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2024年4月

2024年4月30日 (火)

岸健二編『業界と職種がわかる本 ’26年版』

11828_1713417740 岸健二編『業界と職種がわかる本 ’26年版』(成美堂出版)をお送りいただきました。毎年刊行を重ねて、今回で22回目だそうです。

https://www.seibidoshuppan.co.jp/product/9784415238425

これから就職活動をする学生のために、複雑な業界や職種を11業種・8職種にまとめて、業界の現状、仕事内容など詳しい情報を掲載し、具体的にどのような就職活動が効果的か紹介。
実際の就職活動に役立つ就職活動シミュレーションや、最新の採用動向をデータとともに掲載。
自分に合った業界・職種を見つけ、就職活動に臨む準備ができる。

例によって、労働調査会のHPの「労働あ・ら・かると」に先月岸さんが寄稿した「まもなく社会人となる若い人材の方々へ」が、ちょうど本書と重なるので、紹介しておきます。

https://www.chosakai.co.jp/information/alacarte/31305/

私は長い間転職の場に居合わせてきました。そこでは、どんなに優れた能力をお持ちであっても、ご自分の職業プランをしっかりと整理して見つめていらっしゃる方は意外に少ないと感じたものでした。筆者自身もこの年齢になっても自省することが多過ぎるといえるほどなのですが、転職・再就職を考える人材の方々のかたわらに立ってこのことを痛感してきたからこそ、「石の上にも三年」とあえて申し上げたいのです。

拙編書「業界と職種がわかる本(成美堂出版)にも毎年書いてきたことですが、今は大手・中小を問わず、いずれの企業に就職しても、どのような雇用形態で働くことになっても、そこで安住することなく、客観的な情報収集と自己研鑽を続けることが必要な時代です。
「どのようなモノ・サービス」を社会に提供していく産業・企業を自分は希望したのか。これから働く場で自分の「どのような能力・スキル」を磨いて「どのような職種」に就いて力を発揮していくのかという基本的なプランを明確に意識し続ければ、今後職業生活の様々な変化やトラブルに遭遇したときでも、混乱せずに対処できるのではないでしょうか。

 

 

 

2024年4月26日 (金)

西谷敏著作集第1巻『労働法における法理念と法政策』

645568 西谷敏著作集第1巻『労働法における法理念と法政策』(旬報社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.junposha.com/book/b645568.html

労働者の非人間的な状態をもたらしている現代日本の労働社会。

深い歴史認識と豊かな比較法的知見、そして精緻な理論で構築された「西谷労働法理論」を全12巻に。

数多くの著作・論稿から自選し、書き下ろし、未発表論文も加え、12のテーマにまとめた著作集。

第1巻は2本の書き下ろしを含む「基礎理論」を収録。

第1編 総論
 第1章 労働法における理念と政策の意義
 第2章 現代における労働と法

第2編 労働法と労働法学の展開
 第3章 日本労働法の形成・発展過程における外国法の影響
 第4章 「市民法と社会法」論
 第5章 戦後労働法額の特質
 第6章 労働法と法社会学

第3編 労働法の理念
 第7章 労働法における自由と自己決定
 第8章 市民と労働者

第4編 労働政策論
 第9章 労働法政策の憲法的制約
 第10章 労働契約の法政策
 第11章 労働時間の法政策
 第12章 二つの「働き方改革」

第1章はまさに総論の総論ですが、次の言葉は、現在の状況を表しているように感じました。

・・・以上のように、法政策の定立に当っては、立法と司法は協力すべき関係にあるが、立法が問題の処理を司法に委ね、司法が条文の文言解釈に自己限定することによって、労働法のいくつかの分野で重大な空白が生じているのが実情である。両者の役割分担は、客観的には責任の押し付け合いになっているのではないだろうか。

 

 

 

 

『労働六法2024』

645579_20240426111501 『労働六法2024』が刊行されました。

https://www.junposha.com/book/b645579.html

わたくしが担当しているEU法の項目では、昨年度版に比べて2点変更があります。

一つ目は2023年度版には官報掲載版が間に合わず、合意されたその時点の最終版の指令案を掲載せざるを得なかった賃金透明性指令について、官報掲載版により訳を最終的に修正して掲載しています。

二つ目は、今年に入ってからも紆余曲折が続いて、ようやく3月11日の閣僚理事会で合意され、一昨日(4月24日)に欧州議会でも可決されたプラットフォーム労働指令案について、本書の締め切りぎりぎりで公表された3月11日合意バージョンの訳を掲載しています。これも来年度版では官報掲載版に基づき訳を修正する予定です。

いずれも、今日の日本の労働法政策に対して大きな示唆を与えるものですので、ご利用いただければ幸いです。

 

 

2024年4月25日 (木)

