世界のパワハラ 日本でしか聞かれない質問が象徴する「指導文化」@朝日新聞デジタル
今朝の朝日新聞デジタルに、「世界のパワハラ 日本でしか聞かれない質問が象徴する「指導文化」」というわたくしのインタビュー記事が載っています。インタビュワは岩田恵美記者です。
世界のパワハラ 日本でしか聞かれない質問が象徴する「指導文化」
最近では兵庫県や自衛隊で問題になっているパワハラ。自治体、大学、企業……。パワハラにまつわるニュースが絶えません。日本は、世界と比べても問題が深刻なのでしょうか。労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎労働政策研究所長に聞きました。
――世界でも職場のハラスメントは問題になっているのでしょうか。
この20年ほどで、世界的に問題として捉えられるようになり、2019年に職場の暴力とハラスメントを禁じる条約が国際労働機関(ILO)で採択され、21年に発効しました。「ハラスメント」という言葉は一般に浸透していますが、国によって問題意識の背景が異なり、それぞれ独自の用語、用法があります。
日本の「パワーハラスメント」は、日本でしか通じません。日本のパワハラにあたるような職場での行為は、フランスでは「モラルハラスメント」、英国では「bullying」、ドイツでは「mobbing」と呼ばれています。英語、ドイツ語は「いじめ」という意味の言葉です。――日本は世界でもハラスメント問題が深刻なのでしょうか。単純な比較はできません。世界的にみて、日本の「パワハラ」は非常に独特な概念です。それを示すものとして、日本企業の人事担当者からよく聞かれる質問があります。こうした質問がでるのは、日本ぐらいではないでしょう。――どのような質問ですか。「どこまでやったらハラスメントになりますか」という質問です。つまり、上司による部下への指導の中で、それ以上厳しくするとパワハラになる一線があると考え、どこにその線を引けばいいのかと悩んでいるのです。――日本のパワハラは「パワー」という言葉で表されるように、上司による部下への行為、というイメージが強くあります。職場でのハラスメントということで言うと、海外では同僚間で起きる「いじめ」を指すことが多い。指導の厳しさで線引きする「程度」の問題ではなく、本来職場にあってはいけないものなのです。このような違いは、企業組織の文化の違いによって生じていると私は解釈しています。欧米の企業は職務を明確に決めて、そのスキルをもった人を採用する「ジョブ型雇用」なのに対し、日本の企業は新卒などをまず採用し、その後に企業が社員にスキルを身につけさせます。上司には部下を指導することが求められ、その指導をめぐって独特のパワハラという問題が生じているのだと思います。・・・・・
(追記)
この記事に、小熊英二さんのかなり詳細なコメントが付いています。
「上司が権力を不当に使う」ことへの問題視は他国にもあるが、日本における「パワハラ」とは異なるというのは恐らく濱口氏の指摘の通りだろう。以下は私見だが、その理由は歴史的な経緯の違いだと思う。・・・・
ここで小熊さんが語っているのは、私流にいうと、欧米における伝統的なトレード型から20世紀に新たな(狭義の)ジョブ型が生み出されてくるメカニズムになります。
それが日本では起こらず、全く逆方向への「進化」が同時代的に進行したことの一つの帰結が、日本的なパワハラなのでしょう。
ただ、この紙面だけではやや言葉が足りない感もあるので付け加えておきますが、現実の日本の企業現場では、そういう教育訓練とどこで線引きすべきかに頭を悩ませるような(狭義の)パワハラだけではなく、むしろ言葉の正確な意味でのいじめでしかないような上位者による不当な権限行使としてのパワハラも山のようにあります。その辺は、個別労働紛争のファイルをめくっていると幾らでも出てくるので、それも日本の現実の一面です。
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コメント
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> 日本でしか聞かれない質問が象徴する「指導文化」
いじめとか、虐待は職場だから(あるいは、学校だから、家庭だから)良いとか、悪いとか、そんなのはない訳ですけれども
しごき、指導、懲戒なんかは、「職場だから良い」「職場だからこそ悪い」の両面が混在して発生しているような気がします
投稿: れん | 2024年8月13日 (火) 14時37分
そうなのかね。日本では上司(先輩)が部下(後輩)を教えなければいけなくて、その中でどこまで強制できるか、という問いだと思うけど。
ジョブ型だとその仕事ができる前提できてるから教えなくていい、教えるとしたらマニュアルを作ってそれをやれ、という指示で済む。
この違いなのでは?
投稿: ちょ | 2024年8月14日 (水) 19時13分
もしも仮に「どこまで〇×できるか」が契約時に明確になっているなら、無限定ではなく、ジョブ型に近い状態のように思います。
投稿: カネゴン | 2024年8月15日 (木) 20時43分