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2024年5月

2024年5月31日 (金)

『賃金とは何か』カバーと帯

Asahi_20240531210401

はじめに
 
序章 雇用システム論の基礎の基礎
 1 雇用契約のジョブ型、メンバーシップ型
 2 賃金制度のジョブ型、メンバーシップ型
 3 労使関係のジョブ型、メンバーシップ型
 
第Ⅰ部 賃金の決め方
第1章 戦前期の賃金制度
 1 明治時代の賃金制度
 2 大正時代の賃金制度
 3 生活給思想の登場
 4 職務給の提唱
第2章 戦時期の賃金制度
 1 賃金統制令
 2 戦時体制下の賃金思想
第3章 戦後期の賃金制度
 1 電産型賃金体系
 2 ジョブ型雇用社会からの批判
 3 公務員制度における職階制
 4 日経連の職務給指向
 5 労働組合側のスタンス
 6 政府の職務給推進政策
第4章 高度成長期の賃金制度
 1 日経連は職務給から職能給へ
  (1) 定期昇給政策との交錯
  (2) 職務給化への情熱
  (3) 能力主義への転換
 2 労働組合は職務給に悩んでいた
  (1) ナショナルセンターの温度差
  (2) それぞれに悩む産別
  (3) 単組の試み
 3 政府の職務給指向
  (1) 経済計画等における職務給唱道
  (2) 労働行政等における職務給推進
第5章 安定成長期の賃金制度
 1 賃金制度論の無風時代
 2 中高年・管理職問題と職能給
 3 定年延長と賃金制度改革
第6章 低成長期の賃金制度
 1 日経連(経団連)は能力から成果と職務へ
  (1) 『新時代の「日本的経営」』とその前後
  (2) 多立型賃金体系
  (3) 裁判になった職務給
 2 非正規労働問題から日本型「同一労働同一賃金」へ
  (1) 非正規労働者の均等待遇問題の潜行と復活
  (2) 二〇〇七年パート法改正から二〇一二年労働契約法改正へ
  (3) 同一(価値)労働同一賃金原則の復活
  (4) 働き方改革による日本型「同一労働同一賃金」
 3 岸田政権の「職務給」唱道
  (1) 「ジョブ型」と「職務給」の唱道
  (2) 男女賃金格差開示の含意
  (3) 職務分析・職務評価の推奨
 
第Ⅱ部 賃金の上げ方
第1章 船員という例外
第2章 「ベースアップ」の誕生
 1 戦時体制の遺産
 2 終戦直後の賃上げ要求
 3 公務員賃金抑制のための「賃金ベース」
 4 「ベースアップ」の誕生
 5 総評の賃金綱領と個別賃金要求方式
第3章 ベースアップに対抗する「定期昇給」の登場
 1 中労委調停案における「定期昇給」の登場
 2 日経連の定期昇給推進政策
 3 定期昇給のメリットとデメリット
第4章 春闘の展開と生産性基準原理
 1 春闘の始まり
 2 生産性基準原理の登場
 3 石油危機と経済整合性論
第5章 企業主義時代の賃金
 1 石油危機は労働政策の分水嶺
 2 雇用が第一、賃金は第二
 3 消費者目線のデフレ推進論
第6章 ベアゼロと定昇堅持の時代
 1 ベースアップの消滅
 2 定期昇給の見直し論と堅持
第7章 官製春闘の時代
 1 アベノミクスと官製春闘
 2 ベースアップの本格的復活?
 3 ベースアップ型賃上げの将来
 
第Ⅲ部 賃金の支え方
第1章 最低賃金制の確立
 1 業者間協定の試み
 2 賃金統制令
 3 労働基準法の最低賃金規定
 4 業者間協定方式の登場
 5 業者間協定方式の最低賃金法
 6 審議会方式の最低賃金法
第2章 最低賃金制の展開
 1 目安制度による地域別最低賃金制
 2 最低賃金の日額表示と時間額表示
 3 新産業別最低賃金制
 4 最低賃金制の在り方に関する研究会
 5 二〇〇七年改正法
 6 最低賃金の国政課題化
第3章 最低賃金類似の諸制度
 1 一般職種別賃金と公契約法案
 2 公契約条例
 3 派遣労働者の労使協定方式における平均賃金
 
終章 なぜ日本の賃金は上がらないのか
 1 上げなくても上がるから上げないので上がらない賃金
 2 ベースアップに代る個別賃金要求
 3 特定最低賃金、公契約条例、派遣労使協定方式の可能性
 
あとがき

 

「パワハラ」という用語への違和感は13年前から

例によって焦げすーもさんが、

未だに「職位が下の者から上の者に対する『パワハラ』もあり得る」とした理論構成が分からない。 職場の『いじめ・いやがらせ』という広範な概念で捉えればよかっただけなのでは?

とつぶやいていますが、いやそれ、まさに入口では「いじめ・嫌がらせ」といっていたものが、なぜか出口では「パワハラ」になってしまったかつての円卓会議での議論の推移を見ていて、まさにそのときにそう思っていた件なんですが。

職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告(案)

こちらは先週末ですが、職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループの報告(案)がアップされています。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001yzy9-att/2r9852000001yzzq.pdf

個人的には、職場のいじめ・嫌がらせを「パワーハラスメント」という言葉で集約することに、いささか違和感を感じています。

>パワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為6をいう。

「パワー」というと、企業組織における指揮命令関係を背景とした公式的な権力行使を主としてイメージさせますが、現実のいじめ・嫌がらせ事案には同僚や部下、顧客などさまざまないじめ主体がいるのです。

もちろん、この報告案には、

>「職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に」としているのは、パワーハラスメントには、上司から部下に対して行われるものに限らず、人間関係や専門知識など職場内の何らかの優位性を基にして同僚間や部下から上司に行われるものも含める趣旨である。また、顧客や取引先から従業員に対する行為は含まれないが、従業員の人格や尊厳が侵害されるおそれがあるものについては適正に対応すべきであることは言うまでもない

とありますが、もちろん、社会学的な「パワー」はフォーマルな組織上の権限行使に限らないのはよく分かるのですが、違和感が払拭されません。

一つには、以前本ブログでも取り上げた丸尾拓養弁護士の議論とも関わるのですが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/12/post-1c0d.html(パワハラは原則合法?)

>しかし、パワハラの“パワー”というのは、そもそも上司の権限です。上司として、その権限を行使していくのは責務です。それは、組織を維持していく上で、経営としては当然に必要なものであり、会社としては、現場の上司にむしろ行使してもらいたいものです。そして、上司というのは嫌なものであり、ハラスメントというのが「嫌がられる」という意味であるならば、パワハラは必然的であると思います。

パワハラが原則合法というのは言い過ぎですが、少なくともパワーの行使は本来職場にあるべきもので、それと、いじめ・嫌がらせ問題は絡み合いつつも、別のフェーズもあるわけで、その意味でも、「パワ」のみを看板に掲げるのはいかがなものか、という気がするのです。

この辺、もう少し丁寧な議論をした方がいいように思うのですが・・・。

とはいえ、その後厚生労働省はもっぱらパワハラという用語を使うようになっていってしまい、今日に至るわけです。

実は先日、某大学ビジネススクールの講義で、このテーマになったとき、受講生の方から、「職場では上司だけではなく、同僚や部下からもいじめがありうると思うんですが、なぜパワハラだけを取り上げて法規制するんですか?」という質問が出て、「いやいや、パワハラといっても、上司から部下へだけではなくって・・・」と説明せざるを得なくなり、やっぱりこの用語法は間違っているよな、と思いを新たにしたばかりです。

ちなみに、なぜ「いじめ・嫌がらせ」という言葉をあえて「パワハラ」に変えたのかについては、このワーキンググループの第5回議事概要(2011年12月22日)に載っています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000026wbe.html

・ なくすべき行為の名称として、「パワーハラスメント」で本当によいのか。これは新語で、裁判でも使われているとしても、新しい言葉をここで使うと、それが新たな概念定義になり、変な誤解をされるおそれがあるので、今回は使わないほうがいいのではないか。また、安易に外来語を使用するべきではなく、誰にとっても分かりやすい言葉を使用するべき。
・ 職場からなくすべき行為を表現した新しい概念を世の中に問う場合に、昔から日本語としてある「いじめ・嫌がらせ」という言葉を用いるか、比較的新しい「パワーハラスメント」という言葉を用いるか、どちらが世の中に浸透しやすいかを考えると後者ではないかと考え、案はパワーハラスメントとした。
・ また、いじめ・嫌がらせという言葉は、学校のいじめなどの印象から、悪意を前提に読み込む方が多いと思われる。辞書でも嫌がらせは悪意を前提とする説明がされていることが多い。
しかし、今回なくすべき行為として取り上げている行為は、悪意が前提とは限らない。その点でも、いじめ・嫌がらせよりパワーハラスメントの方が適当ではないかと考えた。
・ 「パワーハラスメント」という言葉のイメージとして、権力のある上司が部下に強要するようなことを思い浮かべるが、注6に記載しているとおり、同僚間のいじめ・嫌がらせもかなりあると思うので、それも含めた職場の問題を解決するという意味では、注6は大変重要。

 

 

 

 

”独立した人権機関設立”を潰したのは野党時代の民主党だったんだが・・・

国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会が公表した調査報告書の中で、日本には独立した人権機関がないことに懸念を示したうえで、救済に障害を生じさせないよう設立を求めたというニュースに対し、例によっていつもごとく、中国共産党と紙一重のネット右翼な方々があれこれ文句をつけておられるようですが、

“日本は独立した人権機関設立を” 国連人権理事会の作業部会

でもね、本ブログで百万回繰り返してきたように、今から22年前に、自公政権の小泉内閣のときに、まさにそういう法案-人権擁護法案が国会に提出されていたんですよ。ところがそれが潰された。誰が潰したのかというと、

アンチが騒ぐ前にリベラル派が騒いで潰した人権擁護法案

歴史的事実を正確に言うと、右派のアンチ人権派が騒ぐより前に、本来なら人権擁護を主張すべきリベラル派が報道の自由を侵すと騒いで潰したんですよ。

というわけで、国連とか人権が大っ嫌いな、中国共産党と寸分違わぬ感覚をお持ちのネット右翼な方々は、売国小泉政権が提案した憂うべき人権擁護法案を見事に潰してくれたといって、当時の民主党、今の立憲民主党あたりにおいでの方々に、心から感謝し、「人権擁護法案を潰してきてくれてありがとう」と感謝状を贈呈すべきではないでしょうかね。

 

 

 

2024年5月30日 (木)

ジョエル・コトキン『新しい封建制がやってくる』@『労働新聞』書評

91dczn8qspl_sl1500_277x400 例によって月1回の『労働新聞』書評ですが、今回はジョエル・コトキン『新しい封建制がやってくる』(東洋経済)です。

https://www.rodo.co.jp/column/177681/

 今年の正月、NHKの『欲望の資本主義2024「ニッポンのカイシャと生産性の謎」』に出演した。ジョエル・コトキンというアメリカの学者が「新しい封建制がやってくる」と論じていたのが印象に残った。今年2月5日号で取り上げたマイケル・リンドの『新しい階級闘争』をさらに増幅した感じだったからだ。

 読んでみてその印象はますます強化された。もはや資本主義創生期の階級闘争などという生易しいものではない。中世の貴族階級に相当するハイテク企業の大金持ち寡頭支配層(テック・オリガルヒ)と、中世の聖職者階級に相当する「有識者」層が、第1・第2身分として支配する社会で、中世のヨーマンに相当する中産階級と、中世の農奴に相当する労働者階級とが屈従を強いられているというのだから。

