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2023年11月22日 (水)

ジョブ型雇用社会への小さな一歩?@『労基旬報』2023年11月25日号

『労基旬報』2023年11月25日号に「ジョブ型雇用社会への小さな一歩?」を寄稿しました。

 もうかなり前のことなので記憶から薄れつつあるかもしれませんが、今年の3月30日に、労働条件の明示に係る労働基準法施行規則の改正が行われました。また、今年の6月28日には募集時の労働条件明示に係る職業安定法施行規則の改正も行われています。これら改正省令はいずれも来年2024年4月1日から施行されることになっています。こうした改正がどういう流れで導入されることになってきたのかをごく簡単に振り返ってみましょう。
 まず、2012年末の総選挙で自由民主党が大勝し、第2次安倍晋三内閣が成立してすぐの2013年1月に規制改革会議が設置され、同年3月には雇用ワーキンググループが置かれました。同WGが示した検討項目には、解雇規制の項とは別立てで「勤務地や職務が限定された労働者の雇用に係るルールを整備することにより、多様で柔軟な働き方の充実を図るべきではないか」とあり、これがその後同WGでの議論の焦点となりました。同年5月の同WG報告や、同年6月の規制改革会議答申では、これがジョブ型正社員という名称で取り上げられ、無期雇用、フルタイム、直接雇用だけでなく、職務、勤務地、労働時間(残業)が無限定な日本の正社員のあり方を改革し、職務、勤務地、労働時間が特定されているジョブ型正社員に関する雇用ルールの整備を行うことを提起していました。ところが、同WGでの議論では、これが解雇しやすい労働者の創設という文脈で議論された面もあり、野党や労働組合から批判を浴びることとなったのです。
 同年6月の「日本再興戦略」では、この問題について「職務等に着目した『多様な正社員』モデルの普及・促進を図るため、成功事例の収集、周知・啓発を行うとともに、有識者懇談会を今年度中に立ち上げ、労働条件の明示等、雇用管理上の留意点について来年度中のできるだけ早期に取りまとめ、速やかに周知を図る。これらの取組により企業での試行的な導入を促進する」としています。これを受けて、2013年9月には厚生労働省に「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会(学識者10名、座長:今野浩一郎)が設置され、制度導入のプロセス、労働契約締結・変更時の労働条件明示のあり方、労働条件のあり方、いわゆる正社員との均衡のあり方、相互転換制度を含むキャリアパスなど、多様な正社員の雇用管理上の留意点について調査検討を行うこととされました。
 同懇談会の報告書は2014年7月に取りまとめられましたが、勤務地限定正社員、職務限定正社員、勤務時間限定正社員それぞれについて、効果的な活用が期待できるケースを示し、労働者に対する限定の内容の明示、事業所閉鎖や職務の廃止等への対応、転換制度、均衡処遇などについて具体的な提言を行っています。このうち解雇に関しては、事業所閉鎖や職務廃止の際に直ちに解雇が有効となるわけではなく、解雇法理の適用において、人事権の行使や労働者の期待に応じて判断される傾向があるとしています。こうして1回目の政策回路は非法令的な形で終わったわけです。
 一方、内閣府の規制改革会議は2016年9月から規制改革推進会議となり、2019年5月に「ジョブ型正社員(勤務地限定正社員、職務限定正社員等)の雇用ルールの明確化に関する意見」を公表し、同年6月の第5次答申に盛り込まれました。ここでは、「我が国においては、労働契約の締結時に、詳細な労働条件について明確な合意がなされないことがあり、企業の包括的な指示のもとで、自身の労働条件が曖昧なまま働いている労働者は少なくない」という認識に基づき、ジョブ型正社員の雇用ルールの明確化を求めています。具体的には、勤務地限定正社員や職務限定正社員等を導入する企業に対し、勤務地(転勤の有無を含む。)、職務、勤務時間等の労働条件について、労働契約の締結時や変更の際に個々の労働者と事業者との間で書面による確認が確実に行われるよう、①労働基準関係法令に規定する使用者による労働条件の明示事項について、勤務地変更(転勤)の有無や転勤の場合の条件が明示されるような方策、②労働基準法に規定する就業規則の記載内容について、労働者の勤務地の限定を行う場合には、その旨が就業規則に記載されるような方策、③労働契約法に規定する労働契約の内容の確認について、職務や勤務地等の限定の内容について書面で確実に確認できるような方策、等を求めているのです。
