禹宗杬・沼尻晃伸『〈一人前〉と戦後社会』
禹宗杬・沼尻晃伸『〈一人前〉と戦後社会』(岩波新書)をお送りいただきました。
https://www.iwanami.co.jp/book/b641567.html
〈一人前〉としてふるまう。すなわち、話し合いを通して他者と対等にわたりあい、自らの価値と地位を向上させた人びとが、戦後社会を築いてきた。向上にこだわる社会は、ありのままの人を認めないまま、生きづらい現在にいたる。働く場と暮らしの場の声を拾い上げながら、歴史の流れをつかみ、隘路を切りひらく方途を探る。
目次は下にある通りですが、「一人前」というキーワードを軸に近代日本社会の姿を描き出そうという本です。ざっくりいうと、権利の承認なき価値の承認を求めて、企業人としての自己実現に至った正社員モデルと、そこから排除された人々の姿というストーリーになりますが、新書本の中にいろいろなエピソードが詰め込まれて読み物として面白いです。
第3章の「陶酔と錯覚」が1970年代から1990年代を対象としていて、これがまさに労働政策でいう「企業主義の時代」に対応しているのですね。それを単純に錯覚として否定し去って済むのではないのは、それが終戦直後の労働者達が必死に企業メンバーたらんとしてあがいていた闘争の変形した姿だからなのでしょう。
序 章 「一人前」が容易ではなくなった社会で
一 生きづらい社会
二 「一人前」を問う
第一章 目覚めと挫折――戦前の営み
一 人格承認要求と大正・昭和
二 上層労働者だけが「一人前」
三 権利なきなかでの要求
四 「お国のため」の社会――小括
第二章 飛躍と上昇――敗戦〜一九七〇年代
一 人並みに生きたい――戦後改革と「一人前」
二 「同じ労働者」として
三 「市民」として、「人間」として
四 人並みを話し合いで勝ち取った社会――小括
第三章 陶酔と錯覚――一九七〇年代〜一九九〇年代
一 「日本的」なるものと新たな「価値」の噴出
二 企業での「自己実現」
三 「連帯」から「女縁」へ
四 企業に傾倒した社会――小括
第四章 多様化と孤立――一九九〇年代〜現在
一 迷走する政府――パッチワーク的な政策
二 非正規労働者は「半人前」?
三 「自分らしさ」とは?
四 中間団体をなくし「自己責任」が独り歩きする社会――小括
終 章 新たな「一人前」を求めて
あとがき
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