ポケベル異聞
ポケットベル、略称ポケベルといえば、労働法界隈ではやはり昭和63年基発第1号通達でしょう。1987年労働基準法改正でそれまでの省令レベルから法律上に規定された事業場外労働のみなし労働時間制について、「事業場外で業務に従事する場合であっても、使用者の具体的な指揮監督が及んでいる場合については、労働時間の算定が可能であるので、みなし労働時間制の適用はない」と釘を刺し、その例として「事業場外で業務に従事するが、無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合」を挙げています。
この40年近く前にはごくごく普通に存在していた原始的電子機器が時を経るに従って世の中にほとんど存在しない代物になっていき、いまや若い人たちから「ポケットベルって何ですか?」という問いが発せられて答えるのに苦労するという事態が日本各地で発生しているわけです。
その昔、スマホどころかガラケーもなかった時代、外回りの営業マンたちはポケベルというのを持たされてだな、これは通信機能はないので話はできないんだが、本社から連絡すべきことがあるとピーピーなるんだな、そうすると、近くの電話ボックスに駆け込んで、いや昔は町のあちこちに電話ボックスというのがあってだな、お金を入れて電話できたんだよ。ていうか、スマホもガラケーもない時代だから、そうしないと話はできないんだな、ポケベルがピーピーなると、電話ボックスから本社に電話して「はい、濱口ですが、何でしょうか」と聞くわけだ、昔はそういうのがあったんだ、そのポケベルが、今でも事業場外労働の通達では生きてるんだね、というふうに、説明するわけです。
ところがこの2024年になって、この古典的電子機器がスパイ戦争の最前線で注目を集めることになったというのです。
中東レバノンの各地で「ポケットベル」タイプの通信機器が爆発し、これまでに12人が死亡し、2700人以上がけがをしました。
レバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラはイスラエルによる犯行だとして報復を示唆しています。
一方、ヒズボラは安全を確保するための通信手段としてこの通信機器を関係者に配っていました。
ヒズボラがなぜこういう原始的電子機器を使っていたのかといえば、スマホやガラケーではどこにいるかが分かってしまうからなんでしょうね。ポケベルの良さは、それだけではどこにいるかはわからない点なのでしょう。だから「安全を確保するための通信手段」なのでしょうが、それでもモサドの手にかかると、こういう風に使われてしまうというわけです。
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