デヴィッド・グレーバー&デヴィッド・ウェングロウ『万物の黎明』@『労働新聞』書評

4334100597 月1回の『労働新聞』書評ですが、今回はデヴィッド・グレーバー&デヴィッド・ウェングロウ『万物の黎明』です。

https://www.rodo.co.jp/column/176210/

「万物の黎明」(The Dawn of Everything)とは超絶的に大風呂敷なタイトルだが、元の副題(A New History of Humanity(人間性の新たな歴史))や邦訳の副題(人類史を根本からくつがえす)というのが、まあ妥当なところだろう。著者の一人は本連載の初年度に『ブルシット・ジョブ』を取り上げたデヴィッド・グレーバーだが、本書も刊行以来賞賛の嵐らしい。ここ数年来、ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』、ジャレド・ダイヤモンドの『銃・病原菌・鉄』、スティーブン・ピンカーの『暴力の人類史』など、いわゆるビッグ・ヒストリーが大流行だが、これらポップ人類史を全面的に批判し、否定し去ろうとする本なので、「人類史を根本からくつがえす」という副題は当を得ている。
 邦訳で700ページ近い本書を要約するのは至難の業だが、読まれることなく死蔵されていた大航海時代や啓蒙時代の海外に関する諸記録や膨大な近年の考古学的発見を根拠に彼らが主張したいことは、「自由だの平等だの民主主義だのってのは、君らは近代ヨーロッパ(だけ)が産み出した価値ある思想だと思い込んでるかも知れないが、狩猟採集時代から農耕時代に世界各地で試みられ実践されてきたものなんだぜ」というメッセージだろう。とりわけ彼らが力を込めるのは、ヨーロッパ人の暴力的な侵略によって社会そのものがほぼ完全に破壊されたアメリカ先住民(いわゆるインディアン)たちがいかに高度な民主主義社会を構築していたかであり、そのアメリカン・インパクトによって、専制と隷従を当然と考えていたヨーロッパの知識人が自由や平等や民主主義に目覚めたのだ、というまさに逆転のストーリーだ。
 そのために彼らが駆使するのは、スペインの侵略者とともにやってきて現地の人々のことを事細かに書き残していたイエズス会の記録や、とりわけカナダで活躍したフランスの軍人が現地の知識人政治家カンディアロンクとの会話を詳細に再現した『旅する良識ある未開人との珍奇なる対話』という書物だ。これにヒントを受けてジャン・ジャック・ルソーが書き上げたのが、その後の世界に大きな影響を与えた『人間不平等起源論』だというのだから、たしかに常識をひっくり返す話だ。でも、これはまだ全12章の第2章に過ぎない。
 第3章以後は共著者ウェングロウの専門分野である考古学の知見が膨大に繰り広げられ、普通の人は読み進めるのがなかなかしんどいかも知れない。ポップ人類史には出てこない人類史のあちらこちらに、それなりの規模をもった集権性やヒエラルキーのない「都市」が存在しているのに、それが系統的に無視されていると彼らは怒る。とりわけ、ウクライナのメガサイトは、メソポタミア最古の都市より古い大規模遺跡なのに、中央集権的な政府や支配階級の存在を示す証拠が出土していないために、「過剰成長した村落」などと見下げられているというのだ。そういう発想で人類史を見れば、威厳に満ちた中華帝国やロシア帝国こそが文明の最先端ということになるのだろう。
 正直、読みながら山のように疑問が湧いてくる。でも、何の違和感もなくするりするりと読めてしまう本を百冊読むよりも、こういうあちこちで引っかかる本こそが、真の読書の醍醐味ではなかろうか。 

 

 

 

2024年4月24日 (水)

欧州議会がプラットフォーム労働指令案を採択

20240423pht20623cl 予告されていたように、本日(2024年4月24日)欧州議会は本会議で、去る3月11日に閣僚理事会が特定多数決で採択していたプラットフォーム労働指令案を採択したようです。

https://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20240419IPR20584/parliament-adopts-platform-work-directive

On Wednesday, MEPs approved new rules aiming to improve the working conditions of platform workers.

欧州労連はさっそく、「欧州議会は偽装自営業にクビを言い渡した」と報じています。

https://www.etuc.org/en/pressrelease/european-parliament-gives-bogus-self-employment-boot

European Parliament gives bogus self-employment the boot

645579 今後官報に指令番号付きで掲載されれば指令として確定することになりますが、もうすぐ出る『労働六法』2024年版には、3月11日の閣僚理事会採択版の条文を載せております。

 

 

 

 

EUの研修生(偽装研修対策)指令案@『労基旬報』

『労基旬報』2024年4月25日号に、「EUの研修生(偽装研修対策)指令案」を寄稿しました。プラットフォーム労働者など自営業者との関係での労働者性問題と並ぶ、もう一つの深刻な労働者性問題です。

