読後感としては多分に歴史書だな@労務屋さん
拙著『賃金とは何か』に対する労務屋さんの読後感は、「読後感としては多分に歴史書だなという印象」であったようです。まさにそういうものとして書いたので、その通りであります。
https://roumuya.hatenablog.com/entry/2024/08/08/174251
読後感としては多分に歴史書だなという印象で、先生の大著『日本の労働法政策』の該当部分をわかりやすく再整理したうえで直近の状況を付け加えて解説されています。昨今政労使で大いに論点となっている賃上げに関して、日本の賃金というものはどういう経緯でどのような仕組みになっていて、したがってこういう議論になるのだ、ということがきちんと理解できる本といえましょう。
とりわけ、なんでいまこういう本をまとめたのかというと、
特に重要なのは、往々にして企業が悪いとか政治が悪いとか労組がダメとかいった一面的な議論になりがちな風潮がある中で、これらの歴史と現状は労使あるいは政労使によって作られてきたものだ、ということが明示されているところでしょう。もちろん労使の立場の違いは明らかですし、交渉事ともなればその違いが大いに強調されるわけですが、しかし現実は交渉と妥協の歴史であり、相互作用がが積み上がった産物であるわけです。このあたりよくわからないままにあれこれ発言している論者というのを見かけるわけですが、ぜひ一読をすすめたいものだと思います。
世の賃金論の多くが、あまりにも歴史的経緯がすっぽり抜けたものになっている感があったので、図書館の奥に眠っている資料を引っ張り出して、実はこれこれこういういきさつがあったのだよ、と伝えるのも年寄りの役割かな(をいをい、お前まだ生まれてねえだろが)という趣旨でありました。
いくつかご指摘の点ですが、まず常々労務屋さんから違和感を表明されている知的熟練論批判ですが、本書には小池和男は出てこず、楠田丘もちらりと出てくるだけですが、むしろ日経連の累次の賃金本の記述の推移の中にそれが醸し出されているのではないかと思って、そちらを丁寧に紹介しておいたつもりです。
第Ⅰ部第5章の「2 中高年・管理職問題と職能給」では、1980年の『新職能資格制度』から1989年の『職能資格制度と職務調査』への記述の変化という、ほとんど誰も気にもとめないようなトリビアルな点に着目しておりますが、『日本の雇用と中高年』で論じていた話を、日経連自身の文書によって跡づけてみたものでした。
も一つサブタイトルについて、
あともう一つ余談ですが、さてここでお礼を書こうかという段になってはじめて「職務給の蹉跌と所属給の呪縛」という副題がついているのに気づき、あれちょっと待って「所属給」とか論じられてたっけ?と思ってもう一度目を通すことになりました。でまあ(見落としがあるかもしれませんが)この所属給という用語、本文中では・・・・・最初と最後に2回出てくるだけでした。印象に残らなかったわけだ(笑)。それはそれとしてジョブ型/メンバーシップ型に対応する職務給/所属給というのは割としっくりくる用語のように思いましたので、もっと展開してもよかったかなと少々もったいなく思いました。
本書は賃金論の歴史叙述が中心なので、戦前から今日まで一貫してみんなから「職務給」と呼ばれているものを、「ジョブ型賃金」などと薄っぺらな言い方をするわけにはいかず、とすると、それの対義語たる「メンバーシップ型賃金」をちゃんとした日本語で表現しようとすると、その一部の性質にのみ着目した「属人給」でも「年功賃金」でも帯に短く襷に長く、しかも「職務給」と対になるような三文字で最後の字が「給」になるような言葉は何かないかと考えて、ほとんど(まったくではないが)使われてきたことのない「所属給」という言葉をでっち上げてサブタイトルにしたわけです。
もっとも、実は「所属型賃金」という言葉はあって、晴山俊雄さんの『日本賃金管理史―日本的経営論序説』(文眞堂)では、日本的経営の基軸は「年功賃金」というよりもむしろ「所属型賃金」であると論じています。その意味では、実は(表現型は若干違いますが)「所属給」という言葉の発案者は晴山俊雄であるというべきかも知れません。
日本的賃金の本質的意義を問う!日本の賃金管理の実態を、昭和準戦時・戦時期から戦後の現代期まで歴史的にその形成の展開を試み、日本の賃金の本質的意義の解明を図るもの。戦後との連続性に注目しながら、従来の「年功賃金」の規定の限界を超えて、「所属型賃金」という日本的賃金の実態に即した新しい本質規定を提起し、そこから日本的経営の意義に迫った研究成果。
目次
序章 日本の賃金管理への接近
第1章 昭和初期の賃金管理
第2章 労務統制と労務管理―労働者固定化政策
第3章 賃金統制と賃金管理―賃金体系の理想型
第4章 産業報国運動と職場組織―職業人の大量形成
第5章 賃金体系の変遷
第6章 戦後賃金体系の展開
第7章 能力主義管理と賃金管理
第8章 成果主義管理の展開
第9章 日本的経営論の展開
終章 所属型賃金と日本的経営
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