フォト
2024年6月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30            
無料ブログはココログ

« 非ジョブ型雇用社会における企画業務型裁量労働制@WEB労政時報 | トップページ | 欧州委員会が欧州労使協議会指令の改正案を提出 »

2024年1月24日 (水)

「フリーランスまるごと労災保険の特別加入」@『労基旬報』2024年1月25日

21 『労基旬報』2024年1月25日に「フリーランスまるごと労災保険の特別加入」を寄稿しました。

 昨年末の12月22日、労働政策審議会の労災保険部会で、労災保険法施行規則の改正案が承認されました。これは、これまで個別業務ごとに少しずつ増やされてきていたフリーランスの労災保険への特別加入を、一気にフリーランス一般に拡大するもので、そのインパクトはかなり大きなものがあると思われます。今回はこの経緯を簡単に振り返っておきましょう。
 そもそも労災保険制度は、労働基準法適用労働者の労働災害に対する保護を目的とした制度であり、労働者でない中小事業主や自営業者は対象としていません。しかしながら、これら非雇用労働者の中には業務の実態から見て労働者に準じて保護するにふさわしい者が存在することから、1965年労災保険法改正により一定範囲について特に労災保険への加入を認めることとされました。しかしながら、実はそれ以前から通達による擬制適用という形で特殊な取扱いが認められてきていたのです。まず1947年11月、土木建築事業に従事する労働者の中には、いわゆる一人親方として、その実態が一般労働者と変わらない者があることから、任意組合を組織させ、その組合を便宜上使用者として保険加入させたのが始まりです(基発第285号)。これがその後次第に拡大されていきました。やがて、1963年10月の労災問題懇談会報告において「自営業主、家内労働者への適用を考慮すべき」との意見が出され、これを受けた労災保険審議会は1964年7月、「一人親方、小規模事業の事業主及びその家族従業者その他労働者に準ずる者であって、労働大臣の定める者については、原則として団体加入することを条件として、特別加入することを認める」と答申しました。労働省は翌1965年3月法案を提出し、6月には成立に至りました。
 これにより、中小規模事業主とその家族従業者、一人親方とその家族従業者及び特定作業従事者について、特別加入制度が設けられました。中小事業主に特別加入を認めたのは、事業主が労働者とともに労働者と同様に働くことが多く、労働者に準じて保護するにふさわしいことに加えて、特別加入を通じて中小企業の労災保険への加入を促進しようという政策意図が働いていました。一人親方については、土木建築事業のほか、自動車運送(個人タクシーやトラック)、漁業が認められました。また特定作業従事者としては、危険な農機具を使用する自営農業者が指定されました。その後、1970年に家内労働法が制定され、危険性の高い作業を行う家内労働者等が特定作業従事者に指定されました。具体的には金属加工、研磨作業、履物製造加工、陶磁器製造、動力織機等です。また、1976年には一人親方に林業と配置薬販売業が加えられ、1980年には廃品回収業も加えられました。
 一方、2017年3月の働き方改革実行計画の策定以降、雇用類似の働き方に対する保護の在り方が議論されるようになります。その具体的な動きは後述しますが、その一環として労災保険の特別加入を徐々に拡大するという政策が採られていくことになります。すなわち、2020年6月から労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会で順次審議が行われ、翌2021年1月には芸能従事者、アニメーション制作従事者及び柔道整復師、同年2月には高年齢者雇用安定法改正によって導入された創業支援等措置による就業者、さらに同年8月にはプラットフォーム型フードデリバリー等の配達員(省令上は「原動機付自転車又は自転車を使用して行う貨物の運送の事業」とやや広い規定ぶりです。)、フリーランスのIT技術者が追加されました。その後も、2022年4月から按摩マッサージ指圧師、鍼師及び灸師、同年7月から歯科技工士と、続々追加されてきたのです。
 ここで、労災保険からいったん離れて近年のフリーランス保護法政策の動きを概観しておきます。厚生労働省は働き方改革実行計画を受けて、雇用類似の働き方検討会で政策の方向性を議論し、さらに雇用類似の働き方論点整理検討会で一定の提案をする寸前までいきましたが、コロナ禍の2020年になると政府全体の流れが公正取引委員会主導で進められる方向に向かいました。公正取引委員会は既に2018年2月に人材と競争政策に関する検討会報告を取りまとめ、発注者の優越的地位の濫用という観点からこの問題に取り組んでいくことを明らかにしていました。その後2020年6月の全世代型社会保障検討会第2次中間報告では、フリーランスとの取引について、独占禁止法や下請代金支払遅延等防止法の適用に関する考え方を整理し、ガイドライン等により明確にすること等を、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省連名で年度内に策定するガイドラインに盛り込むと明記され、これは翌7月の成長戦略実行計画にも盛り込まれました。こうして翌2021年3月には、公正取引委員会、経済産業省、厚生労働省の連名でフリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドラインが策定されました。そこでは、公正取引委員会による独占禁止法(優越的地位の濫用)・下請代金支払遅延等防止法の適用に関する考え方を整理しています。
 2021年10月に就任した岸田文雄首相は、就任とともに直ちに「新しい資本主義実現会議」を立ち上げ、翌11月には「未来を切り拓く『新しい資本主義』とその起動に向けて」と題する緊急提言をとりまとめました。その中では、「新たなフリーランス保護法制の立法」という項目が立てられ、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するため、事業者がフリーランスと契約する際の、契約の明確化や禁止行為の明定など、フリーランス保護のための新法を早期に国会に提出する。あわせて、公正取引委員会の執行体制を整備する。」と、新たなフリーランス保護法制の立法が予告されていました。翌2022年6月の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」においても、フリーランスの取引適正化のための法制度について検討し、早期に国会に提出するとしていました。こうして同年9月、内閣官房が「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」についてパブリックコメントを開始しました。この法案は2022年秋の臨時国会に法案を提出する予定でしたが、自民党内で反発もあり、政治状況等の影響で提出に至りませんでした。
