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2023年10月

2023年10月29日 (日)

「家政婦は見た!」には皆が気づかないズレがある『東洋経済』

Img_2a36e2806310eaa0c95f2bb6dc9992e21294 明日発売の『週刊東洋経済』11月4日号に掲載される「話題の本 著者に聞く」が、プライングで今晩東洋経済のサイトにアップされたようです。

聞き手は黒崎亜弓さん。

https://toyokeizai.net/articles/-/711081

──これまで「メンバーシップ型」「ジョブ型」と雇用システムを大きな枠組みで捉えてきた濱口さんが、ピンポイントで家政婦を取り上げるとは意外でした。

労働問題のメインストリームから見れば傍流のトピックかもしれません。でも自分としては、ジョブ型雇用について論じることと焦点の合わせ方が大きく違うとは思っていないんです。家政婦という存在は小さなものだけれど、その小さな穴からのぞき込んで見えてくる映像には広がりがあります。・・・・

 

2023年10月27日 (金)

『週刊東洋経済』11月4日号で「話題の本」に登場

14476_ext_01_0 来週月曜の10月30日発売の『週刊東洋経済』11月4日号で「話題の本」に登場しています。

https://str.toyokeizai.net/magazine/toyo/20231030/

|話題の本|『家政婦の歴史』著者 濱口桂一郎氏に聞く ほか

なお、11月6日、7日には、NHKの「視点・論点」にも出る予定です。

 

 

 

2023年10月25日 (水)

争議行為を伴う争議の件数65件@『労務事情』

B20231101  『労務事情』11月1日号に「争議行為を伴う争議の件数65件」を寄稿しました。

 去る8月31日、大手百貨店そごう・西武の旗艦店である西武池袋本店で1日ストライキが行われ、マスコミの注目を集めました。わたしも引っ張り出され、・・・・

今争議件数の話をするのであれば、今朝方遂に労働者側の勝利で終わった戦前の松竹少女歌劇団の桃色争議でも持ち出していたかも知れませんね。

 

 

 

2023年10月24日 (火)

新しい時代の働き方と労働法制の未来@WEB労政時報

WEB労政時報に「新しい時代の働き方と労働法制の未来」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers/article/85891

 去る10月13日、厚生労働省労働基準局の「新しい時代の働き方に関する研究会」の最終会合が開かれ、報告書が確定しました。今回はこの報告書に基づいて、今後の労働法制の行方を考えてみます。実は、この研究会には、このHR Watcherの執筆陣である中村天江さん(連合総研主幹研究員)と、伊達洋駆さん(ビジネスリサーチラボ代表取締役)も参加していますので、彼らから紹介いただいたほうがいいのかもしれません。しかし、厚生労働省によると、今後この報告書に基づいて労働法研究者を中心とする新たな研究会を立ち上げ、やがて具体的な労働立法につなげていく予定だということなので、将来どういう労働法制につながっていくのかという観点から解説することにも若干の意味があると思われます。・・・・

2023年10月23日 (月)

『週刊東洋経済』10月28日号に登場

14462_ext_01_0 本日発売の『週刊東洋経済』10月28日号は、見ての通り「地獄の役職定年・定年後再雇用」が特集ですが、その中にわたくしも登場しております。

https://str.toyokeizai.net/magazine/toyo/

サラリーマン人生の終わりが見え始める50代。「定年後はリタイアしてゆっくり」などと考えていては、役職定年で年収3割減、さらに定年後再雇用で5割減となるなど、家計はあっという間に火の車、「地獄行き」は必至です。本特集ではサラリーマン人生の終盤の奈落である役職定年・定年後再雇用の厳しい実情を赤裸々に描きつつ、中高年社員の活用で大手企業が続々採用しているジョブ型雇用の失敗しない導入法を紹介しました。シニア起業に成功するためのテクニックなど、組織に縛られない働き方の現実にも迫りました。

part1 役職定年・再雇用の地獄
年収激減、待遇も不満だらけ サラリーマン人生 終盤の奈落
基本給格差訴訟で最高裁判決 変わらない再雇用者の不遇
[ケーススタディー] 想定以上の収入減で火の車 定年一家の悲惨な家計簿
[コラム] 時代に逆行? 公務員に「役職定年」の衝撃
定年後、何も残っていない… 競争に邁進した中高年社員の煉獄

part2 50代からの新しい働き方
中高年の社員を使い倒せ 続々導入のジョブ型雇用
[インタビュー] ジョブ型の狙いは中高年 労働政策研究所長 濱口桂一郎
先行する3社の現実 運用工夫も定着途上 ジョブ型の「現在地」
運用負荷、管理職スキル不足 名ばかりジョブ型は失敗しかねない