 その中でもとくにやり玉に挙げられているのは、ピケティが「バラモン左翼」と呼んだ「有識者」層だ。「有識者層と寡頭支配層の多くは、貧困の拡大、社会的格差の固定化、階級間の対立といった経済停滞の影響に対処しようとせず、幅広い人々の経済成長よりも持続可能性の理想を追求している。中世の聖職者が物質主義に異を唱えたように」。「今日、苦境に立たされている中産・労働者階級の多くは、富裕層は炭素クレジットやその他の『美徳シグナリング』と呼ばれる手段を通じて、いうなればグリーンの贖宥状(免罪符)を買う行為によって、自分たちがどれだけ環境保護に熱心かを誇示する姿を見せつけられている。だが、そうした“啓蒙的”政策は、経済的余裕のない人々に異常に高い燃料コストと住宅コストを押しつけるものとなっている」。グローバルとグリーンという「聖なる教え」こそが今日の第3身分の苦難の原因なのだ。

 歴史学的に言えば、中世封建制の特徴はその分権制にあり、「新しい封建制」との比喩は必ずしも成功していない。しかし、「バラモン左翼」と同様、今日の知的エリート層の有り様を中世の聖職者になぞらえるのは実にピタッとくる。ちなみに、「有識者」と訳されている原語は「clerisy」であって、聖職者(clergy)の現代版という意味だ。そして、「かつて自由な思想と探究の擁護者だと思われていた大学は、異端の考えが攻撃される場としての中世モデルに戻りつつある」という現状認識は、昨年5月15日号で取り上げた『「社会正義」はいつも正しい』の指摘とも響き合う。

 苦境に立つ現代のヨーマンたちを尻目に、左翼のジェントリ化が進む。「今日のインテリ左翼は、地球環境や国境を超えた移民については関心を持つが、同胞の労働者階級についてはあまり関心を払わない」からだ。そこに蓄積されつつあるのは中世的農民反乱のエネルギーだ。現代版農民反乱のほとんど全てがグローバリゼーションや移民の大量受入れに対する反発なのも当然だろう。

 本書の最後の章は「第3身分に告ぐ」と題され、その末尾には「社会的上昇を制限し、人々の依存心をより強めるような新しい封建制がやってくるのを何とか遅らせ、できれば押し戻さなければならない。それには、新しい封建制に抵抗しようとする第3身分の政治的意思を目覚めさせることが必要である」という檄文が書かれている。

(ジョエル・コトキン 著、寺下 滝郎 訳、東洋経済新報社 刊、税込2200円)

 

 

 

 

2024年5月29日 (水)

高齢者の定義は・・・55歳だった!?

政府の経済財政諮問会議で、民間議員が高齢者の定義を65歳から70歳にせよと主張したという話が駆け巡っています。大体みんな社会保障、年金関係の文脈で騒いでいるようですが、原資料を見ると、そういう風にならないように、わざと「社会保障の強靱化」の方ではなく、「女性活躍・子育て両立支援、全世代型リスキリング、予防・健康づくり」の方の、リスキリングの項目に書き込んでいたようですね。

誰もが活躍できるウェルビーイングの高い社会の実現に向けて① (女性活躍・子育て両立支援、全世代型リスキリング、予防・健康づくり)

〇全世代リスキリングの推進:高齢者の健康寿命が延びる中で、高齢者の定義を5歳延ばすことを検討すべき。その上で、いつでもチャレンジできるよう、DXや将来の人材ニーズを踏まえ、就業につながる教育・訓練の実施と、新たな給付等を活用した受講者の生活保障の充実を、利用状況を検証しつつ一体的に進める。その際、諸外国の例も参考にしながら、生産性向上の切り札であるリスキリング推進をめぐる現下の課題に対して関係省庁が連携の上、女性、高齢者、就職氷河期世代等を含む全世代を対象としたリスキリングについて官民一体による国民的議論を喚起すべき。

誰もが活躍できるウェルビーイングの高い社会の実現に向けて② (社会保障の強靱化)

とはいえ、高齢者の定義を5歳引き上げるといわれれば、みんな書いていない社会保障の方の話だと思ってしまうわけです。

わざわざそちらの方に書き込んだリスキリングの話だとは思ってくれないようです。

ちなみに、リスキリングによって長く働けるようにしようということでいえば、雇用に関しては既に60歳以上定年と65歳までの雇用確保が義務づけられているのに加えて、70歳までの就業確保が努力義務となっていることは周知の通りですが、それと高齢者の定義とがどう関わるのか、あんまり明確ではないですね。

というか、これはおそらく労働関係者でも必ずしもよく知られていないのではないのではないかと思われるのですが、実はこれら規定が置かれている高年齢者雇用安定法には、高年齢者の定義規定というのがあるんです。正確に言うと、法律ではなくてその施行規則(省令)ですが。

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律

(定義)
第二条 この法律において「高年齢者」とは、厚生労働省令で定める年齢以上の者をいう。

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律施行規則

(高年齢者の年齢)
第一条 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和四十六年法律第六十八号。以下「法」という。)第二条第一項の厚生労働省令で定める年齢は、五十五歳とする。

 なんと日本国の実定法上、「高年齢者」というのは55歳以上の人のことをいうんですね。

これは、55歳定年が一般的であった1970年代に作られた規定が、そのまま半世紀にわたってそのまま維持され続けているために、こうなっているんですが、おそらく現代的な感覚からすれば違和感ありまくりでしょう。

ちなみに、同省令には続いて、

(中高年齢者の年齢)
第二条 法第二条第二項第一号の厚生労働省令で定める年齢は、四十五歳とする。

45歳になったら中高年という規定もあって、こちらはそうかなという気もしますが(若者だと思っている人もいるようですが)、でも45歳からたった10年で55歳になったら高齢者というのは可哀想すぎますね。

高齢者の定義というのは、下手に踏み込むと得体の知れないものが出てくる魔界のようです。

 

 

 

労働者協同組合設立数87法人@『労務事情』6月1日号

B20240601 『労務事情』6月1日号に「労働者協同組合設立数87法人」を寄稿しました。

https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/romujijo/b20240601.html

去る4月1日、厚生労働省は労働者協同組合の設立状況を発表しました。それによると、施行後1年6か月で1都1道2府27県で計87法人が設立されています。設立された労働者協同組合では・・・・・

 

大森泰人『金融と経済と人間と』Ⅰ・Ⅱ

B_14173_1 先日、都内某所で講演したところ、そこで刊行された二冊の本をいただきました。大森泰人『金融と経済と人間と』Ⅰ・Ⅱ(金融財政事情研究会)です。

金融と経済と人間と I

金融と経済と人間と II

金融検査官を一刀両断した「サルにマシンガン」発言から14年ますます冴える大森節―

現役官僚時代、本質を突く発言でたびたび物議を醸した筆者が『週刊金融財政事情』で2016年4月から連載を続ける名物コラムを2巻45章に分けて集録。行政官として、金融のせいで人間が不幸になる不条理を目撃した経験から、古今東西の金融経済理論・事象はもとより、映画、小説、音楽、旅の記憶にまで素材を求め、より望ましい制度や運用の処方箋を、人間の心理や行動を含めて考え模索する旅。「努力しても報われない弱者を公平に扱ってこそ豊かな社会」との優しい目線が底流に流れる、時を経て読み返しても色あせない珠玉の286本!

ちなみに「サルにマシンガン」というのは金融界隈では伝説的なエピソードであるようですが、

https://toyokeizai.net/articles/-/2096

金融庁幹部が執筆したコラム記事が金融界で話題になったのは夏の盛りのこと。筆者は大森泰人総務企画局企画課長。日頃から型破りの官僚として知られる同氏は『旬刊 金融法務事情』誌上で、金融検査の実態を次のように表現してみせた。

「猿にマシンガンを持たせて野に放っているようなもんだな」

B_14174_1 その大森泰人さんが、森羅万象古今東西当たるを幸いことごとくなで切りにしているのが本書で、当然そのなで切られる対象には労働政策ってのもはいってきます。

第1章 手探り

第2章 イギリス小説から

第3章 古典派の経済思想

第4章 ケインズとピケティ

第5章 アメリカの観察

第6章 通念を疑う

第7章 進化論周辺の散策

第8章 労働政策

第9章 教育政策への接近

第10章 読み返して笑う

第11章 ドストエフスキー+1

第12章 社会保障政策と周辺

第13章 ライフステージ

第14章 佐川宣寿さん(元財務省理財局長)の連想

第15章 職業選択

第16章 福田淳一さん(元財務次官)の連想

第17章 弱者へのまなざし

第18章 ブロックチェーンの近未来

第19章 あまのじゃくな日々

第20章 ICOからグーグルへ

第21章 本音とギャグの混然一体

第22章 規制の諸相

第23章 無意識連想の連鎖

第24章 老後資金2000万円報告

第25章 リブラへの視点

第26章 MMT瞥見

第27章 脱線話集

第28章 浮世の出来事

第29章 目黒謙一さんの訃報

第30章 南インドの旅

第31章 コロナが対岸の火事だった頃

第32章 コロナ時代の幕開け

第33章 レジーム・チェンジの再現

第34章 コロナ時々外出

第35章 企業組織論

第36章 部門別資金過不足の変容から

第37章 旅の再開

第38章 医療制度の持続可能性

第39章 行政経験を思い出しながら

第40章 新境地?

第41章 見え隠れする大蔵省

第42章 実力、努力、運

第43章 不発の総括

第44章 甲斐なき政策検証

第45章 正解のない問題

付 録 ちょっと長めですが

この第8章の労働政策でも、同一労働同一賃金、時間外の上限、日本的経営、女性保護、ホワイトカラー、三者協議、規制運用が取り上げられ、金融政策を時々補助線に引きながら、まあなで切りしています。それだけではなく、下巻の第42章では、3回にわたって「45歳定年制の構図」を論じていますが、最後のほんの数行の記述は、多分労働界隈でもそれくらいちゃんとわかってものをいっている人は少ないんじゃないかな、と思うくらいです。

・・・長期雇用は別に日本の専売特許ではなく、むしろアメリカの短期雇用の方が国際的には珍しい。そして女性はヨーロッパの方が日本より長期雇用なのは無論、日本では出産を機に過半の女性が会社を辞めるからである。だから男性の処遇を年功序列にして、ライフステージに応じて家族が相応に暮らしていけるよう年々の報酬はもとより、退職金も企業年金も長く勤める方が有利に設計してきた。45歳定年制に新浪さんが指摘するマクロ経済の効率化の恩恵があっても、ミクロ経済で不利だから家族のために転職できない。

 転職を経済的に不利にしないためには、本気で「同一労働同一賃金」にしなければならないから、日本社会の深遠な変容を意味する。社内での先輩と後輩の関係、男性と女性の関係、正規と非正規の関係、そして家庭での家事や育児の夫婦の役割分担まで差が消えて公平にならない限り、議論が噛み合わない紛糾が続く。・・・

ちなみに、「ブリーフ裁判官」の項では、「これで懲戒なら、オレは何度懲戒されても不思議じゃなかったな」との感想をもらしています。

ちなみに、これが最後のちなみにですが、大森さんは大学(駒場)時代の同級生だったりします。お互いに変な奴だと思っていたようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2024年5月27日 (月)

