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2023年11月

2023年11月30日 (木)

牛窪恵『恋愛結婚の終焉』@労働新聞書評

2d9c2dd009c19a459694cd5f3bc32e57246x400 月イチで連載している『労働新聞』の書評、今回は牛窪恵さんの『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)です。

【書方箋 この本、効キマス】第44回 『恋愛結婚の終焉』牛窪 恵 著/濱口 桂一郎

 岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」を打ち出しても、人口減少の流れは一向に止まらない。結婚した夫婦の子育て支援に精力を注入しても、そもそも若者が結婚したがらない状況をどうしたら良いのか。この袋小路に「恋愛と結婚を切り離せ!」という衝撃的なメッセージを叩き込むのが本書だ。

 でも考えてみたら、なぜこのメッセージがショッキングなのだろう。20世紀半ばまでの日本では、恋愛結婚は少数派で、大部分はお見合いで結婚に至っていたはずなのに。

 そこで著者が元凶として指摘するのが、近代日本に欧米から導入され、戦後開花したロマンティック・ラブ・イデオロギーだ。結婚には恋愛が前提条件として必要だという、恋愛と結婚と出産の聖なる三位一体が、結婚のあるべき姿として確立し、歌謡曲の歌詞や恋愛小説を通じて若者たちの精神を調教してきた。恋愛なき結婚などというのは、薄汚い計算尽くの代物のようにみなされてきた。戦後社会論の観点からすると、このイデオロギーが会社における社員の平等と家庭における主婦の平等を両輪とする戦後型性別役割分業体制の基礎構造をなしてきたのだろう。

 実際、昭和の歌謡曲は、男が「俺についてこい」と歌い、女が「あなたについていくわ」と歌うパターンがやたらに多い。そういうのを褒め称える歌を、みんなが歌っていたわけだ。

 ところが、今日の若者にとって、恋愛はそんなに望ましいものではなくなってきているようだ。恋人がいるという男女が減少しただけでなく、恋人が欲しいという男女も激減しているのだ。にもかかわらず、今日の若者たちは「恋人はいらない」、「恋愛は面倒」と考えながら、いずれ結婚はしたいと思い、そして結婚するなら恋愛結婚でなければならないと思い込んでいる。

 そこで、「恋愛と結婚を切り離せ!」というメッセージになるわけだ。そもそも、恋愛と結婚は一体どころか相反する性格のものなのではないか……と。

 そのあたりの感覚を、20歳代半ばの2人の女性の言葉が見事に表現している。曰く、「結婚で大事なのは、生活を続けられるサステナビリティ(持続可能性)でしょう。恋愛みたいな一過性の楽しみは、学生時代に済ませたから、必要ないんです」。「オシャレなレストランに詳しい男性は、結婚後に浮気するし、冷蔵庫の余り物でこどものご飯を作る能力もない。“恋愛力”なんて(結婚に)邪魔なだけ」。つまり、恋愛と結婚のニーズは180度違うというわけだ。

 かくして著者は、恋愛結婚の終焉を宣言する。曰く――そろそろ私たち大人がロマンティック・ラブの形骸化を認め、結婚と恋愛を切り離し、「結婚に恋愛は要らない」と若者に伝えてあげませんか?また結婚相手を決めかねている男女にも、「不要な『情熱』にこだわらず、互いを支え合える『よい友達』を探せばいいんだよ」と教えてあげませんか?――と。

 トレンド評論家の著者が、社会学、歴史学、進化人類学、行動経済学といった諸学問を渉猟してさまざまなネタを繰り出しながら、恋愛結婚という昭和の遺産からの脱却を説く本書は、軽そうで重く、浅そうで深い、実に味わいのある一冊に仕上がっている。

(牛窪 恵 著、光文社新書 刊、税込1034円)

ちなみに、この牛窪恵さん、かつて拙著『働く女子の運命』を地方紙で書評していただいたことがあります。今回はそのときのお礼を兼ねて。

 

 

 

 

2023年11月29日 (水)

スウェーデンモデルが危ない!

Ftcms_26e63759743c4171bcb6febc5362fa91 スウェーデンで大騒ぎになっているテスラのストライキですが、テスラ相手にストライキを打ってる最大労組IFメタルのニルソン会長がフィナンシャルタイムズに登場して、誉れあるスウェーデンモデルを守れ!と訴えています。

Union chief warns of Tesla threat to Sweden’s model

Marie Nilsson, the head of the IF Metall union behind the strike against Tesla, told the Financial Times that the famed Swedish model — developed in the 1930s — was at the heart of the country’s prosperity, with employers and unions taking joint decisions on the labour market.
“If you look at this in a long-term perspective, it could be a threat to the Swedish model. It’s really important for us,” she added.

テスラ相手にストライキを打っている労組IFメタルの会長マリ・ニルソンは、フィナンシャルタイムズ紙に、1930年代に発展した誉れあるスウェーデンモデルは、この国の繁栄の根幹にあり、使用者と組合が労働市場について共同で決定するものだと語る。「長期的な観点から見れば、今回の事態はスウェーデンモデルへの脅威です。これは我々にとって本当に重要なのです」

Postal workers’ refusal to deliver registration plates for new Tesla cars led the US carmaker to file twin lawsuits against the Swedish state and postal service on Monday asking judges to allow it to collect the licence plates directly from the Swedish Transport Agency. Musk, Tesla’s chief executive, had called the postal workers’ actions “insane” on Friday.
Tesla scored an initial victory when it won an interim judgment on Monday forcing the state to allow the carmaker to collect the registration plates for its new cars directly from the agency. 
However, in its separate case against the national postal service, the carmaker suffered a setback on Tuesday when a separate Swedish court ruled that it could not gain immediate access to any registration plates held by PostNord. The postal company will have three days to respond to Tesla’s arguments before the court makes a decision.

郵便労働者がテスラの新車のナンバープレートを配達するのを拒否したことで、米自動車会社は月曜日にスウェーデンの政府と郵便サービスを相手取って2つの訴訟を提訴し、スウェーデン運輸庁から直接ナンバープレートを入手できるように求めた。テスラのマスクCEOは金曜日に郵便労働者の行為を「正気じゃねえ」と呼んだ。

テスラは月曜日、ナンバープレートを直接運輸庁から入手できるという仮判決を勝ちとり、第一勝を挙げた。

しかしながら、郵便サービスに対する別の訴訟では火曜日に頓挫し、別のスウェーデンの裁判所は北欧郵便のもとにあるナンバープレートに直ちにアクセスすることはできないと判示した。

本ブログでも何回も述べてきましたが、誉れあるスウェーデンモデルにとって、テスラもけしからんし、EUの最低賃金指令も許せない代物です。

Nilsson said one big threat to the Swedish model was a new EU directive on the minimum wage, which would impose a level rather than leaving it to an agreement between employers and unions.

ニルソンが言うには、スウェーデンモデルへの大きな脅威の一つはEUの最低賃金指令で、使用者と組合の間の協約に委ねることなく一定の水準を強制しようとする。

スウェーデンモデルにおいては、賃金であれ何であれ労働にかかわるすべては労働協約で決めるべきであって、国家が介入するべきではないからです。

“If Tesla shows it’s possible to operate in Sweden without a collective agreement, then other companies could be tempted to do the same. We have a successful model in Sweden. We have tried to explain it. It’s very seldom this type of conflict arises,” Nilsson added.

「もしテスラが、スウェーデンで労働協約なしに操業することができるということを示したら、ほかの会社も同じことをやろうとするでしょう。我々はスウェーデンに成功したモデルを持っています。我々はそれを説明しようとしました、こんな類いの紛争が起こるのは滅多にないことなのです」とニルソン。

 

 

 

 

2023年11月28日 (火)

テスラがスウェーデン運輸庁と北欧郵便を提訴

11802357e1701148866184800x450 イーロン・マスクが自分のことを棚に上げて「正気の沙汰じゃねえ」と非難したスウェーデンの同情ストライキ騒ぎですが、テスラは労働組合がナンバープレートの郵送を拒否している北欧郵便と、その監督官庁である運輸庁を、スウェーデンの裁判所に訴えたようです。

Tesla takes legal action against Sweden over licence plate boycott

Tesla has decided to sue the Swedish Transport Administration and Postnord over the ongoing strike by IF Metall and other unions in Sweden, which has prevented the car giant from obtaining licence plates for its cars.