4446人読者アンケートでわかった 役職定年・定年で変わる年収と満足度
読者の声「役職定年、定年に対して私が思うこと」

part 3 組織に縛られない働き方
窓際からベストセラー作家へ 大江英樹が語る起業のススメ
[コラム] 定年前後に急に始めてはダメ やってはいけない5つのこと

転職、独立… アラフィフで生き方を変えた成功者たち
[コラム] 100社応募で返信は3社 狭き門の「シニア転職」

いきなり資格は危ない! 失敗しないシニア起業術
資金面でも安心! 国や地方自治体もシニア起業を支援
知見や経験を後進に伝える 定年後4番目の選択肢 職業としての「顧問」
[コラム] 人手不足の救世主 アルムナイという働き方

わたくしのインタビューのあとに、富士通、資生堂、日立の3社の実例を挟んで、石黒太郎さんの論考も載っています。サンドイッチ方式というべきか。

なお、次号(11月4日号)も注目しておいてください(謎)。

 

 

 

 

 

最低賃金の日給と時給@『労基旬報』2023年10月25日号

『労基旬報』2023年10月25日号に「最低賃金の日給と時給」を寄稿しました。

 今年2023年は、最も高い東京都の地域最低賃金が1113円、最低の岩手県が893円となり、全国加重平均は1004円と初めて千円を超えました。さらに岸田首相が8月の新しい資本主義実現会議で、2030年代半ばまでに全国加重平均1500円を目指すと発言したことも話題を呼んでいます。しかしこの最低賃金が千円とか千五百円というのは、今から半世紀前にも飛び交っていた数字です。もちろん、時給ではありません。当時の最低賃金は日給建て表示だったのです。労働省/厚生労働省の『最低賃金決定要覧』各年度版によって過去半世紀の地域最低賃金の推移を見ると、日給表示が原則で、括弧書きで短時間労働者用に時給表示が附記されるという形でした。その後日給表示と時給表示が併記されるようになり、21世紀に入って日給表示が廃止されて時給表示のみとなったことがわかります。
 というか、今から半世紀前の1973年というのは、最低賃金はそれまでの業者間協定方式の流れを汲む産業別最低賃金が中心であって、ようやくすべての都道府県で地域最低賃金が設定されたのは1975年度からです。たとえば1973年度には東京都も大阪府は入っていません。この表で、最高値の欄はほとんど東京都ですが、初期には大阪府の方が若干高かったことがあります(正確には、日給表示では大阪が高く、時給表示では東京が高かった)。一方最低値の欄は、近年はほぼ沖縄県ですが、初期には東北諸県や鹿児島県のこともあり、直近の2023年度は岩手県でした。
年度
 
