バラモン左翼と貧困ビジネス右翼
もはやアメリカの英雄と化したかに見えるドナルド・トランプが、副大統領候補に選んだヴァンス上院議員というのは、ラストベルトの虐げられた白人労働者の声をこういう本にした人のようです。
トランプ氏、副大統領候補にバンス上院議員を選出…白人労働者層を描いた回想録がベストセラー
オハイオ州出身のバンス氏は、2016年出版の回想録「ヒルビリー・エレジー」で、製造業が衰退した「ラストベルト」の一つである同州の貧困に苦しむ白人労働者層の姿を描いた。同年大統領選で、トランプ氏を白人労働者が熱狂的に支持した現象が理解できるとして、ベストセラーとなった。
ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち
ニューヨーク生まれの富豪で、貧困や労働者階級と接点がないトランプが、大統領選で庶民の心を掴んだのを不思議に思う人もいる。だが、彼は、プロの市場調査より自分の直感を信じるマーケティングの天才だ。長年にわたるテレビ出演や美人コンテスト運営で、大衆心理のデータを蓄積し、選挙前から活発にやってきたツイッターや予備選のラリーの反応から、「繁栄に取り残された白人労働者の不満と怒り」、そして「政治家への不信感」の大きさを嗅ぎつけたのだ。
トランプを冗談候補としてあざ笑っていた政治のプロたちは、彼が予備選に勝ちそうになってようやく慌てた。都市部のインテリとしか付き合いがない彼らには、地方の白人労働者の怒りや不信感が見えていなかったからだ。そんな彼らが読み始めたのが、本書『ヒルビリー・エレジー(田舎者の哀歌)』だ。(解説より)
ポリティカリーコレクトでアイデンティティポリティクスでジェンダーに”のみ”センシティブで文化的に”だけ”マルクス主義的な「ウォーク」ども、ピケティのいう「バラモン左翼」に満ち満ちた民主党の大統領が、UAWのストライキに飛び入り参加して、組合のピケラインに加わった初めての大統領だと自慢してみても、そんなんじゃだまされねえぞ、粗野な田舎者の労働者の怒りを知るがいい、というメッセージを届けるのには一番ピッタリの人材だというわけでしょう。
その巧みさは、これぞ億万長者のトランプが貧しい労働者の味方面をする貧困ビジネスの真骨頂というべきでしょうか。(本来違う意味ですが)ピケティのいう商売右翼と悪魔合体させて「貧困ビジネス右翼」と呼びたい衝動に駆られます。
(追記)
ちなみにトランプが大統領に当選した2016年末にはこんな記事もありました。
朝日新聞の「Globe」が、「トランプがきた」の特集。
http://globe.asahi.com/feature/2016113000011.html
「中流が溶けていく」など、アメリカ社会の分析はだいたいこの間論じられているところに沿っていますが、興味深いのはあえて橋下徹前大阪市長にインタビューしているところ。
http://globe.asahi.com/feature/article/2016113000007.html?page=3
「負けたのは知識層だ」というタイトルで、インタビュワの突っ込みに対してむしろそれを上回る突っ込みを入れているやりとりが、いろんなことを考えさせます。
国末 かつて政治家の条件だったポリティカル・コレクトネスを、尊重しない人が出てきている。なぜでしょう。
橋下 有権者が政治家のきれいごとにおかしいと思い始めてきたんですよ。口ばかりで本気で課題解決をしない政治に。米国で言えばワシントン、英国で言えばウェストミンスターの中だけで通用するプロトコル(儀礼)できれいごとを言っても、それは明日のメシを満足に食べられる連中だから。ポピュリズムという言葉で自分たちと異なる価値観の政治を批判するのは間違っています。それは自分の考え以外は間違いだと言っているだけ。民主政治の本質は大衆迎合です。重要なのは、社会の課題を解決する力。エリート・専制政治の方が大衆迎合よりもよほど危険なことは歴史が証明しています。今回の選挙の敗北者は、メディアを含めた知識層ですよ。
