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2024年8月 9日 (金)

もう一歩手前の入門書が欲しいよなあ@金子良事

81tj1p4qhol_sy466__20240809140201 最近ほとんどブログを更新しなくなった金子良事さんが、久しぶりに更新しておられて、拙著『賃金とは何か』を書評していただいていました。

http://ryojikaneko.blog78.fc2.com/blog-entry-538.html

まず、この本は金子美雄一門の歴史観を踏襲するということで、前半はそのレビュー的な内容になっています。後半が昨今の動向を踏まえた様々な議論になっています。これは本当の意味での啓蒙的な本になっています。濱口さんが世間的に注目を浴びた『新しい労働社会』の前後の時にもおっしゃっていましたが、濱口さんは金子さんや孫田さんたち、それから田中博秀さんの議論を継承しています。重要なところを継承しつつ、その時代に合った形でリニューアルするというのは、本当に啓蒙的な仕事として大事なことですね。・・・

それはかなり自覚的にそうで、『若者と労働』が田中博秀の『現代雇用論』のリニューアルであったのと同様、今回の本は金子や孫田の本のリニューアルという面があるのですが、それ以上に(これは通読すれば気がつくと思いますが)始めから終わりまでここぞというところで必ず金子美雄が出てきて何か語っているという作りになっていて、彼ら労働省学派(なんてのはないですが)へのオマージュという思いも込めています。彼らと違って労働研究者からもほとんど忘れられた存在である宮島久義という賃金官僚の生き様にも、あえてアンバランスなほどのページ数をつぎ込んだのも同じ思いからでした。

ただ、入門書というよりは、ある程度、労働とか賃金、給与について知識のある人が復習と最近の動向を確認するという意味で良い本です。社会政策を専攻する人は、ぜひ読んでおいてほしいという気持ちと、初学者がこれを読んでも、難しいよなというところの間です。構造的に物事をとらえる、そういう視点を初学者がスキルとして獲得するには、どうすればよいのかというのは本当に悩ましいです。・・・

まあ、そもそもいまは制度学派の労働研究者自体が暁天の星の如き希少な存在になってしまっていますので、初学者も中堅もあまり関係がないのかも知れません。

実を言うと、この本を書いていたときに主たる想定読者層は、厚生労働省になって労働政策との関係がやや希薄になり、昔の蓄積がほぼ継承されなくなってしまっている若い官僚の皆さんでした。はしがきで、岸田総理の発言を延々と引用した後に昔の池田総理の発言をぶつけているのも、官邸から下りてくる声で動かされている彼らに、その背景にはこんな歴史的経緯があるんだよという謎解きをしてあげているつもりでもありました。シャーロック・ホームズの長編で、いま起こっている事件の背景にその昔のいろんなことが絡み合っていたんだよ、みたいな謎解きが延々と綴られるのと自分としては似たような感覚でもあります。

金子さんの最終評語は「もう一歩手前の入門書が欲しいよなあ」ということですが、それこそ金子さんが書くべきでしょう。

 

 

 

 

 

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コメント

濱口先生、ご無沙汰しておりました。自分で書きながらも、そうだよなあと思ってました笑。8月中は他の成果物の追い込みがあるので、それが終わったら、考えてみたいと思います。

期待しています。

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