テスラはIFメタルと他のスウェーデン労組による現在進行中のストライキに関して、その車のライセンスプレートを入手することを妨げているとして、スウェーデン運輸庁と北欧郵便を訴えた。

話はますます面白くなってきました。スウェーデンの裁判所がテスラを勝たせるとは思えませんが、その上に行くとどうなるかわかりません。

これは、もしかしたらラヴァル事件再びか?とも思ったのですが、テスラはEU域内の会社じゃないので、EU運営条約違反にはならないような気もします。そこのところは、EU法の専門家の意見を聞く必要がありそうです。

 

 

 

 

鈴木安名『採用面接等におけるストレス脆弱性検討と手法』

_pdf 鈴木安名『採用面接等におけるストレス脆弱性検討と手法』(労働開発研究会)をお送りいただきました。

https://www.roudou-kk.co.jp/books/book_list/11332/

「なぜ職場のメンタル不調者が増えているのか?」
多くの人事担当者が悩む問題について、さまざまな職場事例に接した筆者が「果たして職場ストレスだけで発病するのか?」という問題意識のもと、職場ストレスとは別の原因、すなわち若年者の一部に共通するある種の「脆弱性(ストレス耐性が低いこと)」について分析し、人事労務管理上の対策を解説!
 採用面接や育成、評価、コミュニケーションでの具体的ノウハウ、役立つヒントなどをわかりやすく解説した他に類を見ない一冊です。職場での問題に取り組む人事担当者をはじめ、現代の若手人材を理解したい皆様にも広くおすすめいたします。

鈴木さんの考えでは、メンタル不調は職場のストレスだけではなく、本人のストレス脆弱性も重要な要因なのに、メディアの報道等によってややもするとストレス脆弱性が軽視されがちであり、そこにもっと関心を向けられるべきなのです。本書に引用されている多くの事例を見ると、確かに上司や回りにはどうしようもないストレス脆弱性全開の人々がけっこう多いようです。

ケース4 すすり泣く新人

 ある小売会社の経理部門に入社した新人です。10月のある日、たまたま課長が出張になったため、部長が部下たちの仕事をチェックしていました。ある男性の新人が定型的な書類の入力をしていたのですが、ファイルを間違えていたそうです。新人にはよくあることと思い、部長は「〇〇さん、入力する書類が違っているよ。別の〇〇〇というファイルを使って下さい」と特に感情を交えず伝えました。するとその場ですすり泣き始めた。子どもでいえば「えーん、えーん」というイメージです。とりあえずなだめていると、程なく泣き止みました。部長は間違いを指摘しただけで“すすり泣く”新人に、「自分のどこが悪かったのか?別に叱責したわけでもないし・・・ともかく恥ずかしくないのか?」と大変当惑したそうです。

 

 

労働図書館企画展示「労働組合機関紙の世界」

JILPT一階にある労働図書館では、明日から企画展示「労働組合機関紙の世界」を行います。

https://www.jil.go.jp/lib/exhibition/fy2023/2023_session2_poster.pdf

Kikaku

なお、前回の企画展示「千束屋看板と豊原又男」に関わって、来年1月16日に特別イベントとして、入船亭扇治師匠による、千束屋の出てくる落語の独演会をやります。

Rakugo

Chidukaya_20231128111201

 

ロボ解雇

25d433537f2be7c330d08c3e1bfb3e9c800x EUobserverに、「Platform workers could face 'robo-firing' under EU's AI rules」(プラットフォーム労働者はEUのAI規則の下で「ロボ解雇」に直面するぞ)という記事が載っています。

Platform workers could face 'robo-firing' under EU's AI rules

中身は、一昨年提案されたEUのプラットフォーム労働指令案について、理事会での議論がもっぱら労働者性の問題(どういう要件を充たせば労働者として認めるか)にばかり集中していて、アルゴリズムによるマネジメントの問題点にはほとんど議論されていないことに、欧州労連が異議を呈しているという記事なのですが、その中に「robo-firing」(ロボ解雇)というなにやら怪しげな新語が登場しています。

 According to the ETUI researcher, the text under negotiation could create ambiguity on the processing of personal data by the platform and would violate the GDPR by including the use of so-called 'robo-firing' — the dismissal of workers by automated decision-making systems.

欧州労研の研究員によれば、交渉中のテキストはプラットフォームによる個人データ処理に関して曖昧さを生み出し、いわゆる「ロボ解雇」-自動的な意思決定システムによる労働者の解雇の利用を含むことにより一般個人データ規則を侵犯しうる。

 

 

2023年11月27日 (月)

山越誠司『学び直しで「リモート博士」 : 働きながら社会人大学院へ』

0d40a5e4a645fc6b96e767d64ac0878e3 山越誠司『学び直しで「リモート博士」 : 働きながら社会人大学院へ』(アメージング出版)という本をお送りいただきました。

http://www.amazing-adventure.net/remote-hakase/

本書は、社会人が博士号を取得することを提言する内容になっています。簡単なことではありませんが、学び直しの一環で非常に使い道のある制度が大学院の博士課程です。博士号取得のプロセスを通じて、圧倒的な強みを確立する、そして他者と自分の居場所をズラして生きることができます。競争ではありません。
ビジネスの世界でも学術の世界でも同じです。競争をする技術やノウハウを学び実践するのではなく、自分だけのオンリーワンの分野を確立し、他者と協働するというのが目標です。その点、博士号を「道しるべ」とすることができます。
本書は、著者の体験談も含めて書かれていますが、できるだけ多くの方に参考となるよう普遍化した内容で構成されています。そして、博士号を取得する目的、失敗談、進学した経緯、博士課程のあり方、論文の書き方など、かなり幅広い内容となっていますが、混沌とした時代に、多くの方が自信をもって快活に生きていくための参考としていただければ幸いです。

この方の専門は損害保険等の金融サービスのようで、わたくしがコメントする内容ではないのですが、本書の中に拙著からの引用があります。ただ、その「ジョブ型人材で業界に所属する」のところでは、

濱口一郎『若者と労働』(中公新書ラクレ、2013年)によると、日本型労働市場を「メンバーシップ型」と呼び、欧米型労働市場を「ジョブ型」と呼んでいます。・・・

そもそも、メンバーシップ型、ジョブ型とは、必ずしも「労働市場」に限った話でもないのですが、それはまあいいとして、わたくしの氏名と著書名がいずれも少しずつ違っているようです。

 

 

 

 

 

鎌田耕一・長谷川聡編『フリーランスの働き方と法』

2473004001 鎌田耕一・長谷川聡編『フリーランスの働き方と法―実態と課題解決の方向性』(日本法令)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.horei.co.jp/iec/products/view/3294.html

 令和6年施行のフリーランス新法を網羅!
働き方の特徴や現状を整理しながら、個別問題について掘り下げ、方施策のあるべき姿を提示する。
フリーランスとして働く人は年々増加していますが、労働関係法制の適用がなく、報酬や待遇、業務災害に対する保護が与えられていないことが問題となっています。
そこで、今年4月にフリーランスの保護を目的とした新法が成立しました。
本書は、フリーランスの実態と特徴を踏まえて問題点を整理し、新法を含むフリーランスに係る関係法令の適用について解説します。
また、個別の課題に関する法政策のあり方について検討します。

というわけで、フリーランス新法の解説は100頁ほどで、下記目次にあるように、実に様々な法的観点からこの問題を論じています。

第1部 フリーランスをめぐる法政策の現状
 第1章 フリーランス 働き方の特徴と課題
 第2章 フリーランス新法の目的と内容
第2部 フリーランス保護の個別的課題
 第1章 フリーランスの法的地位について~労働基準監督行政における課題と対応を中心に~
 第2章 フリーランスの契約と民法ルール
 第3章 フリーランスと経済法(独禁法・下請法・フリーランス新法)
 第4章 フリーランスの報酬の支払確保と最低報酬規制
 第5章 フリーランスの安全衛生政策
 第6章 労災保険特別加入・医療保険
 第7章 フリーランスに対するハラスメント防止とワーク・ライフ・バランスの実現に向けて
 第8章 プラットフォームとフリーランス保護
 第9章 フリーランスの仕事の喪失時における所得保障制度の構築に向けた課題
第3部 フリーランスの実態と課題 
 第1章 フリーランス・トラブル110番の活動から
 第2章 文化芸術分野におけるフリーランスの実態と課題
第4部 まとめ フリーランス保護の未来
 第1章 各章の概要と相互関係
 第2章 フリーランス保護の未来
第5部 資 料 

 

2023年11月26日 (日)