ポリティカルコレクトネスを大事に考えている(と少なくとも振る舞っている)インタビュー記者に対して「それは明日のメシを満足に食べられる連中だから」という一言は、かなり痛烈なものでしょう。
そのあとのこのやりとりはさらに刺激的です。
国末 失礼な言い方だが、トランプは成り上がり者。橋下さんも庶民の出身。ポピュリストたちはみんなそうです。だからこそエリートの嫌な面が見えるのでしょうか。
橋下 明日のメシに苦労せず、きれいごとのおしゃべりをして、お互いに立派だ、かっこいい、頭がいいということを見せ合っているのが、過度にポリティカル・コレクトネスを重視する現在の政治家・メディア・知識人の政治エスタブリッシュメントの状況じゃないですか。そんな連中に社会の課題が分かるはずがない。政治なんて、もっとドロドロしたものなんです。僕はポピュリズムというものは課題解決のための手段だと思ってます。メディアの仕事は、下品な発言の言葉尻を批判することではなくて、政治家のメッセージの核を見つけて分析し、有権者にしっかりと情報提供することですよ。
実を言えばこの「明日のメシ」という台詞は、橋下氏だからこそ切実さを感じられる言葉になるので、トランプ氏が言っても空疎な感じがするだろうと思いますが、彼らに投票した人々の気持ちというレベルに降りてみれば、やはり重要なファクターであることは間違いないと思います。
そして、そもそも産業革命以来の200年の歴史を振り返ってみれば、「明日のメシを満足に食べられる連中」の中だけで通用する「プロトコール」に則った「立派」で「かっこいい」「頭がいいということを見せ合っている」政治、貴族やブルジョワジーの(当時の支配イデオロギーからすれば)政治的に正しい政治に対して「ノー」を突きつけてきたのが、社会主義運動や労働運動であったということは、高校世界史の教科書レベルでもちゃんと書いてあるわけです。
彼ら、それまでの上流の政治家たちから見れば眉をひそめるような低俗な要求、喰わせろだの金寄こせだのというドロドロした野卑な政策を掲げる、まさに当時の支配感覚からすれば低劣なポピュリズムが、やがて数にものをいわせて先進国の政治に地歩を獲得していくというのが、とりわけこの100年間の政治の歴史だったのではないか、と振り返ってみると、その人々の流れの果てがトランプやルペンに対してポリティカルコレクトしか対抗軸がなくなってしまったかに見えるこの事態はなんと皮肉なんだろうか、と思わざるを得ません。
(追記)
Yoshitada つーても、トランプは別に「富裕層寄りの政策をしない」とは言ってないし、経済閣僚はウォール街のもろエスタブリッシュメントで固めてるわけで。割と早い段階で貧困層の願望は裏切られるかと思うが。
私もそう思いますよ。つか、これは別にトランプ本人が「明日のメシを満足に食べられる連中」かどころか、億万長者であるかどうかとは別の話で、「明日のメシを満足に食べられる連中」のポリティカルコレクトを憎む人々の感情をうまいこと煽り立てたということに過ぎないので。
アメリカに限らず、かつては貧しい人々の本音を代弁していたはずの社会民主主義ないし米流「リベラル」な勢力が、そうやって鳶に油揚をさらわれるような状況になっているということについて、なにがしでも反省するかどうかということだと思いますが。
ご覧の通り、ウォークな人々に反省の気配はかけらもないようです。
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>その巧みさは、これぞ億万長者のトランプが貧しい労働者の味方面をする貧困ビジネスの真骨頂というべきでしょうか。
トランプを大統領候補にした共和党は1970年代後半からこういう貧困ビジネスを展開してましたね。
1960年代の民主党政権で公民権拡大、福祉サービス拡大により社会的地位の向上したアフリカ系を「福祉を食い物にしている!」と決めつけ、低成長下で中産階級から陥落しつつつあった白人中間層への支持拡大を狙った選挙戦略を展開していたことがポール・クルーグマン教授の「格差はつくられた」に詳しく書かれています。