 本紙の昨年8月25日号で、「EUトレーニーシップに関する労使への第1次協議」について書きましたが、その後第2次協議を経て、去る3月20日に、欧州委員会は「研修生の労働条件の改善強化及び研修を偽装した正規雇用関係と戦う指令案」(「研修生(偽装研修対策)指令案」)を提案しました。今回はこの指令案の内容を紹介したいと思います。なお、今回からトレーニーを研修生、トレーニーシップを研修と呼ぶことにします。日本でも研修生だから雇用に非ずという偽装問題が存在するので、問題の共通性を明確にするためにも、その方がわかりやすいと思うからです。
 研修生をめぐる問題状況については、上記昨年8月の記事でも解説しましたが、スキルがないゆえに就職できない若者を、労働者としてではなく研修生として採用し、実際に企業の中の仕事を経験させて、その仕事の実際上のスキルを身につけさせることによって、卒業証書という社会的通用力ある職業資格はなくても企業に労働者として採用してもらえるようにしていく、という面では、雇用政策の重要な役割を担っていることも確かなのですが、一方で、研修生という名目で仕事をさせながら、労働者ではないからといってまともな賃金を払わずに済ませるための抜け道として使われているのではないかという批判が、繰り返しされてきています。
 そこで、EUでは2014年に「研修の上質枠組みに関する理事会勧告」という法的拘束力のない規範が制定され、研修の始期に研修生と研修提供者との間で締結された書面による研修協定が締結されること、同協定には、教育目的、労働条件、研修生に手当ないし報酬が支払われるか否か、両当事者の権利義務、研修期間が明示されること、そして命じられた作業を通じて研修生を指導し、その進捗を監視評価する監督者を研修提供者が指名すること、が求められています。
 また労働条件についても、週労働時間の上限、1日及び1週の休息期間の下限、最低休日など研修生の権利と労働条件の確保。安全衛生や病気休暇の確保。そして、研修協定に手当や報酬が支払われるか否か、支払われるとしたらその金額を明示することが求められ、また研修期間が原則として6カ月を超えないこと。さらに研修期間中に獲得した知識、技能、能力の承認と確認を促進し、研修提供者がその評価を基礎に、資格証明書によりそれを証明することを奨励することが規定されています。とはいえこれは法的拘束力のない勧告なので、実際には数年間にわたり研修生だといってごくわずかな手当を払うだけで便利に使い続ける企業が跡を絶ちません。
 これに対し、2023年6月14日に欧州議会がEUにおける研修に関する決議を採択し、その中で欧州委員会に対して、研修生に対して十分な報酬を支払うこと、労働者性の判断基準に該当する限り労働者として扱うべきことを定める指令案を提出するように求めました。これを受ける形で、同年7月11日に、欧州委員会は「研修の更なる質向上」に関する労使団体への第1次協議を開始しました。その内容は昨年8月の本連載記事で紹介した通りですが、その後同年9月28日には第2次協議に進み、法的拘束力ある指令という手段を用いるべきではないかと提起しました。そして今回、指令案の提案に至ったわけです。
 第2条の定義規定で、「研修」とは「雇用可能性を改善し正規雇用関係への移行又は職業へのアクセスを容易にする観点で実際の職業経験を得るために行われる顕著な学習及び訓練の要素を含む一定期間の就労活動」をいい、「研修生」とは「欧州司法裁判所の判例法を考慮して全加盟国で効力を有する法、労働協約又は慣行で定義される雇用契約又は雇用関係を有する研修を行ういかなる者」をいいます。ここで注意すべきは「正規雇用関係」と訳した「regular employment relationship」です。この訳語は日本の「正社員」を想起させるのでまことにミスリーディングなのですが(なので、今後より良い訳語を見つけたら変更したいと思っていますが)、同条では「研修ではないいかなる雇用関係」と定義されており、パートタイム、有期、派遣等の非典型雇用関係その他もろもろの、研修でないあらゆる雇用関係がこれに該当します。ここは是非ともきちんと頭に入れておいて下さい。
 第3条は研修生の均等待遇、非差別原則を規定しています。すなわち、賃金を含む労働条件に関し、課業の違い、責任の軽さ、労働負荷、学習訓練要素の重み等の正当で客観的な理由がない限り、同じ事業所で比較可能な正規雇用の被用者よりも不利益な取扱いを受けないことを求めています。
 第4条は研修を偽装した正規雇用関係と戦う措置と題し、正規雇用関係が研修であると偽装されることによって、労働条件と賃金を含む保護の水準がEU法、国内法、労働協約又は慣行により付与されるよりもより低いものとなる効果をもたらすような慣行を探知し、これと戦う措置を権限ある機関が採るよう有効な監督を行うことを求めています。これが本指令の最重要規定です。
 続く第5条は、研修を偽装する正規雇用関係であるかどうかを判断する詳細なチェックリストです。これは、研修をめぐる労働者性の判断基準という意味で、大変興味深いものです。
(a) 研修と称するものにおける顕著な学習又は訓練の要素の欠如
(b) 研修と称するもの又は同一使用者との複数若しくは連続的な研修と称するものの長すぎる期間
(c) 研修と称するものと同一使用者と比較可能な地位にある正規雇用被用者の間で課業、責任、労働負荷の水準の同等性
(d) 研修応募者に対し、正当な理由なく同一ないし類似の分野での就労経験を要求すること
(e) 同一使用者の下で正規雇用関係に比して研修と称するものの比率が高すぎること
(f) 同一使用者の下での研修生と称するものの相当数が2以上の研修を修了しているか又は研修と称するものに就く前に同一又は類似の分野での正規雇用関係を有していること
 これらの判断のために、使用者は必要な情報を権限ある機関に提供しなければなりません。また加盟国が、研修の長すぎる期間の上限ないし反復更新の上限を定めることや、研修生の募集広告に課業、賃金を含む労働条件、社会保護、学習訓練要素を明示するよう求めることも規定されています。
 以下、本指令案には施行や救済、支援の措置等の規定が並んでいますが、枢要な部分は以上の通りです。3月11日に合意されたプラットフォーム労働指令が、元の指令案にあった5要件のうち二つを満たせば労働者性ありと推定するという規定が削除され、国内法、労働協約、慣行で判断するという風になったことを考えると、この指令案がどうなるか予断を許しませんが、研修という特定分野における労働者性の判断基準を立法化しようという試みとして、日本にとっても大変興味深いものであることは間違いありません。

 

 

 

 

 

2024年4月20日 (土)

EUのプラットフォーム労働指令は、来週水曜日(4/24)に欧州議会で採択予定

3月11日にエストニア政府が『改心』して賛成に回り、閣僚理事会で特定多数決で合意されたプラットフォーム労働指令案ですが、来たる4月24日に、ストラスブールで開かれる欧州議会の本会議で正式に採択される予定です。

Final vote on the Platform Work Directive

On Wednesday, MEPs are expected to approve new rules to improve the working conditions of platform workers.
The new rules, already agreed on by the Parliament and the Council in February, aim to ensure that platform workers have their employment status classified correctly and to correct bogus self-employment.
The law introduces a presumption of an employment relationship (as opposed to self-employment) that is triggered when facts indicating control and direction are present, according to national law and collective agreements, and taking into account EU-case law.

 

 

『賃金事情』で鈴木誠さんが古い方の拙著を書評

A20240420 産労総研の沢山ある雑誌の一つ『賃金事情』の4月20日号から、「本の部屋/人事制度改革にとって参考になる本」という連載が始まったようです。鈴木誠さんは最近三菱電機の人事賃金制度の歴史を追いかけた『職務重視型能力主義』を出されたところで、これから様々な本を斬っていくのでしょう。

https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/chinginjijo/a20240420.html

その連載第1回目に、拙著を取り上げていただきました。それも、3年前の『ジョブ型雇用社会とは何か』ではなくて、もう15年も昔の2009年刊行の『新しい労働社会』の方です。

・・・・評者は必ずしも日本において職務という概念が希薄であると考えていない。職務にこだわった人事処遇制度を構築している企業・労働組合も存在するからである。したがって、著者の主張を全面的に受入れるつもりはない。 ただ、もともとジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の対比から日本の労働社会の矛盾を提示しようとすることが著者の意図するところであったと認識している。しかし、その後のジョブ型雇用論の流行は著者の意図とは異なる方向で展開されていった。著者は間違いだらけのジョブ型雇用論をただす必要性を感じたことから、2021年に『ジョブ型雇用社会とは何か』(岩波書店)を刊行している。こちらも人事制度改革の参考に併せて一読願いたい。

Suzuki さすが、一貫して職務を重視してきた三菱電機の研究者の立場から、「日本は職務という概念がない」という一般論で切り捨てるのは聞き捨てならないと苦言を呈されています。

鈴木さんの本については、先日頂いた時に紹介していましたので、そちらもご参照下さい。

鈴木誠『職務重視型能力主義』

 

 

2024年4月19日 (金)

「リベサヨ」異聞

雁林という人が、北村紗衣さんを「ポリコレリベサヨうんこ学者」とツイートした等により220万円の慰謝料を命じられたと報じられています。「うんこ学者」というのが誹謗中傷の類いに当ることは確かですが、「ポリコレ」とか「リベサヨ」というのは、思想的対立そのものの表現であることも確かでしょう。