今朝の朝日新聞「(フォーラム)60歳の崖」で二番煎じ茶

今朝の朝日新聞「(フォーラム)60歳の崖」に登場していますが、中身は11月8日の「耕論」の二番煎じ茶です。

(フォーラム)60歳の崖

 ■「同じ仕事なのに」年齢が生む格差と分断 60歳記者の実感
 今年4月に60歳になった。会社の給与制度は頭ではわかっていたものの、「60歳後」の最初の給与明細はやはり衝撃だった。仕事は同じなのにここまで下がるのか、というのが率直な感想だ。
 アンケートでも、60歳以降に給与が減ることについての意見は、「同じ仕事なのに給与が下がるのはおかしい」という内容が圧倒的に多い。さすがに雇用慣行として無理があるのではないか。
 そんな疑問を労働政策研究者の濱口桂一郎さんにぶつけると、「仕事が同じかどうかは関係ないんです」という答えが返ってきた。「日本の正社員の給与は、仕事の量や質ではなく、年齢や勤続年数といった『ヒト基準』で決まっています。仕事と給与がリンクしていないんです」
 確かに仕事量でいえば、40歳くらいのときが一番働いていた気がするが、当時が最も給与が高かったわけでもない。「ヒト基準」で給与が決まっていたのだから、「60歳から下がる」という「基準」が適用されても仕方がないというのもわからないではない。
 とはいえ、やはり釈然としない思いは残る。その背景には、高齢化による人手不足で60歳以降に求められる仕事量が増していることもあると思う。アンケートに「かつては半分隠居のような仕事しか期待されていなかった再雇用だが、現在は現役のときと変わらない働きを要求されている」という声があった。多くの人が感じていることではないだろうか。
 もちろん、60歳以降でも、誰もが不満だらけで働いているわけではないだろう。ベストセラー「ほんとうの定年後」の著者・坂本貴志さんは、データをもとに「60歳以降の仕事への満足度は、現役世代よりむしろ高い」と指摘している。給与は下がっても、仕事にやりがいを見いだし、生き生きと働く人は少なからずいるのだ。
 しかし今後、労働力不足がさらに深刻になれば、多くの人が65歳を超えて70歳過ぎまで働く時代が来るかもしれない。そのとき「60歳で給与が一気に減る」という世界的にも珍しい雇用慣行は、果たして持続可能だろうか。60歳から70歳まで低い給与で働く人たちが抱く不公平感は、さらに拡大するのではないかという気がする。
 正規雇用と非正規雇用の格差と分断については、多くの議論がされてきた。しかしいま、正規雇用で働いてきた人の間にも「年齢」による格差と分断が生まれ、大きくなりつつあることに、目を向けるべきなのかもしれない。
 (シニアエディター・尾沢智史)

 

 

2023年11月24日 (金)

「就職」概念の変更?

経済財政諮問会議から週20時間未満でも雇用保険を適用せよといわれて、一昨日(11月22日)の労政審雇用保険部会に案を示したようですが、

https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/001169702.pdf

雇用労働者の中で働き方や生計維持の在り方の多様化が進展していることを踏まえ、従来適用対象とされてこなかった週所定労働時間20時間未満の労働者について、雇用保険の適用を拡大し、雇用のセーフティネットを拡げることとしてはどうか。

仮に週所定労働時間 10 時間以上まで適用拡大した場合は最大約 500 万人が、15 時間以上まで適用拡大した場合は最大約 300 万人が新規適用となると見込まれる。

この適用拡大は、実は意外なところにも影響を及ぼします。

現状、週所定20時間の労働者を基準に設定されている
① 被保険者期間の算定基準(※1)
② 失業認定基準(※2)
③ 賃金日額の下限額、最低賃金日額(※3)
等については、適用拡大の範囲に対応したものとして見直すこととしてはどうか。

このうち②は、あまり知られていないかも知れませんが、雇用保険制度上の「就職」概念を変更してしまうものです。というのも、現在の業務取扱要領では、

https://www.mhlw.go.jp/content/001151898.pdf

就 職 と は 雇 用 関 係 に 入 る も の は も ち ろ ん 、 請 負 、 委 任 に よ り 常 時 労 務 を 提 供 す る 地位 に あ る 場 合 、 自 営 業 を 開 始 し た 場 合 等 で あ っ て 、 原 則 と し て 1 日 の 労 働 時 間 が 4 時間 以 上 の も の ( 4 時 間 未 満 で あ っ て も 被 保 険 者 と な る 場 合 を 含 む 。 ) を い い 、 現 実 の収 入 の 有 無 を 問 わ な い 。
自 己 の 労 働 に よ る 収 入 と は 就 職 に は 該 当 し な い 短 時 間 の 就 労 等 ( 「 以 下 「 短 時 間 就労 」と い う 。)に よ る 収 入 で あ り 、原 則 と し て 1 日 の 労 働 時 間 が 4 時 間 末 満 の も の( 被保 険 者 と な る 場 合 を 除 く 。 ) を い う ( 雇 用 関 係 の 有 無 は 問 わ な い ) 。 

と、1日4時間未満の就労は「就職」に非ずして自己の労働による収入なり、という扱いをしているのですが、そういうわけにはいかなくなるからです。仮に週所定10時間以上に適用拡大するとしたら、比例的に、1日2時間働けば「就職」にあたるとしなければならないでしょう。

これは、週10~20時間の拡大される短時間労働者だけの話ではなく、フルタイムも含むすべての労働者が失業した場合に、1日2時間だけでもプチアルバイトしたら、お前は「就職」しただろう、だから失業認定できないぞ、といわれてしまうということを意味します。公平原則からいって当然そうなります。

これは結構影響が大きいように思われます。「就職」と就職に当たらない自己の労働による収入とでは、次のように扱いが異なります。

失 業 の 認 定 を 受 け る べ き 期 間 中 に お い て 受 給 資 格 者 が 就 職 し た 日 が あ る と き は 、 就職 し た 日 に つ い て の 失 業 の 認 定 は 行 わ な い 。
ま た 、 そ の 期 間 中 に 自 己 の 労 働 に よ っ て 収 入 を 得 た 場 合 に は 、 そ の 収 入 の 額 に 応 じて 基 本 手 当 等 の 支 給 額 を 減 額 す る 場 合 が あ る 。

ハローワークの窓口では、かなりめんどくさいトラブルがあちこちで起こりそうではあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

家政婦の平均年齢68.9歳@『労務事情』

B20231201  『労務事情』12月1日号に、「家政婦の平均年齢68.9歳」を寄稿しました。

https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/romujijo/

 昨年9月29日の家政婦過労死事件の東京地裁判決は大きな反響を呼び、私も今年7月には『家政婦の歴史』(文春新書)を上梓したところです。政府も何らかの対応を迫られ、労働政策研究・研修機構に調査の要請を行いました。その調査結果が、去る8月1日の労政審労働条件分科会に示され、9月14日には『調査シリーズNo.230 家事使用人の実態把握のためのアンケート調査』として、JILPTのホームページにアップされています。・・・・

 

これがスウェーデン流のストライキ

Photo_20231124124701 イーロン・マスクがスウェーデンのテスラ社に対する全面ストライキに「正気の沙汰じゃねえ」と口走っているようですが、いやいやテスラ社の工場のストライキに港湾労働者から郵便局の職員までが同情ストを展開するのが、スウェーデンという国の国柄というものなんです。アメリカみたいに企業中心社会ではないので。

久しぶりにフィナンシャルタイムズから。

Tesla strikes in Sweden are ‘insane’, says Elon Musk

An escalating strike against Tesla by a group of Swedish unions has been branded “insane” by Elon Musk as the industrial action threatens to disrupt the US carmaker’s operations in other parts of Europe.

About 130 mechanics in Sweden, who belong to the IF Metall union and service the electric cars, went on strike last month after Tesla turned down their request for collective bargaining.

Dockworkers and car dealers have since refused to work with the brand, in sympathy strikes that threaten to harm the company’s business in Sweden and potentially further afield. The latest strike by postal workers means Tesla cars will not have their licence plates delivered to customers.

Musk, Tesla’s chief executive and a staunch critic of unionisation, wrote that the situation “is insane”, in a post on the X social media platform he owns.

Tesla has avoided collective bargaining in its global operations despite opening a factory in Germany, where auto unions are powerful.

“This has been a huge cultural shock to Elon,” said Matthias Schmidt, an independent European auto analyst. “He has gone out of his way to avoid unionisation, but this is a huge wake-up call.” 