『DIO』397号は「賃上げの更なる広がりに向けて」特集

Dio3971 『DIO』397号は「賃上げの更なる広がりに向けて」を特集しています。

https://www.rengo-soken.or.jp/dio/dio397.pdf

解題
賃上げの更なる広がりに向けて
連合総研主任研究員 鈴木 智之

寄稿1
どのような賃上げを望むのか?
――企業の枠を超える――
労働政策研究・研修機構(JILPT)研究員 鈴木 恭子

寄稿2
労使間の交渉力の変化と賃金停滞
明治学院大学経済学部教授 児玉 直美

寄稿3
男女賃金格差の是正に向けて
JETROアジア経済研究所主任研究員 牧野 百恵

寄稿4
「年収の壁」がもたらす諸問題
東京大学社会科学研究所教授 近藤 絢子 

このうち、JILPTの鈴木恭子さんの論文は、まず何を賃上げと呼ぶべきか?、具体的には定期昇給はそもそも賃上げなのか?という疑問を呈するところから始まり、労働組合は賃金を上げているのか?春闘は格差を再生産しているのではないか?、企業別組合であることの制約、そして労働組合は春闘を通じて何を目指すのか?という広範かつ深い問いを次々に問いかける内容になっています。

このうち最初の定期昇給とベースアップについては、たまたま『労務事情』5月1日号に小文を寄せていたので、そこに載せたベースアップと定期昇給の推移のグラフをここに載せておきます。これと、『令和4年版労働経済白書』に載っている各国の名目賃金の推移を見比べると、「定期昇給はそもそも賃上げなのか?」という問いの意味がよく見えてくるでしょう。

Bea_20240528092501

 

P2
なお、この話のより詳しい歴史的な解説は、7月刊行予定の『賃金とは何か 職務給の蹉跌と所属給の呪縛』(朝日新書)で行っております。

 

労働政策フォーラム「時間帯に着目したワーク・ライフ・バランス─家族生活と健康─」@『ビジネス・レーバー・トレンド』2024年6月号

『ビジネス・レーバー・トレンド』2024年6月号では、メイン特集の「賃上げが当たり前の社会に向けて ――2024春闘の最新状況」につづいて、去る3月6日に開催した労働政策フォーラムの記録です。

https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2024/06/index.html

経済社会のサービス化の進展などから、働く時間帯が早朝・深夜や休日に及ぶ人もいる。そうしたなか、長時間労働の対策については近年、政府や企業を中心に進められてきたものの、unsocial(非典型的)な時間帯の就労実態やその生活や健康への影響については必ずしも十分に把握されてこなかった。3月に開いた労働政策フォーラムでは、「時間帯」に着目した研究成果や、非典型な時間帯に働く人を支援するNPOの取り組みを報告するとともに、時間帯の視点も加えた望ましいワーク・ライフ・バランスのあり方などについて議論した。(各報告およびパネルディスカッションの概要は調査部で再構成したものを掲載している。)

【基調報告】

時間帯の視点からみた労働者の生活と健康、子どもへの影響

大石 亜希子 千葉大学大学院 社会科学研究院 教授

【研究報告(1)】

就労世代の生活時間の貧困

浦川 邦夫 九州大学 経済学研究院 教授

【研究報告(2)】

生活時間と健康の確保に関わる働き方

高見 具広 労働政策研究・研修機構 主任研究員

【パネリストからの報告(1)】

両親の帰宅時間が子どもの成績や母親の両立葛藤に与える影響─「仕事と教育の両立」問題の実証的研究─

中野 円佳 東京大学 男女共同参画室 特任助教

【パネリストからの報告(2)】

フローレンスの活動紹介

桂山 奈緒子 認定NPO法人フローレンス みらいのソーシャルワーク事業部 マネージャー

【パネルディスカッション】

コーディネーター:濱口 桂一郎 労働政策研究・研修機構 労働政策研究所長

 

 

2024年5月24日 (金)

日本労働法学会誌137号『労働法と経済法(競争法)の関係の整序に向けて』

Isbn9784589043429 日本労働法学会誌137号『労働法と経済法(競争法)の関係の整序に向けて』が届きました。昨年10月28,29日に西南学院大学で開催された日本労働法学会第140回大会の記録です。

大シンポジウムでは、わたくしがこんな質問をしておりました。

①企業別組合中心で、企業を超えた交渉、協約がほとんどない日本において、事業者のみが談合し、低賃金カルテルではなく高賃金カルテルを締結することは、当然、独禁法違反でしょうか。それとも、労働条件ゆえに協同なのか。

②賃上げのために、事業者のみが、賃金そのものではなく、取引先との価格転嫁を協定するということはどうでしょうか。

③時短のために、事業者のみが営業時間、営業日を協定することはどうでしょうか。

 

 

 

『賃金とは何か』書影

Asahishinsho



2024年5月23日 (木)

ILOがプラットフォーム労働条約(勧告)に向けて動き出す?@『労基旬報』2024年5月25日号

『労基旬報』2024年5月25日号に「ILOがプラットフォーム労働条約(勧告)に向けて動き出す?」を寄稿しました。

 本誌3月25日号で紹介したように、今年3月11日にEUの閣僚理事会はプラットフォーム労働指令案に特定多数決で合意に達し、今年前半中にも正式に成立する見込みとなりました。これと併行して、より大きな国際レベルでもプラットフォーム労働への法規制の動きが始まっています。国際労働機関(ILO)も来年と再来年の2025年と2026年の2回の審議によって、プラットフォーム労働に関する新たな国際基準を設定する方向に向けて動き出しているのです。
 今年の1月31日に、ILOは「プラットフォーム経済におけるディーセントワークの実現(Realizing Decent Work in the Platform Economy)」という100ページを超える報告書を発表しましたが、この末尾には膨大な加盟国向けのアンケート票がついており、既に各国政府と労使団体はこれに対する回答に頭をひねっているところだと思われます。
 本報告書の「はじめに」によると、2019年の「仕事の未来に向けたILO100周年宣言」は、すべてのILO加盟国に対し、「適切なプライバシーと個人データ保護を確保し、プラットフォーム労働を含む仕事のデジタル変革に関連する仕事の世界における課題と機会に対応する政策と措置」を講ずるよう求めています。その後ILO理事会は2021年3月の第341回会合で、2022年中に「プラットフォーム経済におけるディーセント・ワーク」の問題に関する三者専門家会議を開催することを決めました。この専門家会議は2022年10月10日から14日までジュネーブで開催され、その結果が同年10月~11月の第346回理事会会合に報告されました。これを受けてILO理事会は、2025年6月の第113回ILO総会にプラットフォーム経済におけるディーセント・ワークに関する項目を議題とすることを決定したのです。さらに2023年3月の第347回理事会会合では、2025年6月の第113回ILO総会では二回討議手続をとることを決定しました。二回討議手続とは、1年目の第1次討議では一般的な原則を検討し、2年目の第2次討議で条約な勧告といった国際基準を採択するものです。ですから、2026年6月のILO総会でプラットフォーム労働に関する条約か勧告が採択されるという日程表がほぼ定まったわけです。
 報告書は全14章からなり、実に様々な問題を取り扱っていますので、ここでは目次を訳しておきます。
はじめに
第1章 プラットフォーム経済の登場と多様性
 1.1 ビジネスモデル、競争上の優位、市場における力
第2章 プラットフォーム労働の性質
 2.1 ビジネスと顧客を労働者につなげるプラットフォーム
  2.1.1 プラットフォームの数とプラットフォーム労働の広がり
  2.1.2 プラットフォームとプラットフォーム労働の場所
 2.2 プラットフォーム労働の主な特徴
  2.2.1 低い参入障壁と柔軟性
  2.2.2 プラットフォーム労働の業種と職種
  2.2.3 本業と副業
  2.2.4 労働のモニタリングと監視におけるアルゴリズムの役割
 2.3 プラットフォーム労働者の特徴
  2.3.1 年齢
  2.3.2 学歴
  2.3.3 性別
  2.3.4 移民・難民
 2.4 デジタルプラットフォーム労働とインフォーマル性
第3章 規制枠組み
 3.1 国際法とプラットフォーム労働
  結社の自由と団結権、強制労働、児童労働、機会と待遇の平等、労働安全衛生、雇用政策と促進、雇用関係、報酬、労働時間、アルゴリズム、個人データ保護、社会保障、移民労働者、紛争解決、雇用終了、労働監督、インフォーマル経済からフォーマル経済への移行、国際労働基準のプラットフォームへの関連性要約
 3.2 加盟国における規制介入の範囲
第4章 プラットフォーム労働者とプラットフォームの定義
第5章 デジタルプラットフォームのどの労働者が保護されるのか?
 5.1 文脈
 5.2 国と地域の取組み
  5.2.1 判例法
  5.2.2 立法
第6章 職場の基本原則と権利
 6.1 結社の自由と団体交渉権の有効な承認
 6.2 強制労働と児童労働の廃絶
 6.3 平等と非差別
 6.4 労働安全衛生
第7章 雇用政策と促進
第8章 労働保護
 8.1 報酬
 8.2 労働時間
 8.3 雇用終了と解除
 8.4 労働者の個人データ保護
 8.5 紛争解決
第9章 社会保障
第10章 労働者代表と労使対話
 10.1 文脈
 10.2 国と地域の取組み
  労働者代表、三者構成対話、団体交渉と二者構成対話
第11章 情報へのアクセス
第12章 法令遵守
 12.1 文脈
 12.2 国と地域の取組み
  12.2.1 執行、罰則及び関連する監督機構
  12.2.2 許可制と報告義務
第13章 ILOの作業と他の国際的な取組み
 13.1 グローバルな証拠へのILOの貢献
 13.2 加盟国を支援するILOの技術支援と調査
 13.3 より広範な国際的な取組み
第14章 プラットフォーム経済におけるディーセントワークに関する基準
 14.1 プラットフォーム経済の急速な登場とその規制に向けた歩み
 14.2 法と慣行からの教訓
 14.3 なぜ基準が必要なのか?
  将来の制度改正の手続の潜在的な簡素化と加速化、質問票
 この詳しい内容は、ILOのホームページに掲載されている本報告書を是非見ていただきたいと思います。
 ここでは、最後の「なぜ基準が必要なのか?」で列挙されている新たな基準に盛り込まれるべき内容を紹介しておきます。ILO事務局は、こういう方向で新基準を設定しようとしているのです。
(a) オンライン及び場所ベースのプラットフォームが、基準における共通の諸原則にふさわしい共通点を共有していることを認める、
(b) 雇用上の地位に関係なく労働者を対象としつつ、雇用上の地位が異なる労働者が権利を実現するための異なる経路が存在する可能性を認め、
(c) デジタルプラットフォームが、その地位が使用者であるか又は雇用関係以外の契約主体であるかにかかわらず、プラットフォーム労働者のディーセントワークを確保スル上で重要な役割を担っていることを認め、
(d) プラットフォーム経済におけるディーセントワークに対する新たな具体的な課題、とりわけプラットフォーム労働を編成し、監督し、評価するためのアルゴリズムの使用など、労働条件に影響を与える技術の使用に関連する課題に対処するための明確な枠組みを提供し、
(e) 労働関係の停止又は終了及びアカウントの無効化並びに労働者の個人データの保護に対処し、
(f) 紛争の国境を越えた性質を含め、プラットフォーム労働の国境を越えた性質に関連して生じる特定の問題に対処し、
(g) 法律及び慣行において国内条件及び国際労働基準に合致する保護を確立する上で、加盟国にある程度の柔軟性を提供し、
(h) プラットフォーム経済のダイナミックな性質を認識するとともに、急速な技術発展に対応するための将来的な基準の適応の可能性を確立し、
(i) 関係する労働者及びプラットフォームの有効な代表を確保しつつ、十分な法律及び規則を定義する際の三者構成社会対話の役割と、労働協約を締結する際の労使団体の役割を強調する。
 日本がプリーランス新法の制定と施行に専念していた時期に、世界はプラットフォーム労働という新たな就業形態に対する法的規制に向けた動きが着実に進みつつあったということは、政労使の何れの人々もきちんと認識して対応していく必要があると思われます。

 

2024年5月22日 (水)

EUがAI規則を採択

もう既に日本でも報道されていますが、昨日EUの閣僚理事会がAI規則案を正式に採択しました。

Artificial intelligence (AI) act: Council gives final green light to the first worldwide rules on AI

これについては、規則案提案の際に労働関係に重点を置いてごく簡単に紹介したことがあります。

JILPTリサーチアイ 第60回 EUの新AI規則案と雇用労働問題

去る4月21日、EUの行政府たる欧州委員会は新たな立法提案として「人工知能に関する規則案」(COM(2021)206)[注1]を提案した。同提案は早速世界中で大反響を巻き起こしているが、本稿では必ずしも日本のマスコミ報道で焦点が当てられていない雇用労働関係の問題について紹介し、政労使の関係者に注意を促したい。・・・・

ヨーロッパで検討進むAI規制案 労働法はAIとどうかかわるか

ボスがアルゴリズムだったら?