日給表示 時給表示
最高値 全国加重平均 最低値 最高値 全国加重平均 最低値
1973    1120       910     140       114
1974    1450           1015   181.25       127
1975    2064           1650     260       205
1976    2264           1900     310      237.5
1977    2481           2086     345            261
1978    2636           2226     365            279
1979    2796           2372     382            297
1980    2991           2541     405            318
1981    3182           2707     422            339
1982    3352           2858     442            358
1983    3458      2951     452            369
1984    3564     3357    3044     463      423     381
1985    3691     3478    3155     477      438     395
1986    3801     3583    3251     488      451     407
1987    3884     3666    3323     497      461     416
1988    4000     3776    3424     508      474     428
1989    4160     3928    3564     525      492     446
1990    4357     4117    3738     548      516     468
1991    4570     4319    3923     575      541     491
1992    4762     4501    4090     601      565     512
1993    4910     4644    4220     620      583     528
1994    5028     4757    4322     634      597     541
1995    5144     4866    4424     650      611     554
1996    5252     4965    4521     664      623     566
1997    5368     5075    4625     679      637     579
1998    5465     5167    4713     692      649     590
1999    5514     5213    4757     698      654     595
2000    5559     5256    4795     703      659     600
2001    5597     5292    4829     708      664     604
2002           708      664     604
2003           708      664     605
2004           710      665     606
2005           714      668     608
2006           719      673     610
2007           739      687     618
2008           766      703     627
2009           791      713     629
2010           821      730     642
2011           837      737     645
2012           850      749     653
2013           869      764     664
2014           888      780     677
2015           907      798     693
2016           932      823     714
2017           958      848     737
2018           985      874     762
2019          1013      901     790
2020          1013      902     792
2021          1041      930     820
2022          1072      961     853
2023          1113     1004     893
 さて、ではなぜ2002年度から日給表示が消えてしまったのでしょうか。これは、2000年12月15日の中央最低賃金審議会目安制度のあり方に関する全員協議会報告で打ち出されたものなのです。ただ、その考え方は既に1981年7月29日の中央最低賃金審議会答申「最低賃金額の決定の前提となる基本的事項に関する考え方について」において示されていました。すなわち、そこでは「表示単位としては、賃金支払形態、所定労働時間などの異なる労働者についての最低賃金適用上の公平の点から、将来の方向としては時間額のみの表示が望ましいが、当面は、現行の日額、時間額併設方式を継続する」とされていました。それから約20年経って、日給表示をやめてしまう際には、次のようにやや詳しくその理由が説明されています。
・・・しかしながら、昭和56年から約20年を経過した今日、就業形態の多様化はさらに進展しており、パートタイム労働者の比率は、昭和56年の10.2%から平成11年には21.8%と倍加するなど、賃金支払形態が時間給である者は増加し、また、一日の所定労働時間の異なる労働者が増え、そのばらつきは増加傾向にある。さらに、実際に最低賃金の影響を受ける労働者の就業実態を見ると、主に賃金支払形態が時間給のパートタイム労働者が多くなっている状況にある。
 従って、このような経済社会情勢の変化の方向性を見据え、最低賃金運用上の公平の観点及び実情を踏まえれば、表示単位期間については、現行の日額・時間額併用方式から時間額単独方式へ一本化することが適当である。
 最低賃金法制定の歴史をたどると、それが中卒労働者の初任給の規制を念頭に置いたものから始まったことがわかります。つまり正規労働者層の最低限を下支えするものという位置づけであったわけです。ところが、次第にパート、アルバイトなどの時間給による非正規労働者が拡大してくるとともに、正規労働者の初任給は最低賃金よりも遙かに上方に位置するようになり、最低賃金によって直接左右されるのは主として非正規労働者層の方になり、その結果日給表示はあまり意味のないものとなっていき、時給表示の方が適切だと意識されるようになってきたということでしょう。
 ところが、過去十数年間にわたって地域最低賃金が大幅に引き上げられてきたことから、近年正規労働者の初任給が最低賃金に追いつかれるという現象が起こっているようです。連合集計による2023年春闘結果では、基幹的労働者の定義を定めている場合の企業内最低賃金協定の妥結・回答額は、単純平均で月額17万2339円、時間額で1068円であり、基幹的労働者の定義を定めていない場合は、平均で月額17万937円、時間額は1000円だったそうです。時代が一回りし、最低賃金が正規労働者の最低限であった時代に逆戻りしつつあるのかも知れません。そうすると、専ら非正規労働者用ということで時給表示に一本化してしまったことについても、改めて見直す必要が出てくる可能性もあるかも知れません。

 

2023年10月21日 (土)

決戦・日本シリーズ

20231003155343229675_593f269b50938ec648a 1974年の早川SFコンテストで選外佳作に選ばれたかんべむさしの「決戦・日本シリーズ」は、阪神タイガースと阪急ブレーブスが日本シリーズで対戦するという奇想天外の小説でしたが、現実世界ではこの両チームが日本シリーズで対戦することはなく、永遠の空想非科学小説にとどまっていたのですが、遂に今年になって、阪急の後継チームたるオリックスバファローズと阪神タイガースの阪神間両チームによる日本シリーズは実現する運びになったようです。

 

桃色争議

G7736 朝の連続テレビ小説「ブギウギ」は、いよいよ桃色争議が佳境に入っていくようですが、そういえば2年前に紹介した『日本人の働き方100年 定点観測者としての通信社』に、この桃色争議の写真があったのではないかと思い出しました。

テレビでは「梅丸少女歌劇団」となっていますが、もちろんこれは現実に存在した松竹少女歌劇団のことです。この少女たちが、1933年(昭和8年)に起こしたのが、有名な桃色争議です。