郵便局の配達人が、テスラのナンバープレートの配達だけは拒否するというご丁寧な部分的同情ストライキをするというのは、日本はもとより、アメリカでも異様に感じられるでしょうが、でもスウェーデンではごく当たり前のことなのです。

とにかく組合なんて認めねえぞと、組織率8割の北欧にやってきて、団体交渉を拒否したりしたら、不当労働行為制度などというお上頼りの情けないものはなく、自力で、ということはつまり労働組合の総力を挙げて、そういうふざけた使用者は叩き潰す、というのがスウェーデンの労使関係システムなのであってみれば、まさにあらゆる産業に及ぶ労働組合の総力を挙げて、こういう行動に出るのが、スウェーデン流のストライキというものなわけです。

労使関係がお上頼りではなく自力救済ということは、つまりそういうことなのですから。

ミドルレンジ外国人労働者問題@WEB労政時報

WEB労政時報に「ミドルレンジ外国人労働者問題」を寄稿しました。

ミドルレンジ外国人労働者問題

 外国人労働者問題といえば、過去30年以上にわたってその焦点はもっぱらローエンド外国人労働者でした。とりわけ、現在法務省の外局である出入国在留管理庁の「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」(座長:田中明彦氏)で議論が進められ、もうすぐ結論が出て来年早々にも入管法の改正案が国会に提出されると見込まれている技能実習制度は、日本人非正規労働者を代替する有期低賃金労働力として長く活用されてきました。人権侵害の原因と指摘され続けてきた転籍制限についても、10月に示された最終報告書のたたき台では“1年経過+日本語試験合格で転籍可とする”という方向性が示されていますが、当分、外国人労働者を巡る議論は技能実習制度に代わる新たな制度の在り方に集中すると思われます。
 
 しかしながら、恐らく読者の多くにとって意外なデータではないかと思うのですが、現在日本で就労している外国人労働者の在留資格別人数(出入国在留管理庁の公表値)を見ると、・・・・・

 

2023年11月22日 (水)

ジョブ型雇用社会への小さな一歩?@『労基旬報』2023年11月25日号

『労基旬報』2023年11月25日号に「ジョブ型雇用社会への小さな一歩?」を寄稿しました。

 もうかなり前のことなので記憶から薄れつつあるかもしれませんが、今年の3月30日に、労働条件の明示に係る労働基準法施行規則の改正が行われました。また、今年の6月28日には募集時の労働条件明示に係る職業安定法施行規則の改正も行われています。これら改正省令はいずれも来年2024年4月1日から施行されることになっています。こうした改正がどういう流れで導入されることになってきたのかをごく簡単に振り返ってみましょう。
 まず、2012年末の総選挙で自由民主党が大勝し、第2次安倍晋三内閣が成立してすぐの2013年1月に規制改革会議が設置され、同年3月には雇用ワーキンググループが置かれました。同WGが示した検討項目には、解雇規制の項とは別立てで「勤務地や職務が限定された労働者の雇用に係るルールを整備することにより、多様で柔軟な働き方の充実を図るべきではないか」とあり、これがその後同WGでの議論の焦点となりました。同年5月の同WG報告や、同年6月の規制改革会議答申では、これがジョブ型正社員という名称で取り上げられ、無期雇用、フルタイム、直接雇用だけでなく、職務、勤務地、労働時間(残業)が無限定な日本の正社員のあり方を改革し、職務、勤務地、労働時間が特定されているジョブ型正社員に関する雇用ルールの整備を行うことを提起していました。ところが、同WGでの議論では、これが解雇しやすい労働者の創設という文脈で議論された面もあり、野党や労働組合から批判を浴びることとなったのです。
 同年6月の「日本再興戦略」では、この問題について「職務等に着目した『多様な正社員』モデルの普及・促進を図るため、成功事例の収集、周知・啓発を行うとともに、有識者懇談会を今年度中に立ち上げ、労働条件の明示等、雇用管理上の留意点について来年度中のできるだけ早期に取りまとめ、速やかに周知を図る。これらの取組により企業での試行的な導入を促進する」としています。これを受けて、2013年9月には厚生労働省に「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会(学識者10名、座長:今野浩一郎)が設置され、制度導入のプロセス、労働契約締結・変更時の労働条件明示のあり方、労働条件のあり方、いわゆる正社員との均衡のあり方、相互転換制度を含むキャリアパスなど、多様な正社員の雇用管理上の留意点について調査検討を行うこととされました。
 同懇談会の報告書は2014年7月に取りまとめられましたが、勤務地限定正社員、職務限定正社員、勤務時間限定正社員それぞれについて、効果的な活用が期待できるケースを示し、労働者に対する限定の内容の明示、事業所閉鎖や職務の廃止等への対応、転換制度、均衡処遇などについて具体的な提言を行っています。このうち解雇に関しては、事業所閉鎖や職務廃止の際に直ちに解雇が有効となるわけではなく、解雇法理の適用において、人事権の行使や労働者の期待に応じて判断される傾向があるとしています。こうして1回目の政策回路は非法令的な形で終わったわけです。
 一方、内閣府の規制改革会議は2016年9月から規制改革推進会議となり、2019年5月に「ジョブ型正社員(勤務地限定正社員、職務限定正社員等)の雇用ルールの明確化に関する意見」を公表し、同年6月の第5次答申に盛り込まれました。ここでは、「我が国においては、労働契約の締結時に、詳細な労働条件について明確な合意がなされないことがあり、企業の包括的な指示のもとで、自身の労働条件が曖昧なまま働いている労働者は少なくない」という認識に基づき、ジョブ型正社員の雇用ルールの明確化を求めています。具体的には、勤務地限定正社員や職務限定正社員等を導入する企業に対し、勤務地(転勤の有無を含む。)、職務、勤務時間等の労働条件について、労働契約の締結時や変更の際に個々の労働者と事業者との間で書面による確認が確実に行われるよう、①労働基準関係法令に規定する使用者による労働条件の明示事項について、勤務地変更(転勤)の有無や転勤の場合の条件が明示されるような方策、②労働基準法に規定する就業規則の記載内容について、労働者の勤務地の限定を行う場合には、その旨が就業規則に記載されるような方策、③労働契約法に規定する労働契約の内容の確認について、職務や勤務地等の限定の内容について書面で確実に確認できるような方策、等を求めているのです。
 その後2021年3月になって、厚生労働省は多様化する労働契約のルールに関する検討会(学識者7名、座長:山川隆一)を設置して、有期契約労働者の無期転換ルールの見直しと多様な正社員の雇用ルールの明確化等の検討を開始しました。翌2022年3月に同検討会は報告書をとりまとめました。そこでは多様な正社員の雇用ルールとして、予見可能性の向上等の観点から、多様な正社員に限らず労働者全般について、労働基準法第15条による労働条件明示の対象に就業場所・業務の変更の範囲を追加すること、変更を巡る紛争の防止等に資するよう、労働条件の変更時も第15条による労働条件明示の対象とすること、労働契約締結時に書面で明示することとされている労働条件が変更されたとき(①就業規則の変更等により労働条件が変更された場合及び②就業規則等の変更の範囲内で業務命令等により変更された場合を除く。)は、変更の内容を書面で明示する義務を課す措置が提示されています。
 この報告書を受けて、同年4月から労働政策審議会労働条件分科会(公労使各8名、分科会長:荒木尚志)でこの問題の審議が始まり、同年12月に「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について」報告が取りまとめられました。これに基づき、今年2月に省令と告示の改正が同分科会にかけられ、概ね妥当との答申を受けて、今年3月に省令と告示の改正が行われたわけです。
 これにより、労働基準法第15条の労働条件明示義務の対象事項を定めた労働基準法施行規則第5条第1項第1号の3の「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」に、「(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む)」という括弧書きが追加されました。もっとも、上記報告では多様な正社員に限らず労働者全般について、労働契約の内容の変更のタイミングで、労働契約締結時に書面で明示することとされている事項については、変更の内容をできる限り書面等により明示するよう促していくことが適当と書かれていましたが、労働条件変更時の明示義務については見送られ、引き続き検討とされました。これは、労働条件分科会の審議において、使用者側から、変更の範囲は人材の確保等に影響しうるため記載の仕方に細心の注意を払う必要があり、労働条件締結時と労働条件変更時の明示義務を同時に行うと企業の負担が大きいという意見が出されたためです。規制改革推進会議が望むジョブ型雇用ルールは、企業側にとってはあまり望ましいものではないという状況が窺われます。
 なお、これを受けて職業安定法第5条の3の募集時の労働条件明示義務の対象事項を定める職業安定法施行規則第4条の2第3項も今年6月に改正され、労働者の募集や職業紹介事業者が職業紹介を行う場合等において、求職者等に対して明示しなければならない労働条件として、同項第1号の「労働者従事すべき業務の内容に関する事項」に「(従事すべき業務の内容の変更の範囲を含む)」という括弧書きが追加され、また第3号の「就業の場所に関する事項」に「(就業の場所の変更の範囲を含む)」という括弧書きが追加されました。
 これらは、メンバーシップ型雇用社会の根本原理としての職務や配置の無限定性を闡明した東亜ペイント事件最高裁判決や日立製作所武蔵工場事件最高裁判決をひっくり返すようなものではもちろんありませんが、そのごくごく一部とはいえ、職務や配置の限定性をデフォルトルールとするような発想を導入したものとみることもでき、その意味ではジョブ型雇用社会への小さな一歩と評することもできるかもしれません。いずれにしても、既に締結された労働契約には適用されるわけではなく、来年4月1日以後の労働契約に適用される規定ですので、まずは気長に見守っていくべきでしょう。