最初にピケティ教授を高く評価していたのはクルーグマン教授でした。
で、共和党のやっている事は大企業、富裕層の大幅減税、労働組合運動の抑圧など、見事に「右翼的」な政策でした。
その結果共和党に期待した白人中間層の格差はますます広がるものの、彼らは共和党の正体に気付かないまま、ますます右翼化する共和党への支持を強めた、と(^^;
投稿: balthazar | 2024年7月16日 (火) 19時04分
ついでに言いますと、どうして白人中間層が共和党の貧困ビジネスに長年気付いていないのか。
もしかしたらアメリカの白人中間層が信じる宗教が「予定説」、そしてそれから発展した福音主義を奉じるプロテスタントだからなのでしょうか。
そう、「俺たちはすでに神様に救われている!」と言う教説。
カトリックの私にはさっぱり理解できないのですが(^^;
予定説は「自助」を重んじるので、「共助」「公助」に頼らざるを得ない貧困層を敵視する人たちが多いようですね。
2007年以降力を得た「ティーパーティ」運動は「自助」を重んじ、小さな政府を求める運動でしたが、彼らを支持したのは予定説、それから発展した福音主義を中心とする宗教右派でした。
しかし「小さな政府」、そして「自助」を求めた結果公的サービスは削減され、そして高所得層に有利な減税が行われるなど、白人中間層はかえって騙されることになってしまった、と言う…。
投稿: balthazar | 2024年7月16日 (火) 20時23分
2年前に55歳の若さでお亡くなりになられた、中山 俊宏先生(アメリカ政治思想)の、鋭い分析がこちら。
( 「ヒルビリー・エレジー的言説がどうしても必要だった理由」
アメリカ現状モニター 2017/12/27 )
( https://www.spf.org/jpus-insights/spf-america-monitor/24449.html )
一言でいえば、トランプ=ヴァンスは、アメリカの宿痾である、人種差別という犬笛を吹いているから、白人貧困層に支持される、ということですね。
ここいらあたりは、単純に階級関係を見ているだけだと、まず間違いなく見落としてしまうところであり、注意を要するところです。
投稿: SATO | 2024年7月18日 (木) 17時17分
最近の共和党とその支持者を見ているとかつての南アフリカでアパルトヘイトを推進した改革派プロテスタントでもあるアフリカーナー(オランダ系からの移民の末裔たち)に近づきつつあるのだろうか、と思う事があります。
伊藤正孝「南アフリカの内幕」にアパルトヘイトの目的が書かれていました。
アフリカ人の方が勤勉で経済的地位を向上させつつあり、アフリカーナーの下層労働者への脅威になったため、アフリカ系を経済的に抑圧するためにアパルトヘイトは強化されたとのことです。
1960年代以降、民主党により社会・経済的地位を向上させたアメリカのアフリカ系に対して「あいつらは福祉を食い物にしている」のような攻撃的言辞を繰り返して白人中間層に支持を広げた共和党とよく似ていますよね。
投稿: balthazar | 2024年7月18日 (木) 22時01分
バイデン大統領、撤退ですね。ハリス副大統領に代わることになりますが、トランプ=ヴァンス側が、強力に差別の犬笛を吹くことになりそうな展開です。まあ、これは完全に予想がつくことですが。
民主党側としては、これも常識的ですが、やはり「史上、最も労働者寄りの大統領」として、今回は全面的に現職のサポートに回っていた、バーニー=サンダース上院議員を筆頭とする、左派を含む、挙党体制ができるかどうかが、カギでしょう。
投稿: SATO | 2024年7月22日 (月) 12時31分