『日本人の働き方100年 定点観測者としての通信社』に載っているこの写真は、東京の水ノ江滝子を中心とする争議団で、大阪の三笠静子(テレビでは福来スズ子)らが参加したものではありませんが、でも当時の争議の雰囲気が良く伝わってきます。

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多くの人は勘違いをしていますが、戦時体制下に近いこの時代でも、今日に比べると遙かに多くの労働争議が起こっていたのです。

この1933年には、全国で1897件の争議が起こり、115、733人が参加していました。今日のスト絶滅に近い状態とは対照的です。

それだけではなく、この時代には、こうした芸能人が労働者としてストライキをするということに対して、誰も疑問を呈することがなかったということも、今日改めて考え直す必要がありそうです。

芸能人は労働者に非ず、自営業者なり、というおかしな理屈がまかり通って、労働者としての権利を行使することもできなくなっている今日のおかしな状況を考え直す上で、1933年という戦争直前の時期に少女歌劇団の少女たちが起こしたストライキが提起するものがかなり大きなものがあるはずです。

(参考)

芸人は民法上れっきとした雇傭契約である件について

第12章 雇傭及ヒ仕事請負ノ契約

第1節 雇傭契約  

第260条
 使用人、番頭、手代、職工其他ノ雇傭人ハ年、月又ハ日ヲ以テ定メタル給料又ハ賃銀ヲ受ケテ労務ニ服スルコトヲ得  

第265条
 上ノ規定ハ角力、 俳優、音曲師其他ノ芸人ト座元興行者トノ間ニ取結ヒタル雇傭契約ニ之ヲ適用ス

 

 

 

 

大沢真知子さんが日経新聞で拙著書評

51sgqlf3yol_sx310_bo1204203200__20231021110401 今朝の日経新聞の読書欄で、大沢真知子さんが拙著『家政婦の歴史』を取り上げていただきました。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD125500S3A011C2000000/

日本の高齢化率は世界一である。介護人材は不足しており、事態は今後ますます逼迫するとみられている。その日本で家政婦兼訪問介護ヘルパーをしていた女性が2015年に過労死するという痛ましい事件が起きた。女性は1週間泊まり込みで重度の認知症を患うお年寄りを介護していた。

遺族は死亡は過酷な労働に起因したとして、労災保険の給付を申請したが不支給となった。裁判所に不支給処分の取り消しを求めるも、地方裁判所は・・・・・

最後のところでは、「時代は大きく変わり、少子高齢化が進み、各国が高度介護人材獲得のために処遇改善に取り組む中で、家事労働者に労災保険が適用されないという前近代的な労働法をそのままにしておいていいのだろうか。多くの人に読んで考えてもらいたい一冊である。」と述べられています。

 

 

 

2023年10月17日 (火)

『労働法学研究会報』2799号

2799_h1scaled 『労働法学研究会報』2799号が届きました。中身は、7月に行った「ジョブ型雇用をめぐる動向をどう捉えるか」というオンライン講演の書き起こしです。

https://www.roudou-kk.co.jp/rkk/report/11203/

  1. 1・ジョブ型が前途洋々?
  2. 2・日本の中途採用と人材ビジネス
  3. 3・ヒトの値段、ジョブの値段

 

 

2023年10月15日 (日)

産経新聞で短評

51sgqlf3yol_sx310_bo1204203200__20231015165801 拙著『家政婦の歴史』に、産経新聞の書評欄で短評が載ったようです。

気になる! 新書『家政婦の歴史』

家政婦は家事使用人だから、労働基準法は適用されない-。ある家政婦の過労死裁判を巡り、昨年9月に出た東京地裁判決から本書は説き起こされる。実質的には派遣労働者である家政婦は、なぜ労基法の保護から外れてしまったのか。

実は元々、家事使用人とは住み込みの「女中」を指す。対して家政婦は大正に始まる近代的派遣労働者で別物だ。だが戦後、占領軍の民主化圧力で労働者供給事業が禁止されると、家政婦派遣業は有料職業紹介事業の仮面を被り、法の穴が生じてしまう。労働問題の第一人者が描く、家政婦から見た日本労働法制史。

「家政婦から見た日本労働法制史」というのは、まさに私の書きたかった本書のエッセンスそのものです。的確な短評ありがとうございます。

2023年10月14日 (土)

転ジョブと転社の間(残念ながら再掲)

ビジネスインサイダーに、こんな記事が載っていますが、

ヤフーのリスキリング講座「費用の7割」国が補助。ただし条件は“転職すること”

