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2024年3月27日 (水)

フリーランスと労働法の谷間に「橋」を掛ける試み@『ちくま』4月号

Bm2j7k0aikyzud2kfkni6g__ 筑摩書房のPR誌『ちくま』4月号に、橋本陽子さんの『労働法はフリーランスを守れるか』(ちくま新書)の書評記事を書きました。

61tr1l7pf5l_ac_uf10001000_ql80_  「フリーランス」というといかにもかっこよく聞こえるが、「一人親方」というとなんだか垢抜けない印象だ。でも両者は同じものを指している。他人(会社)に雇われるのではなく、自分一人で社長とヒラを兼務して働いている人、個人自営業主のことだ。昔から建設業の一人親方とか運輸業のトラック持ち運転手というのは多かったが、最近は情報通信技術が発達して、ネットを介して仕事をするクラウドワーカーとかギグワーカーというのが世界的に増えてきた。その働き方の実態は、自営業主だといいながら雇用労働者以上にひどいものも少なくない。「はじめに」にたくさん事例が並んでいる。彼らをどう守るか、というのが本書のテーマだ。
 昨年成立したフリーランス新法というのは、(若干労働法風味の保護規定も盛り込まれているけれど)基本的には公正取引委員会と中小企業庁が競争法を使って彼らを守ろうという法律だ。彼らは労働者ではなく個人事業主なんだから当然だろう、と思うかもしれない。けれど、著者はそれに疑問を呈する。今の世界の大勢は、彼らの「労働者性」を認めて、労働法を適用しようという方向に向かっているのだ。最近の欧米の裁判例はみな労働者性を認めてきているし、とりわけ五要件のうち二つを満たせば労働者だと推定するEUのプラットフォーム労働指令案が成立間近なのだ、と。
 その気持ちには同感するところが多いのだが、認識がやや前のめりになっていないか気になる。実は、(本文に書かれているように)昨年一二月一三日にEUの議会と理事会が暫定合意したというニュースが流れたが、翌週二二日には理事会でひっくり返ってしまったのだ。それを先導したのはフランスのマクロン大統領だという。フランス政府は彼らが労働者でないことを前提に労働法風の保護を付け加えるという国内政策を進めていて、労働者性の拡大路線には反対であり、少なからぬ加盟国がそちらに加担したというわけだ。先行きはまだまだ不透明である。
 とはいえ、日本のように競争法中心でいくやり方でいいのかというと、評者も疑問がある。競争法による保護は弱い個々の自営業者を守ることが目的なので、団結して強者になろうとすると、カルテルだといって潰しにかかる危険性があるからだ。百年前のアメリカでは反トラスト法が組合潰しに猛威を振るったこともある。EUではフリーランスに競争法は手を出さないというガイドラインを出している。そちらが世界標準だろう。
 労働者性については、行政の現場レベルにも問題がある。労働基準監督官が監督現場で労働法違反を摘発するときに、そもそも働いている人が労働者なのかどうかを判断する材料として渡されているのは、四十年前の労働基準法研究会報告という学者の論文なのだ。評者が過去二年半の監督復命書を分析したところ、監督官が様々な要件のどれを重視すべきかに頭を悩ませていることがわかった。裁量制やテレワークなど、雇用の範囲内で多様な働き方が増えてきたことを考えると、四十年前の労働者性判断基準を見直す必要もありそうだ。
 正直、労働法の難しい議論が延々と並んで読みづらいところもあるかもしれないが(評者ならもう少し目線を下げて、砕けた感じで書くのだが)、今日喫緊の重要な政策課題を深く突っ込んで考えるための材料がいっぱい詰まっている本である。

 

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