『労働新聞』書評に金子良事さん
私がレギュラー執筆者として月1回寄稿している『労働新聞』の「書方箋 この本、効キマス」に、ゲスト寄稿者として金子良事さんが登場しました。書評している本は・・・・
【書方箋 この本、効キマス】第81回 『賃金とは何か 職務給の蹉跌と所属給の呪縛』 濱口 桂一郎 著/金子 良事
なんと7月に出たばかりの拙著でした。
同じコラムの執筆陣の著書を取り上げたといえば、私自身も8月5日号で三宅香帆さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を取り上げていますが、でも三宅さんが執筆していたのはもう2年前ですからね。
この選書はいささか八百長感が漂うのでいかがなものかとも思うのですが、まあでも金子さんとして(ご自分のブログで書くだけではなく)いいたいことがあったからなのでしょう。
『賃金とは何か』が岸田文雄総理の退陣に間に合った。流行りのジョブ型雇用の言葉の生みの親で知られる著者の最新刊である。「ジョブ型雇用」は著者の意図せざるところで展開してしまった感もあるが、「メンバーシップ型雇用」とともに人口に膾炙しやすかったこともたしかである。本書の序章でもこのふたつの概念を使った見取り図を描いている。
こういう理論モデルで捉えることには功罪があって、概観しやすい反面、細部の観察がおろそかになるリスクを抱えている。だが本書は現代の読者に読みやすいように、たとえば戦前の資料を口語訳するような作業をしているが、基本的には資料そのものの紹介に重きを置き、理論的に丸めるようなことはしていない。
金子さんは、本書の中で一番目立たなさそうな第Ⅲ部(賃金の支え方)を持ち上げているのですが、
本書で読むべきところは、第3部の賃金の支え方、すなわち最低賃金制度である。第1~2部は今までどういう議論がされて来たのかという議論を概観するという意味ではざっと読めば良いが、政策的含意は、政府が賃金制度(この場合、職務給)の改革方針を掲げても、それで企業の制度が変わることはないということなので、これを読んで企業の人事の方が人事制度を考えようとしてもあまり意味がない(ただし、ベースアップと定期昇給の違いが分からないという人は2部を繰り返し読むと良い)。
実は書いた立場からすると、第Ⅲ部はそれほど大したことを書いた気はしていないのです。『日本の労働法政策』の該当部分を膨らませただけという感じです。第Ⅰ部も、今までジョブ型、メンバーシップ型のはなしを、職務給をめぐる政策論争史として再構成しただけでそれほど目新しいことを書いたわけではない。
自分として、かなり踏み込んで書いたつもりだったのは第Ⅱ部で、もちろん、今ではそもそもあんまり理解されなくなってきているベースアップと定期昇給について、こういうことなんだよと昔の常識を説明するという意味もありますが、そもそもこの両者の意味を理解している人々もちゃんと理解していなかったその「出生の秘密」を、かなり細部に分け入って解明したという点は、私としては内心「ここをこそ読んでほしい」と思っていたところではありました。
連合創立を機に協調的労使関係が完成したと捉えられ、かつての3大労働行政のひとつであった労政は後退した。本書で数多く参照されている労働官僚の先達も労使関係を重視していた。私には、著者が賃金を切り口に、改めて政労使の三者構成の意義を後生に伝えようとしたのではないかと思えてならない。
まあ、あとがきでわざわざスウェーデンの労働組合の対テスラ争議を取り上げたのは、集団的労使関係を強調したかったからであることは確かです。
« 『季刊労働法』2024秋号(286号) | トップページ | 本日の日経新聞書評欄に登場 »
興味深く拝読しました
たしかにベースアップと定期昇給のからくりをワンフレーズで…あがるけどあがらない・・・・でしたか、これだけで買う価値あるねと思いました
投稿: 耕ちゃん | 2024年9月14日 (土) 07時17分