Dsc_3713 ・・・また経済産業省の「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」に採択されたため、条件を満たせば最大で受講料の7割が支給される。LINEヤフーのリスキリング講座の場合は、税込み55万円の受講費用のうち、35万円が補助される形だ。
ただし“費用の7割補助”を受けるためには、「リスキリング講座を受けた上で、転職すること」が条件となっている。「転職を考えていない人」は、リスキリング補助の対象にならない制度設計になっていることから、経産省のリスキリング支援のあり方を疑問視する声もある。・・・

これって、6月に日経新聞の記事に本ブログでコメントしたこれですね。

転ジョブと転社の間

まことに悲しくも残念なことに、このエントリで述べたコメントが、この制度の「ただし条件は“転職すること”」という訳の分からない条件の曰く因縁をほぼ丸ごと解説できてしまっておりますね。

・・・日本社会では正社員というのはジョブの限定がないので、会社の中でどんなにジョブが変わっても転職だとは意識されない。社内転ジョブは転職に非ずで、雇い主が替わる転社のことだけを「転職」と呼んでいる。それは、就社でしかないものを「就職」と呼んでいる学生と同じなんだが、日本社会にどっぷり浸かったメンバーシップ型感覚の人にとっては当然のこと。そして、そういう感覚にどっぷり浸かっていながら、自分ではジョブ型の感覚になったつもりの人が、終身雇用じゃ駄目なんだ、転職しなきゃいけないんだ、とばかり熱を入れると、こういう制度設計になるという典型のようなものになっている。

ジョブ型社会では、社内であれ社外であれ、新たなジョブに就くためにはそのジョブを遂行できるスキルを身につけなければならず、そのための教育訓練を国が援助して、その結果、社内や社外の公募に応募してめでたく転ジョブして給与アップというストーリーがまことに素直に描ける。大事なのは、新たなスキル→新たなジョブ→新たな給与、であって、そのジョブが社内か社外かは本質ではない。

ところが、そもそも日本では社内配転でそのつど転ジョブし、配属されてからスキルを身につけ、一方で定期昇給で給与が上がるという仕組みなので、そもそもこういうジョブ型社会のスキル政策がうまく噛み合わない。という話は今までも繰り返ししてきた。スキルがあっても転ジョブしないし、スキルがなくても転ジョブするのが当たり前。

そういう中で、せっかくお金を出してスキルを身につけたのに転職しないなんておかしいじゃないか、転職するいい子だけにお金を上げる仕組みを作ろう、と、まあ、思ったんでしょうね。たしかに、日本の教育訓練給付というのは、転ジョブにつながりにくい。それはそもそもジョブ型社会ではないからなんだが、それを制度設計をどうにかして変えようと考えると、こういう発想になるのかも知れないな。・・・

これほど「リスキリング」という言葉が飛び交いながらも、一番肝心要の「新たなスキル→新たなジョブ→新たな給与」というジョブ型回路が影も形もない中では、何の実体もない空体語として消費されるばかりであるのも、宜なるかなと申せましょう。

ジョブ型高学歴とメンバーシップ型高学歴

まあ、「学歴の暴力」が高学歴かどうかなどというのは芸能ネタではないかといえばそうなのですが、でもそこには、社会的にジョブの序列が厳然と存在し、高級ジョブに就くためには高級スキルを付与すると社会的に考えられている高級の学歴、つまり学士などという低級ではなく修士などという中級でもない博士という高級の学歴が必要であるという社会的に構築された観念が強固に存在しているジョブ型社会と、そもそもジョブなどという観念がなく、ゆえにスキルという観念もなく、組織の高い地位に就くためには個々のジョブのスキルなどという下らぬものではなく、人間の総合的な「能力」が必要であり、それは博士なんぞにはなく、修士なんぞにも希薄で、ピンからキリまである学士の中の頂点に位置する高級大学出身者にこそあるという観念が社会的に強固に確立しているメンバーシップ型社会の常識とが、ものの見事に衝突しているのであることよ、と思わず嘆息が漏れるところでありますな。

いや、どちらも社会的構築物なのであり、どういう原理で社会を構築するのかという違いに過ぎないのですが。

 

2023年10月13日 (金)

