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2024年6月24日 (月)

テレワークとつながらない権利に関する第1次協議@『労基旬報』

『労基旬報』6月25日号に、「テレワークとつながらない権利に関する第1次協議」を寄稿しました。

 去る4月30日、欧州委員会はテレワークとつながらない権利に関する労使団体への第1次協議を開始しました。この問題に関しては、本紙でも2020年10月25日号で、「欧州議会の『つながらない権利指令案』勧告案」を紹介していますが、今回の第1次協議はこの欧州議会の「つながらない権利に関する欧州委員会への勧告に係る決議」を受けたものになります。
 この勧告の名宛て人である欧州委員会のニコラス・シュミット労働社会政策担当委員(厚生労働大臣に相当)は2021年1月20日の欧州議会本会議の審議に出席し、2002年のテレワーク協約と2020年のデジタル化協約を引き合いに出して、同様に指令にしない自律的協約として締結する方向でやってほしいという意図を示していました。欧州労連(ETUC)、欧州経団連(ビジネス・ヨーロッパ)、公企業センター(SGIヨーロッパ)、中小企業協会(SMEユナイテッド)の労使4団体は2022年10月4日から交渉を開始しましたが、2023年11月17日に合意に達しなかったこと、それゆえこの問題は欧州委員会に返す旨を伝えました。そこで、今回改めて正式に労使団体への第1次協議となったわけです。
 第1次協議文書にはこの問題をめぐる諸情勢が縷々書き連ねられていますが、情報通信技術の急速な発展やコロナ禍によるリモートワークの急速な普及など、特に目新しい論点はあまりありません。テレワークは労働者の柔軟性や自律性を高め、仕事と生活の両立にも役立つなどメリットが多い反面、いつでもどこでもつながることができるために、「いつでもオン」の文化をもたらし、過重労働やメンタルヘルスの問題を生み出しているという指摘です。諸調査をもとに様々な実態が示されていますが、ここではそれらは省略し、加盟国における立法状況に関する部分を紹介しておきましょう。
 まずつながらない権利についてですが、現在11か国で規制されています。ベルギー、フランス、イタリア、ルクセンブルクではつながらない権利の正確な定義はありません。クロアチアとポルトガルでは、つながらない権利は労働時間外又は休息時間内に使用者が労働者に接触しない義務とされています。他の諸国ではつながらない権利が広く定義され、作業を遂行するために技術的機器を用いない権利とされ、ギリシャとアイルランドでは作業に従事しない権利とされているようです。
 11か国中6か国(キプロス、ギリシャ、イタリア、ルクセンブルク、ポルトガル、スロバキア)では、つながらない権利はテレワーク等ICT機器を用いて遠距離で遂行される作業にのみ適用されるのに対し、他の5か国(ベルギー、クロアチア、フランス、アイルランド、スペイン)では全ての労働者の認められます。ベルギー、クロアチア、フランス、ギリシャでは、公務部門に特別の立法があります、またベルギー、クロアチア、ポルトガル、スロバキアでは、つながらない権利は緊急かつ予測不可能な事態の考慮の下におかれます。
 実施手法も様々で、7か国(ベルギー、キプロス、ギリシャ、フランス、アイルランド、ルクセンブルク、スペイン)ではつながらない権利は産業レベル又は企業レベルの団体交渉を通じて実施されます。労使が合意に達しなかったときは、つながらない権利は、ベルギーやフランスのように企業方針や憲章の形をとったり、キプロスやギリシャのように使用者の決定が労働者に通知されたりします。
 テレワークについては、全ての加盟国で実定法又は労働協約の形で規制されており、また労働時間、安全衛生、データ保護などの立法により取り扱われています。多くの立法において、テレワークは労働契約の種類としてではなく、ICT機器を用いて、使用者の事業所に加えていくつかの代替的な職場において遂行されうる「作業編成(work arrangement)」として定義されています。それゆえ、定義上テレワーク可能な職種は限定されます。テレワークは通常使用者と労働者の合意に基づいて、雇用契約又は書面の合意により行われます。いくつかの加盟国(ベルギー、ブルガリア、キプロス、ギリシャ、クロアチア、イタリア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、ポルトガル、スウェーデン)では、立法によって、テレワークは雇用上の地位を変えたり影響したりしない旨が明記され、またテレワーカーと常時使用者の事業所で就労する者との均等待遇を保証しています。
 各国のテレワーク法制の共通の要素としては、以下のものが挙げられます。
①テレワークを請求する権利-「自発」原則
 多くの国で、労働者は自発原則に沿ってテレワークを請求する権利がありますが、その適用は様々です。いくつかの国では、テレワーク請求権は特定の場合に限定されています。クロアチアでは治療や育児・介護目的、キプロスとギリシャでは労働者の健康、アイルランドでは一定の勤続期間後など。さらに、使用者はテレワークの請求を認める義務はなく、請求を拒否した正当な理由を示すことが求められます。
②労働時間の編成と記録
 多くの国で、労働時間の一般規制枠組みがテレワーカーにも適用されます。しかしいくつかの国では、テレワーカーに労働時間の編成に関するコントロールを与えています。例えば、ブルガリアとイタリアでは、テレワーカーは休憩時間と休息時間について一定の自律性を有し、ルーマニアでは、個別の作業スケジュールを請求することができます。さらにいくつかの国では、使用者はテレワークも含めその労働者の労働時間を記録することを義務づけています。例えばギリシャでは、使用者はテレワーカーの労働時間を測定する電子システムを導入運用しなければなりません。またいくつかの国では、健康やワークライフバランスを守るためにつながらない権利を導入しています。
③労働安全衛生
 テレワーカーも一般安全衛生法の下にありますが、7か国(オーストリア、クリアチア、ギリシャ、エストニア、ポーランド、ポルトガル、スペイン)ではテレワーク向けの安全衛生規定が設けられています。筋骨格不調、眼精疲労、社会心理的リスクなどです。テレワーカーのリスクアセスメントを行うべき使用者の義務は、テレワーカーのプライバシーの権利を侵害するリスクがあるので難問です。そのため多くの国では、使用者が健康監視目的でテレワーカーの作業場所に入ることにテレワーカーの同意を必要としています。
④テレワークの装置と費用負担
 多くの国で、テレワークに必要な装置を設置、維持し、その費用を負担することは使用者の責任とされています。費用負担のルールは実定法や労働協約で定めるか、使用者と労働者の書面合意で定められます。
⑤プライバシーと作業監視
 労働者とその作業遂行の監視の問題は通常データ保護立法によって規制されており、いくつかの国ではテレワーク向けの特別規定を設けています。例えばキプロスでは、使用者にテレワーカーの作業遂行を評価することを認めつつ、カメラその他の技術により監視することは禁止しています。
 以上のような状況説明を連ねた後、欧州委員会は労使団体に対して「あなたは欧州委員会がテレワークとつながらない権利に関する課題を正確かつ十分に明らかにしていると考えますか?」「あなたは明らかにされた問題に対処するためにEU行動が必要と考えますか?」といった定例的な質問をしています。既に欧州労使団体間で交渉が行われ、それが結実しなかったことが明らかなので、欧州委員会が立法に踏み出すかどうかが焦点ということになるでしょう。今後、第2次協議を経て、場合によったらEUのテレワーク指令といったものが成立してくる可能性があります。

 

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