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2024年7月18日 (木)

賃金は上がらないといけないのか?

Asahishinsho_20240718160901 オベリスク備忘録さんが、続いて『賃金とは何か』の第Ⅱ部以降について書評してくださっています。

https://obelisk2.hatenablog.com/entry/2024/07/17/085622

・・・終章で、いわゆる「日本が安い」理由、日本の賃金が諸外国に比べ低くなっている理由が指摘されている。つまり、日本では「定期昇給」があるので一見して(個人の)給料が上がるように思えるが、ベースアップがない限り、時間的にスライドしているだけで、トータルでの給料(それは個人からすれば一生のであるし、また国家全体ではその総和)は、世代的に変わらない。それに対し、諸外国の給料は「実質的に」増加しているので、相対的に「日本が安くなる」というからくりだ。確かにそれは「けしからん」ことであり、日本も外国並みにならなければいけない、御尤もである。
 しかし、ここがわたしの無知というか、バカな疑問で恥ずかしいのだが、なぜ、給料は「実質的に」上がらないといけないのか? なんで、外国では、団体交渉をして、ジョブにくっついた給料を上げるのだろう。そりゃ、給料が上がるとうれしいのはわかる。でも、日本人は、「定期昇給」というからくりに「騙されて」、実質的に上がらない賃金でそこそこやってきたではないか。外国人は、現状に「ガマンできない」のか?・・・

これはなかなか哲学的意味で本質的な疑問です。

外国の労働者は、なんでストライキをやってまでして無理やり賃金を上げようとするんだろうか。賃金なんて上がらなくっていいじゃないか、というのは一つの立派な考え方です。

いや、脱成長とかほざいているインチキマルクス主義者たちは、ハッキリそう言ったらいいと思いますよ。論理的には当然そういうことになるはずなんだから。

でも、そこまではっきり言う人は見たことがありませんね。賃金なんか上がらなくっていいじゃないか、外国の労働者がどんどん豊かになっているのに、日本の労働者が貧しいままでどこが悪いんじゃ。あいつらは下らないことに夢中になっているだけなんだ、と、言えばいいのに、いわないのは卑怯だと思うけど、まあいいや。

これに対して、私がこの本で言っているのは、そんな哲学的に本質論的な話じゃなくって、定期昇給は賃上げだと思い込んで、ここ30年間毎年2%ずつ賃金が上がってきたね、良かったね、と自分を慰めていても、それは内転しているだけで、日本人の賃金は全然上がってこなかったんだよ、と指摘しているだけです。

賃金なんか上がらなくてもいいと達観している人に言ってるんじゃなくって、賃金は上がるべきだと思っていて、実際少しずつでも上がってきていると思っている人に対して、いやいや定期昇給ってのは内転しているだけで、賃金自体は上がってなんかいないんだよ、と指摘して差し上げているだけなんです。まことに本質論的ではない世俗的でみみっちい話に過ぎないんです。

でも、この本はそういう世俗的次元にのみ焦点を合わせている本なので、哲学的にはまことに物足りない底の浅い議論になってしまっているのでしょうね。そこのところは書いた本人が良く承知しております。

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コメント

>しかし、ここがわたしの無知というか、バカな疑問で恥ずかしいのだが、なぜ、給料は「実質的に」上がらないといけないのか? なんで、外国では、団体交渉をして、ジョブにくっついた給料を上げるのだろう。そりゃ、給料が上がるとうれしいのはわかる。でも、日本人は、「定期昇給」というからくりに「騙されて」、実質的に上がらない賃金でそこそこやってきたではないか。外国人は、現状に「ガマンできない」のか?

 森喜朗さんあたりが聞いたら「良くわきまえているじゃないか!今の女子供とは違う!」と涙を流して喜びそうですね。
 こういうセリフは普通の労働者ではなくてトランプに献金している強欲資本家どもに言ってほしいです。
 「オタクら強欲資本家は沢山金持ってるくせに、現状に「ガマンできない」のか?オタクらわきまえと言うものがないのか?」のか?」と強欲資本家どもにいつの日か言ってくれることをオベリスク備忘録さんに期待しております(^-^)

