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2024年3月21日 (木)

EUプラットフォーム労働指令案は成立に向けて大きく前進@『労基旬報』2024年3月25日

『労基旬報』2024年3月25日に「EUプラットフォーム労働指令案は成立に向けて大きく前進」を寄稿しました。

 去る3月10日、学習院大学法学部の橋本陽子さんが『労働法はフリーランスを守れるか-これからの雇用社会を考える』(ちくま新書)を刊行されました。今年秋施行予定のフリーランス新法(特定受託者取引適正化法)の制定を機に、個人事業主と労働法の関係を包括的に検討した名著で、欧米の動向についても詳しく解説しています。その中で、2021年12月に提案されたEUのプラットフォーム労働指令案についてもごく最近の動きまでフォローされ、「同指令案は、2023年3月のEU議会、同年6月の理事会の審議を経て、採択されることとなった。2023年12月13日には、EU議会、理事会および委員会との三者協議で暫定的な合意が成立し、いよいよ指令の成立が間近に迫ってきた」(171ページ)と書かれています。ところが、橋本さんがこう書いて筆を措いたその次の瞬間に事態は大きく反転し、同指令案は当分成立の見込みが立たない状態になってしまいました。そして約3か月の紆余曲折を経て、つい先日の2024年3月11日に理事会は合意に達し、同指令案は成立に向けて大きく前進することになりました。
 本指令案については、「EUのプラットフォーム労働における労働条件に関する労使への第1次協議」(2021年3月25日号)、「EUのプラットフォーム労働指令案」(2022年1月5日号)、「EUのプラットフォーム労働指令案に理事会合意」(2023年7月25日号)と、本紙で繰り返し取り上げてきましたが、2021年12月9日に、「プラットフォーム労働における労働条件の改善に関する指令案」が行政府たる欧州委員会から提案され、立法府である閣僚理事会と欧州議会で審議が進められてきました。そして、昨年2023年12月13日に、両者は合意に達したと、それぞれが発表するに至りました。これで、ほぼ2年越しの懸案は遂に決着したと、ほとんどすべての人が思ったでしょう。わたしもそう思ったので、翌日早速拙ブログにその旨を書きました。ところが、そう簡単に問屋は荷物を卸してくれなかったのです。
 欧州委員会の指令案については既に何回か詳しく解説してきましたが、大きく二つの部分からなります。一つ目のより注目を集めたのは、プラットフォーム労働者の労働者性の推定規定です。即ち、プラットフォームを通じて就労する者が次の5要件のうち2つを満たす場合、雇用関係であるとの法的推定を受けます。
①報酬の水準を有効に決定し、又はその上限を設定していること、
②プラットフォーム労働遂行者に対し、出席、サービス受領者に対する行為又は労働の遂行に関して、特定の拘束力ある規則を尊重するよう要求すること、
③電子的手段を用いることも含め、労働の遂行を監督し、又は労働の結果の質を確認すること、
④制裁を通じても含め、労働を編成する自由、とりわけ労働時間や休業期間を決定したり、課業を受諾するか拒否するか、再受託者や代替者を使うかといった裁量の余地を有効に制限していること、
⑤顧客基盤を構築したり、第三者のために労働を遂行したりする可能性を、有効に制限していること。
 プラットフォームの側が労働者ではないという反証を挙げることは可能ですが、立証責任は労働者側ではなくプラットフォーム側にあります。通常労働者性をめぐる紛争では立証責任は労働者側にありますが、それを転換しているわけです。これは、プラットフォーム就労者が雇用労働者ではないことを前提に組み立てられてきたビジネスモデルを根本からひっくり返すものなので、ウーバー始めとするプラットフォーム企業は猛烈なロビイング攻勢をかけていると報じられてきました。もう一つの論点は、プラットフォームが使っているアルゴリズム管理について、透明性や公正性を要求する規定で、これは別に進められているAI規制の一部がここに顔を出しているという面があります。
 さて、昨年12月13日のプレスリリースでは、欧州委員会提案を若干だけ修正した次の5要件のうち2つを満たせば法的に労働者だと推定するとしていました。なお、条文の形では情報が示されていないので、厳密なものではありません。
①労働者が受け取る金額の上限
②電子的手段を含め、その遂行の監督
③課業の分配又は配分へのコントロール
④労働条件のコントロール及び労働時間選択への制限
⑤作業編成の自由及び出席又は行為の規則への制限