令和5年版過労死等防止対策白書

本日、厚生労働省が「令和5年版過労死等防止対策白書」を公表しました。

https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001156170.pdf

今年は、別に図ったわけではないのでしょうが、ジャニーズ問題で世の中が大騒ぎしているさなかに、芸術・芸能従事者(実演家)の詳しい調査結果が載っています。

特に、ハラスメントの経験の状況のところは、大変興味深い結果です。

Geino

 

 

 

2023年10月10日 (火)

『労働法律旬報』2041号について

634670 『労働法律旬報』2041号(2023年10月上旬号)は、野田進『フランス労働法概説』(信山社、2022年)を読むという特集が、まことにアカデミックな特集ですが、載っている判例が例の国・渋谷労基署長(山本サービス)事件、つまり例の家政婦過労死事件で、その関係で、米津孝司さんの「労基法116条2項にもとづく家事使用人の適用除外の憲法適合性」という論文が載っています。これは、この事件が今高裁に係っているので、東京高裁への意見書として書かれたものということで、まさに憲法論を、それのみを展開しています。

https://www.junposha.com/book/b634670.html

[研究]労基法116条2項にもとづく家事使用人の適用除外の憲法適合性
―国・渋谷労基署長(山本サービス)事件・東京高裁への意見書=米津孝司…………45
[労働判例]国・渋谷労基署長(山本サービス)事件・東京地裁判決〈令4.9.29〉…………69

ただまあ、東京高裁が労基法116条2項の憲法違反論をそうたやすくとりあげるとも思えず、本事案においてはそれよりも遥かにリアルな-裁判所も厚生労働省も「仰るとおりだ」と言わざるを得ないような立派な論拠があるはずだと思うのですが、米津さんは冒頭で述べているとおり、「控訴人代理人より、とくにその憲法適合性について意見を求められたので、以下意見を述べる」ということですから、憲法論以外のことに減給していないのは当然のことというべきなのですが。

 

Amazonレビューで「型破りの新書」と

Kaseihu_20231010123301 7月に刊行した『家政婦の歴史』。ジョブ型云々という世間の流行りに乗った(中身は乗ってないけど)のと違い、やや本屋で手に取られる可能性が低い状態で推移しているようではありますが、それでも読んでいただけた方にはそれなりのご満足をいただいておるようです。

Amazonのカスタマーレビューに、「美しい夏」さんが「ニュービジネス「派出婦会」の戦後。」というタイトルで書かれている書評も、次のように拙著を評価いただいています。

5つ星のうち5.0 ニュービジネス「派出婦会」の戦後。

『ジョブ型雇用社会とは何か』(岩波新書)という、ユニークで、新鮮で、ちょっとこだわりのある(すみません)新書を刊行された濱口桂一郎氏の新刊新書である。
 題だけみてすぐに予約したが、帯の裏側に載る「家政婦が見た」というドラマをあまり見ていないので、ちょっと読書意欲が下がり、後回しにしていた。
 しかし、第一章派出婦会の誕生を読み始めると、すぐに本書の世界に引き込まれてしまい、一気に最後まで読んでしまった。古い法令等の原文が次々と出てくるという型破りの新書だが、これもなかなか面白かった。
 正確性にこだわっておられる新書なので、いい加減な理解を書くのはちょっと恥ずかしいが、大体以下のように理解した。・・・・

古い法令をそのまま掲載したのは、本書の趣旨に直接関わる規定ぶりをきちんと理解してほしいと思ったからですが、そこを「型破りの新書だが、これもなかなか面白かった」と言っていただけると、著者として嬉しいです。

 

 

2023年10月 9日 (月)

世界メンタルヘルスデー

明日10月10日は、かつての日本の体育の日であり、中華民国の建国記念日たる双十節でもありますが、世界的にはメンタルヘルスデーです。

World Mental Health Day, 10 October 2023

World Mental Health Day 2023 is an opportunity for people and communities to unite behind the theme ‘Mental health is a universal human right” to improve knowledge, raise awareness and drive actions that promote and protect everyone’s mental health as a universal human right.