人工知能(AI)と労働を巡る議論は、これまでどちらかというとAIによってどれだけの仕事が奪われるかという、マクロ的ないし経済学的関心が主でした(フレイ&オズボーンの2013年論文やその日本版など)。しかし近年、AIが労働のあり方をいかに変えるかという、ミクロ的ないし社会学的関心が高まっています。採用から業務管理、業績評価、解雇に至るまでの人事労務管理の全般にわたって、AIがもたらしつつある変化が、これまでの労働法が前提にしていたものを突き崩しつつあるのではないかという問題意識です。オックスフォード大学法学部のアダムズ・プラスル教授の最近の論文「もしボスがアルゴリズムだったら?」(『比較労働法政策雑誌』41巻1号)というタイトルは問題を端的に示しています。

これまで採用を巡る問題の中心は不完全情報による「レモン」(職務能力の乏しい者をつかんでしまう)問題でした。しかし今や、ネット上に存在する応募者に関する情報を探索し、プロファイリングすることで、問題社員を事前にチェックすることも可能になりつつあります。それでどこが悪い?と考えるかもしれませんが、応募者のさまざまな属性や特徴から一定の傾向を抽出し、それに基づいて採用の判断をすることは、労働法が抑制しようと努めてきた統計的差別を公然と復活させることになりかねません。問題はそれが経営者の偏見などではなく、ビッグデータに基づく「科学的に正しい」予測だという点です。

入社後の日々の業務管理も、これまでは不可能であったような微細なモニタリングとデータ収集により、継続的な監視の下に置くことが可能です。飽きっぽい生身のボスではなく、アルゴリズムがリアル空間でもネット空間でもあなたを見張っているからです。これをアダムズ・プラスルは、百眼の怪物アルゴスになぞらえて「今日のパノプテス」と呼んでいます。会社は監視監獄パノプティコンになるのでしょうか。

EUの規制案とは?

こうして日々収集されたデータは日々分析され、労働者の業績評価に用いられます。繰り返しますが、恣意的で偏見に満ちた生身のボスではなく、ビッグデータに基づく科学的な判定です。しかしその判断過程は外から見えません。AIの中でどういうデータに基づいてどういう判断が下されたのか、生身のボスにもわからないのです。「なぜ私の評価はこんなに低いんですか?」「AIの判断だから私にもわからないけど確かだよ」。

これは解雇の判断でも同じです。「なぜ私はクビなんですか」「AIの判断だから私にもわからないけど確かだよ」。誰も説明できないのに、クビになる根拠があることだけは確かです。そう、AIは意思決定を限りなく集権化する一方で、その責任を限りなく拡散するのです。

こうした事態がすでに局部的に現実化しているのがウーバーやウーバーイーツなどのプラットフォーム労働の世界です。仕事の依頼に何秒以内に対応したか、仕事の依頼をいくつ断ったかで細かく評価され、客先の採点で低い評価が続けば、アプリにアクセスできなくなってしまう、というのは、他分野での労働の未来絵図を先取りしているのかもしれません。そこに着目して規制を試みているのがEUです。

2021年12月に欧州委員会が提案したプラットフォーム労働指令案は、(私も含めて)労働者性の法的推定規定の方に関心が集中していますが、実はもう一つの柱はアルゴリズム管理の規制です。そこでは、自動的なモニタリングと意思決定システムの透明性、人間によるモニタリングの原則、重大な意思決定の人間による再検討、労働者代表への情報提供と協議といった規定が設けられています。審議はこれからですが、これらはプラットフォーム労働に限った問題ではなく、労働の場におけるAI利用の全分野に関わる問題です。

欧州委員会のAI規則案

欧州委員会は2021年4月に人工知能規則案を提案しています。こちらは労働に限らず、全分野にわたるAI規制を試みたもので、AIをそのリスクによって4段階に分けています。最も上位にあるのが基本的人権を侵害する可能性の高い「許容できないリスク」で、潜在意識に働きかけるサブリミナル技術、政府が個人の信用力を格付けする「ソーシャルスコアリング」、そして法執行を目的とする公共空間での生体認証などが含まれます。これらは中国では政府が先頭に立って全面的に展開されているものですが、EUはその価値観からこれらを拒否する姿勢を明確にしています。規則案の公表以来、世界中のマスコミが注目しているのもこれら最上位のリスクを有するAIに対する禁止規定です。

しかしながら、その次の「ハイリスク」に区分されているAI技術の中には、雇用労働問題に深く関わるものが含まれています。ハイリスクのAIは利用が可能ですが、本規則案に列挙されているさまざまな規制がかかってくるのです。

4 雇用、労働者管理および自営へのアクセス

(a) 自然人の採用または選抜、とりわけ求人募集、応募のスクリーニングまたはフィルタリング、面接または試験の過程における応募者の評価、のために用いられるAIシステム

(b) 労働に関係した契約関係の昇進および終了に関する意思決定、課業の配分、かかる関係にある者の成果と行動の監視および評価に用いられるAIシステム

見ての通り、入口から出口まで人事労務管理の全局面にわたってAIを用いて何らかの意思決定をすることが本規則の適用対象に入ってきます。ただし、AI規則案はあくまでもAIに対する規制であって、利用者(企業)に課せられるのはリスクマネジメントシステムの設定、データガバナンスの確立、運用中の常時記録(ログ)、そして人間による監視といったことです。

日本や労働組合への示唆

このように、EUのAI規制への意気込みは大きいとはいえ、プラットフォーム労働という小領域向けの指令案と、全社会を対象とする規則案の間に、労働におけるAI利用に向けた中範囲の規制の動きはまだ存在しません。これに対し、欧州労連(ETUC)は2020年7月「人工知能とデータに関する決議」で、職場の不適切な監視を防ぎ、バイアスのあるアルゴリズムに基づく差別を禁止する法的枠組みを要求し、2021年6月には欧州議会議員への書簡で、採用・評価に限らず、職場で用いるすべてのAIシステムをハイリスクに分類し、リスクアセスメントは第三者が行うべきだと求めています。また、欧州労連のシンクタンクである欧州労研(ETUI)も2021年7月の政策ブリーフで、雇用におけるAIを対象とする指令を要求しています。

日本ではまだプラットフォーム労働への規制も緒に就いてすらいませんし、AIについても2021年7月に経済産業省が「AI原則実践のためのガバナンス・ガイドライン」を策定したにとどまり、そこでは法的拘束力ある横断的規制は否定されている状態です。しかし、職場の現実は世界とくつわを並べてどんどん進んでおり、本稿前半で述べたような世界の到来は決して遠い将来の夢物語ではありません。この問題意識を社会に喚起していく上で、労働組合の役割は極めて大きいものがあるはずです。

 

2024年5月21日 (火)

地方公務員(公立学校教員)は労働基準法原則適用だが労働組合法適用除外ゆえ

F9fmcqd_400x400_20240521135101 退職代行に関して、焦げすーもさんがこういうつぶやきに対してこのような疑念を呈しているのですが(わたしの名前が出てくるのでひっかかった)

公立学校は退職代行使えないそうです。退職代行モームリに電話してみました。理由は公務員には労働基準法が適用されないからだそうです。

二重におかしい説明である。 ・公立学校の教員には、一部規定を除き、労基法の適用がある。 ・労基法に退職の有効性に関する定めはない。 ※公務員特有の『任用』は、民法の『雇用』規定とは異なると一般に解されているため、 という説明であれば、一応は納得できる。

「一応は」と書いているのは、「公務員の労使関係も労働契約である」という濱口桂一郎説を無視できないからである。

とりあえずはその通りであって、国家公務員と異なり、地方公務員には労働基準法が(一部の規定を除いて)原則適用され、その中には第二章の労働契約も含まれます。労働基準法第二章の諸規定中、地方公務員法第58条第3項により適用除外されているのは、労働基準法第14条第2項第3項(いわゆる雇止め告示)だけです。以上は、労働法の世界の常識ながら、地方公務員の世界では非常識(常識になっていないという意味)であることは繰り返し述べ来たったとおり。

ただ、モームリさんが地方公務員の退職代行を断ったのは、労働基準法が適用されないからという間違った理由からではなく、労働組合法が適用されないからではないかと思われます。

退職代行業を非弁行為ではなく合法的に行うために労働組合としての行為として行うビジネスモデルからすると、地方公務員の退職代行を合法的に行うためには地方公務員法上の職員団体とならねばなりませんが、こちらは労働組合と異なり、地方公務員法第53条による登録が交渉をする上での必須条件なので、そういうことは出来ません、という趣旨であったのではないかと。

 

矢島洋子・武石恵美子・佐藤博樹『仕事と子育ての両立』

9784502492815_430 矢島洋子・武石恵美子・佐藤博樹『仕事と子育ての両立』(中央経済社)をお送りいただきました。「シリーズ ダイバーシティ経営」の6冊目になります。

https://www.biz-book.jp/isbn/978-4-502-49281-5

ダイバーシティ経営の課題として、女性(母親)の活躍と男性(父親)の子育てに着目し、仕事と子育てを両立できる多様な働き方とキャリア形成における支援のあり方を考える。

基本的な視点は、序章のことばを引用すれば、

・・・同質的な人材や働き方を前提とした従来の日本的経営におけるWLB支援では特別な支援を必要とする人材とみられがちな「子育て社員」が、ダイバーシティ経営による柔軟な働き方や多様なキャリア形成を可能とする取組みにより、企業が積極的に採用し、定着・活躍を期待する人材となるのではないか・・・

というところにあるようです。

 

 

 

 

2024年5月17日 (金)

アダルトビデオ女優の労働者性とアダルトビデオプロダクションの労働者供給事業該当性@東大労判

久しぶりに東大労判の順番が回ってきまして、アダルトビデオプロダクション労働者供給事件(東京高判令和4年10月12日)(判例タイムズ1516号142頁)というのを評釈してきました。

妙な判決を取り上げるものだとお思いになるかも知れませんが、いやこれがいろんな論点がごちゃごちゃ入り交じってなんとも面白いのです。

労働判例研究会  2024/5/17  濱口桂一郎

アダルトビデオ女優の労働者性とアダルトビデオプロダクションの労働者供給事業該当性
アダルトビデオプロダクション労働者供給事件(東京高判令和4年10月12日)
(判例タイムズ1516号142頁)

