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2024年8月10日 (土)

せつな朱遊さんの拙著書評

Asahishinsho_20240810215801 せつな朱遊さんの「せつな日記」で、拙著『賃金とは何か』がかなり長めに書評していただいておりました。

https://setsuna-chi.moe-nifty.com/blog/2024/08/post-9a60e6.html

 濱口桂一郎さんの新刊です。本書で嬉しかったのは、最低賃金に関して書かれていることです。日本で職務給を導入しようとすると、産業別または職種別の最低賃金にしかならないのではないかなという私の疑問への回答に思えました。
 最低賃金が加重平均で1000円を超えるという話題のときに、最低賃金について少し調べたんですよね。そうしたら、地域別(都道府県別)の最低賃金の他に、産業別の最低賃金があるというのです。その事実にかなり驚いた記憶があります。
 本書には、その産業別最低賃金が消されようとしていた歴史が記されています。消されなくてよかったのではないかな?
 現在、産業別最低賃金(特定最低賃金)は、東京都などで地域別最低賃金に追い越されているようです。このような状況ですが、エッセンシャルワーカーなど一部の職種で、濱口さんも産業別最低賃金を活用してはどうかと提案しています。・・・

真っ先に最低賃金、それもほとんど注目されていない産業別最低賃金について注目していただいたことに、内心とてもうれしく思いました。また、

 本書で最も驚いたのは、船乗りはジョブ型ということです。戦前からジョブ型らしいです。戦後もすぐに船乗りの組合(全日本海員組合)ができて、職種別の最低賃金を制定しているようです。
 ジョブ型の業種は存在するわけです。しかし、それが一般化しない。それが日本型雇用なのでしょう。

こんなふうに、ちょっと脇道に、しかしそれなりに重要なはずの話をさりげに書いておいたことが、ちゃんと反応されているのを見るのもとても嬉しいことです。

 

 

 

 

 

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コメント

>本書で最も驚いたのは、船乗りはジョブ型ということです。戦前からジョブ型らしいです。戦後もすぐに船乗りの組合(全日本海員組合)ができて、職種別の最低賃金を制定しているようです。
 ジョブ型の業種は存在するわけです。しかし、それが一般化しない。それが日本型雇用なのでしょう。

 私も驚きました。
 この辺りの記述を読んで思い出したのが、船乗りは第二次世界大戦中から「船員保険」に加入することになっていたことです。
 船員保険はちょっと特殊で、年金保険、健康保険だけでなく、失業(雇用)保険、労災保険を一体として適用していたかと思います。
 厚生年金も期間加算されていました。

 厚生年金は、1960年の国民年金制度、年金通算制度発足までは20年間の加入期間が必要であり、これを満たさない場合は脱退手当金を支給して支給期間を喪失させることになっていました。
 
 この年金制度の違いが船員はジョブ型雇用、そして大企業・官庁中心にメンバーシップ型・年功型賃金と言う違いへと反映された、と言う事は考えられないでしょうか。

船員保険は、1939年に新生厚生省保険院の所管として生み出されましたが、実は前年に厚生省が設置されるまでは船員行政を所管する逓信省で制定作業が進められてきました。なので、内務省社会局サイドの社会保険システムとは違う作りになっています。その仕組みが戦後も受け継がれたので、必ずしもジョブ型だったからというわけではないですし、そもそも農商務省で健康保険が作られたときにも、厚生省で1941年に労働者年金保険が作られたときに、まだまだメンバーシップ型にはなっていなかったですし。

hamachan先生

返信ありがとうございます。
なるほど、そう言う事情があったのですね。
私の所属していた部署で船員保険の遺族厚生年金そして労災にあたる遺族年金を扱っていたことがあり、「どうして船員保険の労災だけ別なの?」と思っていたのです。
今は船員保険の期間加算は廃止されたかと思います。
だから労災部分も労災保険に統合すべきではないかと思いますが、厚生省と労働省が統合された今でも難しいのでしょうね。

それができない所以は、そもそも労災保険法の根拠が労働基準法の労災補償にあるのに対して、船員保険法の根拠は船員法にあるからです。そして両者は業務上と業務外の考え方が異なるのです。