 

2023年11月16日 (木)

規制改革推進会議で自爆営業に対する規制が議論

昨日(11月15日)の規制改革推進会議の働き方・人への投資ワーキンググループで、いわゆる自爆営業の問題が取り上げられたようです。

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2310_03human/231115/human01_agenda.html

事務局の提出した資料には、全部で21の自爆営業の事例が載っています。

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2310_03human/231115/human02_05.pdf

近年(2020 年以降)発生及び報道された自爆営業の事案について、報道や有識者からヒアリン
グした情報を元に、事務局が、自爆営業の態様や業態をもとに類型化し、整理した。
また、事務局が有識者(弁護士、社会保険労務士、労働法研究者等)からの意見を元に、各事
例の法的な整理についての意見を記載した。
これらの事例においては、使用者としての立場を利用して、従業員に不要な商品の購入を強
要する実態が散見され、これらの強要行為等のなかには、労働基準法違反、パワーハラスメント、
民法上の不法行為や公序良俗違反となる可能性がある行為もある。
ただし、自爆営業の実態そのものが体系的に整理・把握されておらず、それらの行為の法律
上の位置づけや違法性の判断基準等も必ずしも明確にされていないことや、民法上の不法行為
や公序良俗違反となる場合であっても立証が困難であることや行政上の制裁がないことから、現
実的な救済につながることは少なく、実態として放置されてきたと考えられる。
【自社商品購入要求】
(中古車販売店)
■事例1 入社時の半強制的な車の購入・保険の加入
■事例2 口頭での自動車の購入要求
(農協)
■事例3 自動車購入や共済加入の念書署名
(コンビニ)
■事例4 外国人労働者への季節商品の購入の強要
(飲食店
■事例5 注文ミスや作り間違えをした料理の購入
(アパレル)
■事例6 制服の購入の強制
【営業ノルマ未達分の買取要求】
(中古車販売店)
■事例7 自動車保険の自腹契約.
(農協)
■事例8 年 100 万円以上の共済等の自腹契約
■事例9 不必要な共済を労働者やその家族が自腹で契約
■事例 10 様々な商品の物販ノルマ達成のための自腹契約
(自動車販売店)
■事例 11 自爆営業による自己破産
(コンビニ)
■事例 12 食品ロスに係る廃棄コストの負担や仕入れノルマ達成のための自爆英領
■事例 13 収入印紙の自爆営業
■事例 14 アルバイトへの売れ残り商品の購入の強要
(飲食店)
■事例 15 大手回転寿司チェーン
(食品販売)
■事例 16 季節商品等の自爆営業
(アパレル)
■事例 17 制服の購入の強制と販売ノルマ達成のための自爆営業
(郵便局)
■事例 18 年賀はがきの自爆営業
■事例 19 本人や家族の保険加入
(エステサロン)
■事例 20 エステのコースの買取
(薬局)
■事例 21 ドラッグストア店舗の販売ノルマ未達成時の買取

また、弁護士の佐々木亮さん、POSSEの坂倉昇平さん、労働法学者の島田陽一さんがそれぞれに資料を出しています。どうでもいいことですが、佐々木さんの資料にはこの顔マークがちゃんと載っていました。

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厚生労働省からは、労基法16条、24条との関係やパワハラについての資料が、自爆営業やっているといわれている業界の監督官庁からもそれぞれ資料が出ていますね。

 

 

2023年11月13日 (月)

ジョブ型ブームの中でちらつく日本型雇用の欠陥@『月刊公明』2023年12月号

G112312500 『月刊公明』2023年12月号に「ジョブ型ブームの中でちらつく日本型雇用の欠陥」を寄稿しました。

https://komeiss.jp/products/detail.php?product_id=383

ジョブ型がまた流行している
 もう2年前になるが、2021年に『ジョブ型雇用社会とは何か』(岩波新書)という本を出した。2020年ごろからメディアでジョブ型という言葉が頻出するようになったが、その意味がきちんと理解されていないと感じたからだ。その結果、ジョブ型=成果主義といった誤解はかなり影を潜めたが、ジョブ型=職務給といったやや狭い理解が広がった。とりわけ、岸田政権下で進められる新しい資本主義の中では、「メンバーシップに基づく年功的な職能給の仕組みを、・・・ジョブ型の職務給中心の日本にあったシステムに見直す」と、職務給を唱道している。
 実は日本近代史において、職務給は繰り返し流行してきた。特に戦後は、1950年代から60年代にかけて、政府や経営団体は同一労働同一賃金に基づく職務給を唱道していた。ちょうど60年前の1963年、当時の池田勇人首相は国会の施政方針演説で「従来の年功序列賃金にとらわれることなく,勤労者の職務,能力に応ずる賃金制度の活用をはかるとともに,技能訓練施設を整備し,労働の流動性を高めることが雇用問題の最大の課題であります」と謳っていた。ところが日経連が1969年の報告書『能力主義管理』で職務給を放棄し、見えない「能力」の査定に基づく職能給に移行した。ところが「能力」は下がらないので、中高年層では人件費と貢献が乖離していく。そこで基本給の上昇を抑制するために1990年代に小手先の手段として導入されたのが成果主義だった。
 後述するが、欧米のジョブ型社会では職務に値札がついているので、そのままでは賃金が上がらない。そこで、「お前は成果を挙げているから」と個別に賃金を上げるために使われるのが成果主義である。成果を挙げた者の賃金を上げるのが欧米の成果主義だ。ところが四半世紀前に日本で導入された成果主義は、そのままでは(「能力」に基づく)年功で上がってしまう正社員の賃金を、「お前は成果を挙げていないじゃないか」と難癖をつけて無理やり引き下げるための道具として使われた。こんな制度がうまくいくはずがない。日本型成果主義は失敗に終わったが、問題は残ったままだ。そこで、人件費と貢献の不均衡の是正に再チャレンジしようとしているのが、現在のジョブ型ブームなのであろう。 

ジョブ型は実は古臭い

メンバーシップ型の毀誉褒貶

賃上げのジョブ型とメンバーシップ型

女性活躍とワークライフバランスの迷路

 

 

2023年11月12日 (日)

田中洋子編著『エッセンシャルワーカー』

636352 田中洋子編著『エッセンシャルワーカー 社会に不可欠な仕事なのに、なぜ安く使われるのか』(旬報社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

エッセンシャルワーカー

社会にとって不可欠な仕事(エッセンシャルワーク)の待遇はなぜこんなにも悪いのか。

あまり知られていないそれらの仕事の実態から、なぜ待遇悪化が起きているのか、それが私たちの社会にどう跳ね返ってくるのかをあきらかにする。
エッセンシャルワーカーの国際比較を通じて、現状を変えていくためのヒントも提言。

内容は以下の通りで、スーパー、外食といった民間サービス業、保育、教員、ごみ収集といった公的部門、看護、介護といった社会保障系ケアワーク、そしてトラックドライバー、建設現場、アニメーターまで、幅広く「エッセンシャルワーカー」をとらえて論じています。

序章  知られていないエッセンシャルワーカーの働き方  田中洋子
●第Ⅰ部 
スーパーマーケット、外食チェーンの現場
フルタイムとパートタイムの処遇格差‒‒—ドイツとの比較
第1章 日本のスーパー  三山雅子
第2章 ドイツのスーパー 田中洋子
第3章 日本の外食チェーン 田中洋子
第4章 ドイツのマクドナルド 田中洋子

●第Ⅱ部 
自治体相談支援、保育園、学校、ごみ収集の今
予算削減で進む公共サービスの非正規化
第1章 自治体相談支援員  上林陽治
第2章 保育士 小尾晴美
第3章 教員 上林陽治
第4章 ごみ収集作業員 小尾晴美