Ⅰ 事実
1 当事者
X:アダルトビデオプロダクション
被告人Y1:アダルトビデオプロダクションXの実質的支配者として、Xの運営資金の管理等を行う
被告人Y2:Xのマネージャーとして、アダルトビデオ女優のスケジュール管理等の業務に従事
Z:Xの代表として、マネージャーを統括管理しアダルトビデオ女優の供給先企業と交渉等を行う(別事案の被告人)
W:アダルトビデオ映画の制作者
V:Wから撮影の依頼を受けたアダルトビデオの監督
A,B,C:Xに所属するアダルトビデオ女優

2 事案の経過
・Y1とY2はZと共謀して、法定の除外理由がないのに、業として、Wがアダルトビデオ映画を制作するに際し、出演女優に男優を相手として性交等の性戯をさせることを知りながら、平成29年1月25日から同年3月29日までの間、Wとの労働者供給契約に基づき、Wに対して、Xに所属する労働者であるA,B,Cをアダルトビデオ女優として供給し、W及びVの指揮命令の下、A,B,Cに男優を相手として性交等の性戯をする労働に従事させ、もって公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で労働者の供給をするとともに、労働者供給事業を行った。(検察側の主張)
・Y1、Y2は職業安定法63条2号(有害業務に就かせる目的での労働者供給等)、同法44条(労働者供給事業)、64条9号(現10号)の罪で起訴された。
・第1審判決(東京地判令和3年3月19日)は、YらとAらとの間には「強い経済的支配従属関係」があったこと、Aらは供給先の指揮命令に従う関係にあったことなどを指摘して、Y1,Y2を何れの罪についても有罪とした(Y1を懲役1年6月執行猶予3年、Y2を懲役1年執行猶予3年)。
・Y1,Y2が控訴した。その主張は、Aらは職安法上の「労働者」に当らず、Yらの行為は同法上の「供給」に当らないとするものであった。
・令和4年10月12日、本判決。

3 関係条文

職業安定法
(定義)
第4条・・・
⑧この法律において「労働者供給」とは、供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、【労働者派遣法】第2条第1号に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとする。
(労働者供給事業の禁止)
第44条 何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。
 第5章 罰則
第63条 次の各号のいずれかに該当するときは、その違反行為をした者は、これを1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金に処する。
二 公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介、労働者の募集、募集情報等提供若しくは労働者の供給を行い、又はこれらに従事したとき。
第64条 次の各号のいずれかに該当するときは、その違反行為をした者は、これを1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
九(現第10号) 第44条の規定に違反したとき。

4 原審判決 有罪
(1) 「労働者」該当性
「XがAらとの間で交わした各専属タレント契約の内容は、Aらに対し、契約期間中X以外のプロダクションとの間でアダルトビデオ女優として活動することを禁止し、違約金条項や損害賠償条項の威嚇によって、Xが受注する業務を誠実に行う義務を課すものである。そして、仕事の対価についてみると、Aらは、自らのアダルトビデオへの出演の対価として制作会社から支払われる出演料について一切知らされておらず、その出演料からXに分配するマネジメント料の決定に関与することはもとより、その出演料から相当額がスカウトバックと称してAらをXに紹介した者に対して支払われることについての情報や意思決定も全てX側にのみ委ねられていたものと認められる。さらに、実際にXがAらに支払う報酬額についても、所得税としての控除はともかくとしても、既定のものとして厚生費名目で一定割合を控除した額を支払っていたものと認められる。以上によれば、Xの前記業務を行っていたYらとAらとの間には強い経済的支配従属関係があったと認められる」
(2) 労働者「供給」該当性(指揮命令関係の有無)
「Aらは、事前に撮影内容についておおむね承知しており、撮影現場においても自身の要望が己らに尊重される状況にはあったものの、作品の企画及び撮影実施について自主性が認められているわけではなく、撮影の進行自体もVの指示の下行われていたのであるから、Aらは、X及びVの指揮命令に従う関係にあったと認められる」

Ⅱ 判旨 控訴棄却

1 職安法の趣旨
「「労働者の供給」と「職業紹介」は、供給ないし紹介される者について支配従属関係が有るか否かにより振り分けられる関係にあることも踏まえると、職安法63条2号における「労働者の供給」については、そこで要するとされる支配従属関係は、供給元にある者の指示に従う立場にあるという程度の関係で足り、特に業務について諾否の自由がないなどの強い拘束があることまでは要しないものと解される。また、そこで要するとされる指揮命令関係は、供給先の下でその業務に就く立場にあるという程度の関係があれば足り、特に個々の求められた演技に対する拒否ができない、あるいは演技における裁量の余地が全く認められないなどの強い拘束があることまでは要しないものと解される。」
「職安法44条の「労働者供給」における供給元との間の支配従属関係及び供給先との間の指揮命令関係について、封建的な強度の関係を要するなどの強い限定をすべき理由はなく、本件における同条の適用について、同法63条2号の場合に加えて特に考慮すべき事情があるとはいえない。」

2 「労働者」該当性
「原判決は、前記のとおり、本件各アダルトビデオへの出演については、Xが受注し、AらはXの指示に従ってその業務に就いたものであることを前提とした上で、Aらは、いずれもXとの間で専属タレント契約を締結し、これによりXの専属モデルとして業務を行い、対価はXから支払われ、他のプロダクションとの間でアダルトビデオ女優の活動が禁止されていたこと、専属タレント契約書にある違約金条項や損害賠償条項の存在、制作会社から支払われる出演料の金額をAらに知らせておらず、スカウトバックに関する情報や意思決定も全てX側に委ねられていたこと、厚生費名目で一定の割合を控除した額の報酬を支払っていたことなどを指摘する。これらの事情によれば、Aらについて、職安法63条2号、44条において要すると解される程度の支配従属関係は優に肯定できるといえ、原判決の判断に誤りはない。」
「所論は前記(ア)ないし(オ)の事情を指摘するが、Aらに業務について諾否の自由があり、アダルトビデオ女優以外の仕事であれば自由に行えたとしても、AらがXの指示に従って本件の出演業務に就いたとの事実を左右するものではない。契約書における違約金条項等が強い拘束ではないとの所論を踏まえても、これらが一定程度の拘束の効果を有することは明らかである。Aらに出演料の金額を知らせていなかったとの事情も、Aらにとって重要なのは自己の報酬額であるとの所論を踏まえても、AらにおいてXに従属していたとの評価要素になることは明らかである。そうすると、所論が指摘する事情は、いずれも職安法63条2号、44条の「労働者」として必要な程度の支配従属関係があったとの判断を揺るがす事情とはいえない。」

3 労働者「供給」該当性
「原判決は、本件各撮影がVの指示の下おおむね香盤表どおりに行われているなどの事実関係を踏まえ、AらとVとの間に指揮命令関係があると認定したものであり、前記1で検討した職安法63条2号、44条の「労働者供給」における指揮命令関係の意義に照らして不合理な点はない。撮影現場でAらに求められた演技に対する拒否ができた、あるいは演技における裁量の余地があったことなどの所論が指摘する事情は、前記検討のとおり、職安法63条2号、44条の「供給」として必要な程度の指揮命令関係があったとの判断を左右するものとはいえない。」

4 量刑不当(省略)

Ⅲ 評釈 

1 職業安定法における「労働者」概念

 原審及び本判決は何れも「労働者該当性」と「労働者供給該当性」を分けた上で、前者を供給元(本件におけるX、Yら)と労働者(Aら)の間の(経済的)支配従属関係により、後者を供給先(本件におけるW、V)と労働者との間の指揮命令関係により判断している。これは、労働法学で通常論じられる労働基準法(≑労働契約法)上の労働者性や労働組合法上の労働者性とは相当に異なる職業安定法上の労働者概念を前提にしているように見えるが、それは正当であろうか。
 職安法は「労働者」の定義規定を置いておらず、立法担当者の著作(亀井光『職業安定法の詳解』)等にも解説はない。職安法上には「求職者」や「労働者となろうとする者」という概念があり、これらは雇用関係成立前なので労働基準法(労働契約法)上の労働者ではないことは明らかだが、雇用契約が締結されれば労働基準法(労働契約法)上の労働者となるであろう者と理解するのが通常であろう。しかしながら、最高裁の判例はそれとは異なる解釈を採っている。
 職業安定法違反被告事件(最一小判昭和29年3月11日刑集8巻3号240頁)は、旧遊郭地帯の待合業者に接待婦(売春婦)を紹介した事案について、「同法5条にいわゆる雇用関係とは、必ずしも厳格に民法623条の意義に解すべきものではなく、広く社会通念上被用者が有形無形の経済的利益を得て一定の条件の下に使用者に対し肉体的、精神的労務を供給する関係にあれば足りるものと解するを相当とする」と判示している。これは上告趣意書で次のように論じられていたことを受けて、雇用契約の存否にかかわらず適用されるのだと主張するためであろう。
第二、業者と接待婦間に雇傭契約は存しない。(1)栄森一夫第一審証言。女給はどう云う風に契約するのかとの問に対し「まず喫茶店の女給として働かせてくれと云う頼みに応じて働かせますがその間の給料は支払はない」(第五回公判調書)(2)竹川松吉第一審証言「別に、契約と云つてはしておりません、女が働かしてくれと云つて来れば働いて貰ふ丈です」問「証人と接待婦との関係は雇主と被雇者と云うことになるか」答「違います」
(第五回公判調書)(3)高岡寛第一審証言「証人と女中(接待婦)との関係は雇う雇はれるというのではなく本人が自由に働くのです、私の方は女が働かしてくれと云へば働かす丈です」(第五回公判調書)(4)井上佐一第一審証言「給料等の約束はなく、客を取れば席料を貰ふという以外何も約束はしません」(第五回公判調書)、と証言して業者と接待婦の間に雇傭契約の成立なく、唯接待婦が業者の店舗にて就業を申込み承諾する事実上の関係のみにて両者に少しも権利義務の関係を生ぜしめる契約は存しないのである。
 これら証言に対する扱い方としては、契約形式上は雇用ではないとしてもその就労の実態は雇用に当るという労働法でおなじみのやり方もあり得るが、おそらくその後で論じられている売春行為における指揮命令の存否の議論が容易ではないこともあって、こういういわば職安法独自の労働者概念の拡張のような論理展開となったものと思われる。
第三、接待婦と客との交渉関係につき、(1)鬼頭庄三郎第一審証言「接待婦はお客と話が出来れば一緒に二階へ上つて行きます、金銭的交渉は女の自由でこの金については業者は関係はありません」(名古屋出張調書)(2)高岡寛第一審証言「客との交渉は女中が店に居つて客が来れば勝手に交渉して二階へ上つて遊ぶのです」(第五回公判調書)(3)井上佐一第一審証言「女中は客が来れば二人で勝手にサービス料の取極めをして、話ができれば二階へ上つて遊ぶのです」(同上)、と証言し、客との交渉は凡べて接待婦自ら直接之れに当り全く自己の行為として之れを為して居り決して業者がその交渉に立入る関係は存せず、従つて原審判決の如く接待婦が業者の営業行為を為すものと考へることはできないのである。
 その意味では、この拡張労働者概念は本来職安法全般にわたるものとして想定されたのではなく、公衆道徳上有害業務への職業紹介という局面について刑事法上の適切な結論を導き出すためにやや強引に作り出されたものという印象を免れないが、とはいえ最高裁判決自らが「同法5条にいわゆる雇用関係とは」と大きく論じている以上、これは職安法の適用全般にわたってそのように解釈されるべきものと理解するしかないであろう。おそらくほとんど理解が共有されていないと思われるが、日本国最高裁は職安法上の労働者性について「広く社会通念上被用者が有形無形の経済的利益を得て一定の条件の下に使用者に対し肉体的、精神的労務を供給する関係にあれば足りる」と、極めて緩やかな経済的従属性によって判断するという枠組みを70年前の段階で確立していたのである。
 これは、公衆道徳上有害業務ゆえの緩やかな判断と考えるべきではない点がある。すなわち、職業紹介における労働者性が問題となる場合においては、当該職業紹介が行われた時点においては未だ雇用関係が成立に至っておらず、労働者性の判断基準となるべき就労の実態がそもそも存在しない。従って、労基法上の労働者性と同じように当該紹介に係る者の就労の実態でもって判断するということが不可能であり、上記のような幅広の判断をせざるを得ない面があると思われるのである。