> (年2%程度とかいう)適度な成長なしではやっていけない、なんていう、経済学的な話なのだろうか。「デフレ、ぜったい、ダメ」みたいな。

それは、どっちかと言うと名目賃金の話なので、みっみちい話、もしくは、みっみちい話に見せかけた隠れインフレ課税論者。
彼らの多くは自分が自由主義者なのか、隠れ社会主義者なのかが分からなくて、訳分からんことを言っていたような気がする。

>賃金なんか上がらなくっていいじゃないか、外国の労働者がどんどん豊かになっているのに、日本の労働者が貧しいままでどこが悪いんじゃ。

これまでいろいろな所で
   失われた※年で日本経済が停滞し労働者の賃金も上がらない間に他国の経済は発展し労働者の賃金も上昇した
と言われていますが、私はこの意見には
  1.名目賃金と実質賃金
  2.平均値と中央値
という点から、理解できない点があります。

1.名目賃金と実質賃金
 賃金は賃金自体(名目賃金)よりも物価との関連(実質賃金)が重要だと思います。例えばカリフォルニアの賃金(円換算)について
    マクドナルドのアルバイトの時給が3000円だが、ビッグマックセットが2000円する
という記事を読んだ覚えがあります(うろ覚えなので数値は不正確です)その意味で賃金を比較する場合は名目賃金ではなく実質賃金で考えるべきだと思います。
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/roudou/21/backdata/column01-03-1.html
には、この記事で引用されている名目賃金だけでなく実質賃金の比較も掲載されています。それによると各国の1991年の賃金を100とした場合の各国の2020年の値は

    名目   実質
  米 279  147
  英 266  144
  加 228  138
  独 216  134
  仏 195  130
  伊 179   96
  日 111  103

となっていて、日本と他国の実質賃金は名目賃金ほどの差はないと思います

2.平均値と中央値
 多数の労働者を雇用する製造業が中心の国では労働者の賃金の分布は釣鐘状になると思います。そのような状況では賃金の代表値として平均値を採用しても中央値を採用してもあまり違わないと思います。しかし金融業やIT産業は少数の労働者が高い賃金を得る産業です。そのような産業が中心の国では労働者の賃金の分布は釣鐘状にならず、右側が細長く伸びた(ロングテール)分布になります。そのような分布では世帯別の貯蓄額と同様にロングテール部分の影響により平均値は実態よりも大きくなるので、代表値としては平均値ではなく中央値を採用すべきだそうです。
上の資料で賃金の増加率が1位2位のアメリカとイギリスはどちらもIT産業や金融業が中心の国だと思います。その意味でこれらの国で賃金の代表値として平均値を採用しているのであればあまり適切ではないと思います。
この資料では1991年に比べて実質賃金がイギリスで4割、フランスで3割上昇しています。もし大部分の労働者の実質賃金が30年前より3割以上増えているのであれば、総選挙で与党は大敗しなかったと思います。

働く人たちの賃金がなぜ上がらないといけないのか?という疑問に対する一つの実務面からのアプローチとして〜これも全く世俗的(テクニカル)な言い分なのですが〜非日系企業におけるジョブ(あるいは個人)の値付けの方法が本質的に「属人的なもの」にならざるを得ないという事実をひとまずここで強調しておきます。というも、おそらく多くの日本企業では知らず知らずに(組織内における)個々人の賃金なるものは「相対的に同レベルの能力や職務」をグルーピングすることで本来個々人によって相当に異なるはずのジョブの大きさを何らかのデジタルポイント化し区分整理する(同じ土俵で並べる)ことができ、あたかもそれらが「相互に比較対照可能なもの」として同等級の「給与レンジ」に一斉におさめまるべきものいう大きな前提で賃金管理がなされてきたです。でも果たしてその「前提」は〜人事運用上(分配の正義)では適切であっても〜各人の能力や成果(の差)に対する対価や値付けという意味(分配の正義)からどこまで正当で妥当なものかという観点からのラディカルで誠実な議論は少なくとも人事実務の場面では全くなされてこなかったように思います。すると給与レンジなる仕組みがすでに虚構であるならば、私たちは何を根拠に個々人の賃金を決めればよいのか?経営者と労働者の報酬格差の話ではなくジョブの異なる労働者同士の正当な値付けについて言及しています。時折り新聞誌面で日系大企業でも若いハイスキル人材を7桁報酬で雇う記事を散見しますが、果たしてそれが日本企業に合った適切なやり方なのだろうか。


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