朝日新聞社説が拙著『家政婦の歴史』に言及
本日の朝日新聞の社説「家政婦の労災 労働者として保護せよ」は、タイトル通りの内容ですが、その中で拙著『家政婦の歴史』にわざわざ言及して、この問題の歴史的経緯について正しい認識を持つことを求めています。
住み込みの女中は家族も同然。だから、自由に働かせてもいい――。そんな時代錯誤を許す条項が、労働基準法にある。速やかに改め、家政婦(夫)が労働者として保護されるようにすべきだ。
2015年に、家政婦と訪問介護ヘルパーを兼ねていた60代の女性が急死した。休暇の同僚に代わり、7日間通しで個人宅に泊まり込んで働いた後のことだった。
労働時間は計105時間、1日平均15時間に及んだが、労働災害の検討対象になったのは、介護をした31時間半だけ。残りは労基法が適用されない「家事使用人」としての仕事なので「過重業務」とはいえず、長時間労働による過労死にはあたらない――。労働基準監督署と東京地裁はそう判断した。
だが、先月あった東京高裁の判決はこれを覆し、介護も家事も同一の会社との雇用契約に基づく一体の業務であると判断した。国は上告を見送り、判決が確定した。
問題の根にあるのは、「家事使用人」には労基法を適用しないとする同法116条2項の規定だ。原告側は、社会的身分を理由とした差別などの憲法違反を主張したが、高裁判決はこの規定の解釈には踏み込まなかった。
労基法制定時、この条項が主に想定していたのは、今では少なくなった「住み込みの女中」だった。ただ同時に、会社の紹介で個人と契約する家政婦も、同じ枠で扱われるようになった。
『家政婦の歴史』を著した濱口桂一郎氏によると、大正時代に会社が家政婦を雇って家庭に派遣する事業が始まったが、敗戦後に労働者供給事業が禁止されたため、有料職業紹介の枠組みで生き残りを図った。「雇用主は紹介先の個人家庭」というかたちにして、「家事使用人」の枠に組み入れられたのだという。
状況の変化や今回の訴訟を受けて、厚生労働省は、家事使用人にも労基法を適用する方向で具体的施策を検討すべきではないか、と提案している。規定の削除を考えるべきときだろう。
ただ、労基法の適用対象になっても、雇い主が個人家庭の場合に、労災保険料の支払いや労働条件の順守を徹底できるのか、疑問も残る。
今は介護も家事も労働者派遣が認められている。派遣先の家庭で仕事の指揮命令を受けている実態に照らしても、事業者に雇用される派遣労働者として労基法や労災保険の適用を受けるほうが、働き手の保護につながるはずだ。実態を踏まえ、時代にあった姿にしていきたい。
« 家政婦過労死事件の高裁判決確定 | トップページ | 坂本貴志『ほんとうの日本経済』 »
どうして労災「保険」であることには言及がないのかねぇ。
投稿: ちょ | 2024年10月13日 (日) 22時14分