 翌2023年2月になって、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案」という名称で法案が国会に提出され、同年4月に特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律が成立しました。この法律において、「業務委託」とは、事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造、情報成果物の作成又は役務の提供を委託することであり、「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しないものと定義されています。
 規定は大きく取引の適正化に係る部分と就業環境の整備に係る部分からなり、前者は公正取引委員会と中小企業庁、後者は厚生労働省の所管となっています。前者の規定としては、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額等の書面又は電磁的方法による明示義務、特定受託事業者の給付を受領した日から60日以内の報酬支払義務、禁止行為として① 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく受領拒否、② 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬減額、③ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく返品、④ 通常相場に比べ著しく低い報酬の額、⑤ 正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用強制、⑥ 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること、⑦ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させることが規定されています。
 後者の規定としては、①広告等により募集情報を提供するときは虚偽表示等をしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければならないこと、②特定受託事業者が育児介護等と両立して継続的業務委託に係る業務を行えるよう、申出に応じて必要な配慮をしなければならないこと、③特定受託業務従事者に対するハラスメント行為に係る相談対応等必要な体制整備等の措置を講じなければならないこと、④継続的業務委託を中途解除する場合等には、原則として、中途解除日等の30日前までに特定受託事業者に対し予告しなければならないことが規定されています。
 本法は施行後1年半までに施行されることになっており、おそらく今年の秋に施行されるでしょう。それに向けて、現在公正取引委員会と厚生労働省でそれぞれの所管部分についての省令、告示等を制定するための検討が進められています。
 さて、このフリーランス新法が国会で採択される際にその附帯決議の中で、労災保険の特別加入の拡大が求められました。
十六 労災保険の特別加入制度について、希望するすべての特定受託事業者が加入できるよう対象範囲を拡大する・・・こと。
 こうして、これまでの個別業務ごとの拡大からフリーランス一般(「希望するすべての特定受託事業者」)への大幅拡大に向けて舵が切られたのです。
 厚生労働省は2023年10月4日に労働政策審議会労災保険部会で特別加入制度の対象範囲の拡大について審議を開始しましたが、そのときに提示された事務局案では、「フリーランス法における特定受託事業者が業務委託事業者から業務委託を受けて行う事業(以下「特定受託業務」という。)を労災保険の特別加入の対象とすることについてどう考えるか」とされていました。概念が込み入っているのでわかりやすく整理すると、フリーランス(特定受託事業者)は事業者から仕事を請け負うこともあれば、事業者ではない個人(多くの場合消費者)から仕事を請け負うこともあります。フリーランス新法はあくまでも事業者から仕事を請け負う場面(いわゆる「B to B]」)にのみ適用されるので、消費者から仕事を請け負う場面(いわゆる「B to C」)には適用されません。これは、フリーランスの保護のためにその取引相手方である委託者に様々な義務を課す法律であるからであって、そのこと自体は当然です。
 しかしながら、フリーランスが災害に遭う危険性は、B to BであれB to Cであれ変わりがなく、しかも労災保険の特別加入というのは労災保険本体と異なり特別加入者自身が保険料を負担するのですから、取引相手方に負担をかけるわけではないので、労働側の富高委員らからこの点に疑問が呈せられました。これを受けて次の11月20日の部会では、事務局案が「フリーランス法に規定する特定受託事業者が、業務委託事業者から業務委託を受けて行う業務(特定受託事業者が、業務委託事業者以外の者から同種の業務について物品の製造、情報成果物の作成又は役務の提供の委託を受けて行う業務を含む。)」と修正され、B to Cの場合も対象に含められることとなりました。また労災保険料率は一律に1000分の3とされ、この内容がほぼ了承されました。こうして、12月22日の部会に労災保険法施行規則の改正案要綱が諮問され、妥当との答申を得ました。今後改正省令が官報に掲載され、フリーランス新法の施行と同時に施行されることになります。
 さて、労災保険の特別加入は、特別加入団体を通じて行うこととされており、今回の特定受託事業者の特別加入団体については、次のような要件を追加することとされています。
① 特別加入団体になろうとする者(その母体となる団体を含む。)が、特定の業種に関わらないフリーランス全般の支援のための活動の実績(活動期間が1年以上、100名以上の会員等がいること)を有していること。
② 全国を単位として特別加入事業を実施すること。その際には、都道府県ごとに加入希望者が訪問可能な事務所を設けること。
③ 加入者等に対し、加入、脱退、災害発生時の労災給付請求等の各種支援を行うこと。
④ 加入者に、適切に災害防止のための教育を行い、その結果を厚生労働省に報告すること。
 11月の部会でヒアリングを受けている一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会が想定されているのかもしれません。

 

 

 

« 非ジョブ型雇用社会における企画業務型裁量労働制@WEB労政時報 | トップページ | 欧州委員会が欧州労使協議会指令の改正案を提出 »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 非ジョブ型雇用社会における企画業務型裁量労働制@WEB労政時報 | トップページ | 欧州委員会が欧州労使協議会指令の改正案を提出 »