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« 文化的職業の労働条件 | トップページ | ジョブ型ブームの中でちらつく日本型雇用の欠陥@『月刊公明』2023年12月号 »

2023年11月12日 (日)

田中洋子編著『エッセンシャルワーカー』

636352 田中洋子編著『エッセンシャルワーカー 社会に不可欠な仕事なのに、なぜ安く使われるのか』(旬報社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

エッセンシャルワーカー

社会にとって不可欠な仕事(エッセンシャルワーク)の待遇はなぜこんなにも悪いのか。

あまり知られていないそれらの仕事の実態から、なぜ待遇悪化が起きているのか、それが私たちの社会にどう跳ね返ってくるのかをあきらかにする。
エッセンシャルワーカーの国際比較を通じて、現状を変えていくためのヒントも提言。

内容は以下の通りで、スーパー、外食といった民間サービス業、保育、教員、ごみ収集といった公的部門、看護、介護といった社会保障系ケアワーク、そしてトラックドライバー、建設現場、アニメーターまで、幅広く「エッセンシャルワーカー」をとらえて論じています。

序章  知られていないエッセンシャルワーカーの働き方  田中洋子
●第Ⅰ部 
スーパーマーケット、外食チェーンの現場
フルタイムとパートタイムの処遇格差‒‒—ドイツとの比較
第1章 日本のスーパー  三山雅子
第2章 ドイツのスーパー 田中洋子
第3章 日本の外食チェーン 田中洋子
第4章 ドイツのマクドナルド 田中洋子

●第Ⅱ部 
自治体相談支援、保育園、学校、ごみ収集の今
予算削減で進む公共サービスの非正規化
第1章 自治体相談支援員  上林陽治
第2章 保育士 小尾晴美
第3章 教員 上林陽治
第4章 ごみ収集作業員 小尾晴美

●第Ⅲ部
病院、介護の現場はどうなっているのか
女性が中心に担うケアサービスの過酷さ

第1章 日本の看護  田中洋子、袴田恵未
第2章 日本の訪問介護 小谷幸
第3章 ドイツのケア職(看護・介護) ヴォルフガング・シュレーダー、ザーラ・インキネン、田中洋子[監訳]

●第Ⅳ部
運送、建設工事、アニメーション制作のリアル
仕事を請け負う個人事業主の条件悪化

第1章 トラックドライバー 首藤若菜
第2章 建設業従事者 柴田徹平
第3章 アニメーター 松永伸太朗、永田大輔

●第Ⅴ部   
働き方はなぜ悪化したのか
そのメカニズムと改革の展望

第1章  「女・子ども」を安く働かせる時代を終わらせる  田中洋子
第2章  公共サービスの専門職を非正規にしない  田中洋子
第3章  市場強者による現場へのしわよせを止める 田中洋子

結語 田中洋子 

編著者の田中洋子さんが執筆している第Ⅴ部の冒頭で、上の問いに対して、1990年代以降に勧められた自由化政策をその元凶と指摘しているのですが、しかし(本書で対比されているドイツを含む)ヨーロッパ諸国も共通に経験したこの時代の流れが、日本だけで異なる現れ方をしたのはなぜかと言えば、それ以前の昭和時代の労働の在り方、社会の在り方が、改められることなく、むしろ頑固に維持されたことが理由というべきでしょう。

第Ⅰ部のスーパーや外食産業でなぜパートやアルバイトの低賃金労働が広範に広まったのかといえば、その前の時代に確立した成人男子正社員だけを守ればいいからと、「女・子供を安く働かせる」という社会規範が、成人男子の雇用が不安定化する時代の中でも逆にますます頑固に維持されたからですし、第Ⅱ部の公的部門での非正規化が急激に進行したのも、もともと終戦直後には職階制というジョブ型であったはずの公務員が、その後何でもできるが何にもできないメンバーシップ型の正規職員中心のシステムに純粋化していったことの帰結でしょう。1990年代以降の規制緩和政策の直接の帰結であるように見える物流や建設の世界も、それ以前に確立していた重層請負制度がその負の面をあらわにしていったという面があるでしょう。

ですから、この30年間の悲惨への批判は、それ以前の時代を「古き良き時代」と褒め称え、それへの回帰を希求するようなことによっては、何ら解決するものではない、ということが、じわじわとにじみ出るように描き出されてくるのが、本書の深い読み方といえるでしょうね。

 

 

 

 

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