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2024年7月26日 (金)

Francisさんの拙著書評

81tj1p4qhol_sy466__20240726093201 本ブログにも頻繁にコメントをしていただいているFrancisさんが、拙著『賃金とは何か』についてかなり長い書評を書かれています。

https://ameblo.jp/balthazarfrancis/entry-12861256969.html

そのなかには、ご自身の職業キャリアに関わって、こんな記述もあります。

・・・私は「年功型賃金」のお陰で転職を余儀なくされたことがあります。

 以前年金の事を書いた時、以前の勤め先が年金関係の官庁だった事を書きました。

 その官庁が廃止され、法人化されたのですが、その時中高年の多くの職員が最大で7年間の有期雇用で雇い止めになるリストラ予備軍となりました。

 私もその一人。

 ところが、一方で法人化された時に新しい職員も沢山雇われました。

 オカシイ!と言う声も多数ありました。

 しかし、これは「年功型賃金」で職員を雇用しているのであれば、全くおかしくない。

 大変合理的な選択でした。

 年功型賃金であれば中高年層の職員・社員の給料は高くなり、当然コスト高の要因となる。 

 一方、年功型賃金では初任給は抑えられているので若年層をしばらく安い給料で雇える。

 だから中高年層の首を切って若い職員を雇ってしまった方がコストが削減でき、経営安定につながる。

 と言う事だったのです。

 この官庁は本当にひどい有様で徹底的な改革が求められていました。

 多くの職員が不平不満を言わずに働き続ける道を選びました。

 私もここで不平不満を言うよりは雇い止めになるまで働いた方が自分自身のこれからの人生にとっても良いだろう、と思って雇い止めになるまで働くことにしました。

 雇い止めになった後、幸運に恵まれ、二回転職したものの、一日も失業することなく働くことが出来ています。

 本当に運が良かったです。・・・

この社会保険庁のはなしは、最近出た『ルポ年金官僚』でもあんまり詳しく書かれていなかったように思います。

これに続いて、Francisさんは、なぜ井手英策さんの議論が肝心の足下で支持されないのかを拙著の議論を使ってこう説明していきます。

井手英策さんはしばしば「この20年で日本は貧しくなった」と言われます。

 しかし私はその言葉に半信半疑でした。

 多くの人が私同様、この井手さんの認識とのギャップを感じていると思います。

 だから井手さんの考えへの支持も広がっていないようです。

  しかし、今回「賃金とは何か」を読んでようやくわかりました。

 どうして井手さんの「日本は貧しくなった」と言う言葉に共感が広がらないのか。

 それは「年功型賃金」が理由でした。

 読書メーターの感想から一部を引用します。

 「帯に「日本の賃金が上がらないのは”定期昇給”があるから」とあります。これは目から鱗でした。実は日本人の平均的な労働者の賃金は21世紀に入ってからほとんど上がっていません。しかし多くの人はそう考えておらず、「給料は毎年上がってるよ???」と思っているはずです。それは「初任給が安くても毎年2%ずつ定期昇給しているから」です。でもこの「定期昇給」の恩恵にあずかれるのはいわゆる「メンバーシップ型雇用」の大企業。中小企業に勤める人、非正規雇用者は「ジョブ型雇用」に近いですが、賃金水準はかなり低い。」

 大企業、あるいは官庁勤めの人は定期昇給で2%は毎年給料が上がっているから、21世紀に入ってから平均的な労働者の賃金はほとんど上がっていない、すなわち「日本が貧しくなった」ことが実感できなかったのです。