この点については、かつて「船員の労働法政策」(『季刊労働法』2016年冬号)に略述したことがあるので、引用しておきます。

 上述のように、1937年船員法は船員の傷病について、療養扶助と死亡手当は業務上外を全く区別しない一方、給料については業務上外で過失の度合に差をつけていました。船員保険も業務上外の区別は明確ではありませんでした。工場法で業務上傷病の扶助責任を定めた上でそれを健康保険で担保していた陸上労働とは違う仕組みだったのです。ところが、1947年船員法は同年の労基法に沿った形で災害補償の規定を設けることとなりました。しかし戦前来の業務外の傷病も負担する部分も維持されます。さらに陸上では労基法で業務上傷病の補償責任を定めた上で、それを担保するために独立の労災保険を設けるという形になりましたが、船員の世界では業務上外を明確に分けない船員保険が維持されました。そのため、船員の労災法制は極めてわかりにくいものになってしまいました。  まず船員法の災害補償規定ですが、「船員が職務上負傷し、又は疾病にかかつたときは、船舶所有者は、その負傷又は疾病がなおるまで、その費用で療養を施し、又は療養に必要な費用を負担しなければならない」(第89条第1項)と、一見労基法第75条の療養補償と同じに見えますが、実は打切補償の規定がないため、3年経って傷病が治らなくても未来永劫面倒を見なければならないことになっています。一方同条第2項は「雇入契約存続中職務外」の傷病についても3か月の療養補償を求めています。後者は「職務外」というのですから厳密にいえば労災ではないはずですが、そもそも雇入期間中即ち乗船中は船内で生活しているのだから全部まとめて業務上のようなものだと考えるのであれば、そういう概念設計にすべきだったように思われます。実際にはやや中途半端に「職務上」は極めて手厚く、「職務外」は手薄く、まとめて「療養補償」と称したわけです。  次の「傷病手当」は労基法の休業補償に当たるものですが、「職務上」の傷病について、最初の4か月は標準報酬月額の全額、その後はようやく労基法並みになってその60%を払い続けなければなりません。さらに傷病が治ったら「予後手当」と称してその60%を支払うことととされています。快気祝い金とでもいうことでしょうか。では「職務外」の休業補償はないのかというと、実は災害補償ではなく第5章「給料その他の報酬」の中に、「船員は、負傷又は疾病のため職務に従事しない期間についても、雇入契約存続中給料及び命令の定める手当を請求することができる」(第57条)という規定があり、職務上の場合は第114条で併給調整されるというやたらに複雑な仕組みです。  このように、戦前来の「職務外」の尻尾を引きずりながらも、一応労基法に倣った形で船員法上に災害補償の規定が設けられたのに対し、船員保険は業務上外を区別しない戦前来の建付けが維持されました。この背景には役所間の権限争いがあったようです。運輸省が船員保険の丸ごと移管を求めたのに対し厚生省が強く抵抗し、結局GHQの裁断で労災保険や失業保険に相当する部分も厚生省の所管に残ってしまいました。しかも労災保険相当部分についてはそもそも健康保険相当部分から切り分けられず、「療養給付」や「傷病手当金」の中に職務上と職務外が両方入っているという形のままになってしまったのです。  1947年の段階では法律上は療養給付に業務上外の区別はなく、ただし政令に定めるその給付期間が、障害年金又は障害手当を受給できるようになるまで、そうでなければ職務外なら2年間(後に3年間)となっているだけでした。ようやく1957年改正で、第28条に第2項として「船員法第八十九条第二項ニ規定スル療養補償ニ相当スル療養ノ給付」については職務外であっても職務上と同じ扱いにするという形で区別が明示されたのです。  一方傷病手当金については1947年改正で、職務上の傷病であれば4か月間は全額、それ以降はずっと60%、療養給付終了時に60%の1月分(予後手当に相当)ですが、職務外であれば上記2年間(後に3年間)60%となりました。いずれにしても、一応職務上外の概念区分はありながら両者がかなり癒着した制度であり、労災保険のように船員法上の船舶所有者の災害補償義務を担保するための独自の保険制度とはならなかったのです。


hamachan先生

再びの返信ありがとうございます。
ようやく長年の船員保険についての疑問が解消しました。
ありがとうございました。

職務上発生した遺族年金にそうでない遺族年金と併給調整する規定があった事を思い出しました。
そして職務上の遺族年金、障害年金を裁定し、併給調整関係を処理するための部署も設けられていました。

船員保険の制度を改変するのはおっしゃる通り難しそうですね。
適用数も少ないでしょうし、そのまま維持するほかないのでしょう。

船員はジョブ型と言われますが、日本企業の従業員ですので標齢給表に基づいた給与が原則ですし、「あなたは一等航海士の資格を持っているけれども二等航海士として執職しなさい」といった採用も多いので完全なるジョブ型、と問われるとかなり疑問ですけどね、日本企業の従業員としては最高レベルでジョブ型だとは思いますが

上位者がいない場合の執職手当がでたりすることもあるのでそこら辺はジョブ型らしいとは思いますが

むしろ彼らにの独自性は日本企業の従業員としてはほぼ完全なる産別労働組合かつ中堅以上の企業においてはユニオンショップが完全に実施できている点だと思います。

それは、戦前の船員法から今日の船員法への流れが、雇入れ契約一本だったのから、雇入れ契約と雇用契約の二本立てになっていくのと共通していると思われます。
これも、かつて「船員の労働法政策」(『季刊労働法』2016年冬号)で述べていますが、もともと明治時代の西洋型商船海員雇入雇止規則、旧商法、給船員法では、船員は船に乗り組むと同時に「雇入れ」られ、船を降りると同時に「雇止め」されるという仕組みでした。この「雇入れ契約」は今日の船員法にもちゃんと残っていますが、終戦直後の1947年船員法で、雇入れ契約と並んで「雇よう契約」というのが登場し、船に乗っていない間も雇入れ契約はないけれども雇用契約は存在するという風に、陸上の労働関係にやや近づいたのです。
その後、1962年の船員法改正で、雇入れ契約と雇用契約の二本立てが明確となり、雇用契約中心の法制になっていきます。 cullossさんの指摘されることとかかわりがあるのではないかと思われます。

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