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2023年11月 2日 (木)

栄剣『現代中国の精神史的考察』@『労働新聞』

61sftprjol277x400 例によって『労働新聞』に月イチで連載の書評ですが、今回は栄剣『現代中国の精神史的考察』(白水社)です。

【書方箋 この本、効キマス】第40回 『現代中国の精神史的考察』栄 剣 著/濱口 桂一郎

 次の台詞はどこの国のどういう勢力が権力掌握前に繰り出していたものか分かるだろうか。

 「民主がなければすべては粉飾だ」、「民主を争うのは全国人民の事柄だ」、「民主主義の鋭利な刀 米国の民主の伝統」、「思想を檻から突破させよ」、「中国は真の普通選挙が必要だ」、「民主が実現しなければ、中国の学生運動は止まらない」、「天賦の人権は侵すことはできない」、「一党独裁は至る所で災いとなる」、「誰が中国を安定させられないのか?専制政府だ!」。

 これは、中国共産党が抗日戦争勝利前後に『解放日報』と『新華日報』に発表した憲政に関する主要な言論を、一切手を加えず原文を再現したものだ。もちろん現在の中国共産党は、こんな恥ずかしい「黒歴史」はひた隠しにしている。

 「民主」を掲げて「共産」を売りつけた後はもっぱら「専制」でやってきた革命の元勲の二世たち(中国でいう「太子党」)の政権にとって、こんな都合の悪いことばかり書かれた本の出版を許すはずはない。本書の原著は、アメリカで出版された中国語の本だ。かつてなら香港辺りで出版されていたのだろうが、今の香港ではもはや不可能なのだろう。著者の栄剣氏は1957年生まれのマルクス主義哲学者。天安門事件で研究を断念し、画廊を経営しながら中国国内で言論活動を展開してきた希有な人だ。その鋭い筆鋒は習近平政権の本質を容赦なく抉り出す。

 初めの4章は習政権成立直前にスキャンダルで倒れた薄熙来の「重慶モデル」を賞賛していた権威主義学者たちの醜態をこれでもかと暴く。革命歌を唱い(「唱紅」)、汚職を摘発(「打黒」)して権力を強化する文革の再来ともいうべき重慶モデルは、薄夫妻のスキャンダルで幕を閉じたが、その本質は同じ太子党の習近平政権に受け継がれていることがよく分かる。

 権力の座を脅かす可能性のある者をことごとく排除してイエスマンで固めた独裁者のアキレス腱は、ずばり後継者問題だと著者は指摘する。独裁者・毛沢東死後の政治危機を経験した鄧小平らが作り上げた任期制(国家主席は10年まで)、隔世決定制(現職の総書記ではなく前任の総書記が次期総書記の人選を行う)、儲君制(皇太子を決めておく)という3原則は、習近平によってことごとく破壊された。

 しかし、そこにこそ破滅の源泉が埋め込まれている。栄剣曰く「憲法改正により長期政権ひいては終身政権に対する法律の妨げが一掃され、反腐敗運動により党内の誰をも戦々恐々とさせる恐怖によるバランス調整を行い、軍隊をがっちりと押さえることにより個人独裁の拠るべき存在としての国家の暴力機械を掌握し、あからさまな個人崇拝により党内で提灯持ちを競っておもねりへつらう皇帝賛美文化を作り上げ、さらに一歩進んでビッグデータなど最先端のITを掌握することにより前例のない政治デジタル全体主義帝国を作り出している。しかし、これらすべては、いずれも党権主義が直面する究極的な権力の難局を有効に解決することができない。それはすなわち、後継者の問題を最終的に解決することができないために、権力の制御システムが遅かれ早かれ崩壊する日が来るのである」と。そろそろ不老不死の妙薬を探しに徐福を蓬莱国に送り出す時期かもしれない。

 

 

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