者には
 ⅰ) 商店街の魚屋さんや蕎麦屋さん等の自営業者
 ⅱ) 被用者ではないが被用者と同じような仕事をしているフリーランス
の2種類があると思います。地域保険は本来はⅰ)に属する方を対象としていたと思います。ⅱ) のフリーランスの方は仕事の内容は被用者と同じでも雇われていないだけで使用者負担分もなく自分で保険料を全額払わなければなりません。これは不公平だと思います。消費税には内税と外税があると思いますが、ⅱ) のフリーランスに対しては、外保険料で発注者が発注額に相当する保険料の半額を上乗せして支払えばフリーランスの方も実質的に被用者保険の加入と同じになると思います。

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