 その後2021年3月になって、厚生労働省は多様化する労働契約のルールに関する検討会(学識者7名、座長:山川隆一)を設置して、有期契約労働者の無期転換ルールの見直しと多様な正社員の雇用ルールの明確化等の検討を開始しました。翌2022年3月に同検討会は報告書をとりまとめました。そこでは多様な正社員の雇用ルールとして、予見可能性の向上等の観点から、多様な正社員に限らず労働者全般について、労働基準法第15条による労働条件明示の対象に就業場所・業務の変更の範囲を追加すること、変更を巡る紛争の防止等に資するよう、労働条件の変更時も第15条による労働条件明示の対象とすること、労働契約締結時に書面で明示することとされている労働条件が変更されたとき(①就業規則の変更等により労働条件が変更された場合及び②就業規則等の変更の範囲内で業務命令等により変更された場合を除く。)は、変更の内容を書面で明示する義務を課す措置が提示されています。
 この報告書を受けて、同年4月から労働政策審議会労働条件分科会(公労使各8名、分科会長:荒木尚志)でこの問題の審議が始まり、同年12月に「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について」報告が取りまとめられました。これに基づき、今年2月に省令と告示の改正が同分科会にかけられ、概ね妥当との答申を受けて、今年3月に省令と告示の改正が行われたわけです。
 これにより、労働基準法第15条の労働条件明示義務の対象事項を定めた労働基準法施行規則第5条第1項第1号の3の「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」に、「(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む)」という括弧書きが追加されました。もっとも、上記報告では多様な正社員に限らず労働者全般について、労働契約の内容の変更のタイミングで、労働契約締結時に書面で明示することとされている事項については、変更の内容をできる限り書面等により明示するよう促していくことが適当と書かれていましたが、労働条件変更時の明示義務については見送られ、引き続き検討とされました。これは、労働条件分科会の審議において、使用者側から、変更の範囲は人材の確保等に影響しうるため記載の仕方に細心の注意を払う必要があり、労働条件締結時と労働条件変更時の明示義務を同時に行うと企業の負担が大きいという意見が出されたためです。規制改革推進会議が望むジョブ型雇用ルールは、企業側にとってはあまり望ましいものではないという状況が窺われます。
 なお、これを受けて職業安定法第5条の3の募集時の労働条件明示義務の対象事項を定める職業安定法施行規則第4条の2第3項も今年6月に改正され、労働者の募集や職業紹介事業者が職業紹介を行う場合等において、求職者等に対して明示しなければならない労働条件として、同項第1号の「労働者従事すべき業務の内容に関する事項」に「(従事すべき業務の内容の変更の範囲を含む)」という括弧書きが追加され、また第3号の「就業の場所に関する事項」に「(就業の場所の変更の範囲を含む)」という括弧書きが追加されました。
 これらは、メンバーシップ型雇用社会の根本原理としての職務や配置の無限定性を闡明した東亜ペイント事件最高裁判決や日立製作所武蔵工場事件最高裁判決をひっくり返すようなものではもちろんありませんが、そのごくごく一部とはいえ、職務や配置の限定性をデフォルトルールとするような発想を導入したものとみることもでき、その意味ではジョブ型雇用社会への小さな一歩と評することもできるかもしれません。いずれにしても、既に締結された労働契約には適用されるわけではなく、来年4月1日以後の労働契約に適用される規定ですので、まずは気長に見守っていくべきでしょう。

 

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