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2024年1月12日 (金)

鈴木誠『職務重視型能力主義』

09176 鈴木誠『職務重視型能力主義 三菱電機における生成・展開・変容』(日本評論社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/9176.html

日本企業における人事処遇制度の形成過程と歴史的展開を、三菱電機の事例に即して明らかにする研究。

鈴木さんは現在長野大学教授を務めていますが、かつて2006年から2016年までJILPTの労使関係部門のアシスタントフェローをしていて、主としては呉学殊さんのもとで労使関係の調査をしていましたが、わたしの労働局あっせん事件の分析にも参加してもらったこともあります。

しかしその頃から鈴木さんの関心は一貫して本書に結実した戦後日本企業の人事労務管理の展開にあり、その頃からほぼ2年に1ぺんの割合で、JIL雑誌に三菱電機の労務管理史の分析を発表していました。

今もそうですが、その頃も労働分野におけるこういう歴史研究ははやらない分野であって、ある人に「そんな研究に何の意味があるのか?」みたいなことを言われたこともあり、「いや、歴史をおろそかにした現状分析なんて空疎なものです」と言ったこともあります。

そうやってこつこつと積み重ねてきた研究成果を一冊にまとめたのが本書で、かなりの部分はかつてJIL雑誌で読んだものですが、大卒ホワイトカラーの話など書き下ろしの部分もいくつかあります。

資料に即して非常に丁寧に分析をしていくのと、次の時代の話の前段に前の時代の話をするためにわりと繰り返しが多いので、読むのがしんどいかも知れませんが、ここまで一社の人事労務管理の歴史を終戦直後から21世紀に至るまでその変遷を丁寧に追いかけた研究というのは他にあんまり例を見ないのではないかと思います。

 序章 課題と方法
1 問題関心
2 研究方法と対象
3 本書の概要

第Ⅰ部 経営民主化のなかの「能力」と「職務」

第1章 戦後型学歴身分制の形成
――1948年身分制度改定
1 はじめに
2 戦前の身分制度の構造
3 戦後に改定された身分制度の構造
4 身分制度改定をめぐる労使交渉
5 考察

第2章 職務重視型人事労務管理の萌芽
――1950年職階制度導入
1 はじめに
2 戦前の出来高給
3 戦後直後期の人事処遇制度
4 職階制導入をめぐる労使交渉
5 結語

第Ⅱ部 職務重視型能力主義の登場

第3章 戦後型学歴身分制から能力主義的人事処遇制度へ
――1968年人事処遇制度改定
1 はじめに
2 学歴身分制を軸とする人事処遇制度の構造
3 1960年代の変化と課題
4 能力主義的人事処遇制度の構造
5 結語

第4章 能力主義下における職務給・能率給
――1968年人事処遇制度改定のもう一つの側面
1 はじめに
2 1968年人事処遇制度改定以前の職階給――能率給的制度
3 1968年人事処遇制度改定後の職階給――能率給的制度から職務給的制度へ
4 考察

第Ⅲ部 苦境に立つ職務重視型能力主義

第5章 「新職能資格制度」と職務重視型能力主義の再編成
――1978年人事処遇制度改定
1 はじめに
2 1978年改定以前の人事処遇制度の構造
3 1970年代の変化と課題
4 1978年改定によって成立した人事処遇制度の構造
5 結語

第6章 処遇をめぐる納得性の担保
――1986年・1993年人事処遇制度改定
1 はじめに
2 1980年代から1990年代にかける変化と課題
3 資格職階給の新設――1986年改定
4 資格職階給の展開――1993年改定
5 結語

第7章 大卒ホワイトカラーの能力主義管理
――1978年人事処遇制度改定のもう一つの側面
1 はじめに
2 1978年改定以前の人事処遇制度の構造
4 1978年改定後の人事処遇制度の構造
5 1981年役職制度改定と資格制度の活用
6 結語

第8章 管理職層における発言機構の整備
――1981年役職制度改定・労働協約改定
1 はじめに
2 1978年人事処遇制度改定・1981年役職制度改定と当時の問題状況
3 組合員範囲とその特徴
4 組合員範囲の見直しに関する労使交渉
5 結語

第Ⅳ部 役割主義の台頭

第9章 管理職層の成果主義と役割等級制度
――1998年職群制度導入
1 はじめに
2 1998年職群制度導入以前の人事処遇制度の構造
3 1990年代後半の変化と課題
4 1998年に導入された職群制度の構造
5 結語