  井手さんが自分の考えを伝える対象は中産階級、すなわち「年功型賃金」の大企業、官庁勤めの人たちが対象。

 井手さんは左派に属するので労働組合に親近感があるので労働組合は連合、そしてその連合を支持母体とする政党、国民民主党、立憲民主党に自分の考えを広めようとしている。

 しかし、彼らには届かない。

 なぜか。

 それは連合、国民民主党、立憲民主党が「年功型賃金」の大企業、官庁勤めの人たちが構成員だったり、支持者だから。

 「日本が貧しくなった」ことが実感できない人たちだったのです。

 だから井手さんの考えに共感が広がらない。

 そう言う事だったのでしょう。

 井手さんは頭は良いのでこの事に気付いてはいるとは思います。

 「日本が貧しくなった」事に気付かせないとは、つくづく「年功型賃金」「メンバーシップ型雇用」は罪深いことよ。

書評という形をとって、自らのご経験と政治の世界の説明を巧みに織り交ぜていく見事なエッセイでした。

 

 

 

 

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コメント

 これまでのhamachan先生のブログの記事をまとめると、

  「戦後の(中略)賃上げは、(中略)年功序列賃金をむしろ育成強化してきた。(中略)日本の家父長的労務管理、労務政策というものを、労働組合自らが育成強化する運動をやってきた。これではいつまでたっても、われわれのほんとうの意味での資本との対決もあり得ない。」(2023年2月 5日 (日)「 60年前も職務給が流行し、労働組合は悩んでいた」より、当時の合化労連の岡本副委員長の言葉)

  という悩みもあったにも関わらず、高度経済成長時代以降に、定期昇給を伴う年功賃金制度が確立したことにより、「それまでの多数派たる弱者だったメインストリームの労働者たちが多数派たる強者になってしまった(2024年7月24日 (水)「マージナル指向のなれの果て」)。

  その結果、今日においては「(日本の労働組合である)連合、そしてその連合を支持母体とする政党、国民民主党、立憲民主党は、「年功型賃金」の大企業、官庁勤めの人たちが構成員だったり、支持者だから」彼らは「日本が貧しくなった」ことが実感できない人たち」であり、そうであるがゆえに、彼らには「井手英策さんの「日本は貧しくなった」ことに気付いていることを前提とした、「幸福の増税」による、ベーシックサービスの普遍的供給という北欧型福祉国家への移行、という主張に「共感が広がらない」(2024年7月26日 (金)「Francisさんの拙著書評」)。

  かくして、60年前の岡本副委員長の、「こんな状態では、本来の労働者の自立というものはありえな」い、という世界が完成している、ということになりますね。

hamachan先生

Francisことbalthazarです。
私の拙いブログをご紹介いただき、本当にありがとうございます。
特に先生の最後の文章は私にとって身に余るお言葉です。

「ルポ年金官僚」は私も読みました。
社会保険庁問題についてあまりにも扱いが小さすぎると私も感じました。
ご承知とは思いますが、社保庁問題は戦後、GHQが推進した地方分権制度に重大な設計ミスがあったことが原因です。
おまけに職員団体(労働組合)の制度設計にもそれに伴うミスが発生。
そのために社保庁の労使関係までも大変歪なものになり、あのような有様になった、と言う本当に恥ずかしい話です。

この社保庁の労使問題は今社保庁廃止の時に分限免職された職員仲間の裁判がまだ続いていますので、これが終わらないと大きく取り上げられる事はないのかもしれません。

SATO様。
コメントへの引用ありがとうございます。

井手英策さんについては数年前井手さんの住んでいる神奈川県西部のある市まではるばる出かけて3回、井手さんと直接話す機会を得ました。
井手さんは本当に情熱のある人で、多くの人を引き付ける魅力のある方であることが分かり、それ以来井手さんの「ペーシックサービス」などの考えを支持しています。
だから井手さんの考え方にどうして共感が広がらないのか、ずっと疑問に感じていました。

井手さんご自身もお母様がシングルマザーで貧乏暮らしだったのにも関わらず、大学院まで行かせてくれた、と言う経験をお持ちです。
この経験が「幸福の増税論」「ベーシックサービス」と言う発想に至った事を井手さん本人も語っています。
この辺りの事情も井手さんの発想が「年功型賃金」「メンバーシップ型雇用」にどっぷりつかった大企業・官庁勤めの人たちに共感されない理由なのでしょう。

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