それよりなにより、わたくしはもともと自分が創った気の利いた言葉のはずだった「リベサヨ」が、世の中を転々流通するうちに、原義とは全く違うただの左翼罵倒用語になって、こうして裁判ネタにまでなってしまったことを、若干の悲しみをたたえつつ、眺めるしかありません。

リベラルサヨクは福祉国家がお嫌い

一昨日のエントリーで紹介した後藤さんの本ですが、なかなか面白い記述があります。1960年代に左派からなされた福祉国家批判なんですが、例えば鈴木安蔵編『現代福祉国家論批判』にこういう叙述が見られるとして紹介しているんですが、福祉国家論の自由競争批判と国家機能の拡大擁護という議論は、「レッセ・フェールの原理の否定」「国家統制の強化と個人意思の社会全体への従属の必要性の強調」だといって批判しているんですね。後藤さん曰く、「福祉国家は個人の自由を奪うものだという批判は、通常は資本家サイドからのものであり、古典的自由主義からの批判である。つまり、右派が言うべき批判を日本では左派が述べていたことになる。保守派ではなく、左派が個人主義と自由主義を擁護する先頭に立つという、よく見られた光景の一こまであろう」。

こういう左がリベラルで右がソーシャルという奇妙な逆転現象の背景に、当時の憲法改正をめぐる動向があったようです。当時の憲法調査会報告は「憲法第3章を眺めると、それは18世紀的な自由国家の原理に傾きすぎており、時代遅れである」「20世紀的な社会連帯の観念、社会国家の原理にそれを切り替える必要があり、基本的人権の原理については、現代福祉国家の動向に即応すべきである」と強調していました。サヨクの皆さんにとって、福祉国家とは国民主権の制限の口実に過ぎず、ただの反動的意図にすぎなかったのでしょう。

かくのごとく、日本のサヨク知識人はリベラルなことノージックよりも高く、アンチ・ソーシャルなことハイエクよりも深し、という奇妙奇天烈な存在になっていたようです。そうすると、福祉国家なんぞを主張するのは悪質なウヨクということになりますね。これを前提にして初めて理解できる発言が、「構造改革ってなあに?」のコメント欄にあります。田中氏のところから跳んできた匿名イナゴさんの一種ですが、珍しく真摯な姿勢で書き込みをされていた方ですので、妙に記憶に残っているのです。

>稲葉さんの偉さは、一左翼であることがリフレ派であることと矛盾しないことを左翼として始めて示した点だと思う。それまでの左翼は、ある意味ネオリベ以上の構造派で、つまりはアンチ・リフレであったわけだから。それに対して、稲葉さんはそれが「ヘタレ」にすぎないことを左翼として始めて断言したわけで、これは実はとても勇気のあるすごいことだと思う。

投稿 一観客改め一イナゴ | 2006/09/20 14:46:18

普通の人がこれを読んだら頭を抱えてしまうでしょう。特にヨーロッパ人が見たら、「サヨクは市場原理主義者であるはずなのに。稲葉氏はめずらしくソーシャルだ、偉い」といってるようなもので、精神錯乱としか思えないはず。でも、上のような顛倒現象を頭に置いて読めば、このイナゴさんは日本のサヨク知識人の正当な思考方式に則っているだけだということがわかります。

しかし、いい加減にこういう顛倒現象から抜け出さないといけませんね。その点(だけ)はわたしはゴリゴリサヨクの後藤氏と意見を同じくします。

リベサヨって、リベラル左派の略だったの?

自分で揶揄的にでっち上げた言葉のはずですが、いつのまにか流通するうちに意味のシフトが起こっていたそうです。

https://twitter.com/hhasegawa/status/307596899450503168

左を自任しながら国家権力の介入を嫌悪するあまりネオリベに近づく層を左派と区別し揶揄する造語だった「リベサヨ」(発展史=)が単にリベラル左派の意で使われる現状は、新語が伝播するに従い通俗化していく縮図を見るよう(vgl. 「文化資本」)。

ちなみに、その(私が認識している限りの)発展史は次の通りです。

ちなみに、本ブログにおける「リベサヨ」なる概念の発達史(笑)は、以下の通り。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/11/post_a90b.html(リベじゃないサヨクの戦後思想観)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/12/post_5af3.html(リベラルサヨクは福祉国家がお嫌い)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/04/post_28cd.html(ネオリベの日経、リベサヨの毎日)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/05/post_3f06.html(フリーターが丸山真男をひっぱたきたいのは合理的である)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/10/post_c3f3.html(赤木智弘氏の新著)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/10/post_2af2.html(赤木智弘氏の新著その2~リベサヨからソーシャルへ)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/09/post-b950.html(だから、それをリベサヨと呼んでるわけで)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/12/post_2040.html(松尾匡さんの「市民派リベラルのどこが越えられるべきか 」)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/07/post-6cd5.html(日本のリベサヨな発想)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/05/post-a130.html(特殊日本的リベサヨの系譜)

 

2024年4月18日 (木)

川口美貴『新版 労働者概念の再構成』

Isbn97848735477701 川口美貴『新版 労働者概念の再構成』(関西大学出版部)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.kansai-u.ac.jp/Syppan/2024/03/shinnpann-roudousyagainennnosaikousei.html

労働法における「労働者」概念の解釈を再構成する
労働法分野及び憲法28条・労基法・労契法・労組法の対象とする「勤労者・労働者」について、使用従属性等を判断基準とする従来の学説・判例等を批判的に検討し、労働力商品の特殊性と公正競争の視点から、自ら他人に有償で労務を供給する自然人であることと交渉の非対等性を基本的判断基準として、同概念を再構成する。

前著が2012年ですから、こちらは12年ぶりの改訂ということになります。

川口理論の独自性は誰もが知るところですが、本書の圧巻は「労務供給者の類型別検討」のところで、外勤、スポーツ・芸術・映像、対人サービス、運送、建設・土木・林業・造園・園芸、研究・開発・専門技術、家内労働・在宅勤務、プラットフォームワーカー、店舗・事務所・教室経営、役員等、企業組合の組合員、労働者協同組合の組合員、シルバー人材センターを介した就労者、研修・実習生、親族と、実にあらゆる類型ごとに細かく検討しています。

前著に比べて、目次のフォントがすごく小さくなっていて、いかにたくさんの項目が詰め込まれているかがよくわかります。

ただ、これは無い物ねだりなのですが、個人的には職業安定法(労働者派遣法)上の労働者概念にも検討の手を伸ばしていただきたいなと思っています。ほとんど誰も検討していない分野ではありますが、色々と興味深い点もあるので。