第10章 職務重視型能力主義から役割主義へ
――2004年役割・職務価値制度導入
1 はじめに
2 2004年改定以前の人事処遇制度の構造
3 2000年代の変化と課題
4 2004年に導入された役割・職務価値制度の構造
5 結語

終章 総括と展望
1 総括
2 展望

たいへんざっくり言うと、「年功」→「職務」→「職務遂行能力」という通説的理解に対して、一貫して「職務」を重視しつつも変遷を遂げてきた三菱電機の(本書タイトルにもなっている)職務重視型能力主義を提示することで疑問を呈しているのが本書といえます。

そして、それを踏まえて最後の「展望」のところで、ジョブ型雇用論、働き方改革、人事制度改革の三つについて若干のコメントを加えています。

ジョブ型について鈴木さんはこう語ります。

 近年、浅薄なジョブ型雇用論がかまびすしい。・・・・

 そもそもジョブ型というのは何も新しい概念ではない。・・・・

 「職務」を重視するという考え方は、三菱電機における能力主義から役割主義への転換においても生きている。多くの企業で導入されている役割等級制度はホワイトカラーの仕事の流動性から職務評価の固定性を避けるために「役割」という表現を用いているが、その分類の基軸が何であるのか明確になっていない。しかしながら、三菱電機(ママ)おける役割等級制度の分類基軸は「役割」であり、それは広い意味で「職務」ないしそれを大ぐくりにしたものとなっている。

 本書は、日本企業においてもこれだけ「職務」にこだわった人事処遇制度を構築してきた企業・労働組合があったことを世間に知らしめることになる。三菱電機の事例は、メンバーシップ型とジョブ型の二項対立が意味をなさないことを示している。これによって、近年の過剰なジョブ型雇用論の流行に大きな槍を突き通すことになると思われる。

やや高揚した語り口で、私からすると、そもそもジョブ型・メンバーシップ型というのは現実を抽象化した理念型なので、二項対立が意味をなさないのではなく世間の振り回し方がおかしいと言うだけだと思うのですが、それはともかく確かに浅薄なジョブ型論には一服の清涼剤になる研究でしょう。

あと一点、本書の特に古い時代の記述に繰り返し出てくる勤労部次長→勤労部長を務めた中川俊一郎さんは、労働組合の日給者と月給者の区分廃止要求に対して、両者の労働の違いを盾に拒否したのですが(本書66ページ)、これが戦後日本のホワイトカラー労働時間問題の根源に位置し、やがて企画業務型裁量労働制やホワイトカラーエグゼンプションに連なる問題を、その最初期に指摘していた議論であったことは、拙著等でも繰り返し指摘をしています。

Qll_211 もう20年近く前ですが、『季刊労働法』2005年冬号に書いた「時間外手当と月給制」において、この中川俊一郎さんが登場していました。

・・・・とはいえ、だいぶ過去にさかのぼると、経営者側がこの問題に正面から取り組んだ文書も出てきます。1953年6月に日経連から出された『当面する賃金問題解決の方向』に収録された三菱電機勤労部次長の中川俊一郎氏による「月給制、日給制の検討」という論文です。ここでは、月給制の仕事は投下された労働力の成果が時間単位で把握測定できず、二、三年、場合によっては一生かかって価値が具体化されるものであり、一応月をもって区切り月給として支払っているものであるとし、2時間分の仕事の成果がちょうど1時間分の仕事の成果の2倍に当たるような時間給の仕事とは異なると強調しています。

 大変興味深いのは「日給制と基準法との関係について」というところで、こう述べています。「本質的には基準法が間違いで、これをつくった日米の当事者が、せめて私ほど日給制、月給制の問題を考えてくれれば、ああいうばかなものはできなかったと思う。われわれの考える基準法たらしめるためにも、あれは今後十分改めなければならぬ面が多いことを痛感しておる。それでもしも現在の月給者にして、時間単位で測れる日曜出とか残業手当というものが欲しいものは日給者になれと云いたい。もっとも現在は基準法に違反するからやむなく右の手当は支給はしている」。「日米の当事者」といわれては、適用除外制を有しているアメリカ側の当事者は困ってしまうでしょうが。

 

 

 

 

 

 

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