 ところが、その9日後の12月22日、その合意がひっくり返ったらしいという報道がかけめぐりました。ここからは、正規の発表による情報ではなく、EUに関する諸情報を伝える業界紙のEuractivのWEB記事によるものになります。12月23日付のEuractivの記事によると、理事会の議長国を務めていたスペインがちゃんと全加盟国の同意を取り付けないまま、欧州議会側と合意に達してしまっていたようです。閣僚理事会は半年ごとに議長国が輪番制で回ってくる仕組みになっていて、欧州議会との交渉は、議長国が閣僚理事会を代表してやるのですが、合意してからコレペールという各国大使からなる実務者会議に報告して、では正式に閣僚理事会で承認していただきましょうと言ったところ、「我が国はこんなの認めちゃいないぞ」という苦情が多くの諸国の大使から吹き出して、まとまらなかったということのようです。バルト諸国、ブルガリア、チェコ、フィンランド、フランス、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、スウェーデンの計12カ国がノーと言ってるらしく、これでは採決要件の特定多数決(ほぼ3分の2)で押し切るわけにはいきません。どうしてこういうことになったのか。同じEuractivの別の記事によると、反対論の黒幕はフランスのマクロン大統領らしく、欧州議会の担当議員は、マクロンを社会的ヨーロッパの殺人者だと糾弾しているようです。いずれにしても、2023年は指令成立の期待が潰れたまま終わりました。翌2024年には、閣僚理事会の議長国がスペインからベルギーに受け渡されました。
 翌2024年1月12日のEuractiv記事は、消息筋から入手したフランス政府の見解を報じていますが、それによると、「労働者の推定をもたらす5要件のうちの2要件充足という基準は、フランス当局には純粋の自営業者を自営業者のままに維持することを可能にする保障の要素を構成するようには見えない」し、暫定合意に示された各基準の文言自体が、あまりにも広範で「体系的に合致しがち」であるため、積極的に自営業者であり続けることを望み選択しているプラットフォーム労働者にとって有害だと批判しているようです。
 さらに1月26日のEuractiv記事は、依然としてフランスのマクロン大統領が立ち塞がっていると述べた上で、交渉に関与した複数の関係者から、議会がEU選挙前にアルゴリズム管理に関しては妥結できるよう、指令を2つに分割することを検討しているとの情報を報じています。つまり、労働者性の推定規定を外して、アルゴリズム管理の規制の部分だけで指令として成立させてしまおうという案がでてきているということになります。
 2月5日のEuractivでは、ベルギー議長国が加盟国に回覧した新たな条文案を紹介していますが、それは雇用の法的推定という旗頭的な章をほとんど洗い流してしまうようなものになっていると報じています。そして、2月8日になって、これまで水面下の動きに沈黙を守ってきた欧州議会のサイトに、「初めてのEUワイドのプラットフォーム労働者のルールに暫定合意」という公式の記事が掲載されました。これも具体的な条文案を示したものではありませんが、簡単ながらその内容がかなり窺われるものになっています。以下にその部分の訳文を示しておきましょう。
 新たな法は、国内法及び発効中の労働協約に従い欧州司法裁判所の判例法を考慮して、支配と指示を指し示す事実が存在する場合に発動される(自営業と対比される)雇用関係の推定を導入する。
 本指令はEU諸国に、プラットフォームとプラットフォーム労働遂行者の間の力の不均衡を是正するために、国レベルで雇用の反証可能な法的推定を設けるよう義務づける。
 立証責任はプラットフォームに存し、つまりプラットフォームが推定に反論したい場合には、契約関係が雇用関係ではないことを証明すべき責任はプラットフォームの側にある。
 これはあくまでも欧州議会側の発表であり、閣僚理事会側はなお沈黙を守っているため、本当にこれで暫定合意がなされたのかどうかも不明です。ただ、指令案が注目を集めた5要件のうち2つを満たせばいいという規定ぶりは姿を消し、代わりに国内法や欧州司法裁判所の判例法といった既存の基準が並べられているところからすると、労働者性の判断基準自体をEUレベルで拘束的に決めてしまうようなことは避けるという判断がなされたようです。
 2月9日のEuractivでは、事態の混乱が紙面にも現れていて、前日(2月8日)にいったん再び閣僚理事会(を代表するベルギー議長国)と欧州議会(の雇用社会問題委員会の代表)の間で合意がまとまったらしいのですが、例によってまたも横やりが入ったらしく、理事会における正式の投票は最終金曜日(2月16日)に延期されたと、この記事の冒頭に追記されています。
 その2月16日にも合意はなりませんでした。別のEU業界紙であるEUobserverは同日付の記事で、閣僚理事会議長国のベルギーが欧州議会との間で暫定的に合意した「骨抜き」指令案ですら、フランスを始めとする4カ国の反対で特定多数決が困難で、当分の間、欧州議会選挙のある6月までは、成立の見込みはなさそうだと報じています。同記事によると骨抜き案にすら反対しているのはドイツ、フランス、ギリシャ、エストニアの4カ国ですが、独仏両国の人口が大きいのでこの4カ国で特定多数決を妨げる拒否権少数派になるのですね。
 ところが、その背後でエストニアとギリシャという二か国に対する説得工作が猛烈に行われていたようです。去る3月11日の労働社会相理事会でこの二か国が指令案賛成に転向し、フランスとドイツを除く諸国で特定多数決に達することになったことで、混迷を続けてきたEUプラットフォーム労働指令案は遂に成立に向けて大きく前進することになりました。このことのインパクトは極めて大きいものがあります。 

今回合意された条文案は、今後EU法制局での精査を経て最終的に採択されることになりますが、それを待っていたのでは間に合わないので、旬報社の『労働六法』2024年版では、今回の合意された条文を掲載することにしています。

 

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