第1部 総論
 第1章 前提的考察

 第2章 労働法の対象とする労働者
  第1節 検討の必要性と論点
  第2節 学説
  第3節 批判的検討
  第4節 労働法の対象とする労働者の再構成

第2部 各論
 第3章 客観的基準と要件による契約締結交渉前の決定

 第4章 憲法28条の勤労者
  第1節 学説・判例
  第2節 勤労者概念の再構成

 第5章 労働基準法上の労働者
  第1節 前提的検討
  第2節 法制の沿革
  第3節 行政解釈・学説・判例
  第4節 労基法上の労働者概念の再構成

 第6章 労働契約法上の労働者
  第1節 前提的検討
  第2節 法制の沿革
  第3節 行政解釈・学説・裁判例
  第4節 労契法上の労働者概念の再構成

 第7章 労働組合法上の労働者
  第1節 前提的検討
  第2節 法制の沿革
  第3節 行政解釈・学説・命令・判例・裁判例
  第4節 労組法上の労働者概念の再構成

 第8章 労務供給者の類型別検討
  第1節 労働者性の判断基準
  第2節 外勤
  第3節 スポーツ・芸術・映像
  第4節 対人サービス
  第5節 運送
  第6節 建設・土木・林業・造園・園芸
  第7節 研究・開発・専門技術
  第8節 家内労働・在宅勤務
  第9節 プラットフォームワーカー
  第10節 店舗・事務所・教室経営
  第11節 役員等
  第12節 企業組合の組合員
  第13節 労働者協同組合の組合員
  第14節 シルバー人材センターを介した就労者
  第15節 研修・実習生
  第16節 親族

総括

資料編
 資料Ⅰ 労働基準法研究会報告
 資料Ⅱ 労基研専門部会報告
     (労働基準法研究会労働契約等法制部会
      労働者性検討専門部会報告)
 資料Ⅲ 労使関係法研究会報告

 

 

2024年4月16日 (火)

日本政府の職務分析・職務評価推奨@WEB労政時報

WEB労政時報に「日本政府の職務分析・職務評価推奨」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers/web_limited_edition/list?genre[]=1100

 日本政府はかつて高度経済成長時代には、政府を挙げて職務給を推奨していました。1960年の国民所得倍増計画や1963年の人的能力政策に関する経済審議会答申では、外部労働市場志向の労働力流動政策を唱えるとともに、「今後の賃金制度の方向としては、公平な職務要件にもとずく人事制度を前提とする職務給が考えられる。すなわち職務給のもとで職務評価によって公平に職務間の賃率の差を定めることができるとともに、個個の職務においては同一労働同一賃金の原則が貫かれる」と高らかに宣言していたのです。・・・・

 

 

2024年4月15日 (月)

公共性を持つヨーロッパの労働組合 日本の労働組合とどこが違うのか@『情報労連リポート』4月号

2404_cover 『情報労連リポート』4月号が「歴史と運動から学ぶ 労働組合はなぜ必要なのか」という特集を組んでいて、そこにわたくしも「公共性を持つヨーロッパの労働組合 日本の労働組合とどこが違うのか」という小文を寄稿しています。

http://ictj-report.joho.or.jp/2404/

http://ictj-report.joho.or.jp/2404/sp02.html

労働組合の存在意義とは何か。それぞれの社会において異なる。欧米の労働組合と日本の労働組合の位置付けはどう異なるのだろうか。ヨーロッパにとっての労働組合の性格を主に解説してもらいながら、日本と比較してもらった。

アングロサクソンの労働組合

労働組合とは社会にとっていかなる存在なのかというのは、国によって異なります。大きく分けて、英米のようなアングロサクソン諸国、独仏のような大陸ヨーロッパ諸国、そして日本では、労働組合の位置付けが大きく異なっているのです。もちろん、労働者の利益を代表する組織であるという点においては共通です。しかしながら、その利益代表のありようが異なります。

アングロサクソン諸国における労働組合とは、労働者の私的な利益代表組織です。労働者はみんな高い賃金を獲得したいと思っているので、彼らの利益代表として企業と団体交渉をして、労働協約という形でそれを実現するのがその役割であり、その対価として彼らから組合費を徴収します。私的な取引関係である雇用契約関係の中に、一方の利益代表組織として関与し、その利益を実現することに存在意義を有するのですから、言葉の正確な意味での圧力団体であり、それ自体として公共的な性格は有しません。1世紀以上前のアメリカでは労働組合は不当なカルテルとして摘発されていましたが、それがそうではなくなったというだけです。

大陸ヨーロッパ諸国の労働組合

これに対して大陸ヨーロッパ諸国における労働組合は、国によってニュアンスは異なりますが、なにがしか公共的な色彩をもった利益代表組織です。裏返していえば、ヨーロッパにおいてはある社会的集団の利益を代表するということに一定の公共的性格が認められるということになります。もちろん、労働組合は労働者の自発的な結社であり、その意味では徹頭徹尾、私的な存在です。しかしながら、労働組合が労働者のために団体交渉をして締結した労働協約は、単なる複数当事者間の私的な契約に過ぎないものではなく、同じような労働者に適用されるべき公共性を持ったルールとしての性格を併せ持つと考えられています。そのことをよく示す仕組みが規範的効力であり、とりわけ日本の労働組合法にも申し訳のように規定がある労働協約の一般的拘束力制度というものです。

最近日本でもUAゼンセンや自治労がこの制度を利用したことで注目を集めていますが、多くの人にとっては、契約の当事者でない第三者がなぜ他人の締結した労働協約に巻き込まれなければならないのだと疑問を感じるかも知れません。労働組合という私的な団体が結んだものであっても、労働協約というのは本来同種の労働者に同様に適用されるべき公共的な性格のルールであり、それを権限を有する公的機関が認証するのが一般的拘束力制度だと考えなければ、理解できないでしょう。

実は一般的拘束力制度をもたない諸国もあります。デンマーク、スウェーデン、ノルウェーといった北欧諸国では、労働組合の高い組織率を背景に、一般的拘束力制度なしに労働組合の締結した労働協約が社会全体のルールとして通用しています。フレクシキュリティで一時有名になったデンマークなど、他国で労働法典になっているような内容も労働協約で処理されており、そのため六法全書に解雇規制が見当たらないので、解雇自由な国だと勝手に誤解されたりするわけです。国家が認証しなくても、労働組合の結んだ労働協約は議会が制定した法律と同様の公共的なルールなのです。

