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2024年8月 9日 (金)

OECD『日本の移住労働者』

651114 OECD編著、是川夕・江場日菜子訳『日本の移住労働者 OECD労働移民政策レビュー:日本』(明石書店)をお送りいただきました。

https://www.akashi.co.jp/book/b651114.html

日本特有の状況における労働移民政策の役割はどうあるべきか。高齢化が労働力人口に及ぼす影響に対応するため、ここ数年で海外からの人材採用のガバナンスに大きな政策変更を導入した日本の労働移民政策とその有効性を検証し、今後の方向性を明らかにする。

日本は長い間、OECD加盟国の中で人口に対する移民の流入が最も少ない国のひとつであった。しかし、ここ数年で状況は大きく変化した。高齢化が労働市場に与える影響に対抗するため、日本は海外からの人材採用のガバナンスに大きな政策変更を導入した。

このレビューでは、比較的少ない移民受け入れと急速な高齢化という日本特有の状況における労働移民政策の役割を検証し、今後の政策の方向性を明らかにする。このレビューは、あらゆる技能レベルの労働移住を対象としている。留学生や高技能移民のための長年にわたる移住経路が、国際的な人材の誘致と定着においてどのような役割を果たしているかを評価する。また、最近導入された特定技能制度を含む、低・中技能職の主な移住経路についても検証している。

第1章 日本の労働移住制度に関する評価の概要と主な提言

第2章 労働移住の背景
日本経済は完全雇用に近く、人手不足が蔓延している/人手不足に対処するための移民の役割とは?

第3章 日本への労働移住
1950年代から今日までの労働移民政策の変遷/日本への労働移住/雇用全体に対する移民の寄与はわずかだが、今後10年間で増加する可能性が高い/一部の産業や地域の労働市場では、すでに移民が雇用の大きな割合を占めている/付属資料

第4章 労働移住の政策枠組み
高技能労働移住のためのプログラム/低技能職及び中技能職のための期限付き労働移住プログラム/豊富な小規模労働移住プログラム/付属資料

第5章 高技能移民と留学生の獲得と定着
高技能移民/留学生/付属資料「賃金構造基本統計調査を用いた技人国の賃金分析」

第6章 訓練と技能に基づく労働移住
技能実習制度は大規模な受け入れ制度へと発展した/特定技能制度は、技能実習制度の上に構築された/技能実習と特定技能は労働市場の一部しかカバーしていない/技能検定の枠組みは、職業教育の枠組みに基づいている/日本語教育、日本語試験の海外進出/外国人労働者のいくつかの脆弱性が残っている/期限付き労働移住プログラムから長期滞在への移行/スキルズ・モビリティ・パートナーシップ・モデルの構築に向けて/結論/付属資料「賃金構造基本統計調査を用いた技能実習生の賃金分析」/付属資料「追加表」

これはもう、今日の日本の外国人労働者問題についての「これ一冊」というべき本ですね。論ずるべきあらゆる点に目が行き届いていて、バランスのとれた分析がされています。

ここでは、外国人政策の本筋からはちょっと外れてしまいますが、第2章の最後のところで「日本の雇用システムには、外国人労働者の潜在的な貢献をみえにくくしている日本固有の特徴がある」という議論が提示されている部分を紹介しておきます。

2.2 日本の雇用システムには、外国人労働者の潜在的な貢献をみえにくくしている日本固有の特徴がある

・・・伝統的な日本の雇用システムでは、企業は通常、卒業後すぐに学生を採用し(多くの場合、在学中の最終年に採用を決定する)、定年まで同じ企業に勤めるのが一般的である。これは企業が若手新卒者を特定のポジションのために採用するのではなく、会社の活動に貢献するために採用することから、「メンバーシップ型雇用」と呼ばれることもある。その結果、職務内容や労働契約は、他のOECD加盟国に比べあまり具体的でない傾向がある。・・・

 伝統的な雇用制度は、移民が労働市場に統合されることを困難にしている日本の労働市場の特徴でもある。・・・

 第一に、労働市場における流動性が低いという特徴がある。中途入社の労働者には、主要な雇用市場ではほとんど機会がない。母国で学業を修了してから来日した移民は、卒業後の新卒採用の機会に乗り遅れることになる。

 第二に、長期雇用が一般的であるため、研修は主に企業内で行われる。研修では、一般的な技能よりも企業固有の技能の獲得が目指される。これは雇用の流動性の低さと相まって、企業間の技能のポータビリティを確保する仕組み、特に技能認証が市場で発展しない構造的な原因となっている。来日した労働移民には、海外で習得した技能を認証し、日本の労働市場で確実に活用する手段がない。・・・

 第三に、新卒者の賃金は比較的低いが、勤続年数とともに急上昇する。日本では同じ会社で働き続けることの賃金プレミアムは大きい。特に、日本の労働者の収入のピークは他国の労働者よりも遅い。・・・若い移住労働者は、キャリア全体を通じて日本に、そして同じ会社にとどまる可能性が低い場合、日本での雇用を魅力的とは思わないかもしれない。・・・

OECDの目から見れば、特殊な日本の仕組みを「メンバーシップ型」と呼ぶことはあっても、特殊じゃないごく普通の当たり前の仕組みにわざわざ「ジョブ型」なんていうヘンテコな名前をつけて呼ぶ必要は全くないわけです。

Oecd なお、原著ではこうなっています。

https://www.oecd.org/en/publications/recruiting-immigrant-workers-japan-2024_0e5a10e3-en.html

The Japanese employment system has unique characteristics complicating the potential contribution of foreign workers

In the traditional Japanese employment system, firms typically recruit students straight after graduation – often hiring recruits during their last year of studies – and it is still common for workers to remain in the same firm until retirement age. This is sometimes referred to as “membership type employment” given that companies hire young graduates not for a specific position but to contribute to the activities of the company as these evolve. Consequently, job descriptions and labour contracts tend to be less specific than in other OECD countries.・・・

The traditional employment system is at the origin of several features of the Japanese labour market that make it challenging for immigrants to integrate into the labour market. ・・・

First, the labour market is characterised by low job mobility. There are few opportunities for mid-career workers in the primary job market. Immigrants who arrive in Japan after completing their studies will have missed the main recruitment post-graduation.

Second, given the prevalence of long-term employment, training occurs mainly within firms. Training is geared towards firm specific more than general skills. Combined with low job mobility, this has led to the under-development of mechanisms to ensure the portability of skills across firms, and in particular to the development of skill certification. Recently arrived labour migrants have no way to certify the skills they acquired abroad and ensure these are used in the Japanese labour market.・・・

hird, wages for new graduates are relatively low but increase steeply with tenure. The wage premium of working continuously in the same company in Japan is large. In particular, the earnings of Japanese workers peak later than their counterparts in other countries. ・・・ Young labour migrants may not find employment in Japan attractive if they are unlikely to remain in Japan, and in the same firm, throughout their entire career.

 

 

 

 

 

 

 

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