2 労働者供給事業における「労働者」概念

 しかしながら、本判決が「労働者該当性」と称して論じているのは、この最高裁判例の論点とは異なり、労働者供給事業において供給前の状況における供給業者と供給労働者との関係が「支配従属関係」に当るという問題であり、議論が大幅に錯綜し捻れてしまっている。
 まず整理しなければならないのは、職安法上の労働者概念が拡張されるということと職業紹介前の求職者が労働者に当るということは全く別のことであり、職安法上の「求職者」や「労働者となろうとする者」は、概念の拡張の如何にかかわらず労働者自体ではない。労働者ではないものとして職安法の適用対象となるのである。
 では、労働者供給事業においてはどうであろうか。ここが実定法規定自体がいささか混乱している点である。職安法第5条の3(労働条件等の明示)においては、職業紹介事業者、募集を行う者、労働者供給業者は、それぞれ、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者、供給される労働者に対して、労働条件を明示せよと規定している。紹介の場合は労働者ではなく求職者であり、募集の場合も労働者ではなく「労働者になろうとする者」なのに、供給の場合だけは実際に供給される前の段階で「労働者」とされている。しかしながら、これは上記最高裁による拡張とは全く異なる労働者概念の拡張であると言わなければならない、なぜなら、厚生労働省の「労働者供給事業業務取扱要領」においては、労働者供給事業の定義として「①供給元と供給される労働者との間に支配従属関係(雇用関係を除く。)があり、②供給元と供給先との間において締結された供給契約に基づき供給元が供給先に労働者を供給し、③供給先は供給契約に基づき労働者を自らの指揮命令(雇用関係を含む。)の下に労働に従事させる」と規定されているからである(出向のような供給元、供給先双方と雇用関係の存するタイプは別)。
 ここに明確に「雇用関係を除く」とされている支配従属関係の下にある者を「労働者」と呼ぶというのは、上記最高裁判決が想定しているような自営業との契約形式の下で経済的に従属している者とは全く異なる。労働者供給事業の戦前来の歴史を考えれば、むしろ暴力団の組長と組員の関係の如く民法の不法行為における使用者責任を生ぜしめるような関係と考えるのが自然である。しかしながら、この規定は1999年改正時に新設されたものであり、そのような認識はなかったものと思われる。おそらく、職安法上唯一認められている労働組合による労働者供給事業を想定して、雇用関係は存在しないが労働組合員である者を「労働者」と呼ぶことに問題はないという判断に基づくものであろう。しかしながら、これは職安法上においてすら例外的な用語法であり、紹介や募集の場合であれば労働者ではない者を、供給の場合においてのみ労働者と呼んでいるという極めて異例の事態なのである。
 ちなみに、労働者供給概念から分離独立した労働者派遣概念における状況を見ると、労働者派遣法第34条(就業条件等の明示)においては、「派遣元事業主は、労働者派遣をしようとするときは、あらかじめ、当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し・・・明示しなければならない」とされている。常用型派遣であれば派遣前の段階でも雇用関係があるが、登録型派遣の場合は派遣前の段階では雇用関係ではなく登録関係(一種の雇用の予約か?)があるだけなので、やはり厳密な意味では「労働者」と呼んでいいのかが問題となり得る。
 いずれにしても、この労働者供給事業のみの特殊な「労働者」概念は、最高裁判例の言う経済的従属性に着目した職安法上の労働者概念とも全く関係がないし、いわんや労基法や労契法上の労働者概念とも無関係である。
 むしろ、ここで本判決が問題にしている支配従属関係の徴表としての拘束性や従属性は、労働者該当性ではなく、労働者供給該当性として論じられるべき要素であろう。とはいえ、そのこと自体の含意も極めて大きい。なぜなら、本判決が言うように「他のプロダクションとの間でアダルトビデオ女優の活動が禁止されていたこと」、「違約金条項や損害賠償条項の存在」、「出演料の金額を知らせていなかったこと」等によって、アダルトビデオ女優の労働者該当性が容易に認定できるのであれば、アダルドビデオではない一般の女優や男優も含めて、およそ現在の芸能界における芸能プロダクションと所属芸能人の関係はことごとく労働者供給事業であると認定できそうであり、その供給契約に基づいてテレビや映画に出演したらすべて労働者性が認定できそうである。本判決のロジックは公衆道徳上有害業務に限った話ではなく、職安法44条違反という一般条項にもかかわるのであるから、公衆道徳上有害でないから普通の芸能プロダクションは大丈夫というわけにはいかないはずである。

3 一般の「労働者」概念

 本判決は支配従属関係の存否による労働者供給事業上の特殊な「労働者」概念を一般の(少なくとも職安法上の)労働者概念と取り違えている一方で、指揮命令関係の存否による一般の(労基法/労契法上の)「労働者」概念を「労働者供給該当性」と呼ぶという二重のねじれを露呈している。これはおそらく、「労働者供給事業業務取扱要領」における労働者供給事業の定義として、③供給先の指揮命令の下で労働すると書かれていることをもってきたのであろうが、紹介先でも、派遣先でも、供給先でも、そこの指揮命令下で労働することに何ら変わりはないのであって、これは一般的な労働者性の問題であって、これを労働者供給該当性と取り違えるというのは、よほど職安法の構造を理解し損ねているとしか言いようがあるまい。もしかして、本判決の裁判官は、指揮命令という概念は労働者供給事業に特有のものだとでも考えているのであろうか。せめて労働法の教科書の初めの方くらいは読んだ上で判決を書いてほしいものである。
 そして、皮肉なことに、ここであっさりと「指揮命令」という言葉で済ませてしまっている点こそが、上記70年前の最高裁判例が(公衆道徳上有害業務を念頭に置きつつ)あえて大幅に労働者性を拡張した点なのである。本判決は、「求められた演技に対する拒否ができた、あるいは演技における裁量の余地があった」としても指揮命令関係があったとしているが、もしそうなら現在の芸能プロダクションに所属する芸能人の演技行為はことごとく指揮命令関係ありと言えてしまうであろう。そうではなく、厳密な指揮命令関係の存在は立証できないような(売春婦やアダルトビデオ女優のような)対価を得ての性行為についても職安法違反だというために、最高裁は「広く社会通念上被用者が有形無形の経済的利益を得て一定の条件の下に使用者に対し肉体的、精神的労務を供給する関係にあれば足りる」と判示したのであろう。とはいえ、判決文上はそういう限定なしに職安法上の労働者概念を拡張してしまっている以上、理論的には厳密な指揮命令関係が認められなくても、緩やかな経済的従属性が認められれば、やはり現在の芸能プロダクションに所属する芸能人の演技行為はことごとく労働者性ありと判断されるべきという理路になってしまいそうである。

 

 

 

 

2024年5月15日 (水)

岩田龍子『学歴主義の発展構造』再読

7198zjctal_ac_uf10001000_ql80_dpweblab_ むかし学生時代に読んでいたはずですが、何しろ40年以上前なのですっかり中身を忘れていましたが、たまたま図書館の教育書の棚に並んでいたので再読したところ、思っていた以上に現在の私の考え方にそっくりなことを言っていることを発見し、いささかびっくりしています。

・・・これにたいして、日本の社会においては、人々は潜在的可能性としての「能力」にたいしてよりつよい関心をしめす傾向がみられる。このように、日本の社会には、能力の一般的性格についての、あるぬきがたい信仰のようなものが存在しているために、すぐれた「能力」をもつ人、すなわち「できる人」はなにをやらせてもできるのであり、逆に「駄目な奴」はなにをやらせても駄目なのだと考えられやすい。・・・つまり、日本の社会では、適材適所とは、しばしば一般的能力のレヴェルにかんしていわれる場合が多く、本人の個性・関心・興味を中心にこれが主張されることはむしろ稀である。

 このような「能力」の一般的性格にたいする信仰は、日本の企業の職員採用などにも明瞭にみとめられる。・・・・そこで問題となるのは、一般的な性格を持つ潜在的能力としての「能力」を想定することなしには、企業によるこのような人材獲得競争自体が存在しえないということである。なぜなら、これらの企業は、一般に特定の職務への配属をあらかじめ決定せずに人を採用して、採用後に適宜配属を決定しているからである。このような状況のもとでは、実力をもとめての人材獲得競争は不可能である。つまり、日本の場合、このようなはげしい人材獲得競争においてもとめられている人物は、「実力」のある人物ではありえず、それは「能力」に恵まれた人物でなければならないことになる。

さきごろ、ある一流総合商社の人事担当者が、「どのような人材をもとめているのか」というテレビ記者のインタビューにこたえて、「ウチはなにができるかにができるということをもとめてはおりません。将来大きく成長する人物をもとめています」と答えていたが、このような考え方は、特殊な業種や職種を別にすれば、おおむね日本の有力企業に共通する考え方であると思われる。・・・

本書は、当時の日本が学歴社会だ、いやそうじゃないという論争に対して、欧米のような意味での「なにができるかにができる」の証明書たるディプロマが大事な学歴社会ではないけれども、一般的な「能力」の指標としての「学歴」、大学を卒業したことじゃなくて大学の入学試験をクリアしたことをもって「将来大きく成長する人材」であることの証明書と見なす独特の学歴社会であるということを論証しようとする本なのですが、それを超えて、日本の雇用=教育を貫く社会のあり方をみごとに浮き彫りにしていると言えます。

用語法として、日本独特の「能力」の対義語として「実力」という言葉を使っている点がやや違和感があります。日本社会では「実力」ってのも無限定的な意味合いで使われがちだからです。これはむしろ具体的なジョブを想定した「スキル」と言った方が明確でしょう。

そう、二か月ほど前にここでこんなことを書き付けたのですが、この日本的「能力」ってのはまさに「できる人」の「デキル」であって、「スキル」じゃないということであるわけです。

スキルとデキル

ジョブ型雇用社会で必要なのはスキル。具体的なジョブを実際に遂行することができるスキル。これに対してメンバーシップ型社会で求められるのは、いかなる意味でも具体的なジョブのスキルではなくて、どんなことでも「できる」ことなんだなあ。「できません」はありえない。できるまで頑張る。スキルとデキル。あまりいいしゃれじゃないか。

 

 

 

 

 

 

労基法上の労働者性の見直し?@WEB労政時報

WEB労政時報に「労基法上の労働者性の見直し?」を寄稿しました。

WEB労政時報(有料版)

 厚生労働省は今年1月23日から労働基準関係法制研究会を開催し、今後の労働基準関係法制について労働法学者を中心とする学識者の議論を進めています。その中には労働時間法制のように過去数十年にわたって改正を繰り返してきたテーマもあれば、労使コミュニケーション(従業員代表制等)のように議論ばかりが繰り返され法改正につながってこなかったテーマがある一方で、労基法上の「事業」概念のように今回初めて本格的に議論され始めたテーマもあります。これらテーマはいずれも重要であり、興味深いものですが、今回は残る一つのテーマ-労基法上の「労働者」性について注目したいと思います。というのは、この問題は古くから議論されてきた問題であり、1985年の労働基準法研究会報告が一定の考え方を示し、今日までそれが思考の枠組みとなってきている一方で、近年の情報通信技術の発展により、プラットフォームワーカーなどこれまでの指揮命令関係ではとらえきれない働き方が拡大してきたため、世界的に労働者性の見直しの議論が澎湃とわき起こりつつある領域だからです。・・・・

