せつな朱遊さんの拙著書評
せつな朱遊さんの「せつな日記」で、拙著『賃金とは何か』がかなり長めに書評していただいておりました。
https://setsuna-chi.moe-nifty.com/blog/2024/08/post-9a60e6.html
濱口桂一郎さんの新刊です。本書で嬉しかったのは、最低賃金に関して書かれていることです。日本で職務給を導入しようとすると、産業別または職種別の最低賃金にしかならないのではないかなという私の疑問への回答に思えました。
最低賃金が加重平均で1000円を超えるという話題のときに、最低賃金について少し調べたんですよね。そうしたら、地域別(都道府県別)の最低賃金の他に、産業別の最低賃金があるというのです。その事実にかなり驚いた記憶があります。
本書には、その産業別最低賃金が消されようとしていた歴史が記されています。消されなくてよかったのではないかな?
現在、産業別最低賃金(特定最低賃金)は、東京都などで地域別最低賃金に追い越されているようです。このような状況ですが、エッセンシャルワーカーなど一部の職種で、濱口さんも産業別最低賃金を活用してはどうかと提案しています。・・・
真っ先に最低賃金、それもほとんど注目されていない産業別最低賃金について注目していただいたことに、内心とてもうれしく思いました。また、
本書で最も驚いたのは、船乗りはジョブ型ということです。戦前からジョブ型らしいです。戦後もすぐに船乗りの組合(全日本海員組合)ができて、職種別の最低賃金を制定しているようです。
ジョブ型の業種は存在するわけです。しかし、それが一般化しない。それが日本型雇用なのでしょう。
こんなふうに、ちょっと脇道に、しかしそれなりに重要なはずの話をさりげに書いておいたことが、ちゃんと反応されているのを見るのもとても嬉しいことです。
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コメント
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>本書で最も驚いたのは、船乗りはジョブ型ということです。戦前からジョブ型らしいです。戦後もすぐに船乗りの組合(全日本海員組合)ができて、職種別の最低賃金を制定しているようです。
ジョブ型の業種は存在するわけです。しかし、それが一般化しない。それが日本型雇用なのでしょう。
私も驚きました。
この辺りの記述を読んで思い出したのが、船乗りは第二次世界大戦中から「船員保険」に加入することになっていたことです。
船員保険はちょっと特殊で、年金保険、健康保険だけでなく、失業(雇用)保険、労災保険を一体として適用していたかと思います。
厚生年金も期間加算されていました。
厚生年金は、1960年の国民年金制度、年金通算制度発足までは20年間の加入期間が必要であり、これを満たさない場合は脱退手当金を支給して支給期間を喪失させることになっていました。
この年金制度の違いが船員はジョブ型雇用、そして大企業・官庁中心にメンバーシップ型・年功型賃金と言う違いへと反映された、と言う事は考えられないでしょうか。
投稿: balthazar | 2024年8月11日 (日) 04時58分
船員保険は、1939年に新生厚生省保険院の所管として生み出されましたが、実は前年に厚生省が設置されるまでは船員行政を所管する逓信省で制定作業が進められてきました。なので、内務省社会局サイドの社会保険システムとは違う作りになっています。その仕組みが戦後も受け継がれたので、必ずしもジョブ型だったからというわけではないですし、そもそも農商務省で健康保険が作られたときにも、厚生省で1941年に労働者年金保険が作られたときに、まだまだメンバーシップ型にはなっていなかったですし。
投稿: hamachan | 2024年8月11日 (日) 07時37分
hamachan先生
返信ありがとうございます。
なるほど、そう言う事情があったのですね。
私の所属していた部署で船員保険の遺族厚生年金そして労災にあたる遺族年金を扱っていたことがあり、「どうして船員保険の労災だけ別なの?」と思っていたのです。
今は船員保険の期間加算は廃止されたかと思います。
だから労災部分も労災保険に統合すべきではないかと思いますが、厚生省と労働省が統合された今でも難しいのでしょうね。
投稿: balthazar | 2024年8月11日 (日) 08時58分
それができない所以は、そもそも労災保険法の根拠が労働基準法の労災補償にあるのに対して、船員保険法の根拠は船員法にあるからです。そして両者は業務上と業務外の考え方が異なるのです。
この点については、かつて「船員の労働法政策」(『季刊労働法』2016年冬号)に略述したことがあるので、引用しておきます。
投稿: hamachan | 2024年8月11日 (日) 15時28分
hamachan先生
再びの返信ありがとうございます。
ようやく長年の船員保険についての疑問が解消しました。
ありがとうございました。
職務上発生した遺族年金にそうでない遺族年金と併給調整する規定があった事を思い出しました。
そして職務上の遺族年金、障害年金を裁定し、併給調整関係を処理するための部署も設けられていました。
船員保険の制度を改変するのはおっしゃる通り難しそうですね。
適用数も少ないでしょうし、そのまま維持するほかないのでしょう。
投稿: balthazar | 2024年8月11日 (日) 16時28分
船員はジョブ型と言われますが、日本企業の従業員ですので標齢給表に基づいた給与が原則ですし、「あなたは一等航海士の資格を持っているけれども二等航海士として執職しなさい」といった採用も多いので完全なるジョブ型、と問われるとかなり疑問ですけどね、日本企業の従業員としては最高レベルでジョブ型だとは思いますが
上位者がいない場合の執職手当がでたりすることもあるのでそこら辺はジョブ型らしいとは思いますが
むしろ彼らにの独自性は日本企業の従業員としてはほぼ完全なる産別労働組合かつ中堅以上の企業においてはユニオンショップが完全に実施できている点だと思います。
投稿: culloss | 2024年8月11日 (日) 22時22分
それは、戦前の船員法から今日の船員法への流れが、雇入れ契約一本だったのから、雇入れ契約と雇用契約の二本立てになっていくのと共通していると思われます。
これも、かつて「船員の労働法政策」(『季刊労働法』2016年冬号)で述べていますが、もともと明治時代の西洋型商船海員雇入雇止規則、旧商法、給船員法では、船員は船に乗り組むと同時に「雇入れ」られ、船を降りると同時に「雇止め」されるという仕組みでした。この「雇入れ契約」は今日の船員法にもちゃんと残っていますが、終戦直後の1947年船員法で、雇入れ契約と並んで「雇よう契約」というのが登場し、船に乗っていない間も雇入れ契約はないけれども雇用契約は存在するという風に、陸上の労働関係にやや近づいたのです。
その後、1962年の船員法改正で、雇入れ契約と雇用契約の二本立てが明確となり、雇用契約中心の法制になっていきます。 cullossさんの指摘されることとかかわりがあるのではないかと思われます。
投稿: hamachan | 2024年8月12日 (月) 13時27分