正直なところ、ラストベルトの労働者の味方を装う貧困ビジネスのトランプ陣営に対して、「史上最もプロレーバーの大統領」でなんとか対抗し得た(仕切れたかどうかは別として)バイデンが、耄碌の極みで撤退を余儀なくされた後のスペアが、黒人かつインド系の女性という、まさにアイデンティティポリティクスの代表みたいな人になってしまったことは、まさにそういう枠組みでもって叩いてやろうという共和党側の飛んで火に入る夏の虫という感があり、いささか絶望感に打ちひしがれます。
何とかならなかったんでしょうか。
投稿: hamachan | 2024年7月22日 (月) 16時33分
hamachan先生
いや、全くもってその通りなのではありますが、こうなってしまったのは、やはりアメリカが予定説を信じ、自助を重んじる改革派・組合派・福音派のクリスチャンが主流の国であるから、と言う事ではなかろうかと思います。
何しろアメリカはケインズ経済学者すら「社会主義者!」とののしられ、中々認めてもらえなかった国です。
普遍的な公的健康保険ですらいまだに出来ない。
、「史上最もプロレーバーの大統領」なバイデン大統領はアメリカ史上二人目のカトリックで、彼の信仰が労働者寄りの姿勢を取らせた可能性は大いにありそうです。
バーニー・サンダースさんもユダヤ教徒で非主流派。
同じアングロ・サクソン系の英国は聖公会とメソジストが主流らしく、こちらはプロテスタントながら「自助」を改革派ほどは強調しないようです。
メソジストは救世軍の元となった教派でもありますし。
だから英国労働党があれだけ強くなれたのかもしれないです。
投稿: balthazar | 2024年7月22日 (月) 19時02分
リベウヨは元々そんなものですが、変わったのは左を自称する人達の組成ですね。
彼らが価値観のアップデートとか、アホなことを抜かすのも、当然でしょう。
一言、言うと、品性なんぞを身に着ける教育よりも、圧倒的に衣食住である。
> 明日のメシに苦労せず、きれいごとのおしゃべりをして、お互いに立派だ、かっこいい、頭がいいということを見せ合っている
> 「立派」で「かっこいい」「頭がいいということを見せ合っている」政治、貴族やブルジョワジーの(当時の支配イデオロギーからすれば)政治的に正しい政治に対して「ノー」を突きつけてきたのが、社会主義運動や労働運動であった
投稿: くく | 2024年7月23日 (火) 17時27分
早速、共和党側からは、マウスピースである、Fox News あたりを使った、レベルの低い嫌がらせが始まったようですが、民主党としては、中央突破を図るしかない、ということで挙党一致体制が無事、成立しそうですね。
この、ブログとの関係では、アメリカ最大の労組のナショナル・センター、AFL=CIO(アメリカ労働総同盟・産業別組合会議)の、Liz Shuler会長(女性)の「ハリス副大統領と同様、労働運動は後退しません。労働者と労組の将来とがかかっているとき、私たちは決してタフな闘いを躊躇しません。私たちは、力を合わせて、トランプ=ヴァンス、および彼らの破壊的な反労働者計画「プロジェクト2025(共和党系ヘリテージ財団が公表した、将来の共和党政権のための政権運営計画)」を11月に打倒します」という、X(旧ツイッター)上での声明が公表されたことをご紹介しておきます。
投稿: SATO | 2024年7月23日 (火) 19時19分
民主党の大統領候補にバイデン大統領から後継指名された、カマラ・ハリス副大統領は政治家になる前はカリフォルニアの検事局勤めのバリバリの法律家。
民主党出身の大統領はほとんどが法律家出身であることを国際政治学者の篠田英朗さんがブログに書いています。
https://shinodahideaki.blog.jp/archives/45289698.html
見事なバラモン左翼ぶり(^^;
2016年にヒラリー・クリントンと大統領候補指名争いを演じたバーニー・サンダースさんは若い頃からアメリカ社会党で活動するなど、バリバリの活動家。
イスラエルの社会主義的な集団農場キブツで数か月過ごしたこともあるそうです。
何と正統的な社会主義者、左翼でいらっしゃることで。
サンダースさんはユダヤ系ですが、ユダヤ系にも社会主義者は多い。