●第Ⅲ部
病院、介護の現場はどうなっているのか
女性が中心に担うケアサービスの過酷さ

第1章 日本の看護  田中洋子、袴田恵未
第2章 日本の訪問介護 小谷幸
第3章 ドイツのケア職(看護・介護) ヴォルフガング・シュレーダー、ザーラ・インキネン、田中洋子[監訳]

●第Ⅳ部
運送、建設工事、アニメーション制作のリアル
仕事を請け負う個人事業主の条件悪化

第1章 トラックドライバー 首藤若菜
第2章 建設業従事者 柴田徹平
第3章 アニメーター 松永伸太朗、永田大輔

●第Ⅴ部   
働き方はなぜ悪化したのか
そのメカニズムと改革の展望

第1章  「女・子ども」を安く働かせる時代を終わらせる  田中洋子
第2章  公共サービスの専門職を非正規にしない  田中洋子
第3章  市場強者による現場へのしわよせを止める 田中洋子

結語 田中洋子 

編著者の田中洋子さんが執筆している第Ⅴ部の冒頭で、上の問いに対して、1990年代以降に勧められた自由化政策をその元凶と指摘しているのですが、しかし(本書で対比されているドイツを含む)ヨーロッパ諸国も共通に経験したこの時代の流れが、日本だけで異なる現れ方をしたのはなぜかと言えば、それ以前の昭和時代の労働の在り方、社会の在り方が、改められることなく、むしろ頑固に維持されたことが理由というべきでしょう。

第Ⅰ部のスーパーや外食産業でなぜパートやアルバイトの低賃金労働が広範に広まったのかといえば、その前の時代に確立した成人男子正社員だけを守ればいいからと、「女・子供を安く働かせる」という社会規範が、成人男子の雇用が不安定化する時代の中でも逆にますます頑固に維持されたからですし、第Ⅱ部の公的部門での非正規化が急激に進行したのも、もともと終戦直後には職階制というジョブ型であったはずの公務員が、その後何でもできるが何にもできないメンバーシップ型の正規職員中心のシステムに純粋化していったことの帰結でしょう。1990年代以降の規制緩和政策の直接の帰結であるように見える物流や建設の世界も、それ以前に確立していた重層請負制度がその負の面をあらわにしていったという面があるでしょう。

ですから、この30年間の悲惨への批判は、それ以前の時代を「古き良き時代」と褒め称え、それへの回帰を希求するようなことによっては、何ら解決するものではない、ということが、じわじわとにじみ出るように描き出されてくるのが、本書の深い読み方といえるでしょうね。

 

 

 

 

文化的職業の労働条件

例によって文春砲から始まった宝塚少女歌劇の劇団員のいじめ自殺事件については、すでに山のような記事があふれていますが、労働法的にみると、劇団員が雇用労働者であれば、労働施策総合推進法第30条の2の問題であり、

(雇用管理上の措置等)
第三十条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。 

フリーランスであれば、未施行ですが、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律第14条の問題となります。

 (業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等)
第十四条 特定業務委託事業者は、その行う業務委託に係る特定受託業務従事者に対し当該業務委託に関して行われる次の各号に規定する言動により、当該各号に掲げる状況に至ることのないよう、その者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じなければならない。
一 性的な言動に対する特定受託業務従事者の対応によりその者(その者が第二条第一項第二号に掲げる法人の代表者である場合にあっては、当該法人)に係る業務委託の条件について不利益を与え、又は性的な言動により特定受託業務従事者の就業環境を害すること。
二 特定受託業務従事者の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものに関する言動によりその者の就業環境を害すること。
三 取引上の優越的な関係を背景とした言動であって業務委託に係る業務を遂行する上で必要かつ相当な範囲を超えたものにより特定受託業務従事者の就業環境を害すること。

本ブログではかつて「〇〇の労働者性」というエントリをいくつか書き並べたことがありますが、その中に、「タカラジェンヌの労働者性」というのもありました。

タカラジェンヌの労働者性

これは、古川弁護士には申し訳ないですが(笑)、歌のオーディションでダメ出しされた新国立劇場のオペラ歌手の人よりもずっと問題じゃないですか。

売り上げノルマ達成できないからクビなんて、まあ個別紛争事例にはいくつかありますけど、阪急も相当にブラックじゃないか。これはやはり、日本音楽家ユニオン宝塚分会を結成して、タカラジェンヌ裁判で労働者性を争って欲しい一件です。

ちなみに、こういうアーチストその他の文化的職業の労働条件の問題というのは、EUでも議論になっているようで、11月10日付の閣僚理事会文書にこんなのがありました。

Improving the working conditions for artists and other cultural professionals - Policy Debate

この文書の最後に、加盟国に対して次のような質問がされています。

1. In your country, what new or existing measures have been taken to improve the living and working conditions of artists, creators and cultural workers?

2. What aspects could be addressed at European level to achieve a basic common framework applicable to the working conditions of artists and cultural professionals, bearing in mind that it should facilitate the mobility of artists and cultural professionals as a positive achievement for the sector

1,貴国において、アーチスト、クリエイター及び文化的労働者の生活労働条件を改善するために新たな又は既存のいかなr措置がとられたか?

2,アーチスト及び文化的職業の流動性を促進することを脳裡において、アーチスト及び文化的職業の労働条件に適用される基本的な共通の枠組みを達成するために欧州レベルでのいかなる側面がとられうるか?

 

 

 

2023年11月 8日 (水)

本日の朝日新聞の耕論に登場

As20231108000152 本日の朝日新聞の「耕論」は、「賃金ダウン、60歳の崖」というテーマで、水町勇一郎さん、濱口桂一郎、坂本貴志さんの3人が登場しています。

https://www.asahi.com/articles/DA3S15787150.html

60歳を過ぎると、働き方は変わらないのに賃金が大きく下がるケースがめだちます。裁判でもこの問題の是非が争われました。「60歳の崖」にどう向き合うべきなのでしょうか。・・・・

ちなみに、私の部分はすでにネット版では公開されています。

https://www.asahi.com/articles/ASRC23W60RC2UPQJ004.html

  「同じ仕事なのに60歳で給料が下がるのはおかしい」という人がいるかもしれませんが、そもそも日本の正社員の給与は仕事にリンクして決まっていません。勤続年数や職能資格で決まる年功型で、仕事が同じかどうかは関係ない。
 この問題を難しくしているのは、年功型の考え方が変化したことです。
 もともとは生活給の側面を重視していました。年齢が上がると結婚して子どもができ、お金がかかるようになる。だから給料を増やせという発想で、主に労働側の要求によってできてきました。
 ところが、50年くらい前から企業側が、生活給ではなく能力給だと言い出した。長く勤めていれば一般的な職務遂行能力が高まるはずだから、それに応じて給与を払うという説明に変えたんです。
 生活給であれば、60歳を過ぎれば子どもも独立しているから下げてもいいだろうという話になります。ところが能力給だと60歳で一気に能力が落ちるわけでもないので、下げる説明がつかなくなってしまう。
 日本の雇用はメンバーシップ型です。社員として採用し様々な仕事をさせて、給与は勤続年数などで決まる。対置されるのがジョブ型で、ある職務をこなす技能をもつ人を採用し、給与は職務にリンクする。ジョブ型では上のポストに移らないかぎり給与は上がりません。右肩上がりのシステムではないので「60歳の崖」は生じません。・・・・

 

 

2023年11月 6日 (月)

視点・論点で「家政婦は「家事使用人」ではなかった」放送

本日のお昼、Eテレで視点・論点「家政婦は「家事使用人」ではなかった」が放送されました。
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https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/489102.html

昨年9月29日、東京地方裁判所のある判決が注目を集めました。家政婦の女性が寝たきり老人の介護と家事で1週間泊まり込みで働いた後、心疾患で死亡したのです。7日間の労働時間は、介護は31.5時間、家事は101.5時間でした。月換算すれば過労死基準を充足します。夫は労災補償を請求しましたが、不支給となりました。
その理由は「家政婦は家事使用人だから」というものでした。夫は裁判に訴えましたが、裁判所も同じ結論でした。

確かに、労働基準法第116条第2項には「この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない」と書かれています。家事使用人に労働基準法や労災保険法は適用されません。しかしながら、家政婦は本当に家事使用人なのでしょうか?誰も疑問を呈さなかったこの問題に、私は疑問を持ちました。