 

2024年5月14日 (火)

規制改革推進会議に解雇等無効判決後における復職状況等に関する調査が報告

去る5月10日に、規制改革推進会議の働き方・人への投資ワーキング・グループで「労使双方が納得する雇用終了の在り方について」議論が行われたようで、そこに厚生労働省がこういう資料を出しているのですが、

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2310_03human/240510/human07_01.pdf

今までの経緯の解説のあとに、昨年我々が厚労省の依頼で行った調査の結果が載っていました。

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2024年5月10日 (金)

公務員法は77年前に純粋ジョブ型で作られたはずなんだが・・・

000003741 人事院の人事行政諮問会議が、国家公務員にジョブ型を拡大するとの案を提起したというのですが・・・、

国家公務員、ジョブ型拡大案

国家公務員の人事制度を協議する人事院の「人事行政諮問会議」は9日、中間報告を川本裕子総裁に手渡した。人材確保のため職務内容で報酬を定める「ジョブ型」を拡大する案を提起した。年功序列型の硬直的な制度を改め、専門能力を持つ民間人材の中途採用などを進めやすくする。・・・

人事院のサイトには詳しい資料も載っていますが、

人事行政諮問会議

でもなまじ公務員法制の歴史をちょっとでも知っていると、今頃になって「ジョブ型拡大」などという台詞の皮肉さがじわじわと感じられてしまうはずです。

なぜなら、今から77年前、1947年に国家公務員法が制定された時には、それはアメリカ直輸入の純粋ジョブ型の制度として設けられたものだったからです。詳細なジョブディスクリプションを作成し、ジョブに基づいてのみ採用することができ、ジョブに基づいてのみ給与を支払うことができると明記していたはずの国家公務員法が、それとは全く正反対の純粋メンバーシップ型で運用されるに至ってきたこと自体が、日本における法律と現実の乖離のもっとも典型的な実例であるわけで、その国家公務員法の担い手の人事院が70年ぶりにジョブ型なんて言い出しているということ自体、これ以上ない皮肉を感じないわけにはいかないはずですが、でもそもそもそんな歴史的経緯をわきまえている人自体がほとんど絶無に等しく、こういうことを言っても何を言ってるんだろうとぽかんとされるだけなのでしょうね、たぶん。

この問題については、2年前に『試験と研修』という雑誌に寄稿した「公務員とジョブ型のねじれにねじれた関係」が、わりとコンパクトにまとめているので、ご参考までに改めて掲載しておきます。

公務員とジョブ型のねじれにねじれた関係

1 純粋ジョブ型で作られた(はずの)公務員制度
 
 本稿の執筆依頼には「ジョブ型雇用を日本、特に公務に導入する際の課題」云々という表現があった。現代日本の公務員の世界がほぼ完全なメンバーシップ型で動いており、ジョブ型とは対極的な有り様であるというのは、誰もが同意する判断であろう。それゆえ、かくも対極的な「ジョブ型」を日本の公務員制度に導入するにはどうしたらいいのか、というのが最大の問いになるのも、これまた極めて常識的な認識と言えよう。さはさりながら、普通に公務員として日々働いているだけの者であれば格別、その職務上公務員制度に関わりを持つ者であれば、そこになにがしかのわだかまりを感じるはずである。いや感じてくれなければ困る。なぜなら、日本国の国家公務員法は今から75年前に、アメリカ直輸入の純粋ジョブ型の制度として作られたものだからだ。そして、2007年改正で条文として消えるまでの60年間、国家公務員法は(少なくともその条文上は)職階制というジョブ型の見本のような仕組みを中核とし、それに基づく任用制度と給与制度によって組み立てられてい(ることになってい)たはずだからだ。実際の運用とは真逆の看板を掲げ続ける後ろめたさからは解放されたとはいえ、現在の国家公務員法の基本構造はなお生誕時のジョブ型の母斑を残している。公務員制度とジョブ型雇用というテーマは、今なおねじれにねじれたものであり続けているのである。
 釈迦に説法の感もあるが、職階制とは何だったのか振り返っておこう。これは、幣原内閣の大蔵大臣であった渋沢敬三(栄一の孫)が招聘したフーバー率いる対日米国人事行政顧問団の指示によって国家公務員制度の中核として規定されたものであり、一義的には官職を分類整理し、格付することである。しかしそれで終わりではなく、それのみを「任用の資格要件」と「俸給支給の基準」としなければならないということが重要である。つまり、ある官職にいかなる人を就けるのか、そしてその者にいかなる給与を払うのかという、人事管理の2大根本事項を、分類整理され格付された職種と等級に基づくものにしなければならないのである。まさに、ヒト基準ではなくジョブ基準の人事管理を大原則として規定しているのが職階制なのだ。
 占領下ではこれに基づき職階法が制定され、さらに上級官職をジョブ型任用するためにS-1試験が遂行され、約4分の1の幹部職員が職を追われたという。こうしたことから職階制は他省庁から猛反発を受け、占領の終了とともに人事院が懸命に作成していた膨大な職級明細書はほぼ空洞化し、職階制は名存実亡の状態となった。では職階制に基づいて作られるはずの任用制度と給与制度はどうなったのか。
 1952年に人事院規則6-2(職員の任免)が制定され、人事院はその理念を「国家公務員法における任用とは官職の欠員補充の方法である。すなわち官職への任用であり、職員に特定の職務と責任を与えることであつて、職員に或る身分若しくは地位を与えることではない」と述べた。実際、同規則の規定ぶりはそうなっていたが、同規則第81条以下(経過規定)は、職階制が実施される日までは従前通りとし、そして職階制は永遠に実施されなかった。以来日本国においては、この当座の間に合わせの任用制度によって、「職員に或る身分若しくは地位を与えることであつて職員に特定の職務と責任を与えることではない」という純粋メンバーシップ型の運用がまかり通ってきたのである。
 一方給与制度は、1948年に「政府職員の新給与実施に関する法律第十四条に基づく職務による級別区分の基準」が設けられたが、この職務分類は「職務」を分類しておらず、最下級の1級職から最上級の15級職まで等級を分類しているだけであった。1948年改正国家公務員法はこの「職務分類」を国家公務員法の職階制規定に基づく計画と見なしたが、それは暫定的な措置であり、本来の職階制が実施されれば効力を失うはずであったが、その日は永遠に来なかった。正確に言えば、同法は期限切れで失効したが、それに代わって1950年4月に制定された一般職の職員の給与に関する法律が15級の職務分類の根拠規定を引き続き設けた。これも職階制が実施されるまでの暫定措置であり、そのことは同法第1条第3項に明記されていたが、やはりその日は永遠に来なかった。国家公務員法上には、職階制に適合した給与準則を制定し、これに基づくことなしにはいかなる給与も支払ってはならないと明記してあるにもかかわらず、給与準則が制定されることはなかった。そしてその結果、職務分類とはせいぜい給与法の別表に掲げる俸給表の違いでしかなくなってしまった。法律上は徹底したジョブ型給与制度を明記しながら、縦の等級区分は15級もあるのに、横の職務区分は一般のほかは税務、公安、船員しかないという、およそジョブ感覚の欠如したシステムが長年継続できた手品の種はここにある。
 
2 「能力主義」を掲げてジョブ型制度を廃止した2007年改正
 
 そして、2007年7月の改正により国家公務員法の職階制関係条項が削除され、職階法が廃止された。法律上のある制度を全面廃止するということは、それまで実施されてきたその制度の基本的考え方を根本的に変更するからというのが普通だろう。ところが、半世紀以上にわたって脳死状態で維持されてきた職階制に関していえば、まったくそうではなかった。この2007年改正は21世紀初頭から始まった公務員制度改革の一環として行われたものであるが、その考え方を明示した2001年12月の閣議決定「公務員制度改革大綱」も、2007年4月の閣議決定「公務員制度改革について」も、年次主義的・年功的人事管理から能力・実績主義人事管理への転換を図るための、能力等級制を中核とする新たな人事制度の構築を掲げているのだ。
 能力等級制という言葉は、高度成長期以降民間企業で普及してきた能力主義に基づく職能資格制を想起させる。民間企業の人事労務管理を少しでも齧ったことがあれば、それが1950年代から60年代にかけて当時の日経連が旗を振っていたジョブ型の職務給に対して、年功制を否定しないメンバーシップ型に適合的な制度として1970年代以降推進されてきたことは周知のことであろう。そして、1990年代後半以降になって、そうした能力主義に対する批判が強まり、成果主義を始めとしたさまざまな見直しが進められてきたことも常識に属する。
 ところが公務員制度の世界では、それを過ぎた21世紀にもなって、改めて能力等級制なるものがあるべき姿として持ち出されてきたのだ。しかも上記公務員制度改革大綱には、「新たに能力等級制度を導入し、これを基礎として任用、給与、評価等の諸制度を再構築することにより、これまでのように個々の職務を詳細に格付け、在職年数等を基準として昇任や昇格を行うのではなく、能力や業績を適正に評価した上で、真に能力本位で適材適所の人事配置を推進する」といった概念の混乱した記述が満ち満ちている。
 徹底したジョブ型の制度を法律上に規定していながら、それをまったく実施せず、完全にメンバーシップ型の運用を半世紀以上にわたって続けてきた挙げ句に、それが生み出した問題の責任を(実施されてこなかった)職階制に押しつけてそれを廃止しようという、まことに意味不明の「改革」である。
 今日、後述の非正規公務員問題を始めとして、公務員制度をめぐる諸問題の根源には、さまざまな公務需要に対応すべき公務員のモデルとして、徹底的にメンバーシップ型の「何でもできるが、何もできない」総合職モデルしか用意されていないことがあるが、それを見直す際の基盤となり得るはずであった徹底的にジョブ型に立脚した職階制を、半世紀間の脳死状態の挙げ句に21世紀になってからわざわざ成仏させてしまった日本政府の公務員制度改革には、二重三重の皮肉が渦巻いている。・・・・

 

 

 

 

2024年5月 6日 (月)

テレワークとつながらない権利について労使への第1次協議

去る4月30日、欧州委員会は労使団体に対し、テレワークとつながらない権利に関して第1次協議を行ったようです。

https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_24_1363

Today, the Commission launched the first-stage consultation of European social partners to gather their views on the possible direction of EU action on ensuring fair telework and the right to disconnect.