今年のテーマは「メンタルヘルスは普遍的な人権だ」ということのようです。

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2023年10月 5日 (木)

アマゾン配達員に労災認定

今朝の各紙にでかでかと載っていますが、契約上はフリーランスということになっているアマゾン配達員に労災認定がされたようです。

アマゾン配達員に労災認定 フリーランスでも雇用された労働者と判断

2023100400000042asahi0006view  ネット通販「アマゾン」の配達を担う60代の男性運転手について、横須賀労働基準監督署が配達中のけがを労働災害と認定したことがわかった。男性はフリーランスとして下請けの運送会社と契約して働くが、働き方の実態などから会社に雇用された「労働者」と同様だと判断された。
 男性と代理人弁護士が4日、記者会見で明らかにした。弁護士らによると、労基署は9月26日付で決定したという。
 フリーランスは自身の裁量で働ける一方、労働関係法令で保護される「労働者」とは扱われず、原則としてけがの治療費や休業時の賃金などが補償される労災保険の対象にはならない。アマゾンの配達をフリーランスで担う運転手がけがで労災認定されたのは初めてとみられる。・・・・ 

ポイントの一つは、労災保険の特別加入制度の対象事業に含まれているからといって、労働者性の判断が左右されるわけではなく、就業の実態に即して判断されるという、当たり前のことでしょう。

周知の通り、一昨年にはウーバーイーツのようなフードデリバリー事業を念頭に、「原動機付自転車又は自転車を使用して行う貨物の運送の事業」が労災則に追加されましたが、だからといって、バイクや自転車でものを運ぶ人は自動的にフリーランスになるわけではないのです。

 

 

2023年10月 4日 (水)

『家政婦の歴史』へのX上の短評

51sgqlf3yol_sx310_bo1204203200__20231004211001 先月末から今月初めにかけて、X(旧ツイッター)上で拙著『家政婦の歴史』に対する短評がいくつか書かれています。

9月25日には、青さんが、
 
9月27日には、つらねさんが、
 
10月3日には、K-Keiさんが、
 
そして本日、10月4日には吉本俊二さんが、
 
と、評していただいています。

 

神谷悠一『検証「LGBT理解増進法」』

1298 神谷悠一『検証「LGBT理解増進法」SOGI差別はどのように議論されたのか』(かもがわ出版)をお送りいただきました。

http://www.kamogawa.co.jp/kensaku/syoseki/ka/1298.html

「LGBT理解増進法」成立の経緯をたどる迫真ドキュメント
多くの抗議の声があがる中「LGBT理解増進法」が成立した。当事者が求め続けてきたSOGIに基づく差別は、なぜ「禁止」されなかったのか。法律成立までの経緯とともに、中身を検証し、この法律を今後に生かす方途をQ&A形式で解説。

求めてきたのは、「理解」ではなく、「差別禁止」――多くの当事者やアライは「LGBT理解増進法」を大きな懸念と落胆とともに受け止めました。LGBT法連合会の事務局長として、「差別禁止法」を求める運動の先頭にたってきた神谷悠一さんに、法律制定の経緯とともに、懸念点を防備し法律を今後に生かしうる方途について、書き下ろしていただきました。緊急出版です。

実はこれに限らず、かつて小泉政権時代の2002年に人権擁護法案が国会に提出されたときには、人種、、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病又は性的指向に基づく差別と侮辱、嫌がらせ等は包括的に禁止されていたのですが、当時の野党の反対で人権擁護法案が廃案になった後は、自民党の中から安倍元首相などによる強硬な反対派が突出し、その後民主党政権時に提出したもののすぐに選挙で負けて廃案、その後はまったく動きがなくなりました。

その代わり、人種差別禁止ではないヘイトスピーチ対策法とか、部落差別禁止ではない部落差別解消推進法とか、生ぬるい法律がぽちぽちと作られてきて、今回の「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」も、そういう一環なのでしょう。

この問題はけっこう本ブログ上でも繰り返してきたと思いますが、本当の意味で教訓になっているのかよく分かりません。

(参考)

 (定義)

第二条 この法律において「人権侵害」とは、不当な差別、虐待その他の人権を侵害する行為をいう。

2 この法律において「社会的身分」とは、出生により決定される社会的な地位をいう。

3 この法律において「障害」とは、長期にわたり日常生活又は社会生活が相当な制限を受ける程度の身体障害、知的障害又は精神障害をいう。

4 この法律において「疾病」とは、その発症により長期にわたり日常生活又は社会生活が相当な制限を受ける状態となる感染症その他の疾患をいう。

5 この法律において「人種等」とは、人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病又は性的指向をいう。

 (人権侵害等の禁止)

第三条 何人も、他人に対し、次に掲げる行為その他の人権侵害をしてはならない。

 一 次に掲げる不当な差別的取扱い

  イ 国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する者としての立場において人種等を理由としてする不当な差別的取扱い