それがアメリカでは異例の社会主義者としてのバックボーンになっているのでしょう。
投稿: balthazar | 2024年7月23日 (火) 20時03分
共和党副大統領候補に指名されたバンス氏が早くも過去の斯様な発言を問題視されています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/afd0949858db895fab8b1811face20a6e55604d4
共和党の商業右翼の「驕り」あるいは「焦り」ともとれる人選ミス。
民主党はカマラ・ハリス副大統領の下、急速に結集しつつあるようです。
確かに民主党上層部はバラモン左翼が多いかもしれないですが、共和党の商業右翼はあまりにも露骨でえげつなさすぎる。
だから商業右翼への反発が彼らの予想を上回るレベルになりつつあるようです。
確かに白人貧困層が商業右翼に取り込まれているのは悔しいです。
しかしながら「左派」の経済学者、スティグリッツ、クルーグマンなどアメリカのケインジアンは1990年代から格差拡大を厳しく批判し、共和党批判を繰り広げてきたのですが。
恐らくは彼らも「バラモン左翼」で「偽善的」と見られてしまい、彼らの発言に共感が広がらなかったのでしょう。
商業右翼のイデオローグ、ミルトン・フリードマンは「お金儲けを考えない人間はバカだ」と公言し、宗教的とも言える情熱で自らの考え方を広めていた、とスティグリッツ、クルーグマンの師でもあった宇沢弘文先生が語っていました。
商業右翼に引き付けられる人たちはこのフリードマンの「お金儲けを考えない人間はバカだ」と言う欲望丸出しの発言に引き付けられているのでしょうか。
投稿: balthazar | 2024年7月24日 (水) 22時45分
トランプ陣営が、自分の支持層を徹底的に固めて深堀りする、という戦略で勝ちを狙っている以上、ヴァンス発言も、もちろん、陣営による、人種差別・性差別の「不規則発言」も全て計算の範囲内でしょう。
というところで、イスラエルのネタニヤフ首相が大統領選に場外乱入(?)してきて、対立を宗教面でも極端化し、ネタニヤフ+トランプ=ヴァンス=ジョンソン米下院議長(共和党)等々で、彼ら以外は、もはや誰も(当然、フランシスコ法王も、欧州の主流派プロテスタント教会の指導者も、皆すべて)ついていけないところまで行く、ような展開になってきました。こちらは、「宗教ビジネス右翼」というところですね。
(ネタニヤフ氏の「文明の衝突」否定の衝動と「勝利」の物語への渇望
(篠田 英朗)https://agora-web.jp/archives/240726084648.html )
投稿: SATO | 2024年7月28日 (日) 17時30分
SATO殿
>トランプ陣営が、自分の支持層を徹底的に固めて深堀りする、という戦略で勝ちを狙っている以上、ヴァンス発言も、もちろん、陣営による、人種差別・性差別の「不規則発言」も全て計算の範囲内でしょう。
共和党副大統領候補のヴァンス氏はトランプ氏の金城湯地であるラストベルトの出身でトランプ氏への忠誠心の強さで有名だそうです。
大統領選挙では州毎に勝った候補が代議員を総取りするので僅差であっても多くの州で勝つ事が重要になります。特に両党の勢力が接近している接戦州で勝つ事が重要です。このため副大統領は選挙での支持を増やすため支持層が大統領候補の支持層と異なる人が選ばれるのが一般的だそうですが、今回トランプ氏は(選挙は自分だけで勝てるので)副大統領は選挙での貢献ではなく自分への忠誠心で選んだという意見があるそうです。そしてそれは 8年前の副大統領に懲りたからだ という意見があるそうです。
8年前はトランプ氏は(これまで民主党に投票していた)”忘れられた人々”の支援で共和党の大統領候補になりました。このため当時の共和党内に支持者が少なかったので従来からの有力な支援団体であるキリスト教右派の関係者を副大統領にしました。しかしこの副大統領は肝心な時(上院議長として大統領選挙の結果を認定し宣言する時)にトランプ氏の指示に従わずトランプ氏ではなくバイデン氏の勝利を宣言しました。