本日、欧州委員会は公正なテレワークとつながらない権利を確保するEU行動の可能な方向に関して欧州労使団体の見解を求めて第1次協議を開始した。

この問題についてはこれまで何回か紹介してきています。

(参考)

欧州議会による「つながらない権利」の指令案勧告

去る2021年1月21日、欧州議会は「つながらない権利に関する欧州委員会への勧告に係る決議」を採択しました。この文書は実質的には欧州議会による指令案の提案ですが、形式的には欧州委員会に対する指令案の提案の勧告という形をとっています。これは、EU運営条約においては、立法提案をする権限は行政府である欧州委員会にのみあり、立法府である欧州議会にはないからです。欧州議会は欧州委員会が提案した指令案や規則案を審議して採択するかしないかを決める権限があるだけです。
ただ、立法提案自体の権限はなくとも、一般的に政策課題を審議し、決議をする権限は当然あるので、その決議の中で、欧州委員会に対してこういう立法提案をすべきだと求めるということは十分可能です。この決議も、条約上不可能な厳密な意味での立法提案ではなく、欧州委員会に対して指令案提出を勧告する決議の案といういささか間接的な性格のものです。とはいえ、そこにはそのまま指令案になるような形式の文書が付属されており、実質的には欧州議会の指令案というべきものになっています。
 決議に至る過程を見ると、コロナ禍直前の2019年12月19日に欧州議会雇用社会委員会にこの問題が付託され、コロナ禍の第一波が過ぎた2020年7月28日に委員会報告案が提出されました。9月15日には修正案が提出され、12月1日に委員会で採決された後に同月8日に本会議に送られました。そして翌2021年1月20日に審議が行われ、翌日の1月21日に正式に採択されています。
 
 本決議の本文には、ICTなどデジタル機器により労働者が時間、空間の制約なくいつでもつながることが可能になり、これが身体、精神の健康やワーク・ライフ・バランスに悪影響を及ぼし得るので、つながらない権利をEU指令として制定することが必要だという主張が28項にわたって縷々(るる)縷々(るる)書き連ねられていますが、実際上意味があるのは付録として添付された「つながらない権利に関する指令案」です。欧州委員会が提案すべき閣僚理事会と欧州議会の指令案そのものを欧州議会が欧州委員会に対して勧告するという複雑な構造になっています。
以下、その「指令案」を訳しておきます。
第1条 主題と適用範囲
1.本指令はICTを含めデジタル機器を作業目的に使用する労働者がつながらない権利を行使し、使用者が労働者のつながらない権利を尊重するよう確保するための最低要件を規定する。これは官民の全産業及び、その地位と労働編成のいかんにかかわらず全労働者に適用される。
2.本指令は、第1項の目的のため、安全衛生指令、労働時間指令、透明で予見可能な労働条件指令及びワーク・ライフ・バランス指令の特則を定め、補完する。
第2条 定義
 本指令において、以下の定義が適用される。
(1)「つながらない(disconnect)」とは、労働時間外において、直接間接を問わず、デジタル機器を用いて作業関連活動又は通信に関与しないことをいう。
(2)「労働時間」とは、労働時間指令第2条第1項に定める労働時間をいう。
第3条 つながらない権利
1.加盟国は、労働者がそのつながらない権利を行使するための手段を使用者が提供するのに必要な措置をとるよう確保するものとする。
2.加盟国は、労働者のプライバシーと個人情報保護の権利に従って、使用者が客観的で信頼でき、アクセス可能な方法で各労働者の毎日の労働時間が測定されるよう確保するものとする。労働者はその労働時間記録を要求し、入手することができるものとする。
3.加盟国は、使用者が公平で合法的かつ透明な方法でつながらない権利を実施するよう確保するものとする。
第4条 つながらない権利を実施する措置
1.加盟国は、適切なレベルの労使団体と協議した上で、労働者がそのつながらない権利を行使し、使用者が公平かつ透明な方法でその権利を実施することができるよう、詳細な手続きが確立されるよう確保するものとする。このため、加盟国は少なくとも以下の労働条件を定めるものとする。
a)作業関連のモニタリング機器を含め、作業目的のデジタル機器のスイッチを切る実際の仕組み
b)労働時間を測定するシステム
c)心理社会的リスク評価を含め、つながらない権利に関わる使用者の安全衛生評価
d)労働者のつながらない権利を実施する義務から使用者を適用除外する基準
e)第(d)号の適用除外の場合、労働時間外に遂行された労働への補償を安全衛生指令、労働時間指令、透明で予見可能な労働条件指令及びワーク・ライフ・バランス指令に従ってどのように算定するかを決定する基準
f)作業内訓練を含め、本項にいう労働条件に関して使用者がとるべき意識啓発措置
 第1文第(d)号のいかなる適用除外も、不可抗力その他の緊急事態のような例外的状況においてのみ、かつ使用者が関係する各労働者に書面で、適用除外が必要なすべての場合に適用除外の必要性を実質的に説明する理由を提示することを条件として、提供されるものとする。
2.加盟国は、国内法及び慣行に従い、第1項にいう労働条件を定め又は補完する全国レベル、地域レベル、産業レベル又は企業レベルの労働協約を締結することを労使団体に委任することができる。
3.加盟国は第2項の労働協約にカバーされない労働者が本指令に従い保護を受けるよう確保するものとする。
第5条 不利益取扱いからの保護
1.加盟国は、労働者がつながらない権利を行使したこと又は行使しようとしたことを理由とした使用者による差別、より不利益な取扱い、解雇及び他の不利益取扱いが禁止されるように確保するものとする。
2.加盟国は、本指令に定める権利について使用者に不服を申し立てたり、その遵守を求める手続きを行ったことから生じるいかなる不利益取扱い又は不利益な結果からも、労働者代表を含む労働者を保護するよう確保するものとする。
3.加盟国は、つながらない権利を行使し又は行使しようとしたことを理由として解雇され又は他の不利益な取扱いを受けたと考える労働者が、裁判所又は他の権限ある機関に、かかる理由によって解雇され又は他の不利益な取扱いを受けたと推定されるに足る事実を提出した場合には、当該解雇又は他の不利益な取扱いが他の理由に基づくものであることを立証すべきは使用者であることを確保するものとする。
4.第3項は加盟国がより労働者に有利な証拠法則を導入することを妨げない。
5.加盟国は事案の事実を調査するのが裁判所又は権限ある機関である手続に第3項を適用する必要はない。
6.第3項は、加盟国が別段の定めをしない限り、刑事手続には適用しない。
第6条 救済を受ける権利
1.加盟国は、そのつながらない権利が侵害された労働者が迅速、有効かつ公平な紛争解決及び本指令から生ずる権利の侵害の場合の救済を受ける権利にアクセスできるよう確保するものとする。
2.加盟国は、労働組合組織又は他の労働者代表が、労働者のために又は支援するためにその同意の下に、本指令の遵守又はその実施を確保する目的で行政上の手続に関与する旨を規定することができる。
第7条 情報提供義務
 加盟国は、適用される労働協約又は他の協定の条項を示す通知を含め、つながらない権利に関する明確かつ十分な情報を使用者が各労働者に書面で提供するよう確保するものとする。かかる情報には少なくとも以下のものが含まれるものとする。
a)第4条第1項第(a)号にいう、作業関連のモニタリング機器を含め、作業目的のデジタル機器のスイッチを切る実際の仕組み
b)第4条第1項第(b)号にいう、労働時間を測定するシステム
c)第4条第1項第(c)号にいう、心理社会的リスク評価を含め、つながらない権利に関わる使用者の安全衛生評価
d)第4条第1項第(d)号及び第(e)号にいう、つながらない権利を実施する義務から使用者を適用除外する基準並びに、労働時間外に遂行された労働の補償の決定方法の基準
e)第4条第1項第(f)号にいう、作業内訓練を含む意識啓発措置
f)第5条に従い、不利益取扱いから労働者を保護する措置
g)第6条に従い、労働者の救済を受ける権利を実施する措置
第8条 罰則
 加盟国は、本指令に基づき採択された国内規定又は本指令の適用範囲にある権利に関し既に施行されている関連規定の違反に適用される刑罰に関する規則を規定し、それが実施されるよう必要なあらゆる措置をとるものとする。規定される罰則は、有効で比例的かつ抑止的なものとする。加盟国は(本指令の発効の2年後までに)当該罰則と措置を欧州委員会に通知し、遅滞なくその実質的な改正を通知するものとする。
(以下略)
 
 今後の動向ですが、この勧告の名宛て人である欧州委員会のニコラス・シュミット労働社会政策担当委員(厚生労働大臣に相当)が2021年1月20日の欧州議会本会議の審議に出席し、2002年のテレワーク協約と2020年のデジタル化協約を引き合いに出して、コロナ禍でテレワーク人口比率が30%に達した今こそ、労使団体が指導的役割を果たすべきだと述べています。欧州委員会としてはEU運営条約に従い、労使団体と協議を行うということですが、本音としては2002年のテレワーク協約をアップデートするような新協約を、やはり同様に、指令にしない自律的協約として締結する方向でやってほしいということでしょう。
 
ちなみに、現時点でつながらない権利について国内法で何らかの規定を有しているのは4カ国です。フランスでは、2013年の全国レベル労働協約に基づいて2016年に制定された、いわゆるエル・コムリ法により、従来から50人以上企業で義務的年次交渉事項とされてきた「男女間の職業的平等と労働生活の質」について、「労働者が、休息時間及び休暇、個人的生活及び家庭生活の尊重を確保するために、労働者のつながらない権利を完全に行使する方法、並びにデジタル機器の利用規制を企業が実施する方法」が交渉テーマに追加されました。
「つながらない権利」は、仕事と家庭生活の両立を図るとともに、休息時間や休日を確保するために、デジタル機器の利用を規制する仕組みを設けなければなりません。「つながらない権利」の実施手続きは企業協定または使用者の策定する憲章で定められ、そこにはデジタル機器の合理的な利用について労働者や管理職に対する訓練、啓発も含まれます。つながらない権利を定める企業協約は2020年に1231件に達しました。最もよく用いられているのは、所定時間外にアプリが起動されると使用者と労働者にそれを通知するソフトウエアであり、燃え尽き症候群を防止するためのワーク・ライフ・バランスの必要性を警告し訓練するものですが、もっと強烈なものとしては、所定時間外には回線を切断してしまうものもあるようです。
 イタリアでは、2017年の法律第81号により、使用者と個別労働者との合意によりスマートワーク(lavoro agile)を導入することが規定されました。これは仕事と家庭生活の両立に資するため、法と労働協約で定める労働時間上限の範囲内で、勤務場所と労働時間の制限なく事業所の内外で作業を遂行できるというものです。使用者は幼児の母または障害児の親の申し出を優先しなければなりません。この個別合意では、作業遂行方法、休息時間を定めるとともに、労働者が作業機器につながらないことを確保する技術的措置を定めます。スマートワーカーは2019年には48万人でした。
 ベルギーでは、2018年の経済成長社会結束強化法により、安全衛生委員会の設置義務のある50人以上企業において、同委員会でデジタルコミュニケーション機器の利用とつながらない選択肢について交渉する権利を与えています。もっとも、厳密な意味でのつながらない「権利」を規定しているわけではありません。
 スペインでは、EU一般データ保護規則を国内法化するための2018年の個人データ保護とデジタル権利保障に関する組織法により、リモートワークや在宅勤務をする者に、つながらない権利、休息、休暇、休日、個人と家族のプライバシーの権利が規定されました。この権利の実施は労働協約または企業と労働者代表との協定に委ねられ、使用者は労働者代表の意見を聞いて社内規程を策定しなければなりません。この規程は「つながらない権利」の実施方法、IT疲労を防止するための訓練と啓発を定めることになっています。

 

 

 

2024年5月 2日 (木)

ベースアップ率3.63%@『労務事情』2024年5月1日号

B20240501 『労務事情』2024年5月1日号に「数字から読む日本の雇用」の第24回として、「ベースアップ率3.63%」を寄稿しました。

https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/romujijo/b20240501.html

 去る4月4日に連合が発表した第3回回答集計結果によると、定昇込み賃上げ率は5.24%となったとのことです。定期昇給分は内転によって賄われるので、定昇とベースアップを明確に分けている企業についてみると、真水分に当たるベアは3.63%で、定昇は1.73%と、ベアが定昇の倍以上になっています。・・・・

 

 

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