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2024年8月24日 (土)

和田肇『労働政策立法学の構想』

650570和田肇『労働政策立法学の構想』(旬報社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.junposha.com/book/b650570.html

労働法判例解説や教科書などで知られる、現代労働法学を代表する論客が、
「労働政策立法学」という新たなテーマで労働法学方法論に挑戦する意欲的な一冊!

1990年代になって第二次世界大戦直後の労働基準法や労働組合法の制定時の資料が発見され、その調査と分析が行なわれてきた。
この研究により、これら法の立法趣旨が明らかにされ、解釈論にも貴重な基礎が提供されることになった。
こうした研究史の動向のなかで、本書は労働政策に関する立法を対象とした「労働政策立法学」という新たな研究領域の確立をめざす。

このタイトルは、わたくしの『日本の労働法政策』や、『季刊労働法』に連載している「労働法の立法学」とよく似ていますが、一読した感想からいうと、そうした政策過程論に関心を集中したものよりも、これまで判例評釈に傾いていた法解釈論を政策論の方向に広げようとしたものといった方がふさわしい気がしました。

実際、第1章の「労働政策立法学の構想」では、「本書で構想される労働政策立法学の一つの特徴は、政策立法の効果の検証にある」と述べ、それは一つにはビッグデータを利用したマクロ的な視点からなされるが、他方では裁判例の分析を通じたミクロな視点からなされる必要があるとし、「法律学がよりよく貢献できるのは、いうまでもなく後者の分析」と述べます。

目次を見ても窺われますが、特に第二部において、各分野ごとにこの裁判例による政策の検証に力が込められています。

はしがき 


第Ⅰ部 労働政策立法学の基礎
第1章 労働政策立法学の構想
 はじめに
 一 労働政策立法の時代 
 二 立法学と法政策学の隆盛 
 三 労働政策立法学の提案
 四 裁判例による政策立法の効果の検証 
 五 まとめ 
 【補論】 労働政策立法研究と統計等の資料
 はじめに
 一 日独の調査データや資料の違い
 二 ドイツの労働時間調査
 三 最低賃金制度に関する統計
 四 「社会の宝」としての労働協約
 五 まとめ
第2章 労働条件立法の体系
 はじめに
 一 いくつかの体系化の試み
 二 労働条件立法と憲法27 条
 三 日本における労働法体系の説明
 四 労働法における公法と私法
 五 労基法等における禁止規定違反の効果―賃金差別事案
 六 まとめ 
第3章 労働法の規範構造(その1)―強行法規とその逸脱
 はじめに 
 一 強行規定とその逸脱
 二 個別合意による強行法規の逸脱 
 三 労使協定による強行規定の逸脱
 四 ドイツ労働法における強行法規と逸脱の構造
 五 強行法規からの逸脱に関する日独比較
 六 労働法規範の再設計―労働条件の自己決定の課題 
 七 まとめ 
第4章 労働法の規範構造(その2)――ハードローとソフトロー
 はじめに
 一 労働法におけるソフトローとハードロー 
 二 ドイツ法におけるソフトローの展開 
 三 ソフトローによる法の性質変容 
 四 労働政策立法におけるソフトローの機能分析
   ―均等法における雇用平等政策効果を中心に
 五 ハードロー型立法規制の模索―差別救済について 
 六 まとめ
第5章 労働法のエンフォースメント
 はじめに
 一 先行研究 
 二 労働法の実効性確保手法 
 三 労基法の制度 
 四 行政上の制裁 
 五 行政上のその他の措置 
 六 労働組合のコンプライアンス監視機能
 七 女性活躍推進法による情報公開義務
 八 行政ADR 
 九 まとめ 

第Ⅱ部 労働政策立法の検証
第6章 有期雇用の法政策
 はじめに
 一 民法の制定と戦前の雇用
 二 労基法の制定と1980 年代までの有期雇用
 三 1990 年代前半頃までの有期雇用裁判例の展開
 四 1990 年代から2000 年代初頭にかけての有期雇用立法 
 五 労働契約法の制定と改正
 六 労契法18 条の効果 
 七 有期雇用立法政策の論点―比較法もふまえて 
 八 まとめ 
 【補論】労働契約法18条の特例――研究者・教員の雇用環境の整備
 はじめに
 一 特例法の制定過程
 二 研究特例法の対象者 
 三 国立大学・研究機関における2023 年問題 
 四 ドイツ法からの示唆
 五 まとめ
第7章 非正規雇用の均衡・均等処遇の法政策
    ―パートタイム労働を中心に
 はじめに
 一 1993 年パート労働法制定まで
 二 2007 年パート労働法改正
 三 2014 年パート労働法改正
 四 労契法20 条の機能・効果と限界 
 五 2018 年法改正(パート・有期雇用法)
 六 データに見るパート雇用政策立法の効果
 七 客観的で透明な職務分析 
 八 まと
第8章 人事異動の法政策―転勤(勤務地の変更を伴う配転)を中心に
 はじめに
 一 人事政策における配転の意義
 二 配転の出現とその後の展開
 三 判例・裁判例と学説の展開
 四 人事異動と立法政策
 五 ジョブ型雇用―勤務地限定正社員を中心に
 六 まとめ 
第9章 労働時間の法政策―女性(女子)の保護規定を中心に
 はじめに
 一 労働時間に関する女性(女子)保護規定の改正過程 
 二 1990 年代の国際動向
 三 女性の雇用実態と労働時間保護規制の撤廃 
 四 女性保護規定撤廃による影響―統計資料から見る実態 
 五 まとめ―女性保護規制のあり方と立法政策の陥穽
第10章 年次有給休暇の法政策
 はじめに
 一 労基法39 条の変遷過程 
 二 統計に見る年休の実態
 三 判例・裁判例の展開 
 四 判例・裁判例の検討 
 五 年休制度の発展のために―ドイツの年休制度との比較から
 六 まとめ 
第11章 雇用保険の法政策―休業の所得補償を中心に
 はじめに
 一 雇用保険制度とその歴史
 二 休業と民法・労働法―日本法
 三 コロナ禍と休業問題―雇用調整助成金制度等
 四 ドイツにおける休業と賃金補償制度
 五 比較法をふまえた分析
 六 雇用保険制度の課題―セーフティネットの張り替え
 七 まとめ 

第Ⅲ部 総括
第12章 男女雇用平等と立法政策
 はじめに 
 一 労働政策立法学の構想と検証手法 
 二 雇用平等の現状 
 三 雇用平等に影響を与えた要因分析(1)―法規範の設定方法
 四 雇用平等に影響を与えた要因分析(2)―労働時間法制
 五 雇用平等に影響を与えた要因分析(3)―非正規雇用政策 
 六 雇用平等に影響を与えた要因分析(4)―法のエンフォースメント 
 七 差別解消に向けた新たな立法 
 八 まとめ 
事項索引

これは全くその通りではありますが、一方で裁判例が出てこないと検証ができないということになると、どうしてもかなり時間が経った政策しか素材になりにくくなります。また、分野によって裁判例が多く出てくる分野とそうでない分野の精粗があり、全体をまんべんなく取り扱う政策論や立法学にまとめるのは難しくなりがちです。

 

 

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