  ロ 業として対価を得て物品、不動産、権利又は役務を提供する者としての立場において人種等を理由としてする不当な差別的取扱い

  ハ 事業主としての立場において労働者の採用又は労働条件その他労働関係に関する事項について人種等を理由としてする不当な差別的取扱い(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)第八条第二項に規定する定めに基づく不当な差別的取扱い及び同条第三項に規定する理由に基づく解雇を含む。)

 二 次に掲げる不当な差別的言動等

  イ 特定の者に対し、その者の有する人種等の属性を理由としてする侮辱、嫌がらせその他の不当な差別的言動

  ロ 特定の者に対し、職務上の地位を利用し、その者の意に反してする性的な言動

 三 特定の者に対して有する優越的な立場においてその者に対してする虐待

2 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。

 一 人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として前項第一号に規定する不当な差別的取扱いをすることを助長し、又は誘発する目的で、当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報を文書の頒布、掲示その他これらに類する方法で公然と摘示する行為

 二 人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として前項第一号に規定する不当な差別的取扱いをする意思を広告、掲示その他これらに類する方法で公然と表示する行為

 

 

 

 

 

2023年10月 2日 (月)

建前はジョブ型、実態はメンバーシップ型の学校教師だから

東京高校受験主義という方が、こんな呟きをしていて、

本当に政治家に届いて欲しいんだけど、教え子の大学生と話をしても、教員に興味のある学生はたくさんいるのに多くが諦めます。なぜか?教員免許取得のハードルが高すぎる。 例えば、早稲田大の学生は優秀なのに、教育学部初等教育学専攻以外は、小学校教員免許を取得できない。あり得ないよ。(続)

明治大学も、法政大学も、中央大学も、都内のほとんどの有名大学は正規の授業で小学校教員免許を取得できません。 そもそもほとんどの学生は小学校教員を希望しても免許すら取れない。応募できる分母が非常に限られているのだから、倍率が低下し続けるのは当然。

また、理系の学生も教員希望は多いのに、現実、ほとんどの学生が取得できません。必要取得単位数が多すぎて授業や実験との両立が困難だからです。優秀で真面目な子ほど、教員への道をあきらめているのが実態です。 教員免許は廃止一択。ぜひ政治家に広まってほしいです。

これに、書評家の山下ゆさんがこうコメントしているんですが、

今のRTs、「東大の学生は優秀なのに、理三以外は、医師免許を取得できない。あり得ないよ。」とか、「明治大学も、法政大学も、中央大学も、都内のほとんどの有名大学は正規の授業で医師免許を取得できません。」とかいうようにも応用できるんだろうか?

応用可能だとも応用不可能だとも言えますね。

医療の世界は日本社会では例外的にジョブ型原理が貫徹しており、医学部という高等職業訓練施設でみっちり訓練を受け、医師国家試験によってそれを公的に認証されない限り、医療行為に携わることは禁止されています。看護師や各種検査技師等もそれに準じる形でジョブ型システムが構築されており、給与体系は日本風に年功序列に傾いていても、決してメンバーシップ型ではない。(この一文がわかるかわからないかで、ジョブ型の理解度が測れます)

そういう世界で「東大の学生は優秀なのに、理三以外は、医師免許を取得できない。あり得ないよ 」とか、ましてや「明治大学も、法政大学も、中央大学も、都内のほとんどの有名大学は正規の授業で医師免許を取得できません 」などというジョブのスキル完全無視で地頭の良さ至上主義のイデオロギーを振り回してみても、「あほちゃうか」の一言で終わりです。

ところが、おなじく「センセイ」と呼ばれる職業であっても、学校の教師はそうではない。いや正確に言えば、そもそも明治の文明開化でも戦後改革でもヨーロッパやアメリカのジョブ型原理に基づいて法制度を整備してきた日本では、もろもろの公的な職業規制はジョブ型原理で作られています。だから、建前上は、戦前の師範学校、戦後の大学教育学部という高等職業訓練施設でみっちり訓練を受け、教員免許という形で公的な認証を受けた者のみが学校教師というジョブにつくことが許されることになっている。けれども、その実体は限りなくメンバーシップ型の日本社会に接近しているために、上記のような不平不満が出て来るのでしょうね。

これは、欧米から押しつけられたと感じているジョブ型の建前と「世の中こういうんでまわっとるねん」というメンバーシップ型の本音とのずれが存在するところではいつでもどこでも発生するものなのでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

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