4年前の民主党はヒラリー氏の失敗に懲りて、"忘れられた人々"に投票してもらえる候補としてバイデン氏を選びました。そして副大統領候補にはバイデン氏とは縁が薄いバラモン左翼の担当としてハリス氏を選びました。今回はバラモン左翼担当者が大統領候補になったので、"忘れられた人々"(接戦州)担当者が副大統領候補になると思いますが大丈夫でしょうか?4年前でも高齢だったバイデン氏が大統領候補になったのは"忘れられた人々"担当として他に適任者がいなかったからだとすると今回バイデン氏に匹敵する担当者がいるでしょうか?少なくとも”ガラスの天井”云々と言っていては接戦州では勝てないと思います。
但しトランプ氏にとって8年前や4年前と異なるのは民主党候補が自分より若いという点です(ヒラリー氏は1歳上、バイデン氏は4歳上、ハリス氏は18歳下)
民主党が
今のトランプ氏はバイデン氏が大統領候補になった時と同じ年齢で、4年後には今のバイデン氏と同じ年齢になる
と宣伝すれば影響があるかもしれません。
投稿: Alberich | 2024年8月 3日 (土) 20時58分
米大統領選、民主党の副大統領候補は、中北部ミネソタ州のティム・ウォルツ知事に決まりました。
ところで、皆様は、ミネソタ州の民主党の正式名称が、「ミネソタ民主農民労働党」(Minnesota Democratic–Farmer–Labor Party、略称DFL)という、なかなかカッコいい名前であることは、ご存じでしたでしょうか。両大戦間期に、同州には、「ミネソタ農民労働党( Minnesota Farmer–Labor Party (FLP)」という、左翼地方政党が存在しており、同党は、大恐慌期に農民・労働者の支持により、州知事をはじめ、上下院議員など多くの公職に党員を当選させることに成功し、累進課税、高齢者向け社会保障や失業保険、最低賃金制・男女同一賃金制の導入、労組の団体交渉権の承認、環境保護予算の拡大、など、今から見ても極めて革新的な政策を実施していました。
この政党は、全国レベルでは、ニューディール政策を推進する、民主党のフランクリン=ルーズヴェルト政権を支持していましたから、大戦中の1944年に両党が正式に合同することになり、発足したのが、現在のDFLです。
ウォルツ知事、いかにも人のいい、中西部のオヤジ風の風貌で、実際にも陸軍の州兵としての勤務が長く、退役軍人の権利保護にも熱心、高校の教師・アメフト部のコーチとしても活躍されたという経歴の方ですが、州知事としての実績は、公立校での無料給食の実施や、有給医療休暇・家族休暇の義務付け、妊娠中絶の権利を明記した州法の制定、銃購入に際しての身元調査の拡大など、党の先輩方に劣らない革新的な政策を次々と実行しています。当然のことながら、サンダース上院議員をはじめとする、党内左派や労組からの信頼も厚い方ですね。
これで、良くも悪くも「アイデンティティポリティクス」の右代表みたいな大統領候補(若い世代や有色人種、女性の投票率が上がることは間違いないですね)と、アメリカの地方的伝統にたった、左派の「労農運動」を引き継ぐ副大統領候補ということで、共和党側を迎え撃つには、なかなか面白い布陣になったと思います。
早速、トランプは「急進左派の正副大統領候補二人組」とレッテルを貼って、猛攻撃を加えてきているようですが、どういう結末になりますでしょうか。
投稿: SATO (副大統領候補、決まる) | 2024年8月 7日 (水) 19時07分
SATO様
ミネソタ民主農民労働党の情報ありがとうございます。
調べたら、ミネソタ出身の民主党選出の副大統領、ハンフリー、モンデール氏も民主農民労働党ですね。
ハンフリー氏は民主農民労働党の設立に参加しているとの事。
ミネソタ民主農民労働党のサイト見たら、早くもウォルツ氏の顔写真を出してアピールしてました。
投稿: balthazar | 2024年8月 8日 (木) 21時37分