社会民主主義と労働組合

こうした大陸ヨーロッパ諸国の発想を元に作られたのが、EU運営条約に規定されているEUレベル労働協約をそのまま理事会指令にするという仕組みです。詳細は拙著(『新・EUの労働法政策』)等に解説していますが、欧州委員会から協議を受けたEUレベルの労使団体(欧州労連と欧州経団連等)が、自分たちで交渉して労働協約を締結したら、閣僚理事会の指令によって拘束力ある法令になるというものです。もともとは先日亡くなったフランス出身のドロール欧州委員長によって条約に取り入れられた制度ですが、以来育児休業指令、パート労働指令、有期労働指令などいくつもの指令として実現してきました。

これを政治哲学のレベルで考えると、大陸ヨーロッパ諸国においては、直接選挙で選ばれた議会を通じた代表民主制の原則と並ぶ、労使団体や市民社会団体を通じた参加民主制の原則とが、ともに民主制原理として並列して存在していると考えることができます。それを明示していたのが、2004年にいったん合意されながら国民投票で否決されたEU憲法条約でした。同条約は、欧州議会がEU市民を代表する旨の代表民主制の原則(I-46条)と並べて、代表的団体や市民社会を通じた参加民主制の原則(I-47条)を明記し、その代表例として労使団体と自律的労使対話に関する規定(I-48条)を設けていました。その歴史的背景としては中世的なギルドや身分制議会の伝統もあるのでしょう。政治社会学者のコリン・クラウチは、中世の伝統と社会民主主義が結合して20世紀のコーポラティズムを生み出したと説明しています。

日本の労働組合の位置付けは?

さて、以上説明してきたアングロサクソンモデルと大陸ヨーロッパモデルは、いずれも日本には当てはまりません。日本の労働組合はアメリカのような団体交渉請負人でもなければ、同種の労働者一般の利益を代表する公共的存在でもありません。

では何かというと、ある会社に雇われている正規従業員という「同種の労働者」の利益を代表する存在であり、その意味で会社の社内ではある意味で公共的存在(社員という「私」に対して会社という「公」に近い存在)ともいえます。しかし一歩会社の外に出ると、全く私的な存在であり、公共的性格を有するとは考えられていません。その労働組合が産業別に寄り集まって作った産業別組織や、全国的に寄り集まったナショナルセンターも、基層の企業別組合が有しない公共的性格を創発的に有するとは見なされていないのが実態でしょう。戦後80年近く存在してきた一般的拘束力制度を活用した事例が十指に及ばないことが、それを物語っています。

それでも高度成長期までの日本では、毎年の春闘で労働組合が社内でかなりのベースアップを勝ち取り、それが社会全体に波及するというメカニズムも働いていました。その意味では、それなりに公共的な役割を果たしていたということもできないわけではありません。ところが1990年代の不況期以来のいわゆる失われた30年において、これら企業別組合は社内の正規従業員のために定期昇給を維持することに集中し、結果的に他社に波及すべきベースアップを実現できてきませんでした。労働組合が発揮すべきであったこの公共性を、安倍政権や岸田政権といった自民党政権が労働組合に代わって発揮しようとしてきた近年の動きは、皮肉なものと言わざるを得ません。

 

 

 

 

 

 

2024年4月10日 (水)

スキルはヒトの属性かジョブの属性か

依然としてリスキリングが流行っていますが、世間の言説を見る限り、依然として圧倒的に多くの日本人はスキルをヒトの属性だと考えているみたいです。いや日本社会では現実にそうなんだからそうとしか考えようがないのですが、海の向こうからのはやり言葉として流れ込んできているリスキリングという言葉の語幹であるスキルってのは、海の向こうのジョブ型社会では当然の常識として、ジョブの属性以外の何ものでもない。

そもそもスキルってのは、世の中にあまたあるジョブってものを、これはスキルド(熟練)なジョブ、これはアンスキルド(非熟練)なジョブ、これはセミスキルド(半熟練)なジョブと振り分け、それぞれにふさわしい値札を貼るための概念であり、それがどの程度実体を有するものなのか、それとも社会的に構築されたフィクションに過ぎないのか、といった議論が、とりわけ同一価値労働同一賃金という、異なるジョブの間の賃金格差を問題とする議論の中で提起されてきているわけですが、ごく一部のジェンダーな方々を除くと、ジョブって概念の欠落した圧倒的に多くの日本人には何のことやら全然わからんちんという状態のままなわけです。

今のリスキリングの流行も、これまでのスキルドなジョブに安住していたらだめだぞ、そんなのは早晩廃れるぞ、デジタル社会の新たなスキルドジョブに就くべくスキルを身につけろといういう脅しなんだが、曖昧模糊たる知的熟練を情意評価されてきていると、なんのことやらわからんちんになるのも仕方がないのだが、騒いでいる人々もそこの一番肝心なところが曖昧模糊なままでリスキリング、リスキリングとむやみに騒いでいるだけに見える。

 

2024年4月 9日 (火)

川口美貴『労働法〔第8版〕』

Normal_aa23f987c1ba48bdb0bd368eef84a1dc 川口美貴『労働法〔第8版〕』(信山社)をお送りいただきました。

https://www.shinzansha.co.jp/book/b10080095.html#

完全に年鑑となっている川口労働法です。

毎年改訂の最新2024年版。要件と効果、証明責任を明確化。育児介護休業法と関連法令の改正等、新たな法改正・施行と、最新判例・裁判例や立法動向に対応。長年の講義と研究活動の蓄積を凝縮し、講義のための体系的基本書として、広く深い視野から丁寧な講義を試みる。全体を見通すことができる細目次を配し、学習はもとより実務にも役立つ労働法のスタンダードテキスト第8版。

分厚さは昨日の菅野・山川本に匹敵する大冊です。

ただ、昨日の今日なので両者を比べると、もちろん説が真っ向から対立している点が多々あることはいうまでもないのですが、それよりも、川口労働法が個別的労働関係法と集団的労働関係法の二元論で、労働市場法という分野がほぼ完全に無視されてしまっている点がとても気になりました。歴史のところにはちらりと出てくるのですが、本論ではほぼ完全に出てきません。派遣は非典型労働契約として出てきますが、職業紹介も労働者供給も、最近出てきた募集情報提供も、結構重要な論点がいっぱいあるはずだと思うのですが、川口さんの労働法の枠内には入っていません。