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というのも、今から76年前の1947年9月に労働基準法が施行されたときには、確かに家事使用人の適用除外規定は存在しましたが、それと並んで「派出婦会の派出の事業」が適用事業として明記されていたからです。派出婦とは、家政婦、付添婦など、まさに介護・家事を担う労働者のことです。その源流は、今から105年前の1918年に、東京市四谷区で大和俊子さんという方が始めた事業で、夫の出勤後暇な主婦が他の家庭で主婦代わりに働くシェアリングエコノミーとして始まったのです。当時、『婦人之友』を主宰する羽仁もと子が絶賛し、同業者が続々参入して、瞬く間に女中代わりに使われるようになりました。
これに対し、家事使用人とは本来女中のことでした。しかし、封建的家父長的な雇傭関係を嫌がって、1930年代には、女中になりたいという女性が減少し、女中払底が世間の話題になりました。当時のノンフィクションや小説には、そうした姿が多く描かれています。派出婦は彼女ら女中にとって憧れの存在だったのです。
一方戦前には、やくざまがいの人夫供給業がはびこっていました。何々組の親分が、監獄部屋といわれる劣悪な宿舎に労働者を押し込め、厳しい肉体労働の報酬から何重にもピンハネし、借金漬けにして、徹底的に搾取する悪辣な事業です。当時の行政官は、「こんな連中は速やかに殲滅すべきだ」とまで批判していました。

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そうした中で、1938年に職業紹介法が改正され、新たに労務供給事業が許可制の下に置かれることになりました。その中身は、ほぼ6割が人夫、雑役、職夫といった男性型肉体労働、約4割が家政婦、付添婦、看護婦といった女性型対人サービス労働でした。いわば、殲滅すべき悪逆無道の人夫供給業と、女中にとって憧れの的であった派出婦会とを、同一の規制枠組に放り込むものだったのです。
終戦後の1947年12月に施行された職業安定法は、この労働者供給事業を全面禁止しました。当時のGHQの担当官コレット氏は、これを日本の民主化のための大改革だと考えていました。悪辣な人夫供給業についてはその通りです。しかし、これによってそれまでまっとうに運営され、女中の憧れの的であった派出婦会も一緒に非合法化されてしまったのです。とはいえ、家政婦や付添婦を求める社会の需要を満たさなければなりません。そこで政府は、職業安定法で認められた有料職業紹介事業に「家政婦」を入れ込みました。これにより、それまで派出婦会に所属していた家政婦は、一般家庭に直接雇われているということになってしまったのです。
その3か月前に施行されていた労働基準法では、まだ派出婦会が合法の存在であったので、「派出婦会の派出の事業」が適用事業に明記されていたのですが、その数か月後には「派出婦会」は違法の存在になり、家政婦は家事使用人扱いされてしまうようになったのです。しかし、本来家政婦は女中と異なり、家事使用人ではありません。労働基準法の制定経緯からしてもそうですし、政府が5年ごとに実施してきた国勢調査でも両者は別の存在です。家事使用人は、国勢調査では親族と並んで「住込みの雇人」として雇い主の世帯の一員として計上されますが、家政婦は別の世帯に属するからです。女中は女中部屋に住み込んでいる世帯員であり、そこが住所ですが、家政婦は(泊まり込みはあっても)「住み込みの雇人」ではありません。過労死した方は夫と夫婦世帯ですし、テレビドラマの「家政婦は見た」に出てくる市原悦子演ずる家政婦は紹介所の自室で猫と同居していました。
職業安定法によって、家政婦は派出婦会ではなく一般家庭が雇い主だということにされましたが、それは現実の姿とはかけ離れていました。

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職業紹介事業というのは、求人者と求職者をその都度マッチングして手数料をもらえばそれきりのはずですが、現実の家政婦紹介所は家政婦たちを宿舎に住まわせ、注文を受けては家庭に派遣し、終われば紹介所に戻ってくるという仕組みです。まさに戦前の労務供給事業であり、1985年に解禁された労働者派遣事業そのものです。ところが、一般家庭が雇い主であって紹介所は使用者ではないという虚構を維持するために、たとえば1992年の介護労働法では、なぜか紹介所に求職者に対する福祉増進措置が義務付けられています。
家事使用人扱いされたために労災保険が適用されなくなった家政婦のために、政府は労災保険の特別加入という制度を用意しました。建設業の一人親方のように、現場で作業を行う自営業者のための制度に、れっきとした雇われている労働者を入れ込むこと自体がおかしな話です。さらに、その保険料をだれが払っているのかというと、家政婦紹介所が紹介手数料に上乗せして一般家庭に請求しているのです。つまり、法律上の使用者である一般家庭が負担し、実質的使用者である紹介所が納入しているというわけです。何というねじれた制度でしょうか。実際加入率は高くありません。
さて、昨年の家政婦過労死事件判決を受けて、NPO法人POSSEは、ネット上で「家事労働者に労基法・労災保険の適用を! 1週間・24時間拘束労働で亡くなった高齢女性の過労死を認定してください!」というオンライン署名運動を展開しています。加藤前厚生労働大臣も、必要であれば労働基準法改正も検討すると表明しています。しかし、労働基準法第116条第2項を削除しただけでは、家事使用人とされている家政婦に労働基準法と労災保険法は適用されません。

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なぜなら、労働基準法第9条は「労働者」を「事業に使用される者」と定義し、「使用者」を「事業主又は事業の経営担当者」等と定義しているからです。「事業」でなければ、労働基準法は適用できません。その実態に反して一般家庭を雇い主とし続けている限り、労働基準法と労災保険法は適用できないのです。
労働基準法制定時の「派出婦会の派出の事業」を正面から認めない限り、紹介所という第三者によるその都度の紹介行為だという虚構を維持し続けている限り、彼女たちが救われることはありません。長年の虚構を捨て、家事・介護の労働者派遣事業であると正面から認めることが、彼女たちを救う唯一の道なのです。

 

 

 

樋口美雄・田中慶子・中山真緒編『日本女性のライフコース』

29210 樋口美雄・田中慶子・中山真緒編『日本女性のライフコース 平成・令和期の「変化」と「不変」』(慶應義塾大学出版会)をお送りいただきました。

https://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766429213/

定点観測が示す新たな展開

適齢期に結婚し、専業主婦になるという昭和の画一的な女性の生き方は、平成のめまぐるしく移り変わる時代の中で多様化したといわれるが、何が変わり、何が変わらなかったのか。
女性にとっての結婚・出産・育児、キャリア形成、非正規雇用などの働き方、夫婦関係のバランス、家計行動などの諸相を、30年に及ぶパネル調査から多角的に読み解く興味深い内容を満載。
性別役割分業をベースとした考え方が根深く残る日本の実態を直視し、この問題からどう脱却すればよいのか、格好の材料を提供。
女性の働き方や生き方は、平成・令和期において、昭和の慣習からどれだけ変貌を遂げたのか? また、いまだに変わっていないのは、どんな事柄なのか? 長期追跡調査から、女性のライフコースの多様性を分析・解説する。

目次は以下の通りですが、

【第Ⅰ部 総論】
序 章 日本女性のライフコースの何が変わり、何が変わっていないのか(樋口、中山)
第1章 日本女性にとって高学歴化の意味は変わったのか――世代間・学歴間のライフキャリア比較(樋口、中山)

【第Ⅱ部 結婚・家族】
第2章 親元同居で「豊かな生活」は可能だったのか――35歳時未婚者の生活の世代比較(田中)
第3章 未婚化・晩婚化で「夫婦関係」はどう変わったのか(田中、永井)
第4章 結婚で生活は豊かになるのか――初婚・離婚・再婚による生活の変化(斉藤)

【第Ⅲ部 家事・子育て】
第5章 性別役割分業意識の強さと出生率――質と量のトレードオフは今も成立しているのか(坂本)
第6章 育児休業制度の効果はどこにみえるのか――働き方、賃金と夫婦の家事・育児分担の変化(中山)
第7章 女性の家事・育児時間は短くなったのか――時系列の世代間比較(西村)

【第Ⅳ部 家計】
第8章 経済停滞による夫収入の低下と妻収入の家計への貢献(坂口)
第9章 日本における女性の「家計内交渉力」の変遷(小原、阪本)
第10章 日本の家計は本当に貯蓄しなくなったのか(小原、ホリオカ)

