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2024年4月25日 (木)

デヴィッド・グレーバー&デヴィッド・ウェングロウ『万物の黎明』@『労働新聞』書評

4334100597 月1回の『労働新聞』書評ですが、今回はデヴィッド・グレーバー&デヴィッド・ウェングロウ『万物の黎明』です。

https://www.rodo.co.jp/column/176210/

「万物の黎明」(The Dawn of Everything)とは超絶的に大風呂敷なタイトルだが、元の副題(A New History of Humanity(人間性の新たな歴史))や邦訳の副題(人類史を根本からくつがえす)というのが、まあ妥当なところだろう。著者の一人は本連載の初年度に『ブルシット・ジョブ』を取り上げたデヴィッド・グレーバーだが、本書も刊行以来賞賛の嵐らしい。ここ数年来、ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』、ジャレド・ダイヤモンドの『銃・病原菌・鉄』、スティーブン・ピンカーの『暴力の人類史』など、いわゆるビッグ・ヒストリーが大流行だが、これらポップ人類史を全面的に批判し、否定し去ろうとする本なので、「人類史を根本からくつがえす」という副題は当を得ている。
 邦訳で700ページ近い本書を要約するのは至難の業だが、読まれることなく死蔵されていた大航海時代や啓蒙時代の海外に関する諸記録や膨大な近年の考古学的発見を根拠に彼らが主張したいことは、「自由だの平等だの民主主義だのってのは、君らは近代ヨーロッパ(だけ)が産み出した価値ある思想だと思い込んでるかも知れないが、狩猟採集時代から農耕時代に世界各地で試みられ実践されてきたものなんだぜ」というメッセージだろう。とりわけ彼らが力を込めるのは、ヨーロッパ人の暴力的な侵略によって社会そのものがほぼ完全に破壊されたアメリカ先住民(いわゆるインディアン)たちがいかに高度な民主主義社会を構築していたかであり、そのアメリカン・インパクトによって、専制と隷従を当然と考えていたヨーロッパの知識人が自由や平等や民主主義に目覚めたのだ、というまさに逆転のストーリーだ。
 そのために彼らが駆使するのは、スペインの侵略者とともにやってきて現地の人々のことを事細かに書き残していたイエズス会の記録や、とりわけカナダで活躍したフランスの軍人が現地の知識人政治家カンディアロンクとの会話を詳細に再現した『旅する良識ある未開人との珍奇なる対話』という書物だ。これにヒントを受けてジャン・ジャック・ルソーが書き上げたのが、その後の世界に大きな影響を与えた『人間不平等起源論』だというのだから、たしかに常識をひっくり返す話だ。でも、これはまだ全12章の第2章に過ぎない。
 第3章以後は共著者ウェングロウの専門分野である考古学の知見が膨大に繰り広げられ、普通の人は読み進めるのがなかなかしんどいかも知れない。ポップ人類史には出てこない人類史のあちらこちらに、それなりの規模をもった集権性やヒエラルキーのない「都市」が存在しているのに、それが系統的に無視されていると彼らは怒る。とりわけ、ウクライナのメガサイトは、メソポタミア最古の都市より古い大規模遺跡なのに、中央集権的な政府や支配階級の存在を示す証拠が出土していないために、「過剰成長した村落」などと見下げられているというのだ。そういう発想で人類史を見れば、威厳に満ちた中華帝国やロシア帝国こそが文明の最先端ということになるのだろう。
 正直、読みながら山のように疑問が湧いてくる。でも、何の違和感もなくするりするりと読めてしまう本を百冊読むよりも、こういうあちこちで引っかかる本こそが、真の読書の醍醐味ではなかろうか。 

 

 

 

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