なぜこういうことが気になるかといえば、実はいま昔の最高裁判例で「職安法上の労働者概念」というのを見つけて、労働法学者のほぼ誰もまともに論じていないことが気になっているからなんですが。

 

 

2024年4月 8日 (月)

菅野和夫・山川隆一『労働法 <第13版>』

1002f50424aa42919b0fefdebbfdbce3 菅野和夫・山川隆一『労働法 <第13版>』(弘文堂)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.koubundou.co.jp/book/b10045381.html

 新しく共著者を迎え、全面的に見直した充実の改訂版。多数の法改正・新法をフォローし、重要な裁判例・実務の現状等にも目配りした基本書。
 時代のなかで形成されてきた新しい労働法の姿を体系化し、その中で個々の解釈問題を相互に関連づけて検討した、実務家必携の「労働法」のバイブルです。

1985年の初版から初めて今回、菅野先生の単著から菅野・山川の共著となりました。第12版からさらに100頁以上も増量されています。

今回の改訂では、冒頭の「労働法の意義と沿革」のところで、いままでの菅野先生のテキストらしからぬかなり個人的な思いを込めたコラムがいくつか書かれています。

たとえば、p23の「労働時間貯蓄口座制の採用による選択的労働時間制度の可能性」では、既存の制度と新たな「労働時間貯蓄制とフレックスタイム制」のいずれかを選択できるようにすべきと論じ、p24の「解雇規制の在り方」では、「検討中の制度は、解雇はできるだけ回避して代替措置で済ませてきた経営者の意識(モラル)を、解雇は裁判所で争われても一定額の金銭解決で完結できるものへと変化させ、経済危機の際にも5%台半ばの失業率にとどめてきた雇用・労使関係に基本的な変化をもたらすおそれがある」と批判的で、p25の「従業員代表制度構築の課題」では、「過半数組織組合が存しない事業場における過半数代表機関の常設かを、労使を入れた場で早急に検討すべきであろう」と促しています。

このうち、解雇規制については私は菅野先生の考えには賛成できず、むしろ法的な枠組みがない中で裁判所に行かないレベルの中小零細企業の多くの労働現場では事実上の解雇の金銭解決や、金銭なし決着が山のように存在していることを考えれば、「解雇はできるだけ回避」という大企業セクターの現状にのみ着目した政策でよいとは思われません。

これに対し、従業員代表制度については、これまで何回もあった機会を失してきたことを考えれば、今年になって経団連が(労働時間規制の緩和との合わせ技で)労使協創協議制なるものを提起してきたのは千載一遇の機会なので、この際思い切って従業員代表制の本格的立法化を目指すべきだと私も強く感じています。

と、ここまででまだ30ページ弱。先は長いです。

 

2024年4月 7日 (日)

ひよ子さんの『家政婦の歴史』評@X

51sgqlf3yol_sx310_bo1204203200__20240407161201 X(旧twitter)で「ひよ子」さんが拙著『家政婦の歴史』を読んだ感想をアップされています。

 

2024年4月 5日 (金)

石井知章編著『ポストコロナにおける中国の労働社会』

9784818826540 石井知章編著『ポストコロナにおける中国の労働社会』(日本経済評論社)をお送りいただきました。

http://www.nikkeihyo.co.jp/books/view/2654

市場経済の急速な展開、とりわけコロナ禍を契機に習近平政権下の労働社会はどう変化したか。農民工=非正規労働者や職業教育、労使関係の実態などを通して解き明かす。

日本サイドは石井知章さんを始めとして、梶谷懐さん、及川淳子さん、阿古智子さんといったおなじみの方々が、習近平政権に対して辛口の批判を繰り広げる一方、常凱さんを始めとする中国サイドは多分そううかつなことも言えないので、プラットフォーム労働や工会についての実証的な議論を展開しているという感じの、日中共著の本です。

Nicchu 実は、以前似たようなメンツの『日中の非正規労働をめぐる現在』に加わったこともありますが、たぶんそのときに比べても中国の言論の自由度は厳しくなっているのでしょうね。

序章 ポストコロナ時代における中国の労使関係………………石井知章   
  ―「集団的」なものから「個別的」なものへの逆行か
はじめに
1. 「個別的」労使関係から「集団的」労使関係へ―歴史的経緯とその背景
2. 習近平体制の成立と工会の役割の変化
3. 習近平体制下における労働NGO
4. ゼロコロナ政策下における生産の再開と新たな雇用形態の拡大
5. コロナ感染症の暫定的収束にともなう国民経済の回復と労使紛争増加の諸要因
6. 企業活動の本格的再開にともなう生産現場での労使紛争の拡大
第1章 中国プラットフォーム雇用における不完全なる労使関係………………常 凱  
―その性質と規制
はじめに
1. 不完全なる労使関係 ― 新しいタイプの労使関係
2. プラットフォーム雇用関係の特徴と法規制の原則
3. 中国のプラットフォーム企業の雇用モデルと法的規制要件
おわりに
第2章 中国の工会 ………………王 侃
― 現状と課題
はじめに
1. 中国工会の研究におけるいくつかの視点
2. 党指導部と企業別工会の組織構造
3. 労働者と労働者組織形態の統合
おわりに
第3章 中国の生産拠点における従業員参加メカニズム……… ………劉 剣
― プロジェクトの現場から
はじめに
1. 企業の社会的責任監査と従業員代表のマネジメント参画
2. 中国の地方工会の核心的取り組み ― 従業員参加メカニズムの確立にむけて
おわりに
第4章 福祉国家中国と商品化サイクルにおける出稼ぎ労働 ………………ジェーク・リン
はじめに
1. 市場レーニン主義的政治経済システムと出稼ぎ労働
2. 出稼ぎ労働の商品化と農民工
3. 脱商品化によって導かれた「新しい普遍主義」
4. 福祉の市場化と労働の再商品化おわりに
第5章 デジタル時代の新しい働き方に関する証言と課題 ………………澤田ゆかり
―「外売騎手」を事例として
はじめに
1. 王林副処長の体験記 ― 外売騎手の「働き方」
2. 外売騎手の種類 ―「専送」と「衆包」
3. 騎手のプロフィール ― ルポとアンケート調査より
4. 騎手の生活保障
おわりに ― 政府の対応と圧力
第6章 中国における非正規労働者の就業状況と課題………………梶谷 懐
― 家計調査データを用いた実証分析
はじめに
1. 中国の非正規労働者をめぐる現状について
2. 家計調査からみる非正規労働者の諸類型とその社会的背景
3. インターネット接続時間と労働収入に関する実証研究
4. 労働カテゴリーの決定要因に関する実証分析
5. 結論
第7章  中国における技能労働者不足と職業教育不振のジレンマ………稲垣 豊・山口真実
― 職業系高校の就職と進路をめぐる考察
はじめに
1. 中国の教育政策と職業教育
2. 職業系高校の地域性 ― 労働力受け入れ地域と送り出し地域
3. 職業系高校の実習と就職
4. 技能労働者を取り巻くその他のアクター ― 総工会、NGO
5. まとめ
第8章 労働をめぐる社会意識の変化と習近平政権………………及川淳子
はじめに
1. 問題意識・研究対象・分析方法
2. 労働をめぐる社会意識の変化
3. 習近平政権の「勤勉主義」
おわりに
第9章 中国の女性たちによる性暴力と構造的な差別への反発 ………………阿古智子
― 浸透する運動、法整備の問題
はじめに
1. 中国のMeToo運動
2. 国家安全とゼロコロナ政策の圧力下でも広がった怒り
3. セクハラ関連訴訟とその問題点
4. 女性に対する構造的な差別にどう向き合うかおわりに
あとがき