どの章も興味深いですが、ここでは序論の最後のところの一節を引いておきましょう。この問題意識が本書全体にわたるものだと思うので。

・・・これらの課題を議論する上では、この30年において変化した面だけでなく、十分に変化してこなかった面についても注目する必要があろう。雇用機会や仕事と子育ての両立を支援するさまざまな政策は、いずれも企業の制度改革に働きかけてきたものであり、人々の考え方、行動に直接影響してきたものは少ない。本章で検討した世代に見る限り、依然としてわが国における人々の性別役割分業意識は強く、実際の行動を見ても、家庭内労働の多くを今も女性が担っている。企業においても未だにそうした意識は残っていることは否定できず、これは女性の就業・キャリア形成を難しくしている面がある。同時に、男性社員を前提に構築されてきた雇用慣行や人事管理制度、働き方に堪えうる女性であれば、活躍の場を用意するといった企業が依然として多く、こうした視点から制度改革や運用を変更した企業は多くないことは気にかかる。・・・

 

 

 

 

 

 

厚生年金基金制度の歴史-公的年金と企業年金の性格を併せ持つ制度の半世紀@『月刊企業年金』11月号

Vol_514 企業年金連合会の機関誌『月刊企業年金』11月号の「視点」に、「厚生年金基金制度の歴史-公的年金と企業年金の性格を併せ持つ制度の半世紀」を寄稿しました。

https://www.pfa.or.jp/activity/shuppanbutsu/shuppanbutsu06.html

1 はじめに
 厚生労働省の「厚生年金基金の財政状況等」によると、2021年度における厚生年金基金数は5件にまで減っている。2013年の厚生年金保険法改正により、新規設立ができなくなってからほぼ10年になる。日本の企業年金の歴史において、公的年金の一部を代行するという半公的性格を持った厚生年金基金の波瀾万丈と毀誉褒貶は、公的年金と企業年金はそれぞれいかにあるべきかという問題を考える上での存在意義はなお極めて大きいものがある。・・・

2 退職金という前史
3 1965年改正に向けた日経連の議論の展開
4 厚生年金基金制度の創設
5 企業年金制度の見直し
6 厚生年金基金制度の廃止

 

2023年11月 3日 (金)

役人の性なのか(笑)

51sgqlf3yol_sx310_bo1204203200__20231103084401 読書メーターに、Inzaghicoさんの拙著『家政婦の歴史』への短評が載っているのですが、

役人の性なのか(笑)、規則や法律の条文が多く、素人は読んでいてクラクラしてくるが、冒頭と最後に著者の論旨が簡潔にまとめられている。そして不当な扱いを受けてきた、否、今も受けている家政婦を『「正義の刃」の犠牲者』と評している。戦前戦後の悪徳人夫供給業者を罰して正すという試みの巻き添えを食ってしまったのが、家政婦だった。彼女たちが、そのモデルが生まれた当初の派出婦会からの派遣、というままでいられたら、そんなことにははらなかった。

「役人の性なのか(笑)」と言われちゃいましたが、いやそれは否定しませんが、そもそも警視庁令派出婦会取締規則などというその存在自体が完全に忘れ去られていた代物を掘り出してきたので、それを皆様にご披露したいというのは、私はいち歴史研究者としての妄執といった方がいいと思われます。

14476_ext_01_0_20231103085101 ちなみに、今書店の店頭に並んでいる『週刊東洋経済』11月4日号に載った「話題の本」の最後のところで喋っていることですが、この本を書けたのは、国立国会図書館のデジタルコレクションがあったからなんですね。

『週刊東洋経済』11月4日号

――本書の執筆に戦前の公的文書から婦人雑誌まで資料を駆使しています。どう探したのですか。

 国会図書館のデジタルコレクションがあったからできた本なんです。所蔵資料がデジタル化されているため、「派出婦会」といったキーワードで全文検索できます。多くの資料は自分のパソコンで閲覧でき、館内限定のものでも申請手続きは簡単です。

 これまでは歴史の専門家でなければ調べる拠り所がありませんでしたが、掘り出せるようになりました。誰も関心を持たず、誰も覚えていない事柄を、何かの資料にちらっと描かれた断片を拾い上げて再構成できる。すごいことです。

 この本でひもといた家政婦の歴史には、労働の専門家も目を向けていなかった。そのような盲点はあちこちにあるのかもしれません。

 

 

2023年11月 2日 (木)

NHK視点・論点の放送予定

Y5p47z7yvweyecatch_d0ac288fb2c655ecbfc6d NHKの番組「視点・論点」の放送予定に、私の「家政婦は「家事使用人」ではなかった 」がアップされました。

https://www.nhk.jp/p/ts/Y5P47Z7YVW/schedule/

視点・論点 家政婦は「家事使用人」ではなかった

(NHKEテレ1・東京)11月6日(月)午後0:50~午後1:00(10分)

(NHK総合1・東京)11月7日(火)午前4:00~午前4:10(10分)

去年9月の東京地裁判決で、ある家政婦が介護や家事の長時間拘束で死亡した件について労災が認められなかった。なぜ法で守られないのか、その背景と今後何が必要かを語る。

 

栄剣『現代中国の精神史的考察』@『労働新聞』

61sftprjol277x400 例によって『労働新聞』に月イチで連載の書評ですが、今回は栄剣『現代中国の精神史的考察』(白水社)です。

【書方箋 この本、効キマス】第40回 『現代中国の精神史的考察』栄 剣 著/濱口 桂一郎

 次の台詞はどこの国のどういう勢力が権力掌握前に繰り出していたものか分かるだろうか。

 「民主がなければすべては粉飾だ」、「民主を争うのは全国人民の事柄だ」、「民主主義の鋭利な刀 米国の民主の伝統」、「思想を檻から突破させよ」、「中国は真の普通選挙が必要だ」、「民主が実現しなければ、中国の学生運動は止まらない」、「天賦の人権は侵すことはできない」、「一党独裁は至る所で災いとなる」、「誰が中国を安定させられないのか?専制政府だ!」。

 これは、中国共産党が抗日戦争勝利前後に『解放日報』と『新華日報』に発表した憲政に関する主要な言論を、一切手を加えず原文を再現したものだ。もちろん現在の中国共産党は、こんな恥ずかしい「黒歴史」はひた隠しにしている。

 「民主」を掲げて「共産」を売りつけた後はもっぱら「専制」でやってきた革命の元勲の二世たち(中国でいう「太子党」)の政権にとって、こんな都合の悪いことばかり書かれた本の出版を許すはずはない。本書の原著は、アメリカで出版された中国語の本だ。かつてなら香港辺りで出版されていたのだろうが、今の香港ではもはや不可能なのだろう。著者の栄剣氏は1957年生まれのマルクス主義哲学者。天安門事件で研究を断念し、画廊を経営しながら中国国内で言論活動を展開してきた希有な人だ。その鋭い筆鋒は習近平政権の本質を容赦なく抉り出す。

 初めの4章は習政権成立直前にスキャンダルで倒れた薄熙来の「重慶モデル」を賞賛していた権威主義学者たちの醜態をこれでもかと暴く。革命歌を唱い(「唱紅」)、汚職を摘発(「打黒」)して権力を強化する文革の再来ともいうべき重慶モデルは、薄夫妻のスキャンダルで幕を閉じたが、その本質は同じ太子党の習近平政権に受け継がれていることがよく分かる。

 権力の座を脅かす可能性のある者をことごとく排除してイエスマンで固めた独裁者のアキレス腱は、ずばり後継者問題だと著者は指摘する。独裁者・毛沢東死後の政治危機を経験した鄧小平らが作り上げた任期制(国家主席は10年まで)、隔世決定制(現職の総書記ではなく前任の総書記が次期総書記の人選を行う)、儲君制(皇太子を決めておく)という3原則は、習近平によってことごとく破壊された。

 しかし、そこにこそ破滅の源泉が埋め込まれている。栄剣曰く「憲法改正により長期政権ひいては終身政権に対する法律の妨げが一掃され、反腐敗運動により党内の誰をも戦々恐々とさせる恐怖によるバランス調整を行い、軍隊をがっちりと押さえることにより個人独裁の拠るべき存在としての国家の暴力機械を掌握し、あからさまな個人崇拝により党内で提灯持ちを競っておもねりへつらう皇帝賛美文化を作り上げ、さらに一歩進んでビッグデータなど最先端のITを掌握することにより前例のない政治デジタル全体主義帝国を作り出している。しかし、これらすべては、いずれも党権主義が直面する究極的な権力の難局を有効に解決することができない。それはすなわち、後継者の問題を最終的に解決することができないために、権力の制御システムが遅かれ早かれ崩壊する日が来るのである」と。そろそろ不老不死の妙薬を探しに徐福を蓬莱国に送り出す時期かもしれない。

 

 

2023年11月 1日 (水)

第28回厚生政策セミナー「時間と少子化」のご案内

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