米国O*netと日本版O-netを見比べると雇用システムの違いが実感できる件について
現在正式名称はjob-tagになっていますが、世間的には日本版O-netの方が通りがいいでしょう。厚生労働省が運営する職業情報サイトで、米国政府のO*netに倣って作られていますが、とはいえ両国の雇用システムは大変異なるので、そもそも調べるべき対象の「職業」概念が大きく食い違っています。
たとえば、企業の中で人事労務管理を担当する仕事についてみると、米国のO*netでは次の3層の職業が説明されています。
Plan, direct, or coordinate human resources activities and staff of an organization.
Recruit, screen, interview, or place individuals within an organization. May perform other activities in multiple human resources areas.
Human Resources Assistants, Except Payroll and Timekeeping
Compile and keep personnel records. Record data for each employee, such as address, weekly earnings, absences, amount of sales or production, supervisory reports, and date of and reason for termination. May prepare reports for employment records, file employment records, or search employee files and furnish information to authorized persons.
企業の人事労務管理を計画、指示、調整するマネージャークラス、その下で採用、面接その他の活動に携わるスペシャリストクラス、そしてその下でもろもろの事務作業をこなしていくアシスタントクラス、と、欧米社会の原則通り、みごとにジョブの三層構造をなしています。
これに対して、我が日本政府が運営している(そのデータはJILPTが提供しているのですが)日本版O-netでは、そんな企業内ジョブ構造は存在しません。
人事課長は管理職として、人事課の業務の進捗管理に加えて、部下に対して、就業に関わる指導・助言、また、部下の人事評価や勤務管理等の人事労務管理を行う。課の業務の一部を担当することもある。
採用から退職までの従業員の人事管理に関わる事務を行う。
人事課長というたった一つのポストと、それ以外のすべての人事事務というふうにしか区分のしようがないのですね。しかも、この人事課長も人事事務員も、会社の人事権でもっていろんな部署を配置転換されるわけです。
こういうところに、欧米と日本の雇用システムの違いというものがくっきりと浮かび上がってくるのです。
ところが、アメリカのホワイトカラーエグゼンプションにインスパイアされて、日本でも似たような仕事をしている者をエグゼンプションにしよう、いやそれはまだ時期尚早だから企画業務型裁量労働制を作ろう、というわけで、1998年改正で企画業務型裁量労働制というのができたわけです。アメリカでいえば、マネージャークラスとアシスタントクラス(いわゆるクラーク)の間のスペシャリストクラス向けの制度ということになるはずですが、残念ながら日本にはそういうジョブの三層構造がないので、企画業務型裁量労働制の指針告示でこういうことを言われても、いやいや人事事務の人はみんなこういう業務『も』やってますよ、ということになるわけです。日本型サラリーマンというのは、みんななにがしかマネージャーであり、なにがしか(見よう見まねの)スペシャリストであり、そしてなにがしかアシスタントであって、ただそれらの割合が少しずつ異なるだけなのですから。
労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針
(ロ) 対象業務となり得ない業務の例
① 経営に関する会議の庶務等の業務
② 人事記録の作成及び保管、給与の計算及び支払、各種保険の加入及び脱退、採用・研修の実施等の業務
③ 金銭の出納、財務諸表・会計帳簿の作成及び保管、租税の申告及び納付、予算・決算に係る計算等の業務
④ 広報誌の原稿の校正等の業務
⑤ 個別の営業活動の業務
⑥ 個別の製造等の作業、物品の買い付け等の業務
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