いままであまりそういう視点のものを見たことがなかったのは、稲垣豊さん、山口真実さんの「中国における技能労働者不足と職業教育不振のジレンマ」で、職業教育があまり好まれないことの社会的原因にも日本と中国とでは違いがあることが窺われます。

 

 

 

2024年4月 3日 (水)

小西康之『働く世界のしくみとルール』

L24379 小西康之『働く世界のしくみとルール』(有斐閣)をお送りいただきました。

https://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641243798?top_bookshelfspine

副題にあるように、これは労働法の入門書ではありますが、普通のテキストとはかなり違ってます、お話仕立てというのはほかにもありますが、新機軸なのは正社員はそこそこに、初めのところでアルバイトから派遣、フリーランス等々多様な働き方から始まっているところでしょう。

プロローグ
Ⅰ 働くことと法制度
 1 働くことと法のネットワーク
 2 働く世界のしくみとルールの成り立ち
Ⅱ 働く人のプロフィール──あなたは?
 1 正社員で働く
 2 アルバイト・パートで働く
 3 派遣で働く
 4 雇われずに働く──保護されるのはどんなひと?
 5 働いてもらう
 6 国際的に働く
 7 仕事をかけもちする 
 8 公務員として働く
Ⅲ 会社で働く
 1 さまざまなルール──労働条件の決まり方  
 2 就活する/入社する
 3 みんなそれぞれ尊重される
 4 賃金をもらう
 5 仕事の時間
 6 仕事をしない時間
 7 安全に健康に働く 
 8 変更される/処分を受ける
 9 会社をやめる
 10 再び仕事につく
Ⅳ ひとりで悩まない
 1 労働組合に入る
 2 団体で交渉する
 3 団体で行動する
 4 公的機関を利用する
エピローグ

 

2024年4月 1日 (月)

國武英生・淺野高宏編『労働者の自立と連帯を求めて』

644371 國武英生・淺野高宏編『労働者の自立と連帯を求めて』(旬報社)をお送りいただきました。昨年逝去された道幸哲也先生の遺稿+弟子たちの解説という本です。

https://www.junposha.com/book/b644371.html

働く者にとって労働法はなぜ必要なのか
労働組合に求められているものは何か
研究者は何を探求すべきなのか

労働法学者としての生涯と労働法の理論的基礎を描き出す珠玉の40篇

どれも重要な論点ですが、やはり第4章の「労使関係における集団的性質」に納められた5編の論文が、今日的には極めて重要な論点を提起しているように思われます。特に、「従業員代表制の常設化よりも労組法の見直しを」は、経団連も連合型労働者代表制案に接近してきている現在、ものごとを根本から考えてみる上でとても重要です。

第1章 労働法を学ぶ意味
第2章 労働者の自立と労働契約法理
第3章 労働組合と不当労働行為
第4章 労使関係における集団的性質
第5章 ワークルール教育の広がり
第6章 労働委員会と紛争解決
第7章 労働法教育と研究活動
第8章 遺作

 

 

 

 

森川正之編『コロナ危機後の日本経済と政策課題』

0b48949b8f444ef6b262f30ee3ccf269 森川正之編『コロナ危機後の日本経済と政策課題』(東京大学出版会)をお送りいただきました。

https://www.utp.or.jp/book/b10045061.html

コロナ危機、米中対立やロシアのウクライナ侵攻、デジタル革命や気候変動問題など、経済社会を揺るがす事象が続いている。本書は、コロナ禍の経験と教訓を踏まえ、今後の日本経済が抱える課題を9つの分野から概観し、エビデンスに基づく政策を提言する。

内容は以下の通りで、

序章 新型コロナと日本経済――回顧と展望(森川正之)
第1章 政策決定プロセスについてのコロナ禍の教訓(小林慶一郎)
第2章 コロナ危機を経て変容した国際貿易・海外直接投資(冨浦英一)
第3章 地域経済と地域産業政策の課題(浜口伸明)
第4章 日本産業のイノベーション能力(長岡貞男・本庄裕司)
第5章 持続可能な経済社会形成に向けた新たな産業政策の論点(大橋 弘)
第6章 日本の潜在成長率向上に何が必要か――JIPデータベース2023を使った分析(深尾京司)
第7章 コロナ下で日本の働き方はいかに変わったか――その評価と展望(鶴 光太郎)
第8章 イノベーション・エコシステムの構築に向けた異分野融合研究(矢野 誠)
第9章 EBPMをめぐる研究者と政策担当者の間のギャップ(川口大司)

鶴さんの第7章は、在宅勤務から副業、独立自営業、ギグワーカー、ロボット、AI.生成AIなど幅広い